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特集

アトピー性皮膚炎の急増する治療選択肢を正しく理解する

2021年3月号
アトピー性皮膚炎の急増する治療選択肢を正しく理解する

近年、アトピー性皮膚炎は薬剤の開発で盛り上がっています。長らくステロイドやタクロリムスの外用が治療の中心でしたが、2018年に、約10年ぶりのアトピー性皮膚炎の新薬として抗体医薬のデュピルマブが登場しました。2020年には、約20年ぶりの外用薬の新薬、デルゴシチニブが発売され、その活躍に期待が寄せられています。さらに新規の経口薬も続々開発されてきています。デルゴシチニブを開発された、京都大学大学院医学研究科・医学部皮膚科学講座 教授の椛島 健治氏にお話を伺いました。

薬物療法で速やかに症状を寛解させる

日本皮膚科学会のアトピー性皮膚炎診療ガイドライン2018(以下、ガイドライン)では、アトピー性皮膚炎の治療目標は「症状がないか、あっても軽微で日常生活に支障がなく、薬物療法もあまり必要としない状態に到達し、その状態を維持すること」とされています。
残念ながらアトピー性皮膚炎を根治する薬剤はありませんが、適切な薬物療法で皮疹が安定した状態が維持できれば、寛解も期待できます。そのために、まずは速やかに症状を寛解状態へ導くことが重要です。アトピー性皮膚炎を寛解させる薬剤としては、ステロイド外用薬またはタクロリムス軟膏が推奨されています。

ステロイド外用薬

ステロイド外用薬は、製剤ごとのランク(表1)を把握し、皮疹の重症度に応じた適切なランクの薬剤を選択することが重要です。たとえば、ステロイド外用薬の吸収率は、前腕伸側を1とした場合、頬は13.0、頭部は3.5、頸部は6.0、陰囊は42に値します。こうした吸収率が高い部位では、局所の副作用に注意して、長期間の連用を避ける、顔は原則ミディアムクラス以下を使用する、といったランク選択が必要です。
また、剤型を使い分けることも重要です。乾燥状態がベースにあるアトピー性皮膚炎では、ステロイドの剤形は軟膏が基本です。ただし、夏場には使用感を優先してクリームやローション、頭の病変にはローション、赤く盛り上がる痒疹や肥厚した苔癬化皮疹にはテープといった具合に、季節や部位により剤形を変更することが効果的な場面もあります。

表1 ステロイド外用薬の分類
分類 一般名 商品名
ストロンゲスト クロベタゾールプロピオン酸エステル デルモベート®
ジフロラゾン酢酸エステル ジフラール®、ダイアコート®
ベリーストロング モメタゾンフランカルボン酸エステル フルメタ®
ベタメタゾン酪酸エステルプロピオン酸エステル アンテベート®
フルオシノニド トプシム®
ベタメタゾンジプロピオン酸エステル リンデロン®-DP
ジフルプレドナート マイザー®
アムシノニド ビスダーム®
ジフルコルトロン吉草酸エステル ネリゾナ®、テクスメテン®
酪酸プロピオン酸ヒドロコルチゾン パンデル®
ストロング デプロドンプロピオン酸エステル エクラー®
デキサメタゾンプロピオン酸エステル メサデルム®
デキサメタゾン吉草酸エステル ボアラ®
ベタメタゾン吉草酸エステル リンデロン-V®、ベトネベート®
フルオシノロンアセトニド フルコート®
ミディアム プレドニゾロン吉草酸エステル酢酸エステル リドメックス
トリアムシノロンアセトニド レダコート®
アルクロメタゾンプロピオン酸エステル アルメタ®
クロベタゾン酪酸エステル キンダベート®
ヒドロコルチゾン酪酸エステル ロコイド®
デキサメタゾン グリメサゾン®、オイラゾン
ウィーク プレドニゾロン プレドニゾロン

