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専門医+エキスパートに聞くよりよい服薬指導のための基礎知識

女性の疾患とホルモン製剤の正しい理解Part.2 更年期障害

2019年7月号
更年期障害の画像
女性のヘルスケア領域における疾患とホルモン製剤の正しい理解
毎月の月経に随伴する月経困難症やPMS(月経前症候群)/PMDD(月経前不快気分障害)の症状、また更年期に女性ホルモンレベルの低下によって起こる更年期障害の諸症状は、QOLを低下させる。これらのスタンダードな薬物療法としてOC(経口避妊薬)・LEP(低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬)やHRT(ホルモン補充療法)がある。これらにおける薬剤の適切な服用と治療継続には、薬局での対応が重要な役割を担っている。東京歯科大学市川総合病院産婦人科教授の髙松潔氏に、各疾患の特徴と治療について解説していただいた。

Part.2 HRTなどによる薬物療法を中心に治療心理社会的因子も考慮

エストロゲンレベル低下による多彩な症状 更年期に特有の疾病の除外診断で確定

閉経とは生殖年齢の終焉であるが、定義としては12ヵ月の無月経であり、日本人女性の中央値は50.54歳である。一方、更年期とは、閉経をはさんだ前後5年の計10年間を指す。この10年間には、閉経に伴う女性ホルモン(エストロゲン)レベルの急激な低下が起こる。この期間に、女性が訴える多彩な症状のうち、器質的変化に起因しない症状は「更年期症状」と呼ばれ、中でも日常生活に支障をきたすものが「更年期障害」とされている。
更年期障害は、ホットフラッシュ、疲れやすさ、めまい、動悸、頭痛、肩こり、腰痛、足腰の冷えといった身体的症状と、抑うつ、不眠、イライラ感、不安感などの精神的症状から構成される。こうした症状は、エストロゲンレベルの低下を主因として、加齢などの身体的要因、成育歴や性格などの心理的・性格的要因、職場や家庭における人間関係などの社会的・環境的要因が複合的に影響し発症すると考え られている。更年期障害に対する薬物療法は、HRT(ホルモン補充療法)、漢方薬、抗うつ薬などがあるが、まずは十分な問診や生活習慣の改善指導も重要になる。
また、更年期障害と似た症状を呈する疾患として、甲状腺機能異常やうつ病などがあるため(表4)、これらの疾患の可 能性を排除、つまり鑑別診断したのちに、「更年期障害」と診断される。とくにうつ病については頻度が高く、患者も更年期障害との診断に期待していることがあるため注意を要する

表4 更年期障害と症状が類似する疾患や病態
症状全般 うつ病、甲状腺機能異常(亢進・低下)
倦怠感・意欲低下 肝機能障害、貧血
めまい メニエール病
頭痛 脳腫瘍・薬剤誘発性頭痛
ホットフラッシュ カルシウム拮抗薬服用

髙松氏提供

HRT用製剤には経口・経皮・経腟がある 経皮薬では血栓リスクは上昇しない

Check Points

 HRT用製剤の種類と特徴、有 事象を理解する
 子宮を有する更年期障 患者に対するHRTでは黄体ホルモンの併用が必要であることを知る
 心理的因子や社会的因子が関与する更年期障では、漢方薬や抗うつ薬の投与も考慮される

