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特集

疾患別に考察「対人業務の充実に向けた薬薬連携の課題」

2022年2月号
薬薬連携かかりつけ薬局・薬剤師のあり方を考えるの画像

薬薬連携とは、病院薬剤師と保険薬局薬剤師の連携として知られ、患者さんが生涯にわたって安全に、安心して薬物治療を受けられるための医療連携のひとつです。現在では、全国で地域医療情報連携ネットワークの構築が進みつつあり、薬薬連携の整備も並行して行われています。肥後薬局(岡山市)の薬剤師で元岡山大学病院薬剤部の錦織淳美氏に病院薬剤師と薬局薬剤師の2つの視点から薬薬連携の現状、課題、かかりつけ薬局・薬剤師の役割などについて語っていただきます。

薬薬連携を概観する 「患者のための薬局ビジョン」

まず、薬薬連携を巡る情勢を振り返ります。
薬局はこれまで、医師が処方した薬を受け取る場所という認識が一般的にありました。厚生労働省は薬局を「患者本位のかかりつけ薬局」に再編する目的で、2015年10月に『患者のための薬局ビジョン』を策定しました。薬局の機能の見直しを図る同ビジョンでは、かかりつけ薬剤師・薬局の機能を主軸とし、「服薬情報の一元的・継続的把握とそれに基づく薬学的管理・指導」「24時間対応・在宅対応」「医療機関等との連携」の3つが提示されました。
医療機関と薬局が連携して患者さんの健康を管理するためには、施設間の意思疎通が不可欠です。同ビジョンを実現するための重要な機能の1つがトレーシングレポートです。トレーシングレポートは、薬剤師が患者さんの服薬状況や副作用、体調の変化などの情報を処方医と共有するための服薬情報提供書です。
患者さんの服薬情報を処方医と共有する方法には疑義照会もありますが、疑義照会は、薬剤師が処方箋に従って調剤を行う際、処方箋の内容に疑問点や不明点がある場合に処方した医師に確認するものです。薬局薬剤師が患者さんから得た情報で、疑義照会するほど緊急性はないものの、伝える必要があると判断した場合などにトレーシングレポートを作成し、処方医に提供します。トレーシングレポートは、アドヒアランスの低下などに繋がるポリファーマシー対策としても有用なツールです。

改正薬機法で対人業務強化 薬薬連携の重要性

2020年9月1日から改正医薬品医療機器等法(薬機法)が段階的に施行されています。改正薬機法では、対人業務の充実が焦点となっており、薬局のあり方の見直しやオンライン服薬指導の導入のほか、調剤後の病態変化のフォローアップが義務化されました。
具体的には、薬局薬剤師は処方薬を調剤するだけでなく、調剤後のアドヒアランスの評価、有効性や副作用発現などを経時的に確認して患者さんの療養を支えることが求められています。さらに、薬剤師が患者さんから得た情報で、治療のポイントになると思われることを処方医や看護師などにフィードバックする役割も求められています。特に、入院後に薬物療法の内容が変更されたり、手術後に新規薬剤を追加された場合は、継続して薬物療法を把握するために薬局薬剤師と病院薬剤師が情報を共有する薬薬連携が重要になります。
生涯の入院回数は人によって異なりますが、図1は、一人の患者さんが生涯で複数回の入退院をする際の薬薬連携を整理したものです。

図1 複数回の入退院における薬薬連携 (例 40歳代から70歳代までに入退院を2回経験する患者)

複数回の入退院における薬薬連携の画像
錦織氏の話を元に作成

薬剤師の役割は、患者さんの薬剤情報を一元管理することです。治療や薬歴の内容は基本的に変化していきますので、その情報をアップデートして共有する必要があります。
入退院の度に、病院薬剤部は入院時薬歴確認や退院時薬剤情報提供書の作成を、薬局は薬歴提供や退院後の薬歴管理やフォローアップを、それぞれ実施します。
また、年齢を追うごとに罹患する疾患や服用薬剤の種類は増加しますので、図の右側に進むにしたがって、減薬の可能性についても、病院薬剤部と薬局の双方で検討していく必要があります。

