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特集

不眠と睡眠薬の疑問にこたえる~情報過多による不眠症の誤解を解くために~

2018年4月号
不眠と睡眠薬の疑問にこたえる~情報過多による不眠症の誤解を解くために~

睡眠障害の1つで罹患率の高い不眠症。生活習慣が大きく影響する身近な病気ですが、睡眠薬への依存、認知症との関係などに関する情報が錯綜しています。不眠症の病態や治療の誤解が予後を不良にし、心疾患などのリスクを高めることにもなります。国の「健康づくりのための睡眠指針の改定に関する検討会」座長で、日本大学医学部精神医学系主任教授の内山真氏に不眠症と睡眠薬の疑問にこたえてもらいました。

Ⅰ 不眠症の誤解を解く

不眠と睡眠薬の疑問にこたえるの画像

古くて新しい病気、不眠症

不眠症は現代病なのでしょうか。文明が栄え、産業技術が発展し、ストレスフルな現代社会特有の病気ととらえられがちですが、昔の人は現代人以上に夜間にストレスを感じていました。自然の脅威にさらされ、肉食獣に襲われる危険を感じ、野生動物による農作物の被害を心配し、盗賊の略奪におびえ、およそ現代人より緊張を強いられるストレスを感じていたのです。睡眠で疲れを癒すという考え方が一般的になったのは18世紀の産業革命の後のことです。
厚生労働省の「国民健康・栄養調査」の結果から、20歳以上の19.7%が「ここ1カ月間、睡眠で休養が十分にとれていない」ことが明らかになりました(図1)。2014年に発表された全国の成人2,559名を対象に実施した調査によると、週に3回以上、寝つくのが困難な人は7.2%、夜中に目が覚めてしまう人は15.2%、朝早く目が覚めてしまう人は5.2%であり、いずれかの問題がある人、つまり睡眠がうまくとれない不眠の人は18.8%でした。これは、わが国における以前の調査や他の先進国における調査ともほぼ一致し、成人の約5人に1人が不眠であることが確認されました。こうした調査から、不眠を感じている人は推計で1,500万〜2,000万人いることになります。別の調査では睡眠薬を使用している人が成人の4〜5%と、約400万人にのぼることがわかりました※。こうした不眠の背景には、人口の高齢化、ライフスタイルの多様化、“24時間社会”における生活リズムの乱れ、ストレスなどの原因が考えられています。

図1 平成28年国民健康・栄養調査の結果 睡眠の状況

平成28年国民健康・栄養調査の結果 睡眠の状況の画像
  • 「睡眠で休養が十分にとれていない者」とは、睡眠で休養が「あまりとれていない」又は「まったくとれていない」と回答した者。
  • 年齢調整した、睡眠で休養が十分にとれていない者の割合(総数)は、平成21年で19.4%、平成24年で16.3%、平成26年で21.7%、平成28年で20.9%であり、平成21年、24年、26年、28年の推移でみると、有意に増加している。

