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ハイリスク薬加算の薬歴の書き方は?服薬指導例についても解説
特集

摂食嚥下障害のメカニズム 〜「薬が飲めない」に対処する〜

2018年6月号
摂食嚥下障害のメカニズム 〜「薬が飲めない」に対処する〜

人が生命活動を維持するための根源的な行為の1つである摂食嚥下。脳血管障害の後遺症、がんや手術に伴う合併症、多剤服用の影響でその機能が低下すると、食事や服薬が難しくなります。日本大学歯学部摂食機能療法学講座教授で日本摂食嚥下リハビリテーション学会理事長の植田耕一郎氏によると、摂食嚥下の機能はリハビリテーションによって再生させることが可能で、唾液の分泌が重要な役割を果たしているといいます。そこに服薬指導のポイントもありそうです。

摂食嚥下のメカニズム

摂食嚥下障害のメカニズムの画像

食物を認識し、噛んで、飲み込む複雑な動きを5期で評価

咽頭は、口から食道への飲食物の通り道と、鼻腔から気管への空気の通り道が交差する場所です。飲食物も空気も咽頭口部あたりまで同じところを通り、咽頭口部の下の咽頭喉頭部で分かれます。気管につながる喉頭口は、空気が通りやすいように開いています。開いたままでは、空気だけでなく飲食物が気管に入り込むため、喉頭口の上部にある喉頭蓋がふたの役目をして、飲食物が誤って気管に入らないようになっています(図1)。

図1 口腔・咽頭図

口腔・咽頭図の画像

編集部作成

私たちは普段、口腔内や咽頭・喉頭の働きを意識しながら飲食することはほとんどありません。毎日当たり前に行っている、食べ物を見て、それを口に運び、咀嚼し、嚥下する一連の動きは実はとても複雑なのです。その過程を細かく見ていきましょう。
口に入れた食べ物は前歯で噛み切られ、舌で臼歯の咬合面に運ばれます。食べ物は舌と頬と唇ではさまれ、臼歯で粉砕されたり、すり潰されたりします。そのとき、耳下腺などからさらさらの唾液が分泌され、食べ物に湿り気が与えられます。さらに、顎下腺と舌下腺からねばねばした唾液が分泌されます。こうしてできた混合物は食塊と呼ばれます。食塊がのどの奥に触れると飲み込みの反射が生まれ、嚥下によって食道に運ばれます。
嚥下のしくみを実感するために唾液を飲み込んでみてください。飲み込むときは、口を閉じ、奥歯を咬み合わせた状態になっているはずです。噛むことであごが固定されます。歯は咀嚼だけでなく嚥下にも役立っています。奥歯を噛みしめたら、次に上顎後方にある軟口蓋が上がって、口から鼻につながる鼻咽腔がふさがれるのがわかります。これによって唾液などが鼻咽腔に流入するのを防いでいます。さらに、舌の根元につながる舌骨という小さな骨が持ち上がり、喉仏がいったん上がってから下がります。喉仏が上がる一方で舌の根元の位置が動くことによって、喉頭蓋が降りてきて咽頭喉頭部にある気管の入り口がふさがれます。口腔内の前方では唇がふさがり、下方では気管がふさがって密閉状態になります。同時に舌が上顎を押し上げ、口腔内圧が一気に高まります。
嚥下反射が起こり、食道の入り口が開き、唾液が流れていくまでの時間はわずか100分の1秒です。
摂食嚥下は図2に示すように先行期、準備期、口腔期、咽頭期、食道期の5期に分けることができます。先行期・準備期が摂食、口腔期・咽頭期・食道期が嚥下にあたります。

