発達障害の1つ注意欠如・多動性障害(ADHD)はこれまで一般的に小児の病気と考えられてきました。しかし、小児期のADHDをそのまま持ち越して成人になる人が実は少なくないことがわかってきました。成人のADHDでは、仕事や家庭生活で困難に直面することが多いという問題があります。昭和大学医学部精神医学講座教授の岩波明氏に成人のADHDの特徴や治療のためのアプローチなどについて解説していただきます。
成人のADHDは3〜4% 子どものときに気づかれず成長
文部科学省が2012年に小中学生53,882人(小学生35,892人、中学生17,990人)を対象に行った、「通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査」で、ADHD(Attention Deficit Hyperactivity Disorder:注意欠如・多動性障害)に見られる「不注意または多動性・衝動性の問題を著しく示す」児童生徒は全体の3.1%となっています。
一方、ADHDの診断基準や調査対象などによって異なりますが、各国の成人のADHDの有病率は世界保健機関の調査1)では、フランス7.3%、アメリカ5.2%、オランダ5.0%、ベルギー4.1%、ドイツ3.1%、イタリア2.8%、メキシコ1.9%、コロンビア1.9%、レバノン1.8%、スペイン1.2%と報告されています。成人のADHDは新興諸国より先進諸国のほうが高い傾向が見られます。
ADHDは、これまで小児期の疾患とみられてきましたが、最近は成人でも少なくないと認識されるようになってきました。一般的に、ADHDの有病率は小児5~6%程度、成人3~4%とみられています。日本人の成人のADHDは300万人以上とも言われています。
小児のADHDは男児のほうが女児より多いのですが、成人では男女差はありません。小中学校では落ち着きのない生徒や、不注意でぼんやりしている生徒よりも、授業中に席を立って歩きまわったり、騒ぎまわったりする生徒のほうが目につきやすく、それだけ医療機関を受診する機会も多くなります。こうした多動性は男児のほうに多くみられることから小児期は男児のADHDが多い傾向にあります。一方、女児では不注意でぼんやりしている子が多く、目立たないため、周囲も本人も気づかないまま成人して、仕事のトラブルなどがきっかけで医療機関を受診してADHDと診断されるケースが少なからずあります。成人になってからADHDを発症することはありません。
遺伝的要因が関連 不注意、多動性、衝動性が特徴
ADHDの発症には脳の神経伝達物質であるドパミン、ノルアドレナリンの働きが関係しているといわれていますが、根本的な原因は明らかになっていません。遺伝的な要因が関連していると考えられており、実際、患者の近親者にADHDがよくみられます。
ADHDを特徴づける3つの症状は「不注意」「多動性」「衝動性」です。成人のADHDでは日常生活や人間関係のなかで図1のような形で特徴的な症状が現れます。
図1 成人期のADHDの特徴的な所見
(1)職場や学校
- 落ち着かずにそわそわする
- 貧乏ゆすり、指を机で叩くことなどがやめられない
- 不用意な発言が目立ち、思ったことをすぐに言動に移す
- 集中できない、ケアレスミスが多い
- ものをなくす、忘れる
- 締め切りを守れない、段取りが下手で完結できない
(2)家庭生活
- 別のことに気をとられ家事がおろそかに、家事の効率が悪い
- 衝動買い、金銭管理が苦手
- 部屋が片付けられない
- 朝起きられない、外出の準備が間に合わない
(3)対人関係
- おしゃべりがとまらない、自分のことばかり話す
- 衝動的な発言、つい叱責してしまう
- 約束を守れない、約束を忘れる
- 集中して話を聞けない
- 映画館やレストランで落ち着かない
岩波明. 大人のADHD -もっとも身近な発達障害. 筑摩書房. 2015より