平成28年国民健康・栄養調査結果の概要

不眠と睡眠薬の疑問にこたえるの画像

加齢とともに変わる適正な睡眠時間

私たちの体には、夜になると自然に眠たくなる体内時計のしくみが備わっています。また、脳内に眠気を誘う物質が蓄積して眠りを引き起こすことが知られており、その後の研究で最も有力な睡眠物質としてプロスタグランジンD2が発見されました。起きている時間に比例してプロスタグランジンD2は増えていきます。アフリカ睡眠病という風土病は、文字どおり眠り続けてこん睡状態になり死に至る病気です。ハエの寄生虫トリパノソーマが引き起こす感染症で、トリパノソーマが脳でプロスタグランジンD2を大量に産生させることが原因と考えられています。
それでは、私たちが眠くなったとき、脳の神経回路はどのようになっているのでしょう。プロスタグランジンD2が増えると、脳の膜上にある受容体が感知し、睡眠不足の情報はアデノシン神経系から、睡眠を引き起こす視床下部のGABA神経系に伝達されます。GABAは、さらに奥にある結節乳頭体のヒスタミン覚醒系を抑制します。その結果、眠くなります。睡眠には、筋肉を休ませるレム睡眠と脳を休ませるノンレム睡眠があります。ヒトでは一晩の睡眠の約8割をノンレム睡眠が、約2割をレム睡眠が占めます。ノンレム睡眠はまどろみ期、軽睡眠期、深睡眠期の3段階に分けられます。眠りにつくとまずまどろみ期から軽睡眠期に入り、眠りはだんだん深くなって深睡眠期に移行します。しばらくすると眠りは浅くなってレム睡眠が現れます。ノンレム睡眠とレム睡眠は90~120分程度の周期で繰り返します。
ノンレム睡眠の深い眠りの間に体内では重要な変化が起こっています。子どもの成長を促したり、体の修復に関わったりする成長ホルモンは、ノンレム睡眠中に最も活発に分泌されることがわかっています。また、細菌やウイルスなどの異物が体内に入ると免疫応答が起こって、インターロイキンがノンレム睡眠を誘発します。風邪をひいたときなどに眠くなるのは免疫関連物質が関与しているからです。
ところで、至適な睡眠時間はどれぐらいでしょうか。8時間睡眠を金科玉条のように考えている人はまだ多いようです。実は、8時間という数字に明確な根拠はなく、睡眠時間は発達・加齢とともに短くなっていきます。正味の夜間睡眠時間を年齢別にみると、10歳代前半までは8時間程度、25歳で約7時間、45歳で約6.5時間、65歳で約6時間です(図2)。

図2 年齢別睡眠時間

年齢別睡眠時間の画像

Ohayon M.M. et al, Sleep, 27(7), 1255-1273, 2004

OECDが公表している各国の一日当たりの平均睡眠時間は、フランスが8.50時間で最も長く、次に長いのが米国の8.38時間、以下、スペイン8.34時間、ニュージーランド8.33時間と続き、日本は7.50時間で17位となっています。日本人は睡眠不足であると言われがちですが、これは1日の中でベッドの上で過ごす時間であり、実質的な睡眠時間ではありません。例えば、朝、ベッドの中で新聞を読んで過ごす欧米人は、日本人より床(ベッド)で過ごす時間が長くなり、生活スタイルや寝室環境の違いによる差が出やすくなっているのです。

不眠と睡眠薬の疑問にこたえるの画像

生活習慣のほころびから不眠の萌芽

不眠症は、医学的な診断基準では「睡眠に適した環境で、適切な時間帯に就床しても、寝つくのに時間がかかる入眠困難、いったん寝ついても夜中に目が覚めやすい睡眠維持困難(中途覚醒)、朝早く目が覚めてしまう早朝覚醒などよく眠るのが困難であるという訴えがあり、そのため日中に苦痛を感じ、社会生活、職業面や学業面での問題がある。こうしたことが、週に3回以上起こるのが、1カ月以上続くこと」と定義されます。つまり、寝室の環境が悪いわけではないのに睡眠が困難な状態を不眠、これによって日中に生活の質の低下が一定期間続いてみられる状態を不眠症と呼んでいます。
医学的な治療特異的脳血管障害などの脳の疾患、うつ病、不安障害などの精神疾患などがあり、原因となっている疾患や症状を治療することで不眠の改善が期待できます。
原因疾患がない場合は、日常のストレスのほか、誤解にもとづく睡眠習慣が関係しています。心配事やストレスがあると目がさえてしまい寝つきが悪くなります。さらに眠れるかどうかが一番の心配になってくると、そのために目がさえてしまい慢性的不眠になります(不眠恐怖症)。私たちは、毎晩一定時刻になると体内時計により身体が休息態勢になり、そうなると眠気を感じ、就床して眠りに入ります。次の朝が早いからなどの事情で、眠たくないのに早く就床しても寝つけません。長く眠りたいからと、年齢に相応な睡眠時間を大きく超えて寝床で長く過ごすようになると、夜中に目覚める回数が増え、よく眠った感覚が得られなくなります。
睡眠時間と生活習慣病は密接に関係しています。睡眠時間が極端に短くなると、食欲を増やすホルモンであるグレリンの分泌が増加し、満腹感をもたらすレプチンの分泌が減少します。つまり、食欲が増し、食べても満腹感が得られにくい状態になるのです。
極端な睡眠不足になったり、睡眠の質が低下したりするとインスリンの働きが悪くなり、健康な人でも食後の血糖値が高くなってきます。また、深い眠りは副交感神経を優位にしますが、眠りが浅く短いと交感神経が優位になり血圧が下がりにくくなります。不眠→肥満→血糖コントロールの悪化→早朝血圧の上昇→不眠という悪循環が生じ、心血管イベントのリスクが上昇します。
一般住民に対する疫学調査では、6時間未満の極端に短い睡眠時間と同様に、8時間を超えた長い睡眠時間も高血圧や糖尿病のリスクになることが明らかになっています。結局、睡眠時間は6時間台ないし7時間台のほどほどが一番良いということになります。

