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アナフィラキシー その病態と対処法を知る

2018年7月号
アナフィラキシー その病態と対処法を知るの画像

食物や薬剤、昆虫毒などが原因で起こる全身性のアレルギー症状を、アナフィラキシーといいます。血圧低下や意識障害を伴うと、アナフィラキシー・ショックと呼ばれ、生命を脅かす危険な状態になることがあります。アナフィラキシーは、アレルギー専門医に限らずすべての医療従事者が遭遇する可能性がある病態であり、十分な知識を身につけておくことが必要です。今号では、アナフィラキシーの原因やそのメカニズム、対処法などについて、横浜市立みなと赤十字病院アレルギーセンター長の中村陽一氏に解説していただきます。

アナフィラキシーとは?

アナフィラキシーの定義と発症率 死亡の2大原因は医薬品とハチ刺傷

アナフィラキシーは、「アレルゲン等の侵入により、複数臓器に全身性にアレルギー症状が惹起され、生命に危機を与え得る過敏反応」(日本アレルギー学会監修『アナフィラキシーガイドライン』2014年版)と定義されます。アナフィラキシーのうち、血圧低下や意識障害を伴う場合をアナフィラキシー・ショックといいます。横浜市立みなと赤十字病院は救急車の受け入れ件数が全国でもトップレベルです。当然、その中には救急疾患であるアナフィラキシー・ショックも含まれており、当院では年間50例ぐらいを経験します。
アナフィラキシーの主な原因は、食物や薬剤、ハチなどの昆虫毒です。中でも件数が圧倒的に多いのは食物アレルギーです。食物アレルギーは、卵や小麦など特定の食物が原因で起こるアレルギー反応で、児童生徒に限らずすべての年齢層に見られます。
一方、件数は食物アレルギーほど多くはないものの、重篤化しやすいのはハチ毒と薬剤です。ハチに刺されたり、注射で薬剤が体内に入ったりすると数分以内に致命的な状態になることもあります。日本のアナフィラキシー・ショックによる死亡者は年間60人前後ですが、その2大原因は医薬品とハチ刺傷であり、ほとんどは小児ではなく成人です(図1)。ハチの場合は後述するアドレナリン自己注射(エピペン®)の普及により死亡者は減少する傾向にありますが、医薬品による件数は増加傾向にあります。

図1 アナフィラキシーによる死亡数

アナフィラキシーによる死亡数の画像

中村陽一:アレルギー 67(1),17-23. 2018

アナフィラキシーの症状と診断 臨床症状から疑う

アナフィラキシーの診断は臨床症状に基づいて行われます。アナフィラキシーを疑う最大のポイントは皮膚症状です。患者さんの9割では蕁麻疹やかゆみ、発赤などの皮膚症状が現れます。ただし、皮膚症状だけではアナフィラキシーとはいえません。それに加えて、呼吸困難、ひどい下痢や腹痛、ショック、意識障害などほかの臓器の症状が見られるときにアナフィラキシーが疑われます。『アナフィラキシーガイドライン』2014年版では、アナフィラキシーの診断基準として図2に示す3つの項目のいずれかを満たす場合を挙げています。