ICTの活用 医療機関内での医療情報連携ネットワーク

ICTの活用は、医療機関が独自に取り組む例が多く、岡山大学病院では医師や病棟薬剤師が院内コミュニケーションアプリを使っています。当薬局では、クラウド型電子薬歴管理システムを使いながら、新たにチャット機能やビデオ通話を活用した「かかりつけ化」アプリを導入し、服薬情報の一元管理や服薬のフォローアップを段階的に進めながら地域に必要とされる薬局を目指しています。

地域医療情報連携ネットワーク

薬薬連携では、お薬手帳のほかに患者さんの医療情報を検索する方法として医療情報連携基盤(Electric Health Record:EHR)があります。
EHRは、診療に必要な医療情報(患者さんの基本情報、処方データ、検査データ、画像データなど)を、ICTによって医療機関の間で共有・閲覧を可能にするしくみで、地域で医療情報を連携するネットワークです。
EHRによって、▶患者さんに関する豊富な情報が得られ、患者さんの状態に合った質の高い医療が提供できる▶高度急性期医療、回復期医療、慢性期医療、在宅医療・介護の連携体制を構築できる▶投薬や検査の重複を避けることができ、患者負担の軽減につながる――などの効果が期待できます。
全県単位の医療情報連携ネットワークが各地域で設立し運用されています(表1)。ただし、医療機関や薬局の登録数が伸び悩み、十分に活用されていないものもあります。

表1 全県単位の医療情報連携ネットワーク
  ネットワーク名称 開始年
青 森 あおもりメディカルネット 2015
宮 城 MMWIN(みんなのみやぎネット) 2013
秋 田 あきたハートフルネット 2014
山 形
  • 4つの二次医療圏ごとのネットワーク
    (べにばなネット、もがみネット、OKI-net、ちょうかいネット)
2014
(全県)
福 島 キビタン健康ネット 2015
茨 城 いばらき安心ネット 2015
栃 木 とちまるネット 2013
石 川 いしかわ診療情報共有ネットワーク 2014
福 井 ふくいメディカルネット 2014
長 野 信州メディカルネット 2011
岐 阜 ぎふ清流ネット 2015
静 岡 ふじのくにねっと 2011
三 重 三重医療安心ネットワーク 2010
滋 賀 びわ湖メディカルネット 2014
和歌山 きのくに医療連携システム 青洲リンク 2013
鳥 取 おしどりネット 2009
島 根 まめネット 2013
岡 山 晴れやかネット 2013
広 島 HMネット 2013
香 川 K-MIX+ 2014
愛 媛 愛媛県医師会地域医療連携ネットワーク 2014
福 岡 とびうめネット 2014
佐 賀 ピカピカリンク 2010
長 崎 あじさいネット 2004
熊 本 くまもとメディカルネットワーク 2015
沖 縄 おきなわ津梁ネットワーク 2015

2017年10月厚生労働省調べ(都道府県担当課宛調査)

厚生労働省 全国保健医療情報ネットワーク・保健医療記録共有サービス関係参考資料より作成

EHRがあまり活用されない理由として、登録手続きが煩雑であることが挙げられます。岡山県では2013年からEHRとして「晴れやかネット」が設立されていますが、患者さんの登録と情報の共有のためには、病院や診療所だけでなく薬局でも患者さんの同意書取得が必要となります。薬局において調剤や服薬指導業務が多忙な時間帯に同時にEHRの登録や閲覧に時間を割くのが難しいことは私も身をもって感じてきました。
一方で、EHRの成功例の代表が長崎県の「あじさいネット」です。あじさいネットは在宅医療をうまく取り込んだ仕組みになっており、登録者数が14万名を超えています。このように地域によっては上手に活用されている医療情報連携ネットワークもあります。

全国規模の保健医療情報ネットワーク

EHRによる情報の共有・活用を全国的に高度化・拡大化する動きもあり、現在、総務省と厚労省が連携してEHRを相互接続する基盤となる全国保健医療情報ネットワークの構築をめざしています。医療機関、薬局、介護事業所などを巨大なネットワークでつなぎ、患者・利用者の情報を共有・活用するというもので、薬歴の最新情報が適宜、医療機関、薬局にフィードバックされます。

