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ハイリスク薬加算の薬歴の書き方は?服薬指導例についても解説
特集

認知症は増え続ける早期介入で発症と進行を予防

2022年4月号
認知症は増え続ける早期介入で発症と進行を予防の画像

高齢認知症の方の人数は2012年時点で462万人(65歳以上人口対比で15%)と推計されており、今後、高齢者数の増加とともに認知症者数はさらに増加し2025年には700万人に達すると推計されています。認知症者数の増加とともに認知症の医療・介護に関わるコストは増大しており、2014年時点で年間14.5兆円と、認知症の影響は社会的にも経済的にも非常に大きいことが指摘されています。認知症治療および予防の最新の考え方について、国立長寿研究センター副院長の櫻井孝氏に解説いただきました。

65歳以上の認知症の増加

65歳以上の認知症の増加の画像

厚生労働省老健局総務課認知症施策推進室地域包括ケアシステムと認知症施策より作成

「認知症」は総称 原因疾患はアルツハイマー病など

認知症は、脳の疾患や障害など、何らかの原因により脳の神経変性が起こり、認知機能が低下することで日常生活全般に支障が出ている状態を総称した診断名です。
認知症の原因疾患は数多くあります。最も多いのがアルツハイマー病で、認知症全体の60~70%がアルツハイマー型認知症と診断されます。他には血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症があり、これらを認知症の4大疾患といいます。つまり、ひと口に認知症といっても、全く別の疾患の結果として認知機能の低下が出現している状態が認知症と診断されます。

認知症の4大疾患の病態

アルツハイマー病では、アミロイドβの斑状蓄積(老人斑)と神経原線維変化(リン酸化したタウタンパクの線維状凝集体)がみられます。
レビー小体型認知症では、αシヌクレインの神経細胞内への異常蓄積によるレビー小体とよばれる封入体の形成がみられ、それによる神経変性により認知症の症状が起こります。
血管性認知症は脳梗塞や脳出血などの脳血管障害により起こり、前頭側頭型は前頭葉および側頭葉の萎縮によるものです。ただし、実際には複数の原因疾患が混在している場合が多く、特に高齢者では血管病変はほぼ必発ですので、アルツハイマー型認知症と診断されたとしても、血管病変も存在するなどのケースが多くなります。

認知機能障害と行動・心理症状

認知症の症状としては大きく分けて中核症状と行動・心理症状(BPSD)があります。中核症状は脳の神経変性により出現する欠落症状であり、認知機能障害として出現します(表1)。アルツハイマー型認知症では記憶障害が前面に出てきます。BPSDは幻覚や妄想、怒りっぽい、ウロウロするなどの症状で、環境要因やもともとの気質、あるいは身体的、精神的ストレスなどが絡み合って出てくる症状です(表2)。

表1 認知症の主な認知機能障害
全般性注意障害 必要な作業に注意を向けて、それを維持し、適宜選択、配分することができない。いろいろな作業でミスが増える。ぼんやりして反応が遅い。
遂行機能障害 仕事や家事など、物事を段取りよく進められない。
記憶障害 発症後に起きたことを覚えられない。発症前のことを思い出せない。
失語・失書 発話、理解、呼称、復唱、読み、書きの障害。書字の障害、文字想起困難や書き間違い。
失算 筆算、暗算ができない。
視空間認知障害 図の模写、手指の形の模写などができない。知っている場所で道に迷う。無意味な模様などを人や虫などに見間違える。実際はないものが見える。
失行 細かい動きが拙劣で円滑な動きができない。バイバイなどのジェスチャーができない。使い慣れた道具をうまく使えない。
社会的認知障害 相手や周囲の状況を認識し、それに適した行動がとれない。

櫻井氏の話をもとに作成

表2 認知症の主な行動・心理症状(BPSD)
活動亢進が関わる症状 焦燥性興奮、易刺激性、脱抑制、徘徊や攻撃的行動などの異常行動
精神病様症状 幻覚・妄想、夜間行動異常など
アルツハイマー型認知症:もの盗られ妄想や被害妄想
レビー小体型認知症:嫉妬妄想や幻の同居人妄想
感情障害が関わる症状 不安、うつ状態
不安、うつ状態 情緒の欠如、不活発、
周囲への興味の欠如