図2 摂食嚥下の5期
摂食嚥下Ⅰ. 先行期の画像
Ⅰ. 先行期 目で見て食べ物を認識する 視覚、嗅覚、触覚などから食物を認識して口に運ぶ前の時期です。食べ物であるかどうか、硬さはどうか、一口で口に入れることができる大きさか、などを判断しています。
摂食嚥下Ⅱ. 準備期の画像
Ⅱ. 準備期 食べ物を口から入れ、咀嚼する 口腔内に食物を送り込み、咀嚼して、食塊を形成する時期です。食塊は顎、舌、頬、歯を使って、唾液と混ぜ合わせています。
摂食嚥下Ⅲ. 口腔期の画像
Ⅲ. 口腔期 食べ物を口の奥からのどへ送る 舌を使って、食塊を咽頭へ送り込む時期です。舌を、しっかりと口蓋に接触させることで、口腔内の圧を高め、送り込む動作を促します。頬や口唇も、同様の役割を果たしています。
摂食嚥下Ⅳ. 咽頭期の画像
Ⅳ. 咽頭期 嚥下中枢からの指令で、
食べ物を食道へ送る
嚥下反射によって、食塊を咽頭から食道入り口へ送り込む時期となります。軟口蓋が挙上して鼻腔との交通を遮断、舌骨、口喉頭が前上方に挙上して食道入り口部が開大するのと同時に喉頭蓋谷が下降します。声門は閉鎖し気道防御機構が働くことで誤嚥を防止します。
摂食嚥下Ⅴ. 食道期の画像
Ⅴ. 食道期 食べ物を胃へ送り込む 蠕動運動と重力によって食塊を食道から胃へ送り込んでいく時期となります。食道入り口部の筋肉は収縮し、食塊が逆流しないように閉鎖します。

植田耕一郎氏提供資料および長寿科学振興財団:健康長寿ネットHPを参考に作成

摂食嚥下障害の原因

摂食嚥下障害のメカニズムの画像

形態的な異常や神経系の異常など

摂食嚥下の5期のどこかに障害が生じると、摂食嚥下障害が起こって、むせたり、食べこぼしたりします(表1)。摂食嚥下障害の原因となる疾患は脳梗塞や脳出血などの脳血管障害、認知症やパーキンソン病をはじめとする神経変性疾患、頭頸部の腫瘍など多彩です(図3)。

表1 摂食嚥下障害の症状
固いものが食べにくい
お茶や汁物等でむせることがある
口がかわきやすい
薬が飲みにくい
話すときに舌がひっかかる
口臭が気になる
食事にかかる時間が長くなった
薄味がわかりにくくなった
食べこぼしがある
食後に口の中に食べ物が残りやすい
自分の歯または入れ歯で左右の奥歯をしっかりと噛みしめられない

厚生労働省「介護予防マニュアル」(改訂版:平成24年3月)を参考に作成

図3 摂食嚥下障害の原因

摂食嚥下障害の原因の画像

長寿科学振興財団:健康長寿ネットHPを参考に作成

脳血管障害の後遺症として手足の麻痺や運動障害は知られていますが、口腔や咽喉にも麻痺が残り、摂食嚥下に影響を及ぼすことはあまり注目されてきませんでした。脳が障害を受けた部位によって後遺症も異なります。咽頭に麻痺が残れば咽頭期障害で誤嚥、窒息が起こりやすく、唇や舌に麻痺が残れば準備期障害で思うように咀嚼ができなくなります。
摂食嚥下障害の原因としてはほかに、口蓋裂や顎形成不全など先天的な疾患、手術による影響、加齢に伴う機能低下などがあります。高齢者では薬剤性による摂食嚥下障害も多く見られます(表2)。たとえば抗精神病薬、抗不安薬、抗てんかん薬によって脳の機能が抑制されると、覚醒レベルが低下して誤嚥を誘発しやすくなります。

表2 摂食嚥下機能に悪影響を及ぼす薬剤

1.中枢神経を抑制する薬剤
薬効 代表的な薬剤(一般名)
抗てんかん薬 バルプロ酸ナトリウム、カルバマゼピン、ゾニサミド
抗うつ薬 塩酸アミトリプチリン、塩酸ミアンセリン、塩酸パロキセチン
抗精神病薬 ハロペリドール、リスペリドン、塩酸クロルプロマジン
抗不安薬 エチゾラム、ジアゼパム、ロラゼパム
抗ヒスタミン薬 塩酸ヒドロキシジン、塩酸ジフェンヒドラミン、塩酸プロメタジン
中枢性筋弛緩薬 塩酸エペリゾン、バクロフェン、塩酸チザニジン
睡眠薬 フルニトラゼパム、ニトラゼパム、クアゼパム

