Question
症例 市販の頭痛薬を買いに来局した 43歳女性 Aさん
長年、月に2~3回起こる頭痛に悩まされていたAさん。とくに頭の左側が痛く、動くとズキンズキンとかなり強く痛む。頭痛がするときは光もまぶしく嘔気もあるため、カーテンを閉めて静かに横になっていたい気分。頭痛がはじまったのは中学生の頃。半日程度で治まるが1日持続することもある。過労や寝不足のときに生じやすい。我慢できないときは薬局で買った頭痛薬を服用することもある。頭痛薬を飲むと楽になるような気がするので頭痛薬を買いたい。
はじめに 地域医療で求められる薬剤師の臨床判断
厚生労働省は約800万人とされる団塊世代が75歳以上になる2025年をめどに、住みなれた地域で自分らしい生活を続けられる地域包括ケアシステムの構築を推 進しています。その中で薬局薬剤師の果たすべき役割を考えると、来局者(患者)が何らかの症候を示すとき、どのように判断して行動するかが重要になってきます。
薬局は地域の身近な健康相談窓口として地域住民の健康回復、維持、向上に努めてきましたが、1990年 代後半から医薬分業が進み、2006年には医療法が改正され、「調剤を実施する保険薬局は医療提供施設」であることが明記されました。2006年の医療法改正は医薬分業が新たな第2ステージに進んだことを示し、薬局薬剤師には、今まで以上に責任ある判断と行動が期待されています。
すなわち第2ステージでは、心身の異常、症候を訴える来局者に対して適切なトリアージとセルフメディケーションの支援が求められています。さらに、在宅 訪問時には患者の病状把握と変化時の適切な対応が必要です。
病棟では、入院患者の症状を適切に聴取するととも にしっかり観察して、バイタルサインを含めたフィジカルアセスメントを行い、直ちに担当医、当直医を呼ぶべきか、経過を見るべきか、持ち合わせる知識と経験から判断します。これが「臨床判断」です。薬局薬剤師も医療提供施設のプロの医療人として、薬局窓口や在宅において同様な臨床判断による対応が求められています。
日本OTC医薬品協会は2011年にスイッチOTC薬候補として129品目をリストアップしましたが、その後、スイッチ化された医療用医薬品はわずかです。その理由の1つは、薬剤師が来局者の症状から適切に臨床判断できるかどうかわからないという医師の不安の声です。しかし、薬剤師が来局者の状態と望ましい対応を適切に判断できるようになれば、医師の不安も払拭されスイッチOTC薬も充実するでしょう。薬剤師の臨床判断が真の意味でのチーム医療を推進します。
プライマリ・ケア、在宅医療を担う薬剤師の次世代のスキル
来局者がしばしば訴える症候として発熱、頭痛、腹痛、呼吸困難・息切れ、咳、動悸、口渇、下痢、便秘、頻尿、排尿困難…などがありますが、臨床判断のためにはまず症候から疾患名を推測して、重症度や緊急性を判断します。
従来の薬学部教育・卒後教育が疾患単位の学習だったため、薬剤師にとっては疾患名から症状を思い浮かべることはできても、症候から病名を推測する(逆引きする)のは難しいようです。したがって臨床判断の最初のステップとして、症候から疾患名を推測する「症候学」を学習する必要があります。「頭が痛い」という訴えからその患者の疾患を推測するためには、頭痛をきたす疾患名をできるだけ多く思い浮かべ、症状に関連する情報(LQQTSFA、後述)から疾患を絞り込めるようにしておくことが大切です。自覚症状だけでなく、既往歴や受診歴、社会的な情報や家族の情報などを聞くことも大切です。
疾患を絞り込むときに重要なのが、「この病気に違いない」と決めつけず、複数疾患程度にまで絞り込むことです。疾患が絞り込めたら、来局者ごとに適切な対応方法を判断・選択して責任をもって実施します(図1)。カウンセリングや生活指導、OTC、受診勧奨、緊急連絡の中からいずれかを選択(トリアージ)します。