櫻井氏の話をもとに作成

認知症の診断には何を使う? 認知機能検査の実際

MMSE(Mini-Mental State Examination)や長谷川式簡易知能評価スケールなどを用いた認知機能検査で認知機能障害があることを確認した後、それぞれの病型の診断基準に当てはまるか否かを確認し病型を診断します。
ただし、血管性認知症では脳のCTやMRIをしないと血管性病変があると断定できませんので、画像検査の結果が重視されます。PETやSPECTによる脳機能画像検査は、当センターのような専門施設ではほぼ全例施行していますが、診断基準ではこれらの検査は必要項目ではなく症状を中心に診断されるケースも多いです。

認知症を「血液」で診断する時が近づいている

また、アルツハイマー病における脳内アミロイドβの蓄積を捉えるバイオマーカーの有用性については以前から知見が出ていましたが、PET検査か髄液検査など、高価または侵襲性が高いものが用いられます。
そのため、低コストで安全という点で、血液検査によるバイオマーカーの開発が世界中で研究されてきました。しかし、血液中のバイオマーカーは少量かつ血液で希釈されるため、正確な測定には至りません。
こうした中、2014年に当センターと島津製作所が共同で、脳内アミロイドβ異常蓄積を高精度に捉える血液バイオマーカーの開発に成功しました。これは島津製作所の田中耕一先生(2002年ノーベル化学賞受賞)の技術を用いることで測定が可能となったものです。
近い将来、広く臨床応用されることも考えられます。また現在、多くの研究者が血液バイオマーカーの開発に取り組んでいます。認知症を「血液」で診断できる時代が近づいてきています。

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アルツハイマー型認知症の血液バイオマーカーの可能性

アルツハイマー型認知症のバイオマーカーの血液検査法には、将来的に様々な認知症医療の発展の可能性が秘められている。

アルツハイマー型認知症のバイオマーカーの血液検査法の画像

治療薬開発

現在、新薬の治験にはPETでアミロイドとタウの蓄積を確認して症例を組み入れしているが、PETは非常に高額な検査であり、また、検査しても症例の組み入れ基準から外れることも多い。まずは血液でスクリーニングした上でPETで確認するなどができるようになれば、その経済効果は非常に高く、なおかつ効率的に治験対象者を集めることが可能となるため、治療薬開発のスピードも加速することができると考えられる。


診断

これまで症状から診断していたものが、血液検査で脳の病態を元に診断できる時代がくる可能性がある。また、治療方針の決定や予後予測にも活用できる可能性がある。


予防

アルツハイマー型認知症の高リスク者を症状が出ていない段階で見つけることができる可能性がある。ただし、これには有効な治療法が確立されることが必要不可欠である。

「治る」認知症や薬剤性の認知機能障害

認知症は治らない、というのが一般的な認識だと思いますが、認知機能の低下が改善するケースもあります。具体的には、甲状腺機能低下症や糖尿病でみられる低血糖、ビタミン不足、あるいは慢性硬膜下血腫などです。これらは適正な治療で治療可能な認知症と言えます。
また、薬剤師さんに特に注視いただきたいのが、薬剤性の認知機能障害です。高齢者ではベンゾジアゼピン系、ヒスタミン系、アセチルコリン系の薬剤による認知機能障害がしばしばみられます。ベンゾジアゼピン系の薬剤や抗精神病薬は蓄積すると記憶障害の原因になり得ますし、H2ブロッカーも脳に届いて作用しますので認知機能障害を引き起こす可能性があります。また、抗コリン薬も高齢者で服用している患者さんが多いので注意が必要です。