更年期障害に対するHRTでは、合成女性ホルモンが使用されるOCによる避妊治療とは異なり、天然型エストロゲンである17βエストラジオールや、妊馬尿より抽出・精製され10種類以上のエストロゲン様物質が含まれる結合型エストロゲンが使用される。また、エストロゲン活性についても、1錠あたりではOCやLEPの1/4 ~1/8である。40歳代以降でも月経困難症の治療などのためにOC・LEPは使用されているが、「OC・LEPガイドライン2015年度版」では40歳以上に対するOCは慎重投与とされており、50歳以降は血栓症リスクの関係からOC・LEPは禁忌であるため、閉経あるいは50歳を境にHRTへ切り替える。
ここで、更年期障害以外の適応をもつ薬剤を含め、HRT 用製剤について紹介する。現在、国内で使用できるエストロゲン製剤は、経口薬、経皮(貼付、ゲル)薬、経腟薬の4タイプ。経口薬と経皮薬には、エストロゲン単剤とエストロゲンと黄体ホルモンの両方が含まれた配合剤がある(表5)。日本産科婦人科学会・日本女性医学学会の「ホルモン補充療法ガイドライン2017年度版」では、HRTは血管運動神経症状、萎縮性腟炎・性交痛の治療、骨粗鬆症の予防と治療に有用性がきわめて高いとしている。
HRTもエストロゲンを含むため、乳がんや血栓症が懸念される。このうち乳がんリスクについては別項で解説する。また血栓症については経口薬では静脈血栓症リスクはオッズ比で1.5程度である。一方、貼付剤、ゲル剤などの経皮薬では肝初回通過効果がないため、血栓リスクは上昇しないと考えられている。

表5 HRTに使われる主な製剤一覧
  成分 投与経路 製品名 適応症
エストロゲン製剤 結合型エストロゲン 経口 プレマリン®錠 卵巣欠落症状、卵巣機能不全症、
更年期障害、腟炎(老人、小児及び非特異性)、機能性子宮出血
17βエストラジオール 経口 ジュリナ®錠 更年期障害及び
卵巣欠落症状に伴う下記症状:血管運動神経症状(ホットフラッシュ及び発汗)、
腟萎縮症状、閉経後骨粗鬆症
経皮 エストラーナ®テープ 更年期障害及び
卵巣欠落症状に伴う下記症状:血管運動神経症状(ホットフラッシュ及び発汗)、
泌尿生殖器の萎縮症状、閉経後骨粗鬆症、性腺機能低下症、
性腺摘出または原発性卵巣不全による低エストロゲン症
経皮 ル・エストロジェル®
ディビゲル®
更年期障害及び
卵巣欠落症状に伴う血管運動神経症状(ホットフラッシュ及び発汗)
エストリオール 経口 エストリール®錠
エストリオール®錠
ホーリン®錠
【100γ、0.5mg、1mg】更年期障害、腟炎(老人、小児及び非特異性)、
子宮頸管炎並びに子宮腟部びらん
【0.5mg、1mg】老人性骨粗鬆症
経腟 エストリール®腟錠
ホーリンV®腟用錠など
腟炎(老人、小児及び非特異性)、子宮頸管炎並びに子宮腟部びらん
エストロゲン・
黄体ホルモン配合剤
17βエストラジオール・レボノルゲストレル 経口 ウェールナラ®配合錠 閉経後骨粗鬆症
17βエストラジオール・酢酸ノルエチステロン 経皮 メノエイド®コンビパッチ 更年期障害及び卵巣欠落症状に伴う
血管運動神経系症状(ホットフラッシュ及び発汗)
黄体ホルモン製剤 メドロキシプロゲステロン酢酸エステル 経口 プロベラ®錠
ヒスロン®錠など
無月経、月経周期異常(稀発月経、多発月経)、
月経量異常(過少月経、過多月経)、機能性子宮出血、
黄体機能不全による不妊症、切迫流早産、習慣性流早産
ジトロゲステロン 経口 デュファストン®錠 切迫流早産、習慣性流早産、無月経、
月経周期異常(稀発月経、多発月経)、月経困難症、機能性子宮出血、
黄体機能不全による不妊症、子宮内膜症

