2型糖尿病患者の10~30%は心不全を合併し心不全患者の30~40%は糖尿病を合併しているといわれています。SGLT2阻害薬の適応拡大が昨年から話題です。また、糖尿病に新規作用機序の薬剤が登場しました。
SGLT2阻害薬の心血管イベント抑制
2型糖尿病の罹患は心不全のリスクとなることが知られていましたが、糖尿病治療薬の心不全予防はエビデンスが乏しい状況でした。しかし、2016年のエンパグリフロジンや2017年のカナグリフロジンの各ランダム化比較試験1,2)で、SGLT2阻害薬が2型糖尿病患者の心血管イベントリスクを低下させることが明らかになり、コホート研究3,4)でもSGLT2阻害薬が心不全入院や心血管死を低下させる結果が出ました。
慢性心不全に対するSGLT2阻害薬の適応
そして2020年、ダパグリフロジン(フォシーガ)が慢性心不全に対する効能効果の追加承認を取得しました。2型糖尿病合併の有無に関わらず、左室駆出率が低下した心不全に対し、ダパグリフロジンは心血管死と心不全悪化のリスクを抑制しました(ダパグリフロジンは慢性腎臓病の適応も取得しています)。
2021年11月にはエンパグリフロジン(ジャディアンス)も慢性心不全の適応を取得しました。カナグリフロジン(カナグル)も慢性心不全患者を対象とした試験が進行しています。
なぜSGLT2阻害薬は慢性心不全を改善するのか
慢性心不全には利尿薬が用いられます。また、2020年に発売したサクビトリルバルサルタン(エンレスト)にはナトリウム利尿ペプチドの作用増大作用があります。SGLT2阻害薬にもナトリウム利尿による利尿作用があり、ダパグリフロジンの心不全を改善させる機序として、ナトリウム利尿を起点とした一連の機序が推定されています。ただし、現時点ではまだ明確になっていません。
【心不全に対するSGLT2阻害薬の推定機序5)】
ナトリウム利尿➡間質浮腫の減少➡前・後負荷の減少、左室壁ストレスの減少➡心腎連関の改善➡心筋内イオン電流の改善➡心筋エネルギー、代謝の改善
SGLT2阻害薬以外の薬剤は?
近年、GLP-1受容体作動薬についても心血管イベント抑制や腎保護に関する多くの研究が報告されました。3種類の主要な心血管イベント(心血管死+非致死性心筋梗塞+非致死性脳卒中)の複合発生率はプラセボより低いという結果が複数の臨床試験で得られています6)。
最近の海外のネットワークメタ解析では、GLP- 1 受容体作動薬は、SGLT2阻害薬に比べ、非致死性脳卒中を減少させたと報告されています7)。現時点では、GLP- 1 受容体作動薬は、慢性心不全というより動脈硬化性疾患の再発予防に向いているようです8)。
GLP-1受容体作動薬は、2021年に初めての経口薬のセマグルチド(リベルサス)が発売されました。セマグルチドは、他のGLP-1受容体作動薬に比べ減量効果が大きいといわれ、若年層の肥満2型糖尿病患者によい適応と考えてられています8)。また、セマグルチドは、投与開始初期に用量を漸増することで、胃腸障害の回避や軽減が認められています。
なお、セマグルチドは、胃の内容物により吸収が低下するため、1日のうちの最初の食事又は飲水の前に、空腹の状態でコップ約半分の水(約120mL以下)ととも服用すること、とされています。
参考文献
- Neal B et al. N Engl J Med. 2017 ;377(7):644-657.
- Fitchett D et al. Eur Heart J. 2016 ;37(19):1526-34.
- Kosiborod M et al. Circulation. 2017 ;136(3):249-259.
- Birkeland et al. Lancet Diabetes Endocrinol. 2017 ;(9):709-717.
- Farkouh ME et al. J Am Coll Cardiol. 2018 ;71(22):2507-2510
- 三好秀明 日本臨牀 2020 ; 78(7): 1139-1145.
- Palmer SC et al. BMJ. 2021 Jan 13;372:m4573.
- 窪田紗希ほか 糖尿病プラクティス 2021 ; 38(6): 682-687
イメグリミン 久しぶりの新規作用機序薬
2021年9月に、2型糖尿病の新薬として「ツイミーグ錠 500mg」(イメグリミン)が発売されました。糖尿病治療の新規作用機序の薬剤としては7年ぶりです。イメグリミンは、テトラヒドロトリアジン系に分類された初めての化合物であり、今回が世界初の承認です。
イメグリミンの作用機序
2型糖尿病には、インスリン分泌能低下とインスリン抵抗性増大の2つの病態が関係していますが、イメグリミンは1剤1成分でこれら2つの病態を改善するとして開発された製剤です。イメグリミンは糖代謝の維持に深く関わるミトコンドリアを標的にすると想定され、ミトコンドリアへの作用を介してグルコース濃度依存的なインスリン分泌を促す膵作用と、肝臓・骨格筋での糖代謝を改善する膵外作用(糖新生抑制・糖取込み能改善)により血糖降下作用を示すと考えられています(図)。
図 イメグリミンの推定作用機序
ツイミーグ(TWYMEEG)は、Dualを意味する“twin”と、一般名の“imeglimin”から命名されており、以下のように2種類の作用機序がある。
- 生体の酸化還元反応において中心的役割を果たす補酵素。糖尿病では膵β細胞のNAD+量の減少がインスリン分泌の低下につながると考えられる。
- 過剰な活性酸素はミトコンドリア機能障害を引き起こす。
他剤との併用でHbA1cをさらに降下か
イメグリミンは、2型糖尿病患者を対象に3種類の国内第Ⅲ相試験で評価されており(イメグリミン単独、他の血糖降下薬1剤との併用、インスリンとの併用)、単剤投与・他剤併用時ともに臨床効果を示しました。中でも特にDPP-4阻害薬との併用で−0.92%と最も大きな変化量を示しました(表)。
イメグリ ミン単独 |
他剤併用 | インスリン製剤 | |||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
SU | αGⅠ | グリニド | ビグアナイド | チアゾリジン | DPP4i | SGLT2i | GLP-1RA | プラセボ | イメグリミン | ||
−0.46 | −0.56* | −0.85* | −0.70* | −0.67* | −0.88* | −0.92* | −0.57* | −0.12* | −0.03† | −0.63† |
大日本住友製薬資料 国内第Ⅲ相長期試験より作成
糖尿病治療の基本である食事療法、運動療法を十分に行うことが前提ではありますが、既存の糖尿病治療薬の単独使用において目標値まであと少しという患者さんに対して、イメグリミンは効果的な役割を担うと考えられるでしょう。
【基本情報】
用法・用量
通常、成人には1回1,000mgを1日2回朝、夕に経口投与
重要な基本的注意(抜粋)
- 腎機能障害のある患者では、腎機能障害の程度に応じて腎臓からの排泄が遅延し、本剤の血中濃度が上昇する。中等度又は重度(eGFRが45mL/min/1.73m2未満)の腎機能障害のある患者には投与は推奨されない
- ビグアナイド系薬剤は作用機序の一部が共通している可能性があること、また、両剤を併用した場合、他の糖尿病用薬との併用療法と比較して消化器症状が多く認められたことから、併用薬剤の選択の際には留意する
- 重大な副作用:低血糖(特にインスリン製剤、SU剤又は速効型インスリン分泌促進薬と併用した場合に低血糖が発現するおそれ)
- その他の副作用:悪心、下痢、便秘等