認知症の薬物療法 4剤の効果は個人差あり

認知症の薬物療法として現在保険適応がある薬剤は、いずれも神経変性の抑制ではなく認知症の症状を改善する薬剤です。
コリンエステラーゼ阻害薬のドネペジル(アリセプト)とそれに関連する薬剤2剤と、それとは全く別系統のNMDA受容体拮抗薬のメマンチンの2系統4剤が治療に使用されます(表3)。教科書的にはこれらの薬の効果に差はないとされていますが、人によって、また症状によって、合う、合わないがありますので、専門医は経験に基づいて使い分けて治療を行っていきます。

表3 認知症治療薬一覧
  コリンエステラーゼ阻害薬 NMDA受容体拮抗薬
一般名
(製品名)
ドネペジル
(アリセプト)
ガランタミン
(レミニール)
リバスチグミン
(イクセロン、
リバスタッチ)
メマンチン
(メマリー)
剤形 錠剤、口腔内崩壊錠、細粒、
ゼリー、ドライシロップ
錠剤、口腔内崩壊錠、内用液 貼付剤 錠剤、口腔内崩壊錠、
ドライシロップ
適応症 アルツハイマー型認知症
及びレビー小体型認知症
アルツハイマー型認知症 アルツハイマー型認知症 アルツハイマー型認知症
適応重症度 軽度~高度 軽度~中等度 軽度~中等度 中等度~高度
用量
増量
3mg(1~2週)右矢印の画像5mg
高度:5mg(4週)右矢印の画像10mg
8mg(4週)右矢印の画像16mg右矢印の画像
必要に応じて4週以降24mg
4.5mg(4週)右矢印の画像19mg(4週)
右矢印の画像13.5mg(4週)右矢印の画像18mg
or
9mg(4週)右矢印の画像18mg
5mg(1週)右矢印の画像10mg(1週)
右矢印の画像15mg(1週)右矢印の画像20mg
有害
事象
  • 消化器症状(下痢/嘔気/嘔吐)、頭痛、精神症状(興奮、不穏)など
  • 失神/骨折/不慮の怪我/徐脈/ペースメーカー挿入の発生率も高まる
  • リバスチグミンは経皮吸収のため血中濃度が安定しやすいが、貼付部位の皮膚反応も(貼付部位の炎症抑制に保湿剤を使用、炎症持続にはステロイド外用薬を検討)
  • めまい、傾眠、頭痛、便秘、
    痙攣など。興奮/攻撃性も(ドネペジル併用)

各製品添付文書などをもとに作成

期待の新薬 アデュカヌマブのゆくえ

現在の薬物療法の効果は限られており、病態の本質的な過程に作用して疾患の進行を抑制する疾患修飾薬の開発が待ち望まれています。
2021年6月、アルツハイマー病の神経変性自体を治療の標的とした疾患修飾薬aducanumab(以下、アデュカヌマブ)が、米国食品医薬品局(FDA)で条件付きながら迅速承認されました。
日本でも承認申請され期待感が高まっていましたが、2021年12月のPMDAの審査結果は「継続審議」になりました。これは米国の承認と欧州の非承認の中間のような判断で、引き続き検討、ということですので、臨床で使用可能となるにはまだ時間がかかります。
しかし、アルツハイマー型認知症に対する疾患修飾薬の登場は、認知症医療において非常に大きな一歩と考えられますので、承認が見送られるに至った問題点がクリアされ、少しでも早くアルツハイマー型認知症の方に使えるようになることが望まれます。何より認知症の患者さんが疾患修飾薬の登場を待ち望んでいるのです。

column

アデュカヌマブの開発変遷

現状の日本で使用されている治療薬は、原則として症状改善が目的となる。対して、アデュカヌマブは、アルツハイマー型認知症の原因自体に働き進行を抑える、初の病態修飾薬である。

アデュカヌマブの画像

コリンエステラーゼ阻害薬

認知症の脳内で減少しているアセチルコリンの分解を抑制し、アセチルコリン量を増やす


NMDA受容体拮抗薬

過剰に活性化したNMDA受容体を拮抗阻害する


アデュカヌマブ

アルツハイマー型認知症の原因となる老人斑に特異的に結合し老人斑を分解する

 アデュカヌマブの最近の変遷は下記のとおり。

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