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歯周病を知る

2022年5月号
歯周病を知る 知っておきたい歯周病の知識と全身疾患との関連の画像

国民の8割が罹っているともいわれる歯周病。近年、歯周病と全身疾患が相互に影響を及ぼしていることが明らかになってきました。しかし、歯科と医科の連携は十分とはいえません。
プライマリーケアの最前線で患者の健康を支える薬剤師に、歯科から期待が寄せられています。歯科領域で活躍されているお二方に、歯周病の基本や全身疾患との関係、薬剤師の関わり方などについて聞きました。

知っておきたい歯周病の知識全身疾患との関連

歯周病の病態と治療 残存歯増加で増える歯周病

8020運動という言葉をご存知でしょうか。80歳になった時に歯が20本以上ある状態を達成しましょう、という取り組みで、近年話題になっています。厚生労働省の歯科疾患実態調査(2016年)によると、20本以上の歯が残っている人の割合は年々増加傾向にあります。
また、同調査によれば、歯周関連の自覚症状として、歯茎の腫れや痛み、出血を有する人の割合は、65歳未満の成人で15%前後、65歳以上で10%強となっています。歯周病は症状を自覚しにくいサイレントディジーズといわれますが、半面、自覚症状のある人も少なくないことがわかります。
歯周病の患者数は増えているのでしょうか。同調査の結果より、高齢者が増加する一方で、残っている歯の数が増えているという事実から、むし歯になる人口は徐々に減少傾向にあるのに対して、歯周病に侵される歯はむしろ増えていることが推察されています。

歯周病の本態は感染性炎症性疾患

歯周病は「非プラーク性歯肉疾患を除き、歯周病菌によって引き起こされる感染性炎症性疾患」と定義づけられています。
歯周病は「歯肉炎病変」と「歯周炎」の2つに大別されます。ただし、日常臨床の現場では歯周炎も歯肉炎もまとめて歯周病として患者さんに説明することがほとんどです。
 歯肉病変はプラーク性歯肉炎/非プラーク性歯肉病変/歯肉増殖の3種類、歯周炎は慢性歯周炎/侵襲性歯周炎/遺伝疾患に伴う歯周炎の3種類にそれぞれ細分化されます(日本歯周病学会編:歯周病の診断治療の指針 2007)。ここでは、歯周病の代表的な病変として、正常な状態からプラーク性歯肉炎、そして歯周炎に至るメカニズムを図解します(図1)。

図1 歯周病のメカニズム

正常
  • 歯肉の赤みや腫れがなく、歯肉ポケットが3mm以内。
  • 歯槽骨(歯の根を支える骨)が正常に機能し、歯を支えている。
歯周病のメカニズム1の画像
歯肉炎(プラーク性歯肉炎)
  • 歯周病の初期段階。原因(プラーク)を除去すると正常に戻る。
  • 歯肉の炎症が発症している。歯肉が赤くなり、充血や軽度の腫脹などがみられる。
  • 歯肉の炎症は歯肉辺縁に限局されるため、歯槽骨の破壊(吸収)は見られない。
  • 歯肉炎が進行すると、歯と歯茎の境目に歯周ポケットが形成される。清掃が行き届いていないと歯周病菌が繁殖し、プラーク(歯垢)の形成が始まる。
歯周病のメカニズム1の画像
歯周炎
  • 歯肉炎が進行し、歯周組織が破壊された/破壊されている状態。
  • 歯周ポケット内部での細菌感染による炎症が歯周組織に拡大し、歯肉の赤みや腫れが強まり、歯槽骨が失われるため歯肉の退縮(歯茎が痩せる)がみられる。
  • プラークの形成が進行し、歯肉炎で縁上に限局していたプラークが縁下まで広がる。またそれが石灰化し縁下歯石となって慢性的な歯周組織炎症の温床となる。
  • 上記の病態から、歯と歯茎の境目のポケットは正常あるいは炎症による歯肉の腫れに伴う歯周ポケット形成(仮性)から、歯周組織が破壊されることで深くなる歯周ポケット(真性)へと置き換わる。
  • 歯周病菌による炎症によって歯槽骨が破壊(吸収)される。その結果、歯の動揺や脱落が起こる。
歯周病のメカニズム1の画像
新城氏の話などをもとに作成

