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症候別スキルアップ【第2回】腹痛

2019年6月号
症候別スキルアップ【第2回】腹痛の画像
腹痛は最も一般的な症候の1つですが、生命に関わる疾患が背後に潜んでいることがあります。来局者(患者)が腹痛を訴えたら、まず緊急性の高い疾患であるか否かを判断し、緊急性が否定されたらそのほかの疾患を考えて対応します。薬剤師は、愁訴を持つ来局者がプラマリ・ケアの入口で最初に出会う医療人です。薬剤師の適切な臨床判断が来局者の予後を左右します。今回は、前回に引き続いて昭和大学医学部薬理学講座医科薬理学部門の木内祐二教授に腹痛の臨床判断について解説していただきました。

Question

症例 市販の胃薬を求めて来局した38歳男性 Bさん

今朝4時過ぎに、みぞおちのあたりがシクシクして目が覚めたBさん。我慢していたものの、痛みは次第に強くなり、締め付けられるような激痛が持続し、背中の左側も痛みだした。うずくまっていると少しは楽。吐き気も次第に強まり、一回吐いたら少し楽になった。熱は午前8時過ぎに37.2℃だった。昨夜は、中華レストランで会社の上司の送別会があり、久しぶりにかなりの量の飲食をした。今は午前9時で、これから営業で外回りがあるので、痛みを抑える薬がほしい。持病はないので特に薬は飲んでいない。

症候別スキルアップ【第2回】腹痛の画像2

腹痛の臨床判断で重要な緊急性の高さ

腹痛は腹部臓器だけでなく多様な疾患で生じます。腹痛の原因で最も多いのは急性胃腸炎で、腹痛を主訴に来院する患者の30%にみられますが、胃・十二指腸潰瘍、胆石症、胆嚢炎、慢性便秘、尿管結石、過敏性腸症候群も日常臨床でしばしば遭遇する疾患です。医療提供施設である薬局では、腹痛の背後にある疾患を来局者から得られた情報から推測し、緊急性や重症度を判断してカウンセリング、生活指導、OTC薬、受診勧奨、緊急連絡の中から最も適切な対応方法を選択(トリアージ)しなければなりません。腹痛に限らず臨床判断で見逃してはならないのが「緊急性の高い疾患」です。激しい腹痛を伴う場合、速やかな診断と手術を含む緊急治療を必要とし、見逃すと致命的になるような急性腹症を発生させる疾患を思い浮かべて、表1のような緊急性の高い疾患の有無をみきわめることが重要です。
さらに、腹痛は腹腔内臓器の疾患に加えて、胸部疾患、代謝性疾患、精神疾患、皮膚疾患などでも生じる可能性があり、これらの疾患も念頭に置くことを忘れないようにしましょう。

表1 腹痛を生じる頻度の高い疾患と見逃してはいけない緊急性の高い疾患の代表例
頻度の高い疾患 見逃してはいけない緊急性の高い疾患
  • 急性胃腸炎
  • 胃・十二指腸潰瘍
  • 胆石症・胆嚢炎
  • 慢性便秘
  • 尿管結石
  • 過敏性腸症候群
  • 急性虫垂炎
  • 急性膵炎
  • 絞扼性イレウス
  • 消化管穿孔
  • 心筋梗塞
  • 大動脈解離
  • 子宮外妊娠破裂
  • 卵巣嚢腫茎捻転

木内氏の資料を参考に編集部作成

腹痛のメカニズム

腹痛は発生機序により内臓痛と体性痛に分けられます(表2)。内臓痛は内臓器官自体から内臓神経を介して生じる痛みで、漠然とした疼痛、鈍痛であることが多いのですが、管腔臓器の閉塞(胆石、イレウス、尿管結石など)では臓器平滑筋の強い攣縮が起こって間欠的に激しい痛みが生じます。体性痛は知覚神経系(体性神経)に対する刺激や炎症の波及によって生じ、痛みの部位が明瞭で、持続的で刺すような鋭い痛みが認められます。腹膜に炎症が広く及ぶと、腹膜刺激症状として、腹部を圧迫して急に手を離したときに強い痛みが生じる反跳痛や、腹部を軽く圧迫したときに腹壁が緊張して硬くなる筋性防御を認めます。
また、疾患によっては障害されている臓器と無関係な場所に痛みを感じることがあります。このような放散痛(関連痛)は内臓痛を伝える神経に支配されている皮膚が痛みを感じるためで、胆石症では右肩、膵炎では左背部、尿管結石では患側鼠径部、背部に放散痛を認めることがあります