Ⅱ 睡眠薬への不安をなくす

不眠症治療の最終的なゴールは、眠れないのではないかという不安を解消し、よく眠れないことで損なわれた日中の生活の質を取り戻すことです。以前は睡眠薬の選択が最も重要とされていましたが、現在の不眠症治療では、睡眠についての生活指導と薬物療法うまく組み合わせて行うことがより重要と考えられています(図3)。こうした治療パッケージにおいて、服薬指導は何にもまして重要です。患者さんの睡眠薬に対する不安や誤解をなくすための服薬指導についてQ&Aでこたえます。

図3 不眠症の治療アルゴリズム

年齢別睡眠時間の画像

厚生労働科学研究班・日本睡眠学会ワーキンググループ
睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン2013をもとに作成

Q1

主な睡眠薬の特徴と投薬開始時期、投薬期間、休薬について教えてください。

現在、国内で主に使われている睡眠薬はベンゾジアゼピン受容体作動薬(非ベンゾジアゼピン系薬も含む)、メラトニン受容体作動薬、オレキシン受容体拮抗薬の3種類です。
ベンゾジアゼピン受容体作動薬は、副作用が強く安全性に問題があったバルビツール酸系睡眠薬に代わって、不眠症の薬物治療の主流となっています。ベンゾジアゼピン受容体作動薬は、ジアゼピン骨格の有無でベンゾジアゼピン系と非ベンゾジアゼピン系に分類されますが、どちらもベンゾジアゼピン受容体に作用します。非ベンゾジアゼピン系睡眠薬はベンゾジアゼピン系睡眠薬に比べて筋弛緩作用による転倒などの副作用が少ないという特徴があります。
メラトニン受容体作動薬は、脳内のメラトニン受容体に作用し、体内時計を介して全身を夜の休息状態にする薬です。手足からの放熱を促して体の内部の体温を下げ眠りにつきやすい状態にします。オレキシン受容体拮抗薬は、脳の覚醒保持に関わるシステムを抑制することによって、覚醒から睡眠に切り替わるのを促し、睡眠を安定させます。
不眠のために苦痛を感じ、社会生活に支障が生じる場合には睡眠薬の処方が検討されますが、不眠の背景にある生活習慣を是正しなければ薬物治療を開始しても十分な効果は期待できません。患者さんには、ただ就眠前というような漠然とした指示でなく、服薬時刻、就床時刻、起床時刻を具体的に指導することが重要です。特に、極端に早い時刻から眠ろうとしている場合は睡眠をとるタイミングを遅くし、就床から起床までの時間は7時間以内に設定し、起床時刻をきちんと守るようにすることが大事です。どのような睡眠薬を用いても、習慣的入眠時刻から2〜3時間前にスムースに入眠を誘うことは困難です。また、健康成人の平均睡眠時間である7時間を超えて毎晩眠ることは睡眠薬を使っても困難であり、多量に使用すれば起床困難や日中の不調感につながります。米国の研究で、多量の睡眠薬を長期にわたって使用している患者さんでは、生活指導や服薬指導がなされずに、ただ薬のみが投与されていたことが特徴だったと報告されています。投薬期間が長くなるのは、こうした薬物以外の指導に関連することがわかってきています。

