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特集

糖尿病のいろいろな疑問に答える

2017年3月号
糖尿病のいろいろな疑問に答えるの今の画像

作用機序の異なる糖尿病薬が次々に登場しています。そんな中、薬剤師さんからよく寄せられるのが「糖尿病薬の使い分け」についての質問や疑問です。最近は病態だけでなく、年齢によっても糖尿病薬を使い分けることが推奨されており、高齢者への服薬指導が特に重要になってきました。今特集では、薬剤師さんを悩ます糖尿病薬の選択や使い分けなどについての疑問・質問に対して、東京都健康長寿医療センター内科総括部長(糖尿病・代謝・内分泌内科)の荒木厚氏に解説していただきます。

Q.01 患者さんに最初に処方される経口糖尿病薬はどのように選択されているのでしょうか?

現在、我が国で市販されている経口糖尿病薬は、スルホニル尿素(SU)薬、速効型インスリン分泌促進薬(グリニド薬)、α-グルコシダーゼ阻害薬、ビグアナイド薬、チアゾリジン系薬、DPP-4阻害薬、SGLT2阻害薬です(表1)。これらの中から患者さんに最初に処方する薬を選ぶときは、有害事象をできるだけ少なくするような薬物選択が重要になってきますから、まずは薬物の禁忌に当たるものに当てはまっていないかどうかを考えます。たとえば高齢者では低血糖のリスクが少ない薬剤を中心に組み立てていきます。高齢者にとって低血糖は種々の悪影響を及ぼします(表2)。

表1 糖尿病内服薬一覧
  一般名 商品名 1日の用量(mg) 作用時間(時間)
スルホニル
尿素(SU)薬
アセトヘキサミド
クロルプロパミド
グリクロピラミド
グリクラジド
グリベンクラミド
グリメピリド
ジメリン
アベマイド
デアメリンS
グリミクロン、グリミクロンHA
オイグルコン、ダオニール
アマリール、アマリールOD
250~1000
100~500
125~500
40~160
1.25~10
0.5~6
10~16
24~60
6
12~24
12~24
12~24
速効型インスリン
分泌促進薬
ミチグリニドカルシウム水和物
ナテグリニド
レパグリニド
グルファスト
ファスティック、スターシス
シュアポスト
30
270~360
0.75~3
3
3
4
α-グルコシダーゼ
阻害薬
アカルボース
ボグリボース
ミグリトール
グルコバイ、グルコバイOD
ベイスン、ベイスンOD
セイブル
150~300
0.6~0.9
150~225
2~3
2~3
1~3
ビグアナイド薬 メトホルミン塩酸塩

ブホルミン塩酸塩
グリコラン、メデット
メトグルコ
ジベトス、ジベトンS
500~750
500~2250
100~150
6~14
6~14
6~14
チアゾリジン系薬 ピオグリタゾン塩酸塩 アクトス、アクトスOD 15~45 20
DPP-4阻害薬 シタグリプチンリン酸塩水和物
ビルダグリプチン
アログリプチン安息香酸塩
リナグリプチン
テネリグリプチン臭化水素酸塩水和物
アナグリプチン
サキサグリプチン水和物
トレラグリプチンコハク酸
オマリグリプチン
グラクティブ、ジャヌビア
エクア
ネシーナ
トラゼンタ
テネリア
スイニー
オングリザ
ザファテック
マリゼブ
25~100
50~100
6.25~25
5
20~40
100~400
2.5~5
50~100(週1回)
12.5~25(週1回)
24
12~24
24
24
24
12~24
24
半減期54時間
半減期39時間
SGLT2阻害薬 イプラグリフロジンL-プロリン
ダパグリフロジンプロピレングリコール水和物
ルセオグリフロジン水和物
トホグリフロジン水和物
カナグリフロジン水和物
エンパグリフロジン
スーグラ
フォシーガ
ルセフィ
アプルウェイ、デベルザ
カナグル
ジャディアンス
50~100
5~10
2.5~5
20
100
10~25
24
24
24
24
24
24