図1 症候を訴える来局者への薬剤師の対応
木内氏の話をもとに編集部作成
表1 薬剤師に求められる臨床判断能力
- 基本的な症候を示す疾患を系統的に理解する
- 来局者から情報を適切に収集し、疾患とその重症度などを 推測する
- 来局者ごとに適切な対応を判断・選択する
木内氏の話をもとに編集部作成
薬剤師に求められる臨床判断能力をまとめると、
①基本的な症候を示す疾患を系統的に理解する
②来局者から情報を適切に収集し、疾患とその重症度などを 推測する
③来局者ごとに適切な対応を判断・選択する
これらを責任もって実施することです。
現在の6年制薬学教育では、来局者から情報を適切に収集し疾患を推測、来局者ごとに適切な対応を判断して実施するための授業、ロールプレイ、薬局実習、病院実習などが行われています。また、健康サポート薬局に関する研修の中でも、薬剤師が臨床判断を学ぶカリキュラムが設けられており、私も臨床判断に関する研修を行っています。
臨床判断における医療面接の標準的な手順
臨床判断のための医療面接ではLQQTSFAの順に情報を収集します(図2)。さらに受診歴、既往歴やアレルギーの有無などを聞けば、疾患を推測するための 情報がかなり得られます。LQQTSFAによる医療面接手順は医療系学部教育(医学部、薬学部、歯学部、看護学部など)で学ぶ標準的な方法であり、薬学生でも ほぼ5分以内で聞き取ることができます。
図2 医療面接の標準的な手順
1. 自覚症状に関する質問の手順
LQQTSFAの順で症状について質問
- 部位 Location・・・どこが?
- 性状 Quality・・・どのように?
- 程度 Quantity・・・どのくらい?
- 時間と経過 Timing・・・いつ? いつから?
- 状況 Setting・・・どのような状況・きっかけで?
- 寛解・増悪因子 Factor・・・どんな場合に悪くなる?(良くなる?)
- 随伴症状 Associated manifestation・・・同時にどんな症状があるか?
2. 心理・社会的情報についての質問
- 心理・社会的状況・・・心理状態や日常生活(職場環境なども)の状況
- 解釈モデル・・・自分の病気や現状をどのように考えているか
- 医師の診断
3. 過去の情報についての質問
- 既往歴、服薬歴、アレルギー歴 etc.
木内氏の資料を参考に編集部作成
頭痛の臨床判断
よくある症状である頭痛を例に、具体的な臨床判断の手順と考え方を解説します。頭痛を訴える患者が来局したら、まずは図1に従って、頭痛を生じる疾患をできるだけたくさん挙げてみましょう(表2)。
頭痛は基礎疾患のない一次性頭痛(片頭痛、緊張型頭痛、群発頭痛)とほかの疾患に起因する二次性頭痛に大別されます。二次性頭痛の中でも緊急性の高い疾患によるものは決して見逃してはなりません。
とくに脳血管障害(くも膜下出血、脳内出血、脳梗塞)は発症から治療を受けるまでの時間が短いほど後遺症が軽減される可能性が高く、一刻の猶予もありません。くも膜下出血における頭痛は「バットで殴られたような」と形容されるほどの、激しい突然の痛みが特徴です。しかし、痛みが弱い場合もあるので、突然発症して1〜3分でピークに達する頭痛の場合は疑ってみる必要があります。嘔吐やさまざまな意識障害を伴うこともあり、髄膜刺激症状として後頸部が硬くなる項部硬直や、頭を左右に振ると頭痛が増強するJolt accentuationの有無を確認する方法もあります。