2.口腔乾燥症を生じやすい薬剤
抗うつ薬 塩酸アミトリプチリン、塩酸マプロチリン、マレイン酸フルボキサミン
抗ヒスタミン薬 d-マレイン酸クロルフェニラミン、塩酸ヒドロキシジン、塩酸シプロヘプタジン
抗コリン薬 臭化ブチルスコポラミン、塩酸プロピベリン、塩酸トリヘキシフェニジル
中枢性筋弛緩薬 塩酸エペリゾン、メシル酸プリジノール、塩酸チザニジン
抗精神病薬 レボメプロマジン、塩酸チアプリド、塩酸ペロスピロン
利尿薬 スピロノラクトン、フロセミド
睡眠薬 塩酸リルマザホン、ニトラゼパム、フルニトラゼパム

3.錐体外路系障害を生じやすい薬剤
消化性潰瘍治療薬 スルピリド
抗精神病薬 リスペリドン、フマル酸クエチアピン、ハロペリドール
制吐薬 メトクロプラミド
抗うつ薬 塩酸ミルナシプラン、塩酸イミプラミン、アモキサピン

武原格:MB Med Reha No.136: 57-62, 2011を参考に作成

口腔や咽頭が麻痺している患者に、小さく切った食べ物を口に入れても、舌が動かなければ食べ物を臼歯の咬合面に運ぶことができません。食べ物を舌で押さえることもできず、粉々にしたり、すり潰したりすることもできません。噛み砕いた食べ物を唾液と混ぜ合わせて食塊をつくることもできません。食塊ができないので、嚥下反射が生まれず、そもそも咽頭が麻痺していると飲み込むことができません。麻痺で軟口蓋が上がらないと、口腔内の空気が鼻咽腔のほうに漏れて、口腔内圧が高まりません。口腔内圧が高まらないと食べ物を舌から咽頭のほうへ送り込めず、食べ物は口腔内にとどまります。また、喉仏が上がらないと喉頭蓋が動かず気管の入り口をふさぐことができません。そのため、口から咽頭に運ばれてきた食べ物は開いたままの気管のほうへ落ちていって誤嚥を起こします。

摂食嚥下リハビリテーション

摂食嚥下障害のメカニズムの画像

機能が回復すれば嚥下の回数は増える

2004年に国内に先駆けて日本大学歯学部に摂食機能療法学講座が開設されました。当講座では隣接する日本大学病院と連携し、さまざまな患者の摂食嚥下リハビリテーションに関わってきました。最も多い疾患は脳血管障害で全体の約6割を占めます。
摂食嚥下障害の診断は、一般的にスクリーニング検査、嚥下内視鏡検査、ビデオ嚥下造影検査によって行われます。スクリーニング検査には反復唾液嚥下テスト、水飲みテスト、フードテスト、頸部聴診法などがあります。嚥下内視鏡検査では声帯の動きや、唾液、痰、食物の残留の状態などを直接観察できます。内視鏡を鼻腔から挿入した状態で、お茶やゼリー、おかゆなどの嚥下の状態を評価します。ビデオ嚥下造影検査は、造影剤を混ぜた食べ物を摂取し、X線透視装置で観察する検査です。口に含んでから咀嚼、嚥下した食べ物が食道を通って胃へ流れていく様子を観察することができます。通常、ビデオ嚥下造影検査の結果で確定診断となります。
スクリーニング検査では、私たち歯科医は患者の意識状態を確認したうえで、まず口腔内をくまなく視診・触診し、咀嚼嚥下の反応や舌苔の有無などをチェックします。反復唾液嚥下テスト、水飲みテスト、フードテスト、頸部聴診法はいずれも有用な検査法ですが、実臨床では基準値だけで判断できるものではありません。「よさそう」「できそう」「時期尚早か」「あぶないなあ」という直感的な判断が重要であり、そうした見立ては多くの場合に正しいことを私たち専門家は経験的に知っています。
急性期の患者の状態は刻々と変化していきます。意識の回復とともに変化する口腔内や咽頭の機能を観察しながら必要な検査を行います。ある程度回復基調に乗ったところで、どのようにアプローチすれば誤嚥せずにものがのどを通るか推し量ります。まず水、ゼリー、ペースト食などをティースプーン1杯ほど口に含ませます。患者の身体を動かして姿勢を微妙に調整しながら飲み込みの可能性を探ります。そんなことを何回か続けていくと、「今ならいける」というときがあります。そのタイミングを見逃さないように根気よく取り組むことが重要です。全身状態の改善に伴って口腔内の機能も回復すれば、嚥下の回数は増えていきます。