図2 アナフィラキシーの診断基準

以下の3項目のうちいずれかに該当すればアナフィラキシーと診断する。

  1. 皮膚症状(全身の発疹、瘙痒または紅潮)、または粘膜症状(口唇・舌・口蓋垂の腫脹など)
    のいずれかが存在し、急速に(数分~数時間以内)発現する症状で、かつ下記a、bの少なく
    とも1つを伴う。
皮膚・粘膜症状
皮膚・粘膜症状
さらに、少なくとも右の1つを伴う
呼吸困難、気道狭窄、喘鳴、低酸素血症
a. 呼吸器症状
(呼吸困難、気道狭窄、
喘鳴、低酸素血症)
血圧低下、意識障害
b. 循環器症状
(血圧低下、
意識障害)
  1. 一般的にアレルゲンとなりうるものへの曝露の後、急速に(数分~数時間以内)発現する以下の症状のうち、2つ以上を伴う。
全身の発疹、瘙痒、紅潮、浮腫
a. 皮膚・粘膜症状
(全身の発疹、
瘙痒、紅潮、浮腫)
呼吸困難、気道狭窄、喘鳴、低酸素血症
b. 呼吸器症状
(呼吸困難、気道狭窄、
喘鳴、低酸素血症)
血圧低下、意識障害
c. 循環器症状
(血圧低下、
意識障害)
腹部疝痛、嘔吐
d. 持続する消化器
症状(腹部疝痛、
嘔吐)
  1. 当該患者におけるアレルゲンへの曝露後の急速な(数分~数時間以内)血圧低下。
血圧低下
血圧低下
収縮期血圧低下の定義:平常時血圧の70%未満または下記
生後1カ月~11カ月
1~10歳
11歳~成人
<70mmHg
<70mmHg+(2×年齢)
<90mmHg

Simons FE, et al. WAO Journal 2011; 4: 13-37、Simons FE. J Allergy Clin Immunol 2010; 125: S161-181
Simons FE, et al. アレルギー 2013; 62: 1464-1500を引用改変

日本アレルギー学会監修 「アナフィラキシーガイドライン」 2014年版

アナフィラキシーの際に血液検査でヒスタミンやトリプターゼなどのバイオマーカーが上昇することがありますが、ヒスタミンまたはトリプターゼが正常値であってもアナフィラキシーを否定することはできませんし、血液検査の結果が出る頃には症状が治まっています。血液検査は診断の決め手にはならず、参考程度にとどめるべきです。
鑑別診断としてはさまざまな疾患が挙げられます(表1)。アナフィラキシーの多くに皮膚・粘膜症状が見られることから、臨床現場でもっとも鑑別が問題になるのは急性の全身性蕁麻疹と血管浮腫です。したがって、皮膚・粘膜症状が突然出現した場合は、他臓器の症状の有無を確認しながらすばやく問診を行います。症状が出る数時間前までにどんな食物を食べたか、どんな薬を飲んだか、さらに運動中であったか、酒を飲んでいたか、風邪を引いていたか、旅行中か、生理中かなどの周辺状況を聞き取り、アナフィラキシーの可能性を考えます。とくに鑑別が難しいのは1~2割を占める皮膚症状がないケースです。通常の喘息発作ではないか、急性胃腸炎ではないかなどと迷うケースもあります。

表1 アナフィラキシーの鑑別診断

アナフィラキシーの症状に類似する疾患・症状には下記のようなものがある。

鑑別困難な疾患・症状
  • 喘息発作
  • 失神
  • 不安発作/パニック発作
  • 急性全身性蕁麻疹
  • 異物の誤嚥
  • 心血管疾患(心筋梗塞、肺塞栓症)
  • 神経学的疾患(けいれん、てんかん、脳血管疾患)

食事関連
  • ヒスタミン中毒
  • グルタミン酸ナトリウム過敏反応
  • 亜硫酸塩過敏反応
  • 食中毒

内因性ヒスタミン過剰
  • マスト(肥満)細胞症
  • クローン性マスト細胞異常
  • 好塩基球性白血病

皮膚紅潮症候群
  • 閉経周辺期
  • カルチノイド症候群
  • 自律神経性てんかん
  • 甲状腺髄様癌

非器質性疾患
  • 声帯機能不全
  • 過換気
  • 心身症

ショック
  • 循環血液量減少性
  • 心原性
  • 血液分布異常性
  • 敗血症性

その他
  • 非アレルギー性血管浮腫
       遺伝性血管浮腫Ⅰ型、Ⅱ型、Ⅲ型
       ACE阻害薬※1関連の血管浮腫
  • 全身性毛細管漏出症候群
  • レッドマン症候群(バンコマイシン)
  • 褐色細胞腫(奇異反応)