表2 内臓痛と体性痛の特徴
  内臓痛 体性痛
症状 鈍痛や灼熱感
激しい疝痛(キリキリ)もあり
間欠的
刺すような鋭い痛み
持続的
部位 正中線上が多い
痛みの部位が不明瞭
痛みの部位が明瞭で限局的
自律神経症状
(悪心・嘔吐、発汗、顔面蒼白)
伴うことが多い 伴うことは少ない
体動の影響 小さい 大きい
食事や排便の影響 大きい 小さい
触診 圧痛点が明瞭でない
(そのあたりが痛い)
圧痛点と腹膜刺激症状
(そこが痛い)
治療 鎮痙薬 鎮痛薬

木内氏の資料を参考に編集部作成

腹痛を臨床判断するための疾患ごとの特徴

表3に腹痛を生じる代表的な疾患を示します。

表3 腹痛を生じる代表的な疾患
消化管 流性食道炎、急性胃粘膜病変・急性胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、 胃アニサキス症、胃がん、食中毒、急性(感染性)腸炎、腸閉塞(イレウス)、 腸重積症、急性虫垂炎、憩室炎、クローン病、潰瘍性大腸炎、大腸がん、 ヘルニア嵌頓、過敏性腸症候群、ベーチェット病、消化管穿孔、 汎発性腹膜炎、慢性便秘
肝・胆・膵 急性肝炎、肝膿瘍、胆石症、急性胆嚢炎、胆管炎、急性膵炎、 慢性膵炎、膵がん
循環器 心筋梗塞、狭心症、急性心膜炎、腹部大動脈瘤破裂、大動脈解離、 上腸間膜動脈閉塞症、虚血性腸炎
呼吸器 肺炎、胸膜炎、肺血栓塞栓症、気胸
泌尿器 腎盂腎炎、腎結石、尿管結石、膀胱炎
生殖器 急性付属器炎(卵管炎など)、卵巣嚢腫茎捻転、子宮内膜症、子宮筋腫、 月経困難症、子宮外妊娠破裂、精巣捻転、前立腺炎
そのほか うつ病、神経症性障害、脾梗塞、ポルフィリン症、 糖尿病性ケトアシドーシス、帯状疱疹、ヘノッホ・シェーンライン紫斑病

木内氏の資料を参考に編集部作成

1. 頻度の高い疾患

はじめに、腹痛の発生頻度が高い疾患を、消化器疾患、泌尿器疾患、生殖器疾患、精神疾患の順に説明します。
逆流性食道炎は、胃酸が食道に逆流し、食道粘膜にびらんや潰瘍が生じるため、胸やけ、呑酸、心窩部の腹痛、咳などを示します。下部食道括約筋の弛緩、胃酸分泌亢進、腹圧上昇などが原因となり、夜間に多くみられます。
急性胃炎は、暴飲暴食、ストレスなどを原因に胃粘膜に急性炎症が生じて発症するものを指し、上腹部痛を主訴とします。急性胃炎の中でも、腹痛、出血を中心として急激に発症し出血性びらん、出血性胃炎を示すものは急性胃粘膜病変と呼び、原因の60%は薬剤です。消化性潰瘍である胃潰瘍と十二指腸潰 瘍では腹痛の起こり方が違います。胃潰瘍は食後の痛みが多く、十二指腸潰瘍は空腹時に痛みを訴えることが多くなります。感染性腸炎は、病原微生物の感染により、腹痛、下痢、嘔吐、発熱などの症状を呈します。細菌性とウイルス性の2 種類に大別されますが、原因によって重症度は大きく異なります。過敏性腸症候群は、大腸の機能的けいれんにより、腹痛や便秘、下痢を繰り返す疾患です。若年女性に多いとされます。慢性便秘は、多くは器質的な異常がみられない便秘で、腹部に膨満感や不快感があるのみのタイプと、ズキズキとしたけいれん性の痛みを伴うタイプがあります。胆石症は、疝痛、発熱、黄疸が主要な症状で、肥満の方や女性に多いとされます。急性胆嚢炎・胆管炎は、胆汁のうっ滞に細菌感染症が加わって発症し、胆石を伴うことが多く、意識障害やショックなどに至り重篤化することもあります。
尿管結石による疝痛は、うずくまるような激しい疼痛発作で、通常20〜60分間持続し、閉塞部位によって背部から側腹部に痛みが生じます。急性膀胱炎は女性に多く、頻尿、排尿痛、尿混濁、残尿感とともに腹部不快感、下腹部痛を認め、慢性膀胱炎は基礎疾患を有する高齢者に多くみられますが症状は軽度です。
急性付属器炎(子宮内膜炎、卵管炎、卵巣炎など)では、うずくような、と表現されることが多い下腹部痛に加えて発熱、性交痛、不正性器出血、帯下の増加が認められます。
子宮内膜症は、子宮内膜様組織が子宮内膜以外の部位で増殖します。痛みは月経に伴いますので、閉経後に痛みは消失します。子宮筋腫は、子宮平滑筋の良性腫瘍であり、過多月経や不妊症にもつながることがあります。さらに、うつ病や神経症性障害などの精神疾患では、頭痛のほかに不眠、腹痛、下痢、食欲不振といった全身の不調を訴えます。