以上のほかに、見逃してはならない緊急性の高い脳血管障害として、頸部の回旋などがきっかけとなり後頭部・後頸部痛が発症する脳動脈解離、全身倦怠や微熱で発症し、側頭部の持続的な拍動性頭痛・圧痛を伴う側頭動脈炎などがあります。
感染性疾患として緊急性が高いのは髄膜炎や脳炎です。小児の場合、頭痛に発熱が伴えば疑うべきです。髄膜炎では強い頭痛、高熱に加えて嘔気・嘔吐、項部硬直、意識障害のような髄膜刺激症状、脳圧亢進症状が出現します。頻度の高いウイルス性髄膜炎は2週間程度で治癒しますが、細菌性、結核性髄膜炎は重篤化し後遺症を残す場合や、死にいたることもあります。
二次性頭痛の中で薬局でもしばしば遭遇するのが、風邪症候群やインフルエンザによって起こる頭痛ですが、感冒改善後などに発症する細菌性副鼻腔炎でも頭痛が起こります。副鼻腔の相当部位(前頭部や頬部)の自発痛、叩打痛、圧迫感があり、前傾姿勢で増悪します。鼻閉、鼻汁を伴い、頭頂部や後頭部の痛みを訴えることもあります。
うつ病や神経症性障害などでも頭重感や圧迫されるような頭痛を訴えることがあります。抑うつ気分、不安、気力や活動力の低下といった精神症状のほか、不眠、下痢、食欲不振などの全身の不調を訴えますが、一般的には午前中症状が重く、午後になると軽快します。
分類 | 疾患 | |
---|---|---|
一次性頭痛 | 片頭痛、緊張型頭痛、群発頭痛 | |
二次性頭痛 | 頭部外傷 | 切創、皮下血腫、骨折、急性硬膜下血腫、 急性硬膜外血腫、慢性硬膜下血腫 |
脳血管障害 |
くも膜下出血、脳内出血、 脳梗塞、脳動静脈奇形破裂、 側頭動脈炎、脳動脈解離、 静脈洞血栓症 |
|
そのほかの頭蓋内疾患 | 脳腫瘍、水頭症、低髄液圧、てんかん | |
物質摂取または中止 | グルタミン酸、アルコール、カフェイン離脱、 亜硝酸塩、薬物乱用、 (鎮痛薬、トリプタン系、エルゴタミンなど)、CO中毒 |
|
感染性疾患 |
髄膜炎、脳炎、 脳腫瘍、風邪症候群、全身性細菌・ウイルス感染症 |
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恒常性障害 |
高血圧性脳症、 低酸素(睡眠時無呼吸性頭痛、高山病)、低血糖、透析 |
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顔面・頭蓋骨の疾患 | 急性緑内障発作、屈折異常、副鼻腔炎、中耳炎など耳疾患、顎関節症 | |
精神疾患 | うつ病、神経症性障害 | |
神経痛・顔面痛 | 頭部神経痛など | 三叉神経痛、舌咽神経痛、後頭神経痛、帯状疱疹 |
※青字はよくある疾患 ※赤字は見逃してはいけない緊急性の高い疾患
木内氏の話をもとに編集部作成
症状によって見分ける一次性頭痛
頭痛患者の約90%は一次性頭痛です。重大な頭蓋内疾患による頭痛は1%未満ですが、まず緊急性の高い二次性頭痛を除外してから一次性頭痛を判断する習慣を身につけるようにしてください。
一次性頭痛の症状はタイプによって異なります。最も多い緊張型頭痛は両側の後頭部、後頸部、前頭部あるいは頭全体が締め付けられるような痛みと表現されることが多い軽症〜中等症の頭痛で、日常生活に大きな支障はありません。午後に増強し、肩こりを伴うことが多いのが特徴です。運動不足、ストレス、頭頸部の姿勢異常などが関与しています。片頭痛は発作反復性の心拍に同期したズキズキする拍動性頭痛で、片側性がやや多いのですが、両側性も少なくありません。中等症〜重症の頭痛が4〜72時間持続し、悪心・嘔吐を伴い、光、音、臭いに過敏になります。日常的な動作で痛みが増強するため横になっていることが多く、日常生活に支障がでます。片頭痛の20%程度 は、頭痛の前兆として閃輝暗点(チカチカ)や視野欠損などが認められます。ストレス、過労、寝不足・寝過ぎ、人ごみ、アルコールなどの特定の 食物、天候の変化、月経などが誘因として挙げられます。一次性頭痛の中で最も少ない群発頭痛は、1日に1〜2回、15分~3時間ほど持続する頭痛です。片側の眼球がえぐられるような痛み、と表現されることが多く、じっとしていることができないほどの激しい痛みが数日〜数週間にわたって継続します。結膜充血、流涙、発汗、眼裂狭小を伴います。誘発因子はアルコールです。