海外の先進事例に学ぶ スウェーデンのeHealthシステム

スウェーデンでは、国民IDと医療情報が紐づけられ、薬歴や既往歴を含む患者情報はeHealthシステム(全国保健医療情報ネットワークに相当)で管理されています。病院薬剤師は、同システムの基本情報で薬歴を確認し、電子カルテに必要な情報を転記します。退院時の処方については同システムに再転記します。これによって地域薬局では同システム上で最新の薬歴を確認しながら調剤を行うことができます。
また、薬局は年に4回までリフィル調剤が認められています。リフィルは「補充」を意味する英語で、一定期間内に一つの処方箋を繰り返し利用できます。病状が安定している患者さんにとっては薬の処方のためだけに医療機関を受診する回数が減り、負担が軽減されます。また、後発品が優先的に調剤され、先発品を希望する場合は差額が患者負担となります。さらに、一包化調剤は専門薬局が一元管理し、患者宅に郵送されます。このように、医療費削減に対する効率のよい医療体制が整備されています。
日本は今後、スウェーデンのeHealthシステムをうまく応用できれば、日本独自のシステムの確立が可能だと思います。

米国のフォローアップ服薬指導

米アリゾナ州ツーソンメディカルセンターで実施されたフォローアップ服薬指導に関するパイロットスタディで興味深い結果が報告されました。この研究では、2015年8月~2016年9月の間に同センターを退院した18歳以上の患者さんのうち肺炎、喘息、COPD、心不全、心筋梗塞、腎不全、糖尿病、大腿・膝関節置換術後、冠動脈バイパス術後のハイリスク患者456人を対象とし、薬剤師介入群(340人)と対照群(116人)に分け、退院後7日後および21日後に薬剤師が電話相談を行いました。その結果、介入群の13%、対照群の17%が退院後30日以内に再入院し、介入群では再入院率が減少傾向を示しました。
電話相談で退院後の処方内容の見直しや追加処方の提案、継続的な患者服薬指導が行われ、病態悪化・再発による再入院が未然に回避された例は多数報告されています。薬剤師による適切なフォローは患者さんに安心をもたらし、信頼関係を維持するうえでも重要です。

疾患別に見る薬薬連携 がん(化学療法)

2019年11月の薬機法の改正で、21年8月から機能別薬局として「地域連携薬局」と「専門医療機関連携薬局」の認定制度がスタートしました。いずれも、患者のための薬局ビジョンで示された、薬局に求められる機能です。専門医療機関連携薬局は、がんなどの専門的な薬学管理のために他の医療機関と連携して対応します。薬局と医療機関の連携が強化され、患者さんへの貢献の幅が広がっています。
2020年度の診療報酬改定では、外来がん化学療法に関連し「連携充実加算」や「特定薬剤管理指導加算2」が新設されました。両者とも薬薬連携の実施によって算定されます(図2)。

図2 外来がん化学療法の質向上のための総合的な取組

この記事の冊子

特集

疾患別に考察「対人業務の充実に向けた薬薬連携の課題」

改正薬機法に基づき、オンライン服薬指導や調剤後のフォローアップ義務化など薬局のあり方を説明しています。日本だけでなく海外における連携体制の現状も分かる内容です。

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special Interview

2022(令和4)年度調剤報酬改定「患者のための薬局ビジョンの実現」

改定の基本的な視点を踏まえ、「専門性や個性」を追及した新たな薬局の機能について狭間研至氏が解説。さらに経営視点から薬剤師のスキルアップに向けた取組を提案しています。

2022(令和4)年度調剤報酬改定「患者のための薬局ビジョンの実現」の画像
カフェ

「花粉症と食物アレルギー」 ファーマスタイルカフェVol.11

lgE依存性の花粉-食物アレルギー症候群(PFAS)に関する話題です。疾患の原因や主な症状を含め、花粉の種類と関連する食物例が掲載されています。

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Early Bird

【医療情報Q&A】新型コロナウイルスのニュースを網羅

現場で役立つ医療情報をQ&A形式で掲載。オミクロン株の特徴や国内のワクチン状況、治療薬の使い分けなど新型コロナウイルスの最新情報(2022年2月1日時点)が網羅できます。

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特集クイズ

疾患別に考察「対人業務の充実に向けた薬薬連携の課題」|答えて学ぼう特集クイズ

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