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脳梗塞の急性期治療と再発予防

2017年7月号
脳梗塞の急性期治療と再発予防画像

脳梗塞は、脳卒中全体の約75%を占めます。ひとたび発症すると手足の麻痺や言語障害などが生じ、症状が重かったり治療が遅れたりすると、後遺症として残ってしまいます。脳卒中は日本人の死亡原因の第4位ですが、介護が必要な身体障害の原因の第1位です。後遺症を残さないようにするためには早期発見・早期治療が重要とされます。今特集では、脳梗塞の予兆、急性期の治療、リハビリ、再発予防など、発症前後の対応を中心に、山王病院・山王メディカルセンター脳血管センター長で国際医療福祉大学教授の内山真一郎氏に解説していただきます。

脳梗塞は加齢により増えるが、若年性脳梗塞も増加している

脳の血管が詰まったり、破れて出血したりする脳血管障害のうち、急激に麻痺やしびれなどの神経症状を起こす病気を「脳卒中」といいます。脳卒中は、「出血性脳卒中」と「虚血性脳卒中」に大別されます。出血性脳卒中には「脳出血」と「くも膜下出血」の2種類があります。一方、「虚血性脳卒中」は「脳梗塞」のことを指し、脳の血管が詰まって血流が滞ることで発症します(図1)。

図1 脳卒中の分類

図1 脳卒中の分類の画像

内山真一郎著: 図解・決定版 脳梗塞の予防がよくわかる最新知識, 日東書院, 2014
を参考に作成

脳卒中の最大の危険因子は加齢です。高齢化が進む日本では、脳卒中患者の絶対数はいまだに増えており、2010年には300万人を突破しました。日本人の5人に1人は生涯のどこかで脳卒中を発症するといわれているほど多い病気です。脳卒中が問題なのは、身体障害の最大の原因だからです。亡くなる方は年々減少しており、現在、死亡原因では、がん、心疾患、肺炎に続き第4位となっていますが、寝たきりや介護・医療の対象となる病気としては、脳卒中は第1位を占めています。WHO(世界保健機関)も、死亡または介助を要する患者さんの総数が、疾患の重要性を示す指標になると強調しています。死亡または介助を要する患者数は、日本に限らず世界中で脳卒中が断トツに第1位です。
日本はもともと高血圧が主因となる出血性脳卒中が多かったのですが、最近は虚血性脳卒中の比率が高くなっており、脳卒中全体の4分の3以上を占めています。欧米では脳卒中イコール虚血性脳卒中というほど虚血性脳卒中が多く、9割以上を占めます。日本は急速に欧米に近づいています。出血性脳卒中の原因となる高血圧の管理は進歩しましたが、逆に食生活の欧米化などで、糖尿病や脂質異常症、メタボリックシンドロームなどの代謝性疾患が増え、そのために病型が変化したと考えられます。科学的に証明されている脳梗塞の危険因子は8つあります(表1)。

表1 脳梗塞の危険因子
1 高血圧
2 糖尿病
3 脂質異常症(高LDL血症、低HDL血症)
4 心房細動
5 喫煙
6 大量飲酒
(適度な飲酒はむしろ脳梗塞の発症を抑えるとされる)
7 メタボリックシンドローム
8 CKD(慢性腎臓病)

内山氏の話を参考に作成

高齢者の脳梗塞が増える一方で、30歳代、40歳代で脳梗塞を発症する「若年性脳梗塞」も増加しています。若年性脳梗塞の増加は、代謝性危険因子が若い人にも蔓延していることが一因ですが、治療法や予防法があまり確立されていない原因不明の脳梗塞や特殊な原因の脳梗塞が多いことも特徴です。たとえば、抗リン脂質抗体症候群は自己免疫疾患の一種で、血液中に抗リン脂質抗体ができ、これが血液を凝固させて、血栓ができやすくなります。圧倒的に女性が多く、習慣性流産の原因ともなります。それ以外にも片頭痛、動脈解離、血管攣縮、薬物中毒なども原因になります。米国では、若年性脳梗塞の最大の原因は薬物中毒といわれています。薬物は麻薬関係だけでなく、低用量ピルや治療に使用されている薬も乱用すると血管攣縮を誘発して脳梗塞を引き起こす原因になります。