頭痛に関する質問と推測される疾患
頭痛を生じる疾患を列挙したら、次は疾患を絞り込むために患者情報を収集します。表3はLQQTSFAを質問したときの患者の回答と、疾患の関係を示しています。片側性に頭が痛ければ片頭痛、群発頭痛、側頭動脈炎、耳疾患、三叉神経痛、緑内障などが疑われ、加えて前兆があれば片頭痛ではないかと絞り込めます。また頭全体の激痛の場合はくも膜下出血や髄膜炎の可能性があり、激痛が突然生じた場合は、くも膜下出血かもしれません。
面談で得られた情報で、突発的な発症か、増悪しているか、これまでで最悪の頭痛の、3つすべてが「いいえ」であれば、脳血管障害、脳腫瘍、髄膜炎などの危険な頭痛はほぼ否定できます。
また、服薬歴の聴取は、薬物乱用頭痛、薬物誘発性の急性頭痛、抗コリン薬による急性緑内障発作の誘発などを推測する上で重要な情報になります。
部位 Location | ||
---|---|---|
片側 | 片頭痛、群発頭痛、側頭動脈炎、耳疾患、三叉神経痛、緑内障 | |
両側 | 緊張型頭痛、くも膜下出血、髄膜炎 | |
性状 Quality 程度 Quantity | ||
拍動性(ズキズキ) | 片頭痛、群発頭痛、側頭動脈炎、高血圧性脳症 | |
圧迫性(締め付け) | 緊張型頭痛 | |
激痛 | くも膜下出血、髄膜炎、三叉神経痛 | |
時間と経過 Timing 状況 Setting | ||
いつから | 突然瞬時 | くも膜下出血、脳内出血 |
夜間に突発 | 群発頭痛 | |
徐々に増強 | 脳腫瘍、慢性硬膜下血腫 | |
反復的 | 片頭痛、群発頭痛、緊張型頭痛 | |
きっかけは | 頭部打撲 | 急性・慢性硬膜外血腫/硬膜下血腫 |
首を回旋 | 内頸動脈解離 | |
薬物 | 薬物乱用頭痛、急性緑内障発作(抗コリン薬) | |
寛解・増悪因子 Factor | ||
咳、力みで増悪 | 頭蓋内圧亢進、脳腫瘍、髄膜炎 | |
運動、入浴、月経で増悪 | 片頭痛 | |
同一姿勢、ストレスで増悪、運動で軽減 | 緊張型頭痛 | |
アルコールで増悪 | 群発頭痛 | |
朝に悪化 | 脳腫瘍、高血圧性脳症、うつ病 | |
随伴症状 Associated manifestation | ||
悪心・嘔吐 | 片頭痛、くも膜下出血、脳腫瘍、髄膜炎 | |
発熱 | 髄膜炎、インフルエンザなどの感染症、風邪症候群 | |
肩・頸部のこり | 緊張型頭痛 | |
前兆(チカチカ) | 片頭痛 | |
流涙・眼充血・鼻汁 | 群発頭痛、急性緑内障発作 | |
麻痺・痙攣・しびれ | 脳出血、脳腫瘍 |
木内氏の話をもとに編集部作成
頭痛の臨床判断アルゴリズム
臨床判断アルゴリズムを活用すると、来局者の病態を反映する情報や所見を収集して疾患を推測、さらに適切な対処法を選択(トリアージ)して提案するまでの手順が容易につかめます。頭痛の臨床判断アルゴリズムが手元にあれば、LQQTSFAを聞く間に数疾患まで絞り込むことができ、数疾患に絞り込んだ段階で特異的な質問を投げかけてさらに疾患を絞り込むことができます。たとえば、一次性頭痛まで絞り込んだときに肩こりの有無を確認すれば、緊張型頭痛の可能性が高いというように、鑑別はより確実になります。
図3は頭痛の…