抗体医薬の登場とガイドライン改訂で転換期を迎える
皮膚科のコモンディジーズであるアトピー性皮膚炎(AD)の患者は、日本では40万人以上で増加傾向にあり、経過は長期にわたる。2018 年、重症者の治療薬として、初めての生物学的製剤(抗体医薬)であるデュピルマブが承認され、ガイドラインが改訂されるなど大きな転換期を迎えている。京都大学大学院医学研究科皮膚科学講師の本田哲也氏と同医学部附属病院薬剤部の山嶋仁実氏、岡村みや子氏に、AD 治療のポイントを解説いただいた。
薬剤師に期待される服薬指導のポイント
- 外用薬の特徴を理解し、ポイントを押さえて指導
- 入院中・退院時の指導で外来へつなぐ
- ステロイド外用薬のメリットとデメリットをしっかりと説明する
- デュピルマブの投 条件について理解する
副作用の正しい知識を伝え、患者の能動的な治療継続を支援する
塗布量はFTUを基準とし1日1回から 経皮吸収を高める工夫も
アトピー性皮膚炎(AD)治療のベースとなるのは外用薬による薬物療法である。皮膚科医は、症状の程度や部位、年齢、治療の経過を考慮し、適切な外用薬を選択し処方している。ステロイド外用薬をはじめとした外用薬は、塗布量が適正でないと十分な効果が得られにくいため、外用薬の塗布回数や塗布量に関する患者への説明は非常に重要である。
塗布量は、単に「万遍なく」などといった曖昧な指導でなく、外用薬の塗布量の目安として知られるFTU(fingertipunit)を指標とする。これは、軟膏またはクリームのチューブで、患者の手の人さし指の先端から第1関節まで排出した量(1FTU=約0.5g)を、患者の手掌で2枚分の範囲に塗布することが適量であるとするものである。ただし、日本では外用薬のチューブが比較的小さい規格のため、1FTUが0.5gに満たない薬剤があることも押さえておきたい。
塗布回数は、多くのステロイド外用薬の添付文書では1日1回〜数回と記載されているが、1日2回の塗布と1回の塗布で治療効果に差がないとするランダム化比較試験などの結果に基づき、アトピー性皮膚炎診療ガイドラインには、一般的には1日1回でも十分な効果があると考えられる旨が記載されている。ただし、急性増悪時は、上位3ランクのステロイドにおいても、1日2回の塗布により早く軽快させるように努め、軽快後は1日1回の塗布とする。
AD治療の指導に際しては、症状の経過と外用薬の処方内容に見合った対応が求められる。例えば、症状が軽快し、ステロイド外用薬のランクが下がった場合や外用薬の塗布回数が減った場合には、安定した状態を継続できるように患者の治療意欲を高め、逆に症状が悪化した場合には、しっかりとアドヒアランスが維持されているかを確認する必要がある。
さらに、薬物療法の治療効果を高めるためには、患部に付着した汚れや古い薬剤を落とす、角質層に水分が残っている入浴後5 〜 10分以内に塗布するなど、経皮吸収を高める工夫も大切である。また、薬剤吸収率は塗布する部位ごとに異なり、部位別に外用薬が処方される場合もあるため、処方された部位以外に患者の自己判断で使用しないよう注意する。
入院治療で患者教育 退院時には外来へつなげる指導を
ADの重症患者では、皮疹の面積が広範囲にわたり寛解導入が困難なケースもある。特に慢性的に重症の皮膚炎が遷延化している患者は、①搔破行動が増強する、②病態や治療の意義・方法についての理解が不足している、③寛解を経験していないために目標を見失う、④外用薬を塗布しても改善しないと誤解している、⑤環境や生活習慣、過労などの課題を抱えていることが多く、外来治療では改善しにくい面がある。また、中等症の患者であっても、適切な治療が継続されず治療効果が期待ほど得られないケースがしばしばある。こうした重症患者や中等症患者では、適宜入院による治療を検討する。ADの入院治療では、外用療法の徹底や悪化因子・外用方法・スキンケア方法の見直しなどを行う。入院することで日常生活から離脱するため、時間的余裕が生まれ、患者と治療者との信頼関係の確立も期待できる。