脳梗塞の3つの分類 重症なタイプが増えている

脳梗塞は血管が詰まる原因によって、おもに「アテローム血栓性脳梗塞」「ラクナ梗塞」「心原性脳塞栓症」の3タイプに分類されます(図2)。

図2 脳梗塞のタイプと梗塞のメカニズム

図2 脳梗塞のタイプと梗塞のメカニズムの画像

内山真一郎著: 図解・決定版 脳梗塞の予防がよくわかる最新知識, 日東書院, 2014を参考に作成

アテローム血栓性脳梗塞

脳の太い血管や頸動脈など、太い血管の動脈硬化によって起こるタイプです。「大血管病」とも呼ばれます。動脈硬化が進行すると血管の壁にアテローム(粥腫)ができます。太い血管に起因するので、梗塞も比較的大きく、症状も重くなりがちです。運動麻痺や感覚障害、失語、失行、失認などの発作が起こりやすく、予兆として、後述する「一過性脳虚血発作(TIA)」が起こることも少なくありません。

ラクナ梗塞

脳の太い動脈から枝分かれした穿通動脈という細い動脈の動脈硬化によって起こるタイプです。大血管病に対して、「小血管病」と呼ばれます。障害される範囲が比較的小さいため、ほかのタイプと違って大きな発作は起こらず、運動麻痺やしびれなどの感覚障害が単独で現れるのが特徴です。

心原性脳塞栓症

心臓にできた血栓が脳に運ばれ、脳の血管を詰まらせることで起こります。心臓にできる血栓はサイズが大きく、脳の太い血管を詰まらせることから、脳の組織が広範囲に障害され、脳梗塞のなかでももっとも重症化しやすく、死亡率も高くなっています。心原性脳塞栓症の3分の2以上は、心房細動という不整脈が原因となります。心房細動が起こると、心房が細かく震えて収縮がうまくできなくなり、心房内の血流がよどんで血栓ができやすくなります。
脳梗塞は、これら3つの病型が大体3分の1ずつで、合計で9割以上を占め、若年者で多いその他の原因は1割以下となっています。近年、増えているのがアテローム血栓性脳梗塞と心原性脳塞栓症です。比較的軽症で済むラクナ梗塞が減り、重症化しやすいアテローム血栓性脳梗塞と心原性脳塞栓症が増えていることは問題です。アテローム血栓性脳梗塞は糖尿病などの代謝性危険因子が増加していること、心原性脳塞栓症は加齢によって増える心房細動が増えていることが、増加の理由です。
どのタイプであれ、片側の手足が動かない、顔がゆがむ、ろれつが回らないなどの症状は同じですし、急性期の治療は基本的に同じです。ただ、タイプによって再発予防のための治療は異なるため、脳梗塞の原因をできる限り詳しく探ることが大事になってきます。