日本皮膚科学会編「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2018」より作成

タクロリムス軟膏

タクロリムス軟膏は、細胞内のカルシニューリンを阻害する薬剤であり、ステロイドとは異なった作用機序で炎症を抑制します。
タクロリムス軟膏の薬効は、薬剤の吸収度に依存するため、塗布部位やバリアの状態によって大きく影響を受けます。特に、顔面・頸部の皮疹に対して高い適応があります。また、副作用の懸念などからステロイド外用薬では治療が困難であったアトピー性皮膚炎の皮疹に対しても高い有効性を期待できます。
一方で、びらん、潰瘍がある箇所には使用できません。また、タクロリムス軟膏には、16歳以上に使用可能な0.1%軟膏と2~15歳の小児用の0.03%軟膏がありますが、2歳未満の小児には安全性が確立していないため使用できません。授乳中の婦人にも使用しません。

アトピー性皮膚炎の内服薬 あくまで補助療法の位置づけ

アトピー性皮膚炎の治療は外用薬が中心ですが、以下の内服薬も投与されています。

抗ヒスタミン薬

アトピー性皮膚炎は、数ある皮膚疾患の中でもかゆみが強いと言われています。QOLの低下、搔破行動による症状悪化、皮膚感染症や眼症状など合併症の誘因にもなり得ますので、かゆみのコントロールは重要です。
抗ヒスタミン薬は、アトピー性皮膚炎のそう痒に対して実臨床で多用されています。ただし、抗ヒスタミン薬は、抗炎症外用薬と保湿薬による外用療法に加える補助療法という位置づけになります。また、抗ヒスタミン薬のそう痒抑制効果は、アトピー性皮膚炎の重症度や病像などにより異なりますので、投与の開始後はそう痒に対する有効性をきちんと評価すべきです。

シクロスポリン

アトピー性皮膚炎におけるシクロスポリンの対象は「16歳以上で既存治療では十分な効果が得られない最重症患者」です。顔面の難治性紅斑や紅皮症などにも有効で、投与後すぐにかゆみが軽快するため、痒疹結節が多発し搔破の著しい患者さんのQOLの改善にも有用とされています。

ステロイド内服薬

アトピー性皮膚炎の急性増悪や重症・最重症の寛解導入に時に用いられることがありますが、全身性副作用の可能性を鑑みると一般的にはあまり推奨されません。

表2 アトピー性皮膚炎の内服薬のポイント
抗ヒスタミン薬
  • 各外用薬に併用する補助療法とする(単独投与は推奨されない)
  • 他の疾患同様、眠気やインペアードパフォーマンス、倦怠感などが少なく抗コリン作用のない非鎮静性抗ヒスタミン薬(いわゆる第二世代)が推奨される
シクロスポリン
  • 開始用量は3mg/kg/日、症状によっては漸増させるが、5mg/kg/日を超えないように調整
  • 投与中は、腎障害や高血圧、感染症などに注意し定期的に薬剤血中濃度(トラフ値)を測定
  • 8~12週間で終了。それ以前であっても症状が軽快した場合は速やかに一般的な外用治療に切り替える
  • 長期投与が必要な場合は2週間以上の休薬期間をはさむ間歇投与とする
ステロイド
内服薬
  • 全身性副作用の発現の可能性から、投与するとしても短期間

日本皮膚科学会編「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2018」より作成

重症のアトピー性皮膚炎にはデュピルマブの投与を考慮

2018年に登場した注射剤のデュピルマブ(デュピクセント®皮下注300mgシリンジ、デュピクセント®皮下注300mgペン)は、アトピー性皮膚炎の約10年ぶりの新薬で、アトピー性皮膚炎の治療薬としては初めての生物学的製剤です(表3)。

表3 デュピルマブの基本情報
適応
ステロイド外用薬などの既存治療で効果不十分なアトピー性皮膚炎(重症度は中等度以上)
用法・用量
初回に600mgを皮下投与、その後は1回300mgを2週間隔で皮下投与(2019年5月から自己注射が可能)
作用機序
IL-4、IL-13の働きを抑えることで炎症およびかゆみに対し改善効果を示すとされる

製品添付文書、インタビューフォームより作成

デュピルマブは、重症のアトピー性皮膚炎には非常に有効な治療薬です。私が診療を行う京都大学医学部附属病院では重症の患者さんを多く診療していますので、デュピルマブを投与している患者さんが多数おられます。一方で、デュピルマブは薬価の高さは否めません。3割負担では、最初の月に2回投与したとすると、最初の月が6万円程度、その後は4万円程度が毎月かかることになります。すべての重症の患者さんに使用できる薬剤ではありません。

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