Q2

睡眠薬を服用していると認知症になるのではないかと心配する患者さんは少なくありません。睡眠薬と認知症の関係はどこまでわかっているのでしょうか。

睡眠薬で認知症になるという誤解は、ベンゾジアゼピン受容体作動薬の副作用で一時的に記憶障害を起こすことがあるためと考えられます。記憶障害があっても、その原因が認知症とは限りません。脳の神経細胞が老化によって病的に減少して起こるのが認知症です。睡眠薬が、脳神経細胞にダメージを与えて細胞が減少するということはなく、睡眠薬の副作用で認知症になったり、睡眠薬の使用で認知症のリスクが高まったりするというエビデンスはありません。ただし、ベンゾジアゼピン系睡眠薬は、脳内のGABAの働きを強めて脳の活動を抑えることで効果を発揮します。薬が作用している間は、物事を記憶したり判断したりする認知機能は低下します。こうした現象は、薬の効果が弱まれば改善していきます。睡眠薬の長期使用によって、不可逆的な認知機能低下が起こるかについては、明らかになっていません。
アルツハイマー病では、脳にアミロイドβが溜まって老人斑が現れます。最近、脳内のアミロイドβは、夜間睡眠中に排泄され若干低下すると言うことが報告され、このため睡眠不足や不眠などの睡眠障害になると、夜間の脳内のアミロイドβの排泄が悪くなってアルツハイマー病の危険が増すのではないかという仮説が示されています。しかし、これと病的なアミロイドβの蓄積とは大きな差があります。睡眠不足で認知症になってしまうのではないかという患者さんの質問には、特に高齢者では心配ないと答えてあげることが重要と思います。
睡眠薬と認知症の関係について各国で研究が行われていますが、米国で行われた前向きコホート研究でベンゾジアゼピンの使用と認知症の間に直接の因果関係はないことが示唆されました。(米Washington大学のShelly L Gray氏らの研究。2016年2月2日、BMJ電子版)
国内では、国立精神・神経医療研究センターがアルツハイマー病になりやすい素因を持っている人を対象に行った研究で、アルツハイマー病の人とアルツハイマー病でない人とを比較すると、1時間以下の昼寝の習慣がある人はアルツハイマー病にかかりにくかったことが明らかになっています。

Q3

内服で処方されている睡眠薬を頓用する患者さんがいます。睡眠薬の頓用の是非、メリットとデメリットを教えてください。

心配事や嫌なことがあったときや、特定の場所や環境でストレスを受けたときなど、不眠の原因がはっきりしている場合は、睡眠薬の頓用が効果的なこともあります。床に入ってもなかなか寝つけない場合や、寝ついても目が覚めてしまった場合に遅い時刻に頓用すると、翌日に眠気が残ったり、頭の働きが鈍ったり、ふらついたりする「持ち越し効果」が現れることもあるので注意が必要です。
適切用量で、先に述べた様なきちんとした服薬指導の元で使用している場合、非ベンゾジアゼピン系睡眠薬、メラトニン受容体作動薬、オレキシン受容体拮抗薬は、耐性が生じたりするリスクが少ないためきちんと毎晩服用することが大切です。安定したら減量することができます。頓用は薬剤の減量を確実に進めて、最終段階で慎重に行うことが大切です。
薬物の減量は、眠れないという不安が解消してきてから徐々に始めることが重要で、しばしば薬物を用いて生理的な睡眠時間を超えて眠る癖がついている場合も多いため、減量する場合は就床時刻から起床時刻までの時間を確認し、健康な人の標準的睡眠時間である7時間未満程度に適正化しながら行うことが重要です。充分に減量ができたら、服薬しない晩を設けることになりますが、最初は休日の前日に就床時刻を気にせず、眠たくなってから床に就くように指導し、自信をつけてもらうのが第一歩です。

Q4

睡眠薬の長期服用の依存性、または効果の減弱を心配する患者さんにはどのように服薬指導したらよいでしょうか。

睡眠薬を一度使い始めると、依存症になって止められなくなるのではないかと心配する患者さんは多いですが、現在使われている睡眠薬の多くは、適正な用量での使用において強い依存性はありません。服用を始めてすぐに止められなくなるようなことはありません。ただし、自己判断で急に止めると、不眠が悪化することがあります。また、自己判断で高用量を長期間服用すると依存のリスクを上昇させる可能性があるので避けたほうがよいでしょう。ベンゾジアゼピン受容体作動薬もメラトニン受容体作動薬もオレキシン受容体拮抗薬も、単独で使用する分には命に関わるような危険はありません。
ベンゾジアゼピン受容体作動薬は、多くの患者さんに処方されていますが、通常用量を使っている限り依存性の問題は起こらないと考えてよいでしょう。日本では睡眠薬=依存という発想がまだ根強く残っているようですが、患者さんには最近の睡眠薬は毒性が低く、処方どおりに使っていれば依存性の心配はいらないことをわかりやすく説明することが大切です。
睡眠薬の長期使用で効果が弱くなってきたという患者さんがいらっしゃいますが、多くの場合、少し睡眠薬が効くことが分かると、もっと眠ろうとより早くに服用をするようになったり、より長く寝床で過ごすようになったりするため、見かけ上薬物が効かなくなったように見えることが多いのです。23時半に睡眠薬を服用して24時までには入眠し、6時半まで眠れていた患者さんが、もっと眠ろうと21時半頃に睡眠薬を服用して、22時には眠ろうとする場合がありますが、なかなか眠れないのが普通です。慣れてしまって入眠に2時間かかるようになったという訴えの背景に、こうした間違った生活習慣がある場合が多いのです。睡眠薬を服用する時刻、30分以内に床に就く時刻、朝は目覚まし時計を使うなどして、必ず決まった時刻に起床するように指導してください。