脳梗塞の前兆となる 一過性脳虚血発作(TIA)を見逃さない

一過性脳虚血発作(TIA)とは、一時的に脳の血管が詰まることにより、片側の手足の麻痺やしびれ、言語障害など脳梗塞と同じ症状が突然起こり、数分から数十分、長くても24時間以内に症状が消えてしまうものをいいます。TIAを起こすと、その後3カ月以内に脳梗塞を発症するリスクは約15%で、しかもその半分以上は2週間以内に発症し、さらにその約30%は24時間以内に発症するとされます。つまり、TIAを起こして間もないほど脳梗塞を続発する危険性が高いのです。TIAと急性虚血性脳卒中は連続的に位置する同じ病態なので、それらを区別せず、「急性脳血管症候群」と総称して、発症後早期のTIAを含めて急性疾患の対象にするべきと考えます。実際、発症直後のTIAを迅速に診断して治療を開始すれば、3カ月以内の脳梗塞発症率を約5分の1に減らせることが海外の研究で報告されています。発症直後のTIAの救急対応は、脳卒中の水際作戦としてきわめて有効なのです。
ところが、専門医以外ではTIAが救急疾患だという認識が十分ではありません。専門医ではない医師だと、「脳卒中のような症状でしたが、そうでなくてよかったですね。また何かあったら来てくださいね」などといって、自宅に帰してしまうようなケースもあります。自宅に戻ったとたんに脳梗塞を起こして、言語障害や麻痺などの後遺症が残ってしまうこともあります。TIAのうちに早期に治療すれば脳梗塞を起こさずに済みます。症状がすぐに消えてもかならず専門医を受診することが大切です。
TIAの代表的な症状は次の3つです。①片側の麻痺やしびれ、②言葉がうまくしゃべれない、③片目が見えなくなる。①と②は脳梗塞と同じですが、③はTIAの特徴的な症状です。片側の目だけが突然、シャッターを下ろしたように急に見えなくなります。頸動脈の動脈硬化が進み、アテロームが破れてできた血栓がはがれて、眼の動脈に流れて詰まらせるために起こる症状で、「一過性黒内障」といいます。
TIAと間違えられやすい症状として、失神、めまいがあります。失神は脳全体に血流が行かなくなることで起こります。つまり、原因は脳ではなく、心臓にあります。TIAではある特定の脳血管が一時的に詰まるだけなので、意識は失いません。また、めまいは、メニエール病や良性発作性頭位めまい症などの耳鼻科疾患によるめまいが大部分ですが、急に起こってすぐに消えてしまうめまいや、中年以降で高血圧や糖尿病などの危険因子をもっている人にめまいが起こったときは、TIAを疑ってMRI(磁気共鳴画像)やMRA(磁気共鳴血管画像)、頸動脈エコーなどで調べます。脳梗塞の前触れであるめまいは、呼吸や循環の中枢がある脳幹部の虚血で起こるといわれ、ときに重篤な状態になることもあるので注意が必要です。
TIA発症後の脳卒中リスクを評価する指標に「ABCD2スコア」があります(表2)。このスコアが高いほど脳梗塞を発症する危険性が高く、スコアの合計が4点以上のときは緊急入院をする必要があります。

表2 TIAの脳卒中発症リスクスコア
   (ABCD2スコア)
A Age=年齢
  60歳以上 1点
B Blood pressure=血圧
  140/90mmHg以上 1点
C Clinical symptoms=症状
  体の片側の麻痺 2点
  麻痺を伴わない言語障害 1点
D Duration=持続時間
  症状の持続時間が60分以上 2点
  10〜59分 1点
D Diabetes=糖尿病
  あり 1点