2. 緊急性の高い見逃してはいけない疾患

見逃してはならない疾患も多領域にわたります。消化器疾患の急性虫垂炎、急性膵炎、腸閉塞、腹膜炎などのほか、心筋梗塞、狭心症、腹部大動脈瘤破裂、大動 脈解離、異所性(子宮外)妊娠破裂、糖尿病性ケトアシドーシスなども緊急性の高い腹痛を訴えます。
急性虫垂炎の痛みは心窩部から臍周囲、右下腹部へと数時間で移動します。38.5℃以上の発熱、白血球数15,000/μL以上、腹膜刺激症状のいずれか1つがあれば手術適応となります。急性膵炎の典型例はアルコールの大量摂取後、数時間で発症します。心窩部、上腹部に強い持続痛を認め、約半数の症例では左背部の放散痛が認められるといわれています。前屈位で痛みが軽減することが多いです。
緊急性の高い消化器疾患には、このほか、近年、日本でも増加している大腸憩室症や、腸閉塞、消化管穿孔、腹膜炎が挙げられ、多くは激しい腹痛が生じます。消化管穿孔や腹腔内臓器の重症な疾患に併発する腹膜炎では、腹膜刺激症状を示し、急速に重篤化します。
心筋梗塞・狭心症は、一般には締め付けられるような強い胸痛発作が生じますが、心窩部痛を訴えることもあります。狭心症の痛みが数分であるのに対して、心筋梗塞では30分以上痛みが持続します。背部や左肩の放散痛、呼吸困難、悪心・嘔吐を伴うことも多いです。腹部大動脈瘤破裂や腹部大動脈解離では、突然の激しい腹痛、背部痛で発症します。破裂や解離するまでは自覚症状に乏しいのですが、拍動する皮下腫瘤を触れ、腹痛、腰痛のほか、腹部膨満感を訴えるケースもあります。高齢者に多い上腸間膜動脈閉塞症は、突然の激痛で発症し、初期は臍周囲の間欠的な疝痛ですが、次第に持続性に変わり腹部全体の痛みとなります。虚血性腸炎も同様に高齢者に多く、突然の激痛とともに下痢・下血、悪心・嘔吐を生じることがあります。
異所性(子宮外)妊娠の場合、一般に無症状のことが多く、流産、破裂時は突然の下腹部痛(激痛)が襲います。破裂後は早急に外科的切除を行わなければならないので、妊娠可能年齢の女性における急性腹症では常に念頭に置くべきです。
高度のインスリン作用不足で起こる糖尿病性ケトアシドーシスは、悪心・嘔吐、腹痛、頭痛、意識障害などのほか、高血糖による多飲、多尿、口渇、脱水症状などが認められます。1型糖尿病に多い急性合併症ですが、2型糖尿病でもインスリンの中断、暴飲暴食、感染などが誘因になります。

3. そのほかの疾患

クローン病は、右下腹部痛のほか、慢性下痢や体重減少、発熱、痔瘻などがみられることがあります。潰瘍性大腸炎では、下痢、粘血便、左下腹部痛、発熱などを認めます。
胃がんや大腸がん、膵がんは、初期には腹痛がみられないことが多く、進行するにつれ、鈍痛から痛みが徐々に増強します。また、腹部の帯状疱疹で発疹に先行して痛みが起きることもあります。
表4に腹痛を訴える代表的疾患の特徴をまとめました。来局者の訴えはさまざまですが、効果的・効率的に質問することで腹痛の原因となる疾患をある程度推測することができます。また、「急性腹症診療ガイドライン2015」(急性腹症診療ガイドライン出版委員会、医学書院)は、腹痛の部位、性状などから緊急を要する疾患の鑑別方法を解説しているので、参考にしてください。

