長期の喫煙などによって生じ「タバコ病」とも言える慢性閉塞性肺疾患(COPD)。男性では死因の上位であり、早期発見や増悪の予防が重要であるにもかかわらず、疾患名の認知度もいまだ低く、潜在患者が多い疾患でもあります。COPD発見のポイント、増悪予防のための生活指導や薬物療法、気管支拡張薬の吸入指導の現状や今後の課題について、日本大学医学部附属板橋病院 呼吸器内科 部長 權寧博氏と同病院 薬剤部長 大塚進氏にお話を伺いました。
男性の死因上位 しかし認知度は低い
慢性閉塞性肺疾患(Chronic Obstructive Pulmonary Disease:COPD)は、主にタバコの煙などの有害物質に長期に曝露することによって起こる慢性の呼吸器疾患で、慢性的な気管支炎や肺胞の破壊による肺気腫が複合的に関与している進行性の疾患です。2019年の人口動態統計によると、COPDの死亡総数は17,836名(男性14,822名、女性3,014名)で、男性では死因の第8位となっています。
一方で、COPDは、認知度が25%程度と、一般的にあまり認知されていない疾患とも言えます。「健康日本21(第二次)」では2013年度からの10年間でCOPDの認知度を80%にすることが目標に掲げられ、「肺年齢」などのキーワードを用いた啓発活動やCM放映なども行われてきましたが、一時的に認知度が上がっても、その維持や向上には至っていない状況です。
COPDの罹患者数は現在500万人超と推定されていますが、実際に治療を受けているのはそのうち数十万人程度です。COPDになると肺機能が年々低下していきます。増悪をきたした場合には肺機能の低下がさらに加速し呼吸不全に至ります。進行した状態で診断されてもその時点からは肺機能が十分に戻ることはないため、COPDを早期に発見して治療につなげ、呼吸機能を改善して増悪を予防するような適切な管理を行っていくことが必要です。
咳、痰、労作時の息切れ 喘息との鑑別や合併にも注意
COPDを疑う初期の症状は、咳、痰などであり、徐々に労作時の息切れがみられるようになります。しかし、慢性的な症状で「歳のせいだ」などと認識してしまい、早い段階ではご自身の病的な息切れに気づいていない患者さんもいます。また、息切れを感じたことによって遠方への外出を控えたり、運動をしなくなる、家の中で座りがちの生活をするなど、日常生活に制限をかけた結果、かえって労作時の息切れを感じにくくなってしまい、COPDの発見が遅れることもあります。
COPDは、まず喫煙者あるいは喫煙経験者で疑われます。完全には正常化しない気流閉塞がCOPD診断の必須条件で、スパイロメトリーと呼ばれる呼吸機能検査で確認します(FEV1/FVC〔1秒量を努力肺活量で割った割合〕が70%未満の場合、閉塞性換気障害とされます)。ただし、呼吸機能検査は血液検査などのようなルーチンの検査ではないがゆえにCOPDが発見されにくいことは否めません。特に、このコロナ禍で呼吸機能検査を積極的に実施しにくい状況が続き、暫定的な診断で治療を開始しているケースも中にはあります。
他疾患との鑑別においては、同じく気流閉塞により閉塞性換気障害をきたす喘息との鑑別が重要です(表1)。ただし、喘息であっても罹患が長期にわたると肺機能が回復しにくくなり鑑別困難なケースもあります。また、長期の喫煙によってCOPDを発症する喘息患者さんも見受けられます。
COPD | 喘息 | |
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患者の年齢 | 中高年 | 全年齢層 |
要因 | 喫煙、大気汚染 | アレルギー、感染 |
症状の変化 | 進行性、労作性 | 変動性、発作性 |
気流閉塞の状態 | 不可逆性 | 可逆性 |
アレルギー性鼻炎 | 少ない | 2/3でみられる |
アトピー素因 | 通常はない | あり |
權氏の話をもとに編集部作成
喘息とCOPDのオーバーラップについてはACO(Asthma and COPD Overlap)という概念があり、COPD、喘息、ACOはそれぞれ異なる視点で薬剤を選択していくことが提唱されています。COPDに関しては「COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン2018[第5版]」、ACOについては「喘息とCOPDのオーバーラップ 診断と治療の手引き2018」がそれぞれ日本呼吸器学会から刊行されています。
何よりも重要なのは禁煙 感染予防、身体活動性の向上も
COPDと診断された場合、何よりも重要なのは禁煙です。喫煙を続ける限りCOPDの症状は進行すると考えてよいと思います。また、日常生活での指導内容として、禁煙のほかに感染予防対策や身体活動性の向上と維持があります(表2)。
日常生活での指導 |
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薬物療法〈重症度に応じた気管支拡張薬の使用〉 |
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SAMA:短時間作用性抗コリン薬、SABA:短時間作用性β2刺激薬、LAMA:長時間作用性抗コリン薬、LABA:長時間作用性β2刺激薬、ICS:吸入ステロイド薬
COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン2018[第5版]より編集部作成
禁煙
COPDの最大のリスクファクターである喫煙は、当然やめるべきです。非燃焼式のものや加熱式タバコ、電子タバコももちろん推奨はされません。COPDの患者さんに対する禁煙指導は必須です。禁煙が困難なCOPDの患者さんに禁煙外来を紹介することもあります。近年は喫煙環境の規制などにより喫煙人口が減り続けていますので、それがCOPDの患者数を減らす可能性はあります。
感染予防とワクチン接種
増悪をきたさないためには入念に感染予防を実施していただく必要があります。インフルエンザワクチンの接種はCOPDの増悪頻度と死亡率を大幅に低下させます。また、インフルエンザワクチンに肺炎球菌ワクチンを併用することで、感染性の増悪を有意に予防するとされています。COPDの患者さんにはこれらのワクチンの接種が推奨されています。もちろん、新型コロナウイルスへの感染もできる限り回避すべきでしょう。
身体活動性の向上と維持
息切れや咳があるために、自主的に行動範囲を制限される患者さんがいますが、重症度を把握した上で、屋外に散歩に出かけるなどの身体活動性を向上させる指導も行います。
COPDでは運動量の増加にともなって息切れが生じますが、症状は日内や季節ごとで大きな変動がありません。そのため、喘息の患者さんのように、症状の変化とその時の対応について日誌などをつけていただくことはあまりありませんが、COPDの患者さんでは歩数計で何歩歩いたかなど、身体活動性を記録していただくようにしています。
気管支拡張薬が基本 重症度に応じ単剤から配合薬へ
COPDの薬物療法は、症状の発現度合いが比較的安定している安定期と、息切れや咳の増加や胸部不快感などをきたす増悪期の2つに分けて考えます。
安定期は、いずれの重症度の患者さんでも治療薬の中心は気管支拡張薬です。ごく軽度のCOPDでは、労作時などに短時間作用性抗コリン薬(SAMA)や短時間作用性β2刺激薬(SABA)を使用します。
一方、ごく軽度以外の「軽症」と言えるレベル以上の重症度の場合には、基本的に長時間作用性抗コリン薬(LAMA)や長時間作用性β2刺激薬(LABA)を用います。また、明確な基準はありませんが、重症度が高まった患者さんでは、LAMAまたはLABAの単剤治療からLAMAとLABAの配合薬へと切…