各製品添付文書よりファーマスタイル編集部作成

子宮を有する更年期障害患者には黄体ホルモンを併用

HRTの中心となるエストロゲン製剤は、子宮を有する女性に単独で投与すると、子宮内膜増殖症や子宮体がんの発症リスクが高まる。そのため、子宮を有する更年期障害患者では、黄体ホルモンの併用が必須である。髙松氏は、この投与の大原則がまだ浸透していないことについて憂慮しており、「薬局でもチェックしてほしい」と語っている。
エストロゲン・黄体ホルモン併用療法には、周期的併用投与法と持続的併用投与法がある(図2)。周期的併用投与法では黄体ホルモンを12~14日(エストロゲンも休薬する間欠法では10~12日)投与して、生理様の出血を定期的に起こす。また、持続的併用投与法は、黄体ホルモンを連続して使用することで子宮内膜を萎縮させ、原則的には出血を起こさせない方法である。施行初期に不正出血が起こることがあ るため、閉経して一定期間経過した人に行うことが多い。マイナートラブルを訴える場合は、レジメンの変更も考慮する。
なお、骨粗鬆症治療薬のSERM(選択的エストロゲン受容体モジュレーター)であるバゼドキシフェン(ビビアント®)は子宮内膜保護作用があるため、HRTでも適用外だが黄体ホルモンの代わりとして使用される場合がある。さらに、黄体ホルモンとして、ミレーナ®を使用する場合もある。

図2 HRTの投与方法

図2 HRTの投与方法の画像

編集部作成

乳がんリスクの上昇は生活習慣のそれ以下 子宮体がん、大腸がん、胃がん等は減少

HRTのリスクとして最も懸念されるのは乳がんであろう。2002年米国WHI(Women’s Health Initiative)の中間報告での「乳がんリスクの上昇」により臨床試験が中止されたことは、各国のメディアに大きく取り上げられ、世界的に大きな影響を与えた。
しかし、その後の検討からHRTによる乳がんリスクへの影響は、アルコールや脂肪摂取、肥満といった生活習慣によるリスクと同等か、それよりも低いことが明らかになっている。髙松氏は、「2017年度版ガイドラインにおいても、『乳がんリスクに及ぼすHRTの影響は小さい』と明記されている。ただし、家族歴など患者の潜在的なリスク因子には留意し、開始前とともに、開始後も定期的に乳がん検診を受ける必要性を伝えることが重要」と語る。その他のがん種について、子宮体がんは、黄体ホルモン併用を正しく行っているHRTでは、HRTをしていない人と同等かそれ以下にリスクが下がるとされる。子宮頸がんには影響せず、大腸がん、胃がん、食道がん、肺がんのリスクを下げることもわかっている。
また、冠動脈疾患については、50歳代または閉経後10年以内の女性に対しては、HRTは動脈硬化の予防効果が高く、むしろベネフィットがリスクを上回るとされている。
髙松氏は「かつて、HRTの施行はWHI報告で乳がんリスクが増加しなかった5年以内に限るというような誤解があったが、全くの間違い。2017年度版ガイドラインでもその人の症状とニーズに合わせた薬剤・投与法・用量の選択、投与年数を考慮してHRT処方を行うことを推奨している」と語る。

漢方薬や抗うつ薬も各薬剤の投与法を理解し指導を

漢方では、三大婦人漢方薬といわれる当帰芍薬散、加味逍遙散(カミショウヨウサン)、桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)が多く処方される。また、植物エストロゲンとして知られる大豆イソフラボンのうちのダイゼインが腸内細菌で変換された代謝物である「エクオール」を含有したサプリメント(エクエル®)なども、更年期症状を改善すると報告されている。
うつ、不安、不眠などの精神的症状が強い場合には、抗うつ薬も使用される。とくにSSRIは精神的症状のみならず、ホットフラッシュの改善も報告されており、米国ではnon HRTの治療法としてFDAが認可している。ベンゾジアゼピン系については認知症リスクなどもあり、漫然と使うことは避ける。
仕事を持つ中高年女性が増えていることや、最近のストレスフルな社会環境により、女性の健康相談において更年期障害やHRTについての質問の頻度は、増加していくことが予測される。現在の日本人女性にとって更年期は人生の折り返し地点であることから考えれば、更年期医療が女性の健康寿命を延ばすプライマリケアの大きな柱であることは容易に理解できよう。HRTの服薬指導に精通した薬剤師の存在が求められている。

■引用文献

  1. Mørch LS, K, at al; N Engl J Med. 2017;377:2228-2239.
  2. Collaborative Group on Epidemiological Studies on Endometrial Cancer. Lancet Oncol. 2015 ;16:1061-1070.

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