※1 ACE阻害薬(angiotensin converting enzyme inhibitor):アンジオテンシン変換酵素阻害薬

Simons FE, et al. WAO Journal 2011; 4: 13-37を引用改変

日本アレルギー学会監修 「アナフィラキシーガイドライン」 2014年版

アナフィラキシーの初期対応と急性期以降の対応

第一選択薬はアドレナリン 疑いがあるときはすぐに注射する

アナフィラキシーは一刻を争う病態であることから、初期対応が極めて重要です。アナフィラキシーと診断されたときや強く疑われる場合は、下肢を挙上するとともに、直ちにアドレナリンの筋肉注射、酸素吸入、補液投与などを行います。アドレナリンは興奮したときなどに副腎髄質から分泌されるホルモンで、血管収縮作用や心収縮力増大作用、心拍数増加作用、気道粘膜浮腫の抑制効果などがあり、アナフィラキシーでもっとも重要な治療薬です。投与することで、低血圧およびショックの防止と緩和、上気道閉塞の軽減、蕁麻疹および血管浮腫の軽減などが期待できます。
通常、成人には0.3mg、小児には0.01mg/kgを大腿部外側に筋注し、必要に応じて反復投与します。高齢者や心疾患のある患者さんでは0.1mgに減量するなどの調整をすることもあります。酸素は6~8L/分をマスクで開始し、補液は等張性輸液を点滴投与します。アドレナリンは即効性があるので、投与して数分から数十分で息苦しさや蕁麻疹などの症状が改善します。
アナフィラキシーにおいては、アドレナリンの絶対的禁忌は存在しないとされます。アナフィラキシーかどうか判断が難しいこともありますが、あれこれ考えるよりもまずアドレナリン注射をすることが『アナフィラキシーガイドライン』2014年版でも推奨されています。アドレナリンの投与量は心臓疾患で投与する量の3分の1程度です。アナフィラキシーと見誤って他疾患にアドレナリンを使用するリスクよりも、アナフィラキシーを見逃してアドレナリン投与が遅れて亡くなってしまうリスクのほうがはるかに大きいのです。
アナフィラキシーに対する第二選択薬としては、H1抗ヒスタミン薬、β2アドレナリン受容体刺激薬、グルココルチコイドが使われます。H1抗ヒスタミン薬は皮膚・粘膜症状を改善しますが、それ以外のアナフィラキシー症状には無効です。グルココルチコイドは作用発現までに数時間かかりますが、初期症状が改善した後に再度アナフィラキシー症状が出現する二相性アナフィラキシーの予防効果を期待して使用します。β2アドレナリン受容体刺激薬の吸入は喘息様の呼吸困難や喘鳴には有効ですが喉頭閉塞には無効です。

急性期を脱した後の対処法 原因特定は専門機関で

急性期を脱した後の対処として、症状が重篤な場合や改善が見られない場合は救急施設あるいは適切な専門医へ紹介することが大切です。その上で、当面の被疑アレルゲンなどの禁止、喘息などの危険因子の管理、原因アレルゲンの特定などを実施します。
当面の被疑アレルゲンの禁止は、原因を特定するまでは疑わしい食材や薬剤は摂取しないということです。たとえば寿司店で症状を起こしたなら生魚は一切食べないように指導します。薬剤が原因と考えられるときはその薬剤の服用を中止します。
危険因子に関しては多くの重症化因子が存在しますが、最大のものは気管支喘息の合併です。コントロール不良の喘息はアナフィラキシーにおける致死的要因になります。アナフィラキシー歴のある喘息患者さんは、喘息をきちんとコントロールすることが大事です。その他、高齢であること、心血管疾患の合併、βアドレナリン遮断薬やACE阻害薬の服用などが危険因子となります(表2)。