表4 代表的疾患の腹痛の特徴(LQQTSFA)
症状の特徴 疑われる疾患
部位(Location) 心窩部痛 逆流性食道炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、
急性膵炎、慢性膵炎、急性胃粘膜病変、心筋梗塞、 狭心症、腹部大動脈瘤破裂、胆石症、胆嚢炎、
胆管炎、虫垂炎初期、右肺炎、胸膜炎
右季肋部痛 胆石症、胆嚢炎、胆管炎、十二指腸潰瘍、
急性肝炎、肝膿瘍、急性膵炎、右肺炎、右尿管結石
左季肋部痛 胃潰瘍、腎盂腎炎、急性膵炎、腎結石、
左肺炎、左尿管結石、脾梗塞
臍部痛 虫垂炎初期、胆石症、急性腸炎、
急性膵炎、腸閉塞、上腸間膜動脈閉塞症、
大動脈解離、 腹部大動脈瘤破裂
右下腹部痛 虫垂炎(中期~進行期)、クローン病、憩室炎、
腸炎、右尿管結石、右卵巣嚢腫茎捻転、
急性付属器炎(卵管炎など)、子宮外妊娠破裂、子宮内膜症
左下腹部痛 左尿管結石、左卵巣嚢腫茎捻転、潰瘍性大腸炎、
憩室炎、慢性便秘、過敏性腸症候群、 子宮外妊娠破裂、子宮内膜症、
急性付属器炎(卵管炎など)、大腸がん
下腹部痛 腸閉塞、子宮外妊娠破裂、子宮内膜症、精巣捻転、膀胱炎
腹部全体の痛み 腹膜炎、腹部大動脈瘤破裂、食中毒、
急性胃腸炎、解離性障害(ヒステリー)、 ポルフィリン症、過敏性腸症候群
性状(Quality)
程度(Quantity)
間欠的(疝痛発作) 胆道結石、尿管結石、腸閉塞
持続的 胆嚢炎、膵炎、消化管穿孔、腹膜炎
激痛 腹部大動脈瘤破裂、大動脈解離、消化管穿孔、
異所性(子宮外)妊娠破裂、卵巣嚢腫茎捻転、
上腸間膜動脈閉塞症、胆道結石、尿管結石、腸閉塞
関連痛(放散痛) 膵炎(左背部)、胆石症、胆嚢炎(右肩、右背部)、尿管結石(患側鼠径部、背部)
時間と経過 (Timing)
状況 (Setting)
いつから 突発性 腹部大動脈瘤破裂、大動脈解離、
異所性(子宮外)妊娠破裂、心筋梗塞、消化管穿孔
急激~急性 胆石症、尿管結石、腸閉塞、急性膵炎、
急性胃腸炎、腹膜炎、急性虫垂炎、憩室炎、 急性付属器炎
徐々に増強 各種臓器の悪性腫瘍
反復的(慢性) 過敏性腸症候群、慢性便秘、胃・十二指腸潰瘍、
クローン病、潰瘍性大腸炎、精神疾患
きっかけ 飲酒(暴飲暴食)後 膵炎、急性胃炎・急性胃粘膜病変
薬物服用後 急性胃炎・急性胃粘膜病変(NSAIDs)
心理的ストレス 胃・十二指腸潰瘍、過敏性腸症候群、精神疾患
寛解・増悪因子 (Factor) 空腹時の心窩部痛 十二指腸潰瘍
食直後の心窩部痛 胃潰瘍
排便・排ガスで変化 大腸疾患
高脂肪食摂取後増悪 胆石症、胆嚢炎、膵炎
前屈位で軽快 膵炎
随伴症状
(Associated
manifestation)
発熱 感染性疾患、炎症性疾患(悪性腫瘍でも)
悪心・嘔吐 消化管疾患、肝・胆・膵疾患、尿管結石
黄疸 胆道・膵疾患、肝炎
下痢 種々の大腸炎、過敏性腸症候群、脂肪性下痢:膵疾患
便秘 慢性便秘、腸重積、過敏性腸症候群、大腸がん
血便 下部消化管出血(大腸がんなど)、粘血便:虚血性大腸炎、潰瘍性大腸炎
黒色便 上部消化管出血(胃・十二指腸潰瘍)
不正性器出血 婦人科疾患
血尿 泌尿器系疾患