出所: Johnston SC. et al: Lancet 369: 283-292. 2007

内山真一郎著: 働き盛りを襲う脳梗塞, 小学館新書, 2014を参考に作成

急性期の治療は時間との勝負 異変を感じたら救急車を呼ぶ

ある日突然、手足が動かない、言葉がしゃべれないなどの脳梗塞の症状が出たら、しばらく様子を見ようなどと考えず、すぐに救急車を呼ぶようにします。一刻も早く治療を開始する必要があるからです。脳梗塞が起こり、脳の血流が途絶えると脳組織は壊死します。血流が途絶えている時間が長いほど壊死は広がり、片麻痺や言語障害などの後遺症が強く残ります。したがって、この急性期に血栓を取り除いたり、血栓を溶かしたりする治療を行うことが重症化や後遺症を防ぐカギになります。
急性期の内科的治療で今やスタンダードになっているのが、「t-PA(組織プラスミノーゲン活性化因子)静注療法」です。これはt-PAという血栓溶解薬を静脈点滴注射し、脳の動脈を詰まらせている血栓を溶かして血流を再開通させる治療法で、アテローム血栓性脳梗塞、ラクナ梗塞、心原性脳塞栓症の病型に関係なく治療できます。以前は脳梗塞を発症してから3時間以内なら有効といわれていましたが、その後のデータの集積により、最近は4.5時間以内までは有効とされます。ただし、それは発症してから治療を開始するまでの時間です。診察して検査をし、薬と点滴の準備をして治療を開始するまでの時間を1時間とすると、少なくとも発症後3.5時間以内には入院する必要があります。t-PA静注療法を受けた患者さんは、受けていない患者さんに比べて、完全回復するか後遺症が軽くなる人が約3割も多くなります。ただ、時間制限があることが難点で、t-PA静注療法を受けることができた患者さんは、脳梗塞を起こした人の1割以下となっています。
t-PA静注療法は、過去に脳出血の既往がある人、脳梗塞の範囲が広い人、すでにワルファリンなどの抗凝固薬を投与されていて出血しやすい人、血圧が非常に高い人などには使えません。
最近は、t-PA静注療法よりも有効な血管内治療(機械的血栓除去術)もあります。これは脳動脈内に血栓回収器具(デバイス)を挿入して、血栓を吸引して除去する治療法の総称で、脳梗塞の発症から6時間以内まで有効とされます。さらに最近は医療機器が進歩し、ステントという網状の筒で血管を広げながら血栓を回収する器具も登場しています。脳の細い血管の血栓を取り除くには血栓溶解療法のほうがよいですが、太い血管を詰まらせるのは大きな血栓なので血栓溶解療法では溶けません。その場合は血管内治療が必要です。血栓溶解療法をして再開通できないときは血管内治療をする。もしくは血栓溶解療法を行ってから血管内治療をしたほうが血栓を除去しやすいといわれています。最新デバイスを使用した血管内治療によって、血管の再開通率や予後の改善率は飛躍的に向上しています。
脳梗塞を起こしてから数時間以内であればt-PA静注療法や血管内治療などが検討されますが、残念ながらほとんどの患者さんはそれ以降に入院します。その場合は、基本的に抗血栓薬による治療を行います。脳梗塞のタイプによってさまざまな薬物療法が行われます(表3)。

表3 急性期に行われるおもな治療
治療法 特徴 使用されるおもな薬 対象となる脳梗塞
アテローム血栓性脳梗塞 ラクナ梗塞 心原性脳塞栓症
血栓溶解療法 発症4.5時間以内に行う t-PA
(アルテプラーゼ)
点滴で血栓を溶かす
局所線溶療法 発症後4.5~6時間以内に行う ウロキナーゼ
カテーテルを使って血栓を溶かす
抗凝固療法 凝固因子の活性化を抑えて
血栓ができるのを防ぐ
ヘパリン
アルガトロバン
抗血小板療法 血小板の働きを抑えて
血栓ができるのを防ぐ
オザグレル
アスピリン
抗浮腫療法 脳の腫れを抑えて
頭蓋内圧が上がるのを防ぐ
濃グリセリン
マンニトール
脳保護療法 活性酸素の働きを抑えて
脳の組織の壊死を防ぐ
エダラボン

内科的治療では、上記の治療法を組み合わせて行うことが多くなっています。

内山真一郎著: 図解・決定版 脳梗塞の予防がよくわかる最新知識, 日東書院, 2014を参考に作成

近未来的に期待されているのが、再生医療です。造血幹細胞は、以前は脳に移植する方法しかなかったのですが、現在はt-PAのように静脈注射をすれば造血幹細胞が脳に移行して、血管が詰まることで死滅した脳の神経細胞が再生する可能性が指摘されており、すでに治験が始まっています。

