パーキンソン病は進行性の疾患で指定難病でもあります。50代以上では患者数が増加する傾向にあることから、人口の高齢化に伴い適切な診断や治療は今後ますます重要になるでしょう。今回は、パーキンソン病の診断、薬物療法の実際や注意点などについて、上用賀世田谷通りクリニック院長 織茂智之氏にお話を伺いました。
高齢に多いパーキンソン病 症状は運動症状だけではない
患者数は10万人あたり120~180人、60歳以上ではおよそ100人に1人(10万人あたり1,000人)と推定されます。年齢は50代後半以降、本邦では男性より女性でやや多い疾患です。
2015年に提唱された診断基準では、「運動緩慢がみられること」がパーキンソン病の必須条件とされています。運動緩慢に加え、静止時振戦(ふるえ)または筋強剛(筋肉の緊張によるこわばり)のどちらか、または両方がみられるものと定義されています。
パーキンソン病の症状は、大別すると運動症状と非運動症状の2種類があります。運動症状で代表的なのは、運動緩慢(あるいは無動・寡動)、振戦、筋強剛、姿勢保持障害の4種類です。また、運動症状がなければパーキンソン病と診断することはできませんが、実際には運動症状が認められる以前にさまざまな非運動症状が生じています(表1)。
運動症状 |
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運動緩慢(無動・寡動)
動作が遅く動きが少なくなる。初期は字が書きにくく小さくなる、箸が使いにくい、など上肢に現れることが多いが、歩行障害も見られる。後に寝返り、着替えなどが困難になる。
振戦
親指と人差し指または中指をすり合わせるような動きが、手を膝の上に置いた時や歩行時に出現する。
筋強剛
筋トーヌス(筋緊張)が亢進し、筋の収縮と弛緩のバランスが崩れる。また、関節を曲げる際に抵抗が見られる。
姿勢保持障害
姿勢のバランスがうまく保てなくなり、転倒しやすくなる。
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非運動症状 |
嗅覚低下、睡眠障害、精神症状(抑うつや不安などの気分障害、認知機能障害)、自律神経障害(便秘、排尿障害、起立性低血圧、脂漏性皮膚など)、体重減少、物が二重に見えるなど
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パーキンソン病診療ガイドライン2018、織茂氏の話をもとに作成
早期はL-ドパ、またはドパミンアゴニスト、MAOB阻害薬
早期のパーキンソン病に対しては、リハビリテーションと薬物療法が中心となります。散歩などの有酸素運動、簡単な筋トレなど身体を動かすリハビリテーションをすすめ、生活に少し支障が出てきた場合には薬物治療を行います。
薬物療法ではL-ドパが中心的な存在です。診断の段階でL-ドパを投与し症状改善を確認する治療的診断を実施することもあります。L-ドパが効いたらパーキンソン病と診断できるというわけです。
ただし、L-ドパは運動合併症に要注意です。運動合併症とは、ウェアリングオフ(薬効時間が短縮する現象)や、ジスキネジア(意図せずに身体の一部が動いてしまう現象)です。早期からL-ドパを使用することでこうした運動合併症の発現リスクが高くなります。
パーキンソン病は高齢になってから発症することが多い疾患ですが、65歳以下の患者さんでは運動合併症のリスクを考慮しなければなりません(若年でも運動症状が強い時はL-ドパを使用することもあります)。このリスクが高い場合、L-ドパではなくドパミンアゴニストやMAOB阻害薬から開始することが推奨されます。
L-ドパはアドヒアランスが重要
早期段階でL-ドパの投与量が多いと運動合併症を起こしやすいため、私は投与初期のL-ドパの1日量は300~400mg程度としています。一方でL-ドパは重要な薬剤ですのでしっかりと服薬する必要があります。特にお昼の服薬を忘れると次の服薬まで時間が空いてしまい、ピークとトラフの差が非常に大きくなるため、1日3回の服用を忘れないよう注意するよう指導します。また、非運動症状として認知症症状が発現している場合には服薬忘れによるアドヒアランスが低下しますので要注意です。
L-ドパの代表的な副作用に消化器症状があります。胃に副作用が発現しやすい患者には食前にドンペリドン(ナウゼリン)を使用することもあります。ドパ脱炭酸酵素阻害薬(DCI)配合剤は消化器症状の発現は低下しますが、ジスキネジアの頻度は上昇します。
L-ドパは吸収されて脳内に入りさえすれば必ず効果を示す薬剤ですが、効果が得られない場合には別の原因があります。「わたしはこの薬(L-ドパ)が効かないんでしょうか?」と疑念をもたれる患者さんに対しては、L-ドパは吸収の個人差が大きく効果発現に個人差があることを伝えます。
進行期は1回量を細かく調整 ウェアリングオフとジスキネジアを回避
進行期では運動合併症が生じ、ウェアリングオフによりL-ドパを1日5回服用しなければならない、薬の効果が切れているオフ時間が2時間以上、かなり強いジスキネジア(トラブルサム・ジスキネジア)が1時間以上続き対処が困難、といったケースがあります。
1日3回L-ドパを使っても夕方になると効果が切れてくる場合、ウェアリングオフであることを患者さんに説明し対処法を検討します。1日3回の服用中、昼の12時と夜の6時に服薬している場合、用量をやや減量して4時頃に服薬するなどの分割投与を考慮します。
症状が改善しているオンの時間が長ければ、軽度のジスキネジアを患者さんが許容していることもありますが、トラブルサム・ジスキネジアがある場合、