高齢化社会を反映し、日本における糖尿病の患者数、もしくは糖尿病が強く疑われる人数は増加傾向にあり、近年の調査では約1,000万人、さらに糖尿病予備群を含めると約2,000万人に上ると推定されています(2016年国民健康・栄養調査)。糖尿病の治療法は、患者さんの年齢、病態、その他さまざまな要素によって個々に選択されています。今回は東京女子医科大学 糖尿病センター内科 教授・講座主任の馬場園 哲也氏に薬物療法を中心とした治療法のポイントを解説していただきました。
緩徐な進行の2型糖尿病 診断時には合併症が存在している場合も
糖尿病は、その成因から1型、2型、特定の機序・疾患を原因とするもの、妊娠糖尿病の4つに分類されます。このうち、2型糖尿病の患者数は、食生活の欧米化や人口の高齢化などによって増加しています。2型糖尿病は進行が緩徐で、発症しても気付きにくいのも特徴のひとつです。高血糖の症状として多尿、口渇、多飲、体重減少、倦怠感などが知られていますが、中には、これらの症状がないまま糖尿病が進行し、足のしびれ、視力の低下、飛蚊症、胸の痛みなど合併症の症状を自覚してからようやく受診となる場合もあります。糖尿病の診断には、血糖値とHbA1cが用いられます(表1)。特定健診で早期に発見される場合もありますが、何か疑わしい症状があったら早めに受診してもらうことが大切です。
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糖尿病治療ガイド2020-2021をもとに編集部作成
2型糖尿病治療の3本柱 食事、運動、薬
2型糖尿病の治療には、食事療法、運動療法、薬物療法があります。原則として、初診時のHbA1cが8.0%未満の患者さんでは、まず適切な食事療法と運動療法を指導し、その状況と成果をみます。血糖コントロールの目標値は患者さんによって異なりますが、一般的にはできる限り低血糖を避けてHbA1c7.0%未満とすべきとされています。
食事療法と運動療法を2~3カ月行っても良好な血糖コントロールが得られない場合、薬物療法を実施します。また、初診時のHbA1cが9.0%以上のときは、食事療法、運動療法に加え、初めから薬物療法を考慮します。糖尿病はインスリン分泌不全とインスリン作用不足によって起こりますが、高血糖状態がインスリン分泌不全と作用不足をさらに悪化させ、このことによって高血糖が持続する悪循環をきたすことを糖毒性とよんでいます。
2型糖尿病の治療薬の種類 分類に一部変更あり
2型糖尿病治療の薬物療法に用いる経口薬や注射薬は、少量から始めて血糖コントロールの状態をみながら徐々に増量します。体重減少や生活習慣の改善による血糖コントロールの改善に伴って糖毒性が解除され、薬剤の減量や中止の可能性もあります。
日本糖尿病学会の『糖尿病治療ガイド2020-2021』では、2型糖尿病の治療薬として9種類の薬剤が示されています(表2)。これらは、「インスリン分泌非促進系」と「インスリン分泌促進系」、「インスリン製剤」の3つに大別されます。インスリン分泌促進系は、さらに「血糖依存性」または「血糖非依存性」のいずれかに分類されます。
これは、以前と若干異なる分類です。これまでは、ビグアナイド薬とチアゾリジン薬が「インスリン抵抗性改善系」、α-グルコシダーゼ阻害薬(αGI)とSGLT2阻害薬が「糖吸収・排泄調節系」に分類されていました。表2の分類は、最新情報として把握しておく必要があるでしょう。なお、現在承認申請中の「イメグリミン」という新薬は、ミトコンドリアの機能を改善するという新しいメカニズムで、インスリン分泌不全とインスリン抵抗性の両者を改善することが期待されています。
機序による分類 | 種類 | |
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インスリン 分泌非促進系 |
●ビグアナイド薬 | |
●チアゾリジン薬 | ||
●α-グルコシダーゼ阻害薬 | ||
●SGLT2阻害薬 | ||
インスリン 分泌促進系 |
血糖依存性 | ●DPP-4阻害薬 |
●GLP-1受容体作動薬 | ||
血糖非依存性 | ●スルホニル尿素(SU)薬 | |
●速効型インスリン 分泌促進薬(グリニド薬) |
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インスリン製剤 |
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2糖尿病治療ガイド2020-2021をもとに編集部作成
薬剤選択 まずはインスリン製剤適応の判断
薬剤の選択に際しては、高血糖の程度のほか、年齢、肥満の程度、慢性合併症の程度、肝・腎機能、インスリン分泌能やインスリン抵抗性の程度などを考慮します。 まず、インスリンの絶対適応があるかどうかをみる必要があります(表3)。2型糖尿病で、インスリン依存状態になる病態としては、病歴が長くインスリン分泌が高度に低下した場合、重篤な感染症や外傷による一時的なインスリン依存状態、若年の肥満男性に多い清涼飲料水ケトーシス(一時的なインスリン依存状態)などがあります。これらの病態は、インスリン製剤の治療によって糖毒性が解除されることで、インスリン非依存状態に戻ることも多いですが、インスリン療法の継続が必要となる場合もあります。また、インスリン以外の薬物療法で良好な血糖コントロールが得られない場合には、相対的な適応としてインスリン製剤を投与することになります。
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糖尿病診療ガイドライン2019をもとに編集部作成
インスリン以外の薬剤 血糖コントロールや副作用などを考慮
インスリン製剤以外の薬剤(表4)は、それぞれの作用や血糖コントロール状況、副作用、低血糖のリスクなどを考慮しながら、個々の患者さんの病態に応じて選択し、単剤をなるべく少量から開始します。その後、必要に応じて徐々に増量するか、作用機序が異なる他の血糖降下薬の追加、インスリンの併用、さらにはインスリンへの変更を検討します。
近年、DPP-4阻害薬やSGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬の処方割合が多くなっていますが、それ以外の以前からある薬剤について、ここでおさらいしておきましょう。