入院したらすぐに始めるリハビリ 廃用症候群を避けるのが目的

脳梗塞の後遺症を最小限に抑えるためには、急性期の適切な治療とともに、リハビリテーションが重要になります。脳梗塞のおもな後遺症には、言語障害(失語症、構音障害)、体の左右どちらかの半身が麻痺する片麻痺、うつ病、認知症(血管性認知症)などがあります。リハビリは障害を受けた機能の回復、回復した機能の維持、その後のQOLを高めるための代替機能の獲得などを目的に行われます。脳卒中で倒れた人は危険だから、なるべく動かさないで寝かせておこうという時代が長く続きましたが、今ではリハビリはなるべく早くから始めたほうがよいと考えられています。状態の許す限りは、入院したらすぐリハビリの対象になります。
最初はリハビリテーション・ケアといって、床ずれの予防や手足を正しい位置や形に保つためにベッドサイドで看護師を中心としたケアが行われます。また、急性期は寝たきりの状態が続くので、麻痺があると手足が拘縮してしまいます。それを防ぐために、たとえ意識のない患者さんでも理学療法士がゆっくりと手足を動かす運動をします。
起き上がれて、椅子に座れるようになったら、本格的なリハビリを始めます。早期からリハビリをしたほうがよい理由は、廃用症候群の予防です。廃用症候群とは、病気やケガなどで安静状態が長く続くことで、心身の機能が低下し、関節の拘縮や筋力低下、骨粗鬆症、心肺機能低下、知的活動の低下などで、ADL(日常生活動作)が低下してしまう状態をいいます。そのまま放置すると寝たきりの状態に進みかねません。リハビリを早く開始すればするほど、リハビリの効果が期待できるといわれます。さらに、リハビリ専門医が強調するのは、リハビリは“量”が大切だということです。患者さんがつらそうだとか、かわいそうだとかいって、やめてしまっては意味がありません。
リハビリは脳梗塞を起こしてからの最初の1カ月が勝負です。その1カ月でどこまで回復するかが決まってきます。その後は回復曲線がなだらかになってきますが、6カ月までは回復する余地があるとされます。6カ月を超えると後遺症が固定してしまい、リハビリの効果は期待できなくなるのです。
ただ、リハビリをやめてしまうとまた悪くなってきますから、回復した機能を維持するためには、続けることが大事になります。そのためには本人の意志や努力が必要になってきます。リハビリ施設などは土日がお休みのところが多いですが、土日も休むことなく365日続けたほうが成績がよいとのデータも出ています。リハビリ施設などで、理学療法士や作業療法士の指導のもとに行うだけでなく、そこで学んだことを自宅でも自分1人で行うことが重要なのです。見守る家族も「かわいそうだから」などと思わず、やれることは、できるだけ自分でやらせることが重要です。家族もある程度スパルタになったほうがよいのです。
また、機能がそれ以上回復しないからと諦めるのではなく、装具を使って補うことも考えます。そのままでは歩けない人も、装具を使えば立って歩けるようになることもあります。右利きの人が右手に麻痺が残ったりするときは、利き手を左手に交換するなどの工夫も必要です。最近はロボットも進歩しており、今後はリハビリの手段としてもロボットスーツなどが普及してくると考えられます。