表2 アナフィラキシーを重篤化・増幅させる因子
年齢関連因子 乳幼児
症状を説明できない
思春期・青年期
リスクを伴う行動が増加
妊娠・出産
薬剤によるリスク(乳幼児B群レンサ球菌感染症予防のための抗生物質など)
高齢者
薬剤またはハチ毒を誘因とするアナフィラキシーによる致死リスク増大
合併症 喘息などの呼吸器疾患 心血管疾患 マスト(肥満)細胞症/
クローン性マスト細胞異常
アレルギー性鼻炎、湿疹
**
精神疾患
(うつ病など)
薬剤/アルコール/嗜好性薬物の使用 βアドレナリン遮断薬、ACE阻害薬※1 アルコール/鎮静剤/睡眠薬/抗うつ剤/嗜好性薬物
アナフィラキシーの誘因と症状の認識に影響を及ぼす可能性が
ある
アナフィラキシーを
増幅させる促進因子
運動 急性感染症
感冒、発熱など
精神的ストレス 非日常的な活動
旅行など
月経前状態
(女性)

 年齢関連因子、合併症、薬剤は、重度または致命的なアナフィラキシーに関与する可能性がある。促進因子は、アナフィラキシーを増幅させる可能性がある。一部のアナフィラキシー発症には、複数の因子および促進因子が関与すると考えられる。
** アトピー性疾患は、食物、運動、ラテックスを誘因とするアナフィラキシーの危険因子であるが、昆虫刺咬により発生するアナフィラキシーの危険因子ではない。
※1 ACE阻害薬(angiotensin converting enzyme inhibitor):アンジオテンシン変換酵素阻害薬

Simons FE, et al. WAO Journal 2011; 4: 13-37、Simons FE. J Allergy Clin Immunol 2010; 125: S161-181を引用改変

日本アレルギー学会監修 「アナフィラキシーガイドライン」 2014年版を一部改変

原因アレルゲンの特定に関しては、アレルギー専門医の手に委ねるべきです。
プリックテストはアレルゲンを特定するための皮膚試験の1つで、皮膚に抗原液を1滴落とし、その上からプリック針で静かに皮膚を刺します。15~20分ほど待つと、アレルギーがあるものは肌が膨れたり赤くなったりします。膨らみの大きさが、陽性対照であるヒスタミン液による膨らみの半分以上になると陽性と判断されます。
明らかにアナフィラキシーを起こした食物に対しては完全除去を指示します。珍しい食材やほかに選択肢がある薬剤なら問題はないのですが、一番困るのは、いろいろな食品に使われている小麦などの場合です。完全除去は難しく、患者さんも苦労することが多いようです。

アドレナリン自己注射 その使い方と効果

退院時には原則としてアドレナリン自己注射(エピペン®)を処方します。これは強いアナフィラキシーが起こったときに患者さんが応急処置をするための自己注射薬で、アドレナリンの薬液と注射針が内蔵されたキットです。ペン型になっており、先端を大腿部の前外側にカチッと音がするまで強く押しつけると、バネの力で針が出てきて薬液が筋肉に注射されるしくみになっています。誘因が不明の症例、小麦アレルギーのような誤食の可能性が強い症例、ハチ刺傷のように完全回避が不可能な症例に対して本剤は欠かすことができません。製薬メーカーから使用方法などをまとめたDVDが配布されているので、それで使用方法を学ぶことができます。
エピペン®はあくまでも応急処置ですから、使用した後は速やかに医療機関を受診することが大切です。