木内氏の資料を参考に編集部作成

腹痛におけるLQQTSFA

腹痛の部位(L)は疾患を推測するための重要な情報です。「どこが痛いか」を確認するためには図1のように腹部を7部位に分けて聴取するのが実際的です。腹部全体が痛いと訴える場合は、急性胃腸炎、食中毒、過敏性腸症候群、腹膜炎、腹部大動脈瘤破裂、解離性障害(ヒステリー)といった疾患が推定されます。心窩部に痛みを感じることもある心筋梗塞、あるいは急性虫垂炎のように痛みが移動する場合もあり、消化管、胆道疾患の初期の内臓痛では正中線上に痛みを感じますが、腹痛部位に一致した臓器に病変が潜んでいることが多いです。

図1 腹痛の部位

図1 腹痛の部位の画像

木内氏の資料を参考に編集部作成

痛みの性状(Q)と程度(Q)からも疾患を推測できます。疾患によって、あるいは重症度や進行度によって激痛から鈍痛まで程度は大きく違います。間欠的な痛み(疝痛)なら胆道結石、尿管結石、腸閉塞などが考えられます。
発症後の時間と経過(T)に関しては、突発的な激痛を訴えたら腹部大動脈瘤破裂、大動脈解離、消化管穿孔、心筋梗塞といった緊急性の高い疾患が考えられ、急激~急性(数時間~数日で悪化)の発症ならば急性の感染症・炎症や結石などを疑い、数週から数ヵ月かけて徐々に増強する場合は悪性腫瘍を疑います。一方、反復的(慢性)に痛いのであれば、胃・十二指腸潰瘍や過敏性腸症候群、慢性便秘、精神疾患などの可能性を考えます。
発症の状況・きっかけ(S)として飲酒、薬物服用、心理的ストレスなどがあるかを聴取することも、疾患を推測するために必要です(表4)。腹痛が寛解あるいは増悪する因子(F)を聞いても疾患を推測するヒントが得られます。たとえば排便、排ガスで痛みが軽減すれば大腸疾患、高脂肪食を食べて数時間後に腹痛が起これば胆道疾患や急性膵炎が疑われ、女性では月経周期のどの時点で痛みが生じるかも重要なポイントになります。
発熱、悪心・嘔吐、黄疸、便秘、下痢、血便、血尿、女性の不正性器出血などは腹痛を生じる疾患の代表的な随伴症状(A)なので、これらについても聴取することを忘れないようにしましょう。また、既往歴は再発の有無を判断する上で重要な情報になります。たとえば糖尿病の既往があれば、そのリスクを聴取することによって糖尿病の悪化を疑うことができるでしょう。

LQQTSFAを組み合わせた腹痛の疾患推測

これらの情報(LQQTSFA)を組み合わせ、たとえば上腹部が痛く、発熱もあり、放散痛を伴う場合は、急性膵炎や胆管炎、胆嚢炎といった疾患が考えられます。なお、急性膵炎は直前の飲酒が誘因となり、前屈位で腹痛が和らぐことが多いです。胆管炎、胆嚢炎では右季肋部の圧痛が認められ、黄疸が生じることもあります。急性の腹痛で、その痛みが差し込むような間欠的な痛みで、さらに黄疸を伴えば胆石症の可能性が高くなり、疝痛に加えて血尿や鼠径部への放散痛が認められれば尿管結石の可能性が高くなります。このように腹痛に関するLQQTSFAを聴取すると疾患はかなり絞り込めます。
また、面談で得られた情報から、原因疾患を鑑別・推測するためのアルゴリズム例を図2に示します。疾患名の下部に示してあるのは、疾患を推測するための「トドメの質問・情報」で、先ほど述べたように、急性の右季肋部の疝痛発作で放散痛や黄疸があれば胆石症、女性の月経時に増悪する反復性の下腹部痛ならば子宮内膜症が強く疑われます。
しかし、疾患を1つに絞り込む必要はありません。来局者への質問だけで疾患を推測するわけですから、 総合的に判断して数疾患まで絞り込めば十分です。

図2 腹痛の臨床判断アルゴリズム

図2 腹痛の臨床判断アルゴリズムの画像

木内氏の資料を参考に編集部作成

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