再発予防には抗血栓療法 タイプによって薬物が異なる

脳梗塞は再発の多い疾患です。一般住民を対象とした調査報告では、発症後1年間に約10%もの人が再発しています。したがって、急性期を過ぎ病状が安定したら再発予防のための治療も必要です。再発予防の治療では、危険因子の管理と、血栓ができるのを防ぐ抗血栓療法を同時に行います。
前述した8つの危険因子に関しては、発症予防よりもより厳格に管理します。なかでも三大危険因子(高血圧、糖尿病、脂質異常症)は食事や運動療法だけでは追いつかないので、最初から降圧薬や血糖降下薬、コレステロール低下薬を服用します。それぞれの危険因子に対して管理目標値が決まっており、血圧は140/90mmHg未満、血糖値はHbA1c値なら7%未満、脂質異常症はLDL(悪玉)コレステロール値120mg/dl未満、HDL(善玉)コレステロール値40mg/dl以上、中性脂肪値150mg/dl未満にコントロールします。
抗血栓療法は、非心原性脳梗塞と心原性脳塞栓症に分けて考えます。非心原性脳梗塞は、動脈の中にできる血小板血栓が原因になるので、抗血小板療法の適応になります。一方、心房細動を伴った心原性脳塞栓症の場合、心臓にできる血栓はフィブリン血栓なので、抗凝固療法が適応になります。この血栓の違いは、血流の速さによって説明できます。動脈の速い血流では血小板が中心になって血が固まります。静脈や心臓内では血流が遅く、できる血栓は血液凝固が関係しているため、フィブリンという血液の糸くずのようなものが固まって血栓ができます。

抗血小板療法

日本で使われている抗血小板薬はおもにアスピリン、クロピドグレル、シロスタゾールの3つです。これらの薬はそれぞれ特徴や副作用の違いがあり、その人に適した薬を選んで処方します。
アスピリンの副作用では胃腸障害が多く見られます。昔からある薬なので薬価が安いことがメリットで、海外では広く使われています。
クロピドグレルの脳卒中再発予防効果はアスピリンよりはやや有効性が高く、脳出血のリスクは同等かやや少ないとされます。ただ、クロピドグレルは、その人の遺伝子多型によって効かない人がいます(クロピドグレル抵抗性)。副作用として、まれに肝機能障害や顆粒球減少などが見られることから、肝機能が悪い人や血小板・白血球が少ない人に使用する場合は細心の注意が必要です。
シロスタゾールは3つの薬の中で、重大な副作用も出血のリスクも一番少ないのですが、頻度が高い副作用として頭痛と頻脈があり、頭痛持ちの人、脈の速い人、心不全の人などには使えません。ラクナ梗塞の人は脳出血を併発しやすいので、日本ではラクナ梗塞の人に比較的よく使われます。

抗凝固療法

経口で服用できる抗凝固薬は半世紀以上にわたってワルファリンしかなかったのですが、最近は新しい抗凝固薬(トロンビン阻害薬のダビガトラン、Xa因子阻害薬のリバーロキサバン、アピキサバン、エドキサバン)が登場し、ワルファリンに代わりつつあります。
ワルファリンは、ビタミンKを多く含む納豆や青汁、緑黄色野菜などの食物を多く摂ってしまうと薬の効果がなくなるので、それらの食品は制限されます。また、脳出血を起こしやすく、薬の効き方に個人差が大きいので受診時に毎回血液検査をして、効き過ぎていないか、効果が不十分かをチェックし、服薬量を調節する必要があります。こうした難点や手間はありますが、薬価が安く、今でも世界中で使用されています。
トロンビン阻害薬やXa因子阻害薬といった新しい抗凝固薬はビタミンKとは関係ないので、納豆などの摂取制限はありません。ワルファリンに比べ脳出血も起こしにくいので安全性も高いといえます。投与量も決まっているので、毎回血液検査を受ける必要はなく、使いやすいこともメリットです。ただ、新薬なので値段が高いこと、効果の持続時間が短いことが難点です。ワルファリンは一度ぐらい飲み忘れても心原性脳塞栓症を起こしたりしませんが、新しい抗凝固薬は十数時間しか効果が続かないため、一度飲み忘れるだけでも危険な場合があります。服薬指導では、「絶対に飲み忘れないように」としつこいぐらい伝える必要があります。
このように、それぞれの薬剤には特有の副作用や特性があるので、薬剤師さんにはそれらを把握して注意喚起していただきたいと思います。また、再発予防では、高血圧、糖尿病、脂質異常症に対する服薬が必須です。それぞれ管理目標値を達成しないと意味がありません。それらの薬をきちんと飲んでいるかどうか、残薬がないかどうか、きちんと確認していただければと思います

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