簡単「口ストレッチ」で唾液分泌を促す

唾液の分泌を適度に増やして、活発な自浄作用を促す効果がある口ストレッチ。「立って歩ける」ようになるために行われるリハビリテーションと同様に、「咀嚼して飲み込める」ようになるためのリハビリテーションの1つとして、主に脳卒中の患者の口腔、咽頭の機能回復を目的に25年前から行っています。
口ストレッチはいつでもどこでもできる簡単な口まわりの体操ですが、特にブクブクうがい(リンシング)、ガラガラうがい(ガーグリング)が思うようにできない人にお勧めします。これらのうがいができない人は、のどや唇、舌、頬の筋力が低下して唾液の分泌が減っている可能性があります。いつも口の中がねばねばしているのはドライマウスの初期症状かもしれません。口ストレッチを毎日続けることで健康の維持が期待できます。
口ストレッチはイラストのように、まず唇を「う」の発音の形にして突き出す動きから始めます。続いて、口全体を「い」の発音の形にします。次は頬をふくらませてすぼめます。最後に舌の運動をします。舌を突き出し、上唇、下唇に触れたあと、左の口角から時計回りに唇をなぞります。
口ストレッチのほかにも、唾液腺マッサージ、歯ブラシマッサージなど唾液腺を刺激して唾液の分泌を促す方法があります。コツは、人差し指、中指、薬指の3本で、頬骨の下(耳下腺)を押さえながらグルグルと円を描くようにします。顎下腺のマッサージは、下顎角(耳の下方の出っ張った骨、いわゆるエラ)と下顎正面のちょうど真ん中あたりを、親指でそっとなでます。歯ブラシマッサージは、歯ブラシの背を使って頬の内側をなでたり舌を磨いたりします。
ものを飲み込むときの呼吸を意識すると、吸気→嚥下性無呼吸→嚥下→呼気を繰り返していることがわかります。つまり、咀嚼と嚥下の基本は呼吸をコントロールすることでもあるのです。呼吸は口や鼻、のどではなく胸と腹ですることも重要な点です。
腹筋、胸筋を簡単に鍛えられる方法があります。1日5分間、うつぶせになるだけです。うつぶせで腹式呼吸をしてみると、体重に抗うような負荷を感じることができます。就寝時や起床時に、うつぶせの状態で腹式呼吸をするのがお勧めです。逆に、仰向けで頭を起こした状態を10秒間保持する運動は、のどの筋肉を鍛えることができ、むせ防止の効果が期待できます。