プラークとは

歯周病の原因であるプラークは、いわば細菌の塊です。プラークは黄白色を帯びた粘着性の物質で歯の表面に付着しています。
プラーク1mg中に1億個以上の細菌が存在するといわれています。代表的な歯周病菌はP.gingivalis(ポルフィロモナス・ジンジバリス)やT.denticola(トレポネーマ・デンティコーラ)などです。
感染症領域で「バイオフィルム(微生物が固相表面に形成した集合体)」という用語が使用されますが、歯周病ではプラークがバイオフィルムに該当します。図1に登場している「歯石」は、プラークが石灰化した死んだ細菌の塊です。歯石自体は歯周病を引き起こすことはありませんがプラークが付着しやすくなります。

歯周病菌は歯と歯茎の境目に溜まり酸素を嫌って奥で繁殖

正常な歯の状態であれば、歯周病菌は唾液によって洗い流されますが、歯肉の炎症がある場合は歯周病菌が流されずに歯と歯茎の境目の歯肉のポケットに溜まります。そして、歯周病菌はポケットで繁殖しプラークを形成します。歯周病菌は嫌気性菌であり、より酸素の少ないポケットの奥を好みます。
歯肉に炎症が起こると、そこが腫れてポケットはさらに深くなります。ポケットの深さが深くなるにつれ、歯肉からの出血や排膿がみられることがあります。歯周病が進展すると歯を支える歯槽骨が破壊されていきます(図1の右の歯周炎の段階)。

炎症を伴った深さ4ミリを超える歯周ポケットが残っていると外科的治療の対象

プラーク性歯肉炎と歯周炎は、歯肉縁上・縁下のプラークが主な原因であり、これを除去することが歯周病の治療と予防の主体となります。
歯周ポケットの深さがごく浅い状態(1〜2ミリ程度)までなら歯ブラシによるブラッシングでプラークを除去することが可能です。3ミリを超えると特殊な器具を使って行うスケーリング、ルートプレーニング*による治療が必要になる可能性が高くなります。歯周ポケットの深さが4ミリを超え、かつスケーリング、ルートプレーニングを行っても炎症が持続しているような歯周病に対しては、フラップ手術など外科的治療の対象になります。

*歯科で歯周ポケットのプラークや歯石を取り除く行為

歯周病と全身疾患 歯周病は生活習慣病

近年、歯周病は生活習慣病としても位置づけられ、全身疾患との関連が指摘されています。歯周病菌は血液とともに全身を循環し、さまざまな末梢臓器で炎症を起こします。歯周病と全身疾患との関係については、動物実験から臨床研究まで幅広く行われており、まだ解明途中のものも多いですがさまざまなエビデンスが報告されています。本稿では、疾患病態ごとに歯周病との関連をまとめました(図2、表1)。

図2 歯周病と他疾患の相関関係

歯周病と相互に関連
歯周病と相互に関連の画像

糖尿病と慢性腎臓病・腎不全は、歯周病と相互に影響があると考えられている。

歯周病が各疾患のリスク、または疾患が歯周病のリスク
歯周病が各疾患のリスク、または疾患が歯周病のリスクの画像

血管障害や低体重児出産、早産、関節リウマチ、アルツハイマー病などは、歯周病によって、発症や悪化が生じる可能性がある。骨粗しょう症は歯周病への影響が指摘されている。