Q5

不眠のタイプ(入眠困難、中途覚醒、早朝覚醒、熟眠障害)にあった睡眠薬の処方と睡眠薬の併用について教えてください。

ベンゾジアゼピン受容体作動薬の処方では、患者さんの不眠の症状に応じ、作用時間を基準にして睡眠薬を選択します。ベンゾジアゼピン系睡眠薬は作用時間の長さによって4つのタイプに分かれます(図4)。超短時間型は効果が3~4時間持続し、睡眠の入りをよくします。短時間型は効果が5~6時間持続し、これも睡眠の入りをよくしてスムースな睡眠を促します。中時間型は効果が7時間ないし8時間で、寝つきは良くても途中で目が覚めてしまう場合に適しています。最近は、通常の不眠症の場合には、目標となる適切な時間を健康成人の平均である7時間程度に設定するようになってきており、こうした生活指導や服薬指導の下ではせいぜい短時間作用型までで事足りるようになっています。

図4 不眠のタイプと推奨される薬剤
不眠のタイプ 推奨される薬剤
入眠困難 超短時間作用型(ゾルピデム、エスゾピクロン、ゾピクロン)
短時間作用型(ブロチゾラム、ロルメタゼパム)ラメルテオン
中途覚醒、早期覚醒 中時間作用型(ニトラゼパム、
フルニトラゼパム、エスタゾラム)
長時間作用型(クアゼパム)
スボレキサント
ベンゾジアゼピン
受容体
作動薬無効例
睡眠作用の強い抗うつ薬
(ミアンセリン、ミルタザピン、トラゾドン)
少量の抗精神病薬
(クエチアピン、レボメプロマジン)

今日の治療薬 2018をもとに作成

夜の習慣的入眠時刻が近づくと、体内時計は脳の松果体からメラトニンを放出させるとともに全身に指令を送って眠るための休息態勢を整えます。メラトニン受容体作動薬は脳内のメラトニン受容体に作用し、体内時計を介して全身を夜の休息状態にする薬です。重大な副作用、耐性や依存性もなく安全性が高いのが特徴です。
 神経ペプチドの一種であるオレキシンは覚醒に関係している物質です。オレキシンが欠乏すると脳は覚醒を維持できなくなり眠くなります。睡眠障害の1つであるナルコレプシーは、オレキシンの欠乏が原因でおこると考えられています。オレキシン受容体拮抗薬は、オレキシンの働きをブロックすることで覚醒保持脳の覚醒保持システムを抑制し、覚醒から睡眠に切り替えを助け、睡眠を安定させます。
3種類の睡眠薬はそれぞれ作用機序が異なるため、効力を一様に比較することはできませんが、目安として次のように理解することができます。
薬物としての作用は、ベンゾジアゼピン受容体作動薬>オレキシン受容体拮抗薬>メラトニン受容体作動薬の順に強く、安全性はメラトニン受容体作動薬>オレキシン受容体拮抗薬>ベンゾジアゼピン受容体作動薬の順に高いといえるでしょう。こうした特徴を踏まえると、第一選択薬にはより安全なメラトニン受容体作動薬、オレキシン受容体拮抗薬が使われそうですが、これらは効果が不十分であったり、使用経験が少なかったりすることから、非ベンゾジアゼピン系睡眠薬が主流になっています。いずれの薬物を用いる場合にも、効果的治療には適切な睡眠習慣の指導と具体的な服薬指導が重要です。