口ストレッチ〜ミニマム・バージョン〜
START
1
口ストレッチの画像1
唇を「ウー」ととがらせる

2
口ストレッチの画像2
口を「イー」します

3
口ストレッチの画像3
頬をふくらませる

4
口ストレッチの画像4
頬をすぼめる

5
口ストレッチの画像5
舌を前へ突き出したあと、唇の上下左右をなめる

植田耕一郎著 「長生きは「唾液」で決まる! 「口」ストレッチで全身が健康になる」 講談社+α新書を引用改変

飲みにくい患者の服薬指導

摂食嚥下障害のメカニズムの画像

患者の状況を聞き出す力が大切 医師・患者と顔の見える関係を

現在の日本の医療システムは、一人の医師が急性期から終末期まで一貫して診療にあたることはまずありません。病期の経過とともに医療機関、医師が変わるため、次のようなことが起こり得ます。たとえば急性期病院の医師が「口から栄養を摂ることが難しく、経管栄養、中心静脈栄養の適応が望ましい」と判断したとします。その所見は書面で転院先の回復期や慢性期の病院に引き継がれ、経管栄養、中心静脈栄養が行われます。こうして、食事を口から摂る機会が失われます。つまり、最初の医師の判断が患者のQOLのキャスティングボードを握っているといっても過言ではありません。
逆に、「小さじ1杯程度のゼリーを、少しだけ上体を起こした姿勢であれば誤嚥を起こさずに飲み込むことが可能で、今後、リハビリテーションを積極的に取り入れることで口から食べる回復の見込みがある」といった一言で、患者のその後の人生は大きく変わっていきます。
私たちが特別養護老人ホームで行った調査では、普通食を食べているのは入所者の1割で、9割は刻み食、ミキサー食でした。介護の現場では、入所者に薬を飲んでもらうためにさまざまな工夫を凝らしています。薬を砕いて食事に混ぜる方法はその1つですが、粉薬をふりかけられたおかゆやみそ汁、ミキサー食を誰が食べたいと思うでしょうか。一口食べてみればわかりますが、一瞬にして口の中に錆の味が広がります。患者にとっては錆(さび)びた鉄をなめさせられているようで、二口目を受け入れる気がなくなるのは当然です。
どうしても薬を服用してもらう必要があれば、ゼリーやおかゆを別の皿に少し取り分けておいて、そこに砕いた薬を混ぜるようにしてはどうでしょうか。

残薬チェックも重要な役割

患者の服薬指導ではつねに残薬の量が問題視され、その改善策が課題になります。そもそも何種類もの薬を毎日飲まなければならない患者は、薬を飲み忘れるのではなく、飲みきれないのが実情でしょう。
患者の転院先では元の病院の処方が忠実に継続されます。転院後に患者が腰痛を訴えれば新たに鎮痛薬が処方され、また、すでに睡眠導入剤が処方されていても、まだ眠れないという訴えがあれば、別の薬が追加されるでしょう。こうして患者の薬は増えることはあっても、減ることはないの日本の医療の現状です。
多くの薬が処方されている患者に対しては、「たくさん薬が出ていますが、飲めていますか。飲みきれますか」と一声かけることをお勧めします。「多過ぎて、気分が悪くなって飲めない日がありますが、先生にはちゃんと飲んでいるといわないと申し訳ない気がして…」と、患者の口から本音が出てくることもあります。
そんな患者の声を受けて、「先月から新たに処方されている薬ですが、患者さんは飲むと気持ちが悪くなって、飲みきれないままになっているようです。変更、減薬などの検討をお願いします」と、医師に伝えることは薬剤師の重要な役割です。薬剤師の視点で得られた情報から主治医が気づきを得る可能性があります。
また、慢性疾患の患者は定期的に受診したら、多くの場合、同じ保険薬局に処方箋をもって行きます。患者の顔色や話しぶり、歩き方、しぐさなどを気にかけていると、ちょっとした変化に気づくこともあります。いつもと様子が違っていたら、「暑くなってきましたが、お変わりありませんか。お薬で困ったことはありませんか」と聞いてみてください。そのような言葉がけから患者との信頼関係を築くことが可能です。
医師との顔の見える関係づくり、患者との意思疎通を意識して日常業務にあたっていただきたいと思います。

カギを握るチームアプローチ

患者がどのような状態であっても、その人の生活と人生を支えるための医療がリハビリテーションです。もう一度口から食事ができるようにしようと、有志が集まって1994年に日本摂食嚥下リハビリテーション学会を設立しました。同学会は言語聴覚士、看護師、歯科医師、医師、栄養士、歯科衛生士、理学・作業療法士、介護福祉士など14,000人以上が会員になっています。毎年開催される学術大会には約6,000人が参加し活発な討論が繰り広げられます。
私たちは、小さな針孔に糸を通すように、患者が一口でも飲み込める可能性を見出すために多職種連携を大切にしています。実際、胃ろうを造設し数年間口から食事をしていない患者でも、チームアプローチによる摂食嚥下リハビリテーションで再び口から食べることができるようになった例は少なくありません。
◆第24回日本摂食嚥下リハビリテーション学会学術大会(大会長:出江紳一・東北大学大学院医工学研究科教授)が2018年9月8日、9日、仙台国際センターで開催されます。テーマは「摂食嚥下の地域リハビリテーション 集い、語り、動く」。

薬を飲みにくい患者の服薬方法は?