アナフィラキシーの機序と誘因

アナフィラキシーは即時型反応 誘因は小児と成人では異なる

アナフィラキシーはアレルギー反応の1つで、その多くはIgEが関与することで引き起こされる即時型反応です(コラム参照)。

COLUMN アレルギー発症のメカニズム

アレルギーとは、本来は身体にとって無害と思われる花粉やハウスダスト、食物などに対して、免疫反応が過剰に起こる場合をいいます。アレルギーにはⅠ~Ⅳまで4つのタイプがあります。アレルゲンが体内に入った直後から数時間以内に症状が出るアレルギー反応が「Ⅰ型=即時型」で、代表的なアレルギー疾患である花粉症、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、気管支喘息などのほか、食物アレルギーも主にこの即時型に分類されます。
この即時型反応に関与しているのが、IgE抗体です。体内にアレルゲンが入ってくると、アトピー素因を持つ一部の人では過剰なIgE抗体がつくられます。皮膚や粘膜など全身の組織に広く分布するマスト細胞の表面にはIgE受容体が存在し、IgE抗体がそこに結合してアレルゲンを待ち受けています。そして、IgEがアレルゲンと結合し架橋という現象が起こるとマスト細胞は活性化し、ヒスタミンなどの生理活性物質を放出して、周囲にアレルギー反応を引き起こします。

アレルゲン

IgEは体内にアレルゲン(抗原)が侵入するとつくられる抗体です。誘因の多くは、食物、刺咬昆虫(ハチ、蟻など)の毒、薬剤です。ただし、後ろの2者はほとんどが成人に見られるものであり、小児におけるアナフィラキシー誘因のほとんどは食物です。
薬剤はIgEが関与しない免疫学的機序、および肥満細胞(マスト細胞)を直接活性化することによってもアナフィラキシーの原因となります。また、造影剤はIgEが関与する機序と関与しない機序の両者によりアナフィラキシーの誘因となり得ます(表3)。

表3 アナフィラキシーの発生機序と誘因
IgEが関与する
免疫学的機序
食物 小児 鶏卵、牛乳、小麦、甲殻類、ソバ、ピーナッツ、ナッツ類、ゴマ、大豆、魚、果物など
成人 小麦、甲殻類、果物、大豆(豆乳)、ピーナッツ、ナッツ類、アニサキス、スパイス、ソバ、魚など
昆虫 刺咬昆虫(ハチ、蟻)など
医薬品 βラクタム系抗菌薬、NSAIDs※2、生物学的製剤、造影剤、ニューキノロン系抗菌薬など
その他 天然ゴムラテックス、職業性アレルゲン、環境アレルゲン、食物+運動、精液など
IgEが関与しない
免疫学的機序
医薬品 NSAIDs※2、造影剤、デキストラン、生物学的製剤
など
非免疫学的機序
(例:マスト細胞を直接活性化する場合)
身体的要因 運動、低温、高温、日光など
アルコール
薬剤 オピオイドなど
特発性アナフィラキシー
(明らかな誘因が存在しない)
これまで認識されていないアレルゲンの可能性
マスト(肥満)
細胞症
クローン性マスト細胞異常の可能性

 複数の機序によりアナフィラキシーの誘因となる。
※2 NSAIDs(nonsteroidal anti-inflammatory drugs):非ステロイド性抗炎症薬

Simons FE, et al. WAO Journal 2011; 4: 13-37を引用改変

日本アレルギー学会監修 「アナフィラキシーガイドライン」 2014年版

食物によるアナフィラキシー

食物アレルギーのほとんどはIgEが関与する即時型反応で、原因食物の摂取後数分以内に起こります。誘発原因となる食物は、欧米ではピーナッツなどのナッツ類が多く、日本では鶏卵、乳製品、小麦、ソバ、ピーナッツが多く見られます。とくに重症化しやすいのがピーナッツやソバです(図3)。