京都大学医学部附属病院の皮膚科でも、治療教育を中心とした入院を実施している。この入院では、例えば、毎日朝と晩の2回、医師と看護師による指導のもと外用薬を塗布し、正しい外用方法をマスターしてもらう。また、外用薬を中心とした薬物療法と並行して、搔痒への対策や皮疹増悪時の対応についても教育指導を実施する。さらに、入院期間中にも定期的に血液検査を実施し、重症度や病勢、増悪因子を確認する。こうした教育指導と診療によって寛解またはそれに近い改善が確認された後、退院となる。
入院治療により患者が治療効果を実感することで、退院後の治療意欲やアドヒアランスの向上が期待される。医療関係者の目が届かない日常においても患者自身で適切にケアできるようになることは、入院治療の最大の目的の一つである。皮膚科病棟を担当する京都大学医学部附属病院薬剤部の山嶋仁実氏は、ADの入院治療における薬剤師の役割について、「患者自身が能動的に治療を継続することが重要で、退院時の指導に重きを置いている。入院治療と外来治療を結ぶ“架け橋”の役割を果たしたい」と語る。山嶋氏らは、退院日が決定すると患者が外用薬の使用方法について正しく理解しているか、医師と患者の双方に確認している。また、背中などの皮疹のケアに際して患者家族の協力を仰ぐこともあるため、指導内容を家族が理解できるよう患者に交付する「退院時指導書」の内容も充実させている。
退院時の指導において、同病院薬剤部で特に重視している項目に「薬剤の取り違えの是正」がある。入院で指導を受けてもなお、ステロイド外用薬の使い分けについて誤解している患者は少なからず存在し、中には、顔面と体幹に使う薬剤を逆に使っているケースもあるという。患者にとっては薬剤の製品名を把握することは容易ではないと思われる。そこで、チューブの蓋の色で「緑色の蓋の薬」などといった各製剤の外見的特徴を用いて、患者が理解しやすいような説明の工夫を心がける。かかりつけの医療施設や地域保険薬局へは、お薬手帳などを用いて入院中の治療内容に関する様々な情報を共有しているが、入院中に患者が薬剤を取り違えたエピソードがあった場合には、その旨を必ず記載し注意喚起する。
ステロイド外用薬は患者の理解を促す デュピルマブは使用条件をチェック
山嶋氏によると入院時は「何としても治そう」という患者の強い意志を感じられることも多く、薬剤師の説明に対しても理解しようとする姿勢がうかがえるという。そこで、入院患者にはまず、ステロイド外用薬をはじめとした薬剤が適切に使用されていないことが、症状の増悪および入院を招いていることを粘り強く説明する。一方で、ステロイド外用薬については、好意的なイメージを持つ患者がほとんどおらず、ステロイド外用薬がもたらす治療効果と合わせて、副作用などのデメリットもしっかりと説明するという。ステロイド外用薬を全身に塗布する場合、例えば、塗布終了後に倦怠感などの副腎不全を訴えることがあり、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)単独欠損状態を来す可能性もある。また、ステロイド外用薬は使用期間についても注意が必要な薬剤であり、患者の自己判断で塗布を突如中止することで、炎症再燃を引き起こす可能性があることについても伝えなくてはならない。
厚生労働省は2014年3月19日「薬剤の使用方法に関する実技指導の取扱いについて」の通知で、薬剤師による外用薬の貼付や塗布または噴射に関して実技指導を医学的な判断、技術を伴わない範囲で認めており、薬剤師から患者への外用方法の説明は、ますます重要となっている。同病院薬剤部主任の岡村みや子氏は、「入院中には十分に時間が取れないこともあるので、地域の保険薬局薬剤師の方々にも外用方法の説明をぜひ行っていただきたい。私たちはそのための情報提供に努めていきたい」と語る。
難治性のADへの効果が期待されるデュピルマブについては、厚生労働省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課から、「最適使用推進ガイドライン」が出されている。京都大学医学部附属病院薬剤部では、処方ごとに患者の皮疹重症度スコアなどを、電子カルテ上に作成したチェックシートをもとに確認している。継続的に有効かつ安全な治療を提供するため適応条件をチェックすることが重要である。