新城氏ご提供
表1 疾患病態ごとの歯周病との関連
疾患・病態 概要 メカニズム
糖尿病
  • とりわけ歯周病と相互に深く関係しているとされる。
  • 糖尿病があると歯周病を発症しやすく、歯周病の状態が不良だと血糖コントロールが不良になりやすいことが明らかにされている。
  • 糖尿病によって免疫機能が低下すると感染しやすくなり、歯周病の発症・重症化を来たす。
  • 糖尿病では唾液の分泌が低下し、歯周病菌の増殖が活発になるという側面もある。
  • 歯周病によって全身に炎症が起きると、炎症性サイトカインのTNF-αなどが産生される。
  • TNF-αなどによってインスリンの働きが阻害され、血糖コントロールに影響を及ぼす(インスリン抵抗性)。
  • 通常は、血液中の糖はインスリンに反応して主に骨格筋、脂肪細胞、肝細胞に取り込まれるが、歯周炎が重症化すると細胞への糖の取り込みが阻害されると考えられている。
慢性腎臓病・
腎不全
  • 歯周病が慢性腎臓病(CKD)発症リスクの一つとなる、CKDが悪化することで歯周病が発症・重症化しやすくなるなど、歯周病とCKDの関連を示す研究が出てきている。
  • 歯周病が進行している透析患者は生命予後が不良と言われる。
  • 歯周病による炎症性サイトカインを介した血管内皮細胞の機能障害によって、高血圧の進行や動脈硬化性病変の発症からCKDの発症、増悪につながる可能性がある。
  • CKDが悪化することで免疫機能が低下し易感染性が高まり、歯周病が発症、増悪する。
血管障害
  • 歯周病罹患により虚血性心疾患の有病率や死亡率が高くなることが海外のメタ解析などで示されている。
  • 歯周病患者では健常者に比べ、全身の炎症性マーカーであるC反応性タンパク(CRP)が上昇しているため、同じくCRPが上昇する動脈硬化性疾患との関連は深いと考えられる。
  • 虚血性脳血管疾患の発症と関連があるという報告はあるもののエビデンスレベルはまだ高くない。
  • 歯周病菌が血管内皮細胞や平滑筋細胞などの血管構成細胞を傷害する、あるいは、歯周病菌に対する免疫応答が、細胞ストレスを起こして結果的に血管傷害を誘発する、などが考えられている。
低体重児出産・
早産
  • 歯周病に罹患した妊婦では、低体重児出産や早産のリスクが増加するとされている。
  • 歯肉溝の滲出液の中にあるIL-1βやTNF-αといったサイトカインの数値と、早産や低体重児出産との有意な相関がシステマティックレビューに報告されているが、機序詳細は不明。
アルツハイマー病
  • 歯周病菌のT.denticolaは、アルツハイマー病の患者さんの脳幹や大脳皮質での検出率が有意に高いことが報告されていることからも、歯周病菌の一部が脳へ移行している可能性は否めない。
  • まだ未解明の部分が多いが、歯周病による炎症サイトカインが全身に波及し、脳の炎症反応の亢進を惹起し、アルツハイマー病の病態形成に関与している可能性がある。
関節リウマチ
  • 様々な臨床・基礎研究から、歯周病は関節リウマチの発症・増悪因子となる可能性が示されている。
  • 歯周病と関節リウマチは、骨破壊や炎症性サイトカイン、破骨細胞の関与など共通の病態がある。
  • 特に歯周病菌のP.gingivalisの感染による自己抗体の産生増加やタンパク質修飾の変化が、関節リウマチ罹患の原因になる可能性が考えられている。
その他
  • 口腔内で歯周病菌の増殖が進み、唾液とともに腸に運ばれると、腸内細菌叢のバランスが崩れる。
  • 歯周病は非アルコール性脂肪肝炎(NASH) のリスク因子である可能性を示唆する研究がある。
  • メカニズムはまだ不明だが、歯周病が特定のがん(膵がん、胃がん、肺がんなど)の発症リスクを上昇させるという研究報告もある。
  • 骨粗しょう症患者では歯周病が併発しやすくなると考えられている。
  • 白血病、AIDSなども歯肉や口腔内にさまざまな症状を引き起こすことがある。
  • 食生活の乱れや喫煙、ストレスなどの環境因子も歯周病の進行を促すことが報告されている。

新城氏の話、日本歯周病学会編「歯周病と全身の健康」をもとに作成

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