図3 ショック症状を誘発した原因食物

図3 ショック症状を誘発した原因食物

日本アレルギー学会監修 「アナフィラキシーガイドライン」 2014年版

成人の食物アレルギーは小児期に発症してそのまま持続している人と、成人発症例がありますが、医療機関を受診する食物アレルギーの成人患者さんの多くは、成人発症例です。これらの患者さんの多くは自然寛解がなく、過敏状態が生涯続きます。
食物アレルギーの特殊型として、食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FDEIA:Food-Dependent Exercise-Induced Anaphylaxis)と口腔アレルギー症候群(OAS:Oral Allergy Syndrome)などがあります。
食物依存性運動誘発アナフィラキシーは、特定のものを食べて運動をしたときだけに起こります。原因食物は小麦製品や甲殻類が多く、原因食物摂取後4時間以内の運動で発症することが多いのです。原因食物がわかったときに、「この食材はいつも食べているのに、なぜ今回はアナフィラキシーになったのか」と患者さんからよく聞かれるのが、このケースです。運動の程度は個人差があります。激しい運動をしたときほど起こりやすいといえますが、簡単な運動でも起こる人はいます。運動に限らず、入浴など汗をかくような行為でも起こり得ます。原因食物を摂取しなければ運動は可能であり、必ずしも運動を全面禁止にする理由はありませんが、重篤な症例では完全除去が望ましい場合もあります。
口腔アレルギー症候群は、野菜や果物などを食べると15分以内に唇の腫れ、舌やのどに痛み・かゆみ・不快感を生じ、ときに舌・のどの腫れを起こすものです。果物や生野菜に含まれるアレルゲンが口の中の粘膜に触れて起こるアレルギー反応で、花粉アレルゲンとの交差反応によって起こることが多いことが知られており、花粉・食物アレルギー症候群(PFAS:Pollen Food Allergy Syndrome)と呼ばれます。通常は症状が口腔粘膜だけにとどまりますが、ときにアナフィラキシーへ発展することもあります。
アナフィラキシーを起こした児童生徒については、その病型を知り、学校生活における原因を除去することが不可欠です。文部科学省は2015年3月に「学校給食における食物アレルギー対応指針」を示しました。

昆虫毒によるアナフィラキシー

とくにハチ刺されによるアナフィラキシーが多く見られます。林野庁営林局(現森林管理局)の職員を対象にした調査で、職員の67.5%にハチ刺傷歴があり、ショック症状は11.8%と報告されています。ハチ刺傷は、アシナガバチ、スズメバチ、ミツバチの順に多く、短期間に2回刺されるとアナフィラキシーを生じやすいといわれます。スズメバチ、アシナガバチ毒アレルギーは、林業従事者、農業従事者、ゴルフ場職員、造園業者の順に多く、ミツバチ毒アレルギーはイチゴ農家、養蜂業者に多く見られます。
その他、近年では、強い毒を持つ南米原産のアリ「ヒアリ」が話題になりました。刺されると強い痛みを覚え、水疱状に腫れて、アナフィラキシー・ショックを起こすことがあります。

医薬品によるアナフィラキシー

一般に、アナフィラキシーを起こしやすい医薬品には次のようなものがあります。

  1. 抗菌薬:βラクタム系抗菌薬(ペニシリン系、セフェム系、カルバペネム系)が最多で、ニューキノロン系抗菌薬の症例も報告されています。投与前の問診が重要で、抗菌薬によるアナフィラキシーの発生を確実に予知できる方法はありません。
  2. 解熱鎮痛薬(NSAIDs等):アスピリン等のNSAIDsによるアナフィラキシー症例の多くは非IgE依存性であり、他のほとんどのNSAIDsでも起こりますが、1剤だけで起こるIgE依存性の症例もあります。
  3. 抗腫瘍薬:白金製剤やタキサン系(とくに溶解剤としてポリオキシエチレンヒマシ油を含む薬剤)などの抗腫瘍薬によるアナフィラキシーの報告は比較的多くあります。
  4. 局所麻酔薬:使用による訴えは多いのですが、アレルギー機序はまれであり、心理要因または添加物や血管収縮薬が原因であることが多いとされます。
  5. 筋弛緩薬:全身麻酔中に発症したアナフィラキシーの主な原因です。
  6. 造影剤:数1,000件に1件の率でアナフィラキシーが起きるといわれます。非イオン性、低浸透圧造影剤による重症副作用の割合は0.04%とされます。通常は非IgE依存性ですが例外はあり得ます。気管支喘息は重症化因子ですが、造影剤の使用が不可欠の場合はステロイド薬の前投与とともに使用します。
  7. 輸血等:アナフィラキシー・ショックは血小板製剤8,500例に1例、血漿製剤14,000例に1例、赤血球製剤87,000例に1例と、比較的多く報告されています。
  8. 生物学的製剤:投与直後または投与の数時間後、薬剤によっては24時間以降にアナフィラキシーの発生が報告されています。多くは機序不明で、初回投与でも複数回投与後でも起こり得ます。
  9. アレルゲン免疫療法:スギ花粉症で以前よく行われていた皮下注射によるアレルゲン免疫療法では、とくに増量過程でアナフィラキシーが生じやすいといわれます。100万回に1回重篤な全身症状が生じ、2,300万回に1回の頻度で死亡例があります。維持期においても投与量の誤りや投与間隔の延長などにより生じることがあります。最近承認されたスギ花粉などに対する舌下免疫療法でのアナフィラキシーの発生はまれで、1億回に1回の頻度と報告されています。死亡例は報告されていません。