嚥下障害のある患者は服薬に不安があるとアドヒアランスが低下しやすくなります。そのため、薬剤師は患者の嚥下の状態に応じて服薬指導ができるようにつねに情報を収集しておくことが大切です。


嚥下時の問題

嚥下障害のある患者にとって、内服薬の嚥下には細心の注意を払う必要があります。錠剤やカプセルを服薬するとき、液体(水)だけが先に咽頭を通過し、固形物(内服薬)が口腔や咽頭に取り残されるというリスクがあるからです。口腔機能が低下しているとこうしたことが起こりやすく、特に口腔内が乾燥していると、舌や口蓋などの口腔粘膜に薬剤が付着するリスクが高まります。


服薬上の注意

● 服薬時の姿勢

通常、服薬する際、口腔内に水分を取り込むために頭部を後方に倒します。しかし、この姿勢では咽頭の動きが制限されるため嚥下が難しくなります。また、口腔と気管が一直線になって、誤嚥のリスクも高まります。
このような場合、縁(へり)の部分をカットしたノーズカットのコップが有効です。鼻がコップに当たらないので、頭部を後方に傾けずに液体を口に含むことができます。飲み口が広がった浅めの湯呑みでも代用できます。

● 水分の調整
嚥下障害があると液体自体が飲み込みにくいことが問題です。口腔から咽頭への通過スピードが速く、飲み込みの反応が遅れがちになるため、タイミングがずれやすくなります。後述するように、たとえばオブラートや補助ゼリーを使うことで、「水分で流し込む」のではなく、「滑りのいいもので包み込み、咽頭へ送り込む」ように意識します。
水分の調整の画像


服薬方法の工夫

嚥下障害の程度や薬効・適応を考慮し、検討することをお勧めします。

● 外用剤

内服薬と同じ薬効の貼付剤、坐剤、吸入剤があれば外用剤に変更することは比較的容易です。ただし、内服薬と外用剤とでは吸収速度や力価が異なり、坐剤や吸入剤は患者や家族が使用方法を習得する必要があります。

● 服薬回数の少ない/小さい薬剤

薬効が同じであれば、服薬回数が少ない薬や小粒の薬を選択することが可能です。服薬回数が1回少なくなるだけで、嚥下障害のある患者にとっては負担が軽減されます。また、錠剤が小さくなれば、嚥下しやすくなります。添付文書で必ず用法用量を確認することが大切です。

● ドライシロップ、OD錠

OD錠は口腔内ですぐに溶ける性質があるので、軽度の嚥下障害がある患者では有用です。一方、患者によっては、OD錠は咽頭に残留しやすいという報告もあるため注意が必要です。重度の嚥下障害がある患者では、口腔や咽頭に付着するリスクがあります。ドライシロップで対応できる場合もあります。

● 薬剤の粉砕

錠剤を粉砕したり、カプセル剤を開封する方法もありますが、その製剤の特徴を知っておくべきでしょう。薬剤名の末尾がCRやLの徐放剤は、粉砕すると徐放効果が失われ、血中濃度が急激に上がることがあります。簡易懸濁法で錠剤を崩壊・懸濁させて、とろみをつけて内服する方法もあります。

● 水オブラート法

軽度の嚥下障害のある人には、錠剤、カプセル剤、粉剤をオブラートに包み込んで咽頭に送る服薬方法を試してみるのも一法です。味のマスクもできます。手順は、①オブラートの中央に薬を乗せる、②オブラートの端を寄せて薬を包み、スプーンに乗せる、③スプーンに乗せたまま少量の水を張った皿にオブラートを浸す、④オブラートがゼリー状になったらつるりと飲み込むように服薬する(水気はできるだけ切る)。

● 嚥下補助ゼリー

薬剤をゼリーで包み込んで飲み下す嚥下補助ゼリーは、滑りのよさだけでなく、苦みを遮断するマスキング効果があります。さまざまな味の嚥下補助ゼリーが市販されています。

参考文献:谷口洋編 「嚥下障害、診られますか?」 羊土社. 2015

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