Q6

アルコールの摂取後、どれくらい経過したら睡眠薬を服用しても良いですか。

国内で行われた大規模調査の解析から、男性はおよそ2人に1人、女性はおよそ5人に1人が眠るために週1回以上アルコールを摂取しており、寝酒の習慣がある人では中途覚醒が多いことがわかりました。酒を飲まないと眠れず、飲んでも眠れないという状態で、さらに睡眠薬を服用するのはたいへん危険です。
寝酒で寝つきがよくなっても、アルコールは急速に分解され、脳の活動を抑える作用が2、3時間で消失し、反動で後半の睡眠が浅くなります。また、アルコールの作用で筋緊張が和らげられ、舌が喉の奥に落ち込んで、呼吸がしにくくなるため睡眠時無呼吸症候群を起こしやすくなります。さらに、多量のアルコールを摂取すると、ノンレム睡眠の時間が増え、レム睡眠の時間が減ります。しかし、寝酒が習慣になると抑えられたレム睡眠に対抗する力が生じ、飲酒の中断が引き金になり、反発的にレム睡眠の時間が増えて悪夢を見たりします。
ベンゾジアゼピン系睡眠薬をアルコールと一緒に服用すると、相互作用によって睡眠薬の作用が増強されます。そのため、寝る前や覚醒したときの記憶がなくなったり、意識障害、転倒などの副作用が発現したりするリスクが高まります。また、睡眠薬やアルコールに対する耐性や依存性が形成されやすくなります。アルコールとの同時服用はもちろんのこと、体内にアルコールが残っている間(1合までなら3時間)は睡眠薬の服用は控えるべきでしょう。アルコールは命に危険を及ぼす“睡眠薬”であり、特にベンゾジアゼピン受容体作動薬とアルコールの併用は禁忌です。

Q7

薬物治療以外で不眠症に効果のある治療法はありますか。また、不眠に効果のあるサプリメントがありますが、安全性などは問題ありませんか。

薬物を使用しない不眠症治療で効果があるのは、認知行動療法です。認知行動療法には刺激制御法と睡眠制限法などがあります(図3)。
不眠に悩む人の多くは眠れるかどうかが心配なため、眠くなくても早く床に就く、つまり眠りの準備が整う前に寝床に就くという習慣がついてしまいます。寝床に就くことで、また眠れなかったらどうしようという恐怖感や不安がかえって増してしまうということもよく見られます。刺激制御法では、眠くなってから寝床に入ることを原則とします。眠くなければ寝室にいかないということも効果的です。起床する時刻は休日も含めて一定に保つようにします。起床時刻が一定してくると、入眠時刻も安定してきます。寝床に就いても眠れないで苦しい時は、いったん寝床から離れ、寝室から出ましょう。それ以上悩み続けると、頭が冴え、そのためにさらに寝つきを妨げるからです。灯りを点けてテレビをみたり、ラジオを聴いたりしてみましょう。心地よい音楽を聴くのもいいでしょう。眠れないことをできるだけ意識せず、ゆったりとくつろぎ、眠くなったら寝室に戻り寝床に就きます。
不眠を経験すると眠りを確保しなければという思いに駆られて、寝床の中で長く過ごすようになりがちです。しかし、寝床に就いている時間と身体と脳が要求する睡眠時間とのギャップが大きくなると、睡眠が浅くなり中途覚醒が増えてきます。さらに熟睡感を減らします。長く寝床に入っているのに熟睡感がなかったり、眠りが浅かったり、夜中に目が覚めるということを経験している人は、就床時刻から起床時刻まで7時間以下をめどに適正化します。うまく行うことができれば、中途覚醒に対しては、薬物よりもずっと効果がある方法です。
不眠に対する効果を謳うサプリメントには、睡眠アミノ酸グリシン、L-カルニチンなどの機能性表示食品があります。催眠作用はほとんどなく、リラックスすることが寝つきに若干プラス効果になるといった程度でしょう。使ってみて自分が心地よいと感じなければリラックス効果は得られません。これらのサプリメントは、高いエビデンスレベルの臨床試験で有効性が検証されたものはごく少なく、安全性の検証もほとんど行われていないため、「睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン」はサプリメントを不眠症の治療に用いることは推奨していません。

※女性心身医学Vo.119:103-109.2014.

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