その他の原因によるアナフィラキシー ラテックスやアニサキスにも要注意

手術関連では、全身麻酔中に生じるアナフィラキシーの誘因としては、麻酔に使用する薬剤(とくに筋弛緩薬)、抗菌薬、ラテックス(ゴム手袋など)が重要です。ラテックスアレルギーは、天然ゴムの原料であるゴムの木から得られるタンパク質成分に対するIgE依存性反応によって生じます。医療従事者、アトピー体質、医療処置を繰り返している患者、天然ゴム製手袋の使用頻度が高い職業従事者などがハイリスクです。ラテックスアレルギーの30~50%は、クリやバナナ、アボカド、キウイフルーツなどの食品やその加工品で口腔アレルギー症候群、蕁麻疹、喘息、アナフィラキシーを起こすことが知られています。
ダニやアニサキスが原因でアナフィラキシーが起こることもあります。この2つに共通するのは、どちらも食物アレルギーと間違えられやすいことです。
経口ダニアナフィラキシーは、たとえば、お好み焼きやたこ焼きを食べたときに、粉に混じっているダニによって起こるアナフィラキシーです。小麦粉が原因ではなく、実は開封して時間がたったお好み焼き粉にダニが混入しており、それが原因でアナフィラキシーを起こすこともあるのです。ダニアレルギーがない人がそれを食べても症状は出現しません(もちろん衛生上は問題がありますが)。喘息の人は重症化しやすいことがわかっています。
サバ、イワシ、カツオなどの魚介類に寄生するアニサキスは消化管アニサキス症の原因として広く知られています。アニサキスが寄生する魚介類を生で食べると数時間から十数時間後にみぞおちの激しい痛み、悪心・嘔吐を生じます。これは生きているアニサキスが消化器の壁に潜り込むことで痛みが生じると考えられています。それに対して、アニサキスアレルギーは、アニサキスがアレルゲンになっているのでアニサキスの死骸でも起こりますし、加熱処理でも抗原性が残るため、アナフィラキシーを繰り返すことも多くなります。アニサキスアレルギーは生魚を食べる日本人や北欧人に多いといわれます。

さいごに

どのような原因、どれほどの重症度であっても、過去にアナフィラキシーを経験したことがある人は要注意です。薬剤で起こったことがあるなら、原因の薬剤を特定し、誤って再び処方されることがないよう指導することが基本です。薬剤に関する聞き取りは薬剤師さんにもぜひ協力していただきたいと思います。
また、アナフィラキシーによる死亡を減らすためには、アドレナリン自己注射の普及が喫緊の課題ということになるでしょう。アドレナリン自己注射の使用方法に関する指導や、患者さんの不安・疑問に対応していただくことも薬剤師さんに期待される役割です。

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