国民の8割が罹っているともいわれる歯周病。近年、歯周病と全身疾患が相互に影響を及ぼしていることが明らかになってきました。しかし、歯科と医科の連携は十分とはいえません。
プライマリーケアの最前線で患者の健康を支える薬剤師に、歯科から期待が寄せられています。歯科領域で活躍されているお二方に、歯周病の基本や全身疾患との関係、薬剤師の関わり方などについて聞きました。
薬剤師による歯科と医科の橋渡し
歯肉増殖を来たす薬剤と歯周病
医薬品のなかには、副作用によって歯肉増殖を生じて歯周病を誘発・進展させるものがあります。歯肉増殖のメカニズムの1つとして、歯肉を構成する線維組織の増殖や肥厚が促される事が考えられています。
薬剤による歯肉増殖は「薬物(誘発)性歯肉増殖症」と呼ばれます。歯肉増殖の原因となる薬剤には、抗痙攣薬のフェニトイン、カルシウム拮抗薬のニフェジピン、免疫抑制薬のシクロスポリンなどがあります。これらの薬剤によって歯肉が増殖すると、増殖した歯肉と歯の間にはプラークが形成されやすく、歯周病を発症しやすくなります。口腔内の清潔が保たれていない患者さんでは高頻度で歯周病が見られます。
フェニトインはてんかんなどの患者さんが長期間にわたって服用する薬剤であるために歯周病を発症しやすいことが知られています。
歯肉増殖症を発症するカルシウム拮抗薬には、ニフェジピンのほかに、ニトレンジピン、ベラパミル、ジルチアゼム、ニカルジピンなどがあります。
シクロスポリンは、主に臓器移植や骨髄移植などの拒絶反応の抑制に用いられます。腎移植後の長期追跡では50〜60%に高血圧が認められ、心臓移植後の90%に高血圧が発症したとされていますが、降圧薬の服用例では特に上述のように歯肉増殖を発症する薬剤が処方されることも考えられ、歯肉増殖に対する注意が必要です。
骨粗鬆症治療薬による顎骨壊死
ビスホスホネート製剤や抗RANKL抗体製剤のデノスマブは、破骨細胞の働きを抑制して骨吸収を阻害する薬剤で、がんの骨転移や骨粗鬆症の治療に広く用いられています。しかし、骨吸収抑制剤の投与により、難治性の顎骨壊死が発生することが指摘されています。骨吸収抑制剤による顎骨壊死の発症については次のようなメカニズムが考えられています。
- 骨吸収抑制剤による骨リモデリングの抑制と過度の破骨細胞活性抑制
- ビスホスホネート投与による口腔細菌の易感染性増大
- ビスホスホネート投与による口腔上皮細胞のリモデリングおよび遊走抑制
- 骨吸収抑制剤投与による免疫監視機構の変化
- ビスホスホネートの血管新生抑制
歯周病の存在と骨吸収抑制剤の使用によって、顎骨壊死のリスクが高まります。
薬剤師の口腔ケア支援 口腔ケアを踏まえた服薬指導
現状、薬剤師さんが歯科受診以外の患者さんの口腔ケアについてアドバイスする機会は少ないと思います。しかし、口腔の症状が全身疾患と深く関連していることを理解していることで、投薬する患者さんに対し、口腔ケアの観点も踏まえた服薬指導が可能となります。
糖尿病患者の口腔ケアサポート
糖尿病と歯周病の関連は先述のとおりですが、糖尿病の患者さんで、たとえば前回と処方薬が変わっていれば、血糖コントロールがうまくいっていない可能性があり、血糖降下薬のほかに処方されている薬剤から合併症の存在を想像することもできます。
服薬指導に合わせて、口腔内の健康状態を尋ね、歯周病と全身疾患の関係について助言することは患者さんにとって貴重な気づきの機会となります。
感染性心内膜炎と口腔ケア
抜歯後は、創口から細菌が体内に侵入して一過性に菌血症になります。そのため、感染性心内膜炎の高度リスク群の心疾患を有する患者さんの抜歯に際しては感染性心内膜炎の予防として、患者さんに抜歯30分前に通常の内服量よりも多い所定量の抗菌薬を服用してもらいます。
歯科からこのような形で