*添付文書上の用量を記載

※配合薬は記載無し
「患者さんとその家族のための糖尿病治療の手引き」改訂第56版(日本糖尿病学会編・著)をもとに作成

表2 高齢者における低血糖の悪影響

  1. 低血糖が月1回以上であるとうつ症状が増える
  2. 低血糖の頻度が多いと糖尿病負担感が増える
  3. 低血糖の頻度が多いとWell-beingが低下
  4. 低血糖が年3回以上であると転倒しやすい
  5. 重症低血糖は認知症の危険因子
  6. 重症低血糖は死亡を増やす
    (不整脈、自律神経異常、易血栓性を介する)
桑島巖編 高齢者の薬よろずお助けQ&A100, 羊土社, 2012

また、その患者さんがほかにどのような病気を持っているかも考慮します。たとえば心不全や女性で骨粗鬆症の既往があるときは、心不全や骨折のリスクがあるチアゾリジン系薬のピオグリタゾンが使えなくなります。チアゾリジン系薬は動物実験で骨密度を低下させるとの結果が出ていますし、疫学調査で女性に骨折が増えるとの報告もあります。骨折のリスクは用量依存性ということがわかっており、使うとしてもできるだけ少量で使います。さらに重度の腎機能障害があるときは、ビグアナイド薬のメトホルミンとSU薬、SGLT2阻害薬が使えなくなります。また、腸の手術などをして腸閉塞になりやすい人は、下痢、便秘などの副作用があるα-グルコシダーゼ阻害薬の使用は避けます。まずはそうした禁忌に当てはまる薬物を除外していくこと、その次に病態を考えて、インスリン抵抗性が強いか、インスリン分泌が低下しているかなどで薬を選択していきます(図1)。

図1 病態に合わせた経口糖尿病薬の選択

図1 病態に合わせた経口糖尿病薬の選択の画像

桑島巖編 高齢者の薬よろずお助けQ&A100, 羊土社, 2012

Q.02 高齢者で低血糖のリスクが少ない薬物を選ぶ場合、第一選択となるのはどんな薬剤ですか?

考え方が大きく2つに分かれます。日本以外の国、海外ではビグアナイド薬のメトホルミンが第一選択薬となります。重度の腎機能障害がなければまず使う薬剤になります。日本ではメトホルミンの一世代前のビグアナイド薬であるフェンホルミンが高齢者や腎機能障害がある人で乳酸アシドーシス(膵臓での乳酸の利用が減ると同時に、血液の中に乳酸が異常に増えてしまい、血液が酸性になる状態のこと)を多発したために、高齢者で禁忌だった時代がありました。そのためどうしてもメトホルミンを使う機会が少なく、どちらかというと現在では最初はDPP-4阻害薬を中心に使っている人が多いのが現状です。
実際は、乳酸アシドーシスの頻度はそれほど高くなく、腎機能を定期的にしっかり評価して使えば問題ないというのが世界の趨勢(すうせい)になっていて、日本でも以前よりは高齢者に使う流れになっています。ただ、日本糖尿病学会では、病態に合わせて使用する薬剤を選択するということが勧められています。そこが海外のガイドラインと違うところです。そういう意味では、どの薬剤から使うかはあまり決めなくてもよく、高齢者でも病態に合わせてDPP-4阻害薬かメトホルミンの、どちらかをまず使っていくというのがいいのではないかと思います。その他に高齢者でおもに使われる薬剤は少量のSU薬、食後高血糖を改善するα-グルコシダーゼ阻害薬とグリニド薬がありますが、病態やコストを考えて、最初に使用しても構わないと思います。

Q.03 日本ではDPP-4阻害薬をまず使う医師が多いとのことですが、DPP-4阻害薬の中での使い分けはありますか?

この薬は、膵臓からのインスリン分泌を促進するインクレチンというホルモンを分解するDPP-4という酵素の働きを抑え、インクレチンを分解されにくくします。その結果、インクレチン作用が高まって、インスリン分泌量を増やし、血糖値を下げます。薬剤によって服薬が朝1回なのか、朝夕2回なのかの違いはありますが、有効性や安全性などはほとんど差がありません。シタグリプチンとアログリプチン、アナグリプチン、サキサグリプチン、トレラグリプチン、オマリグリプチンは腎機能に応じて用量の調節が必要ですが、それ以外はほとんど変わらないので、何も考えないで最初に処方する分にはとても使いやすい薬です。おそらく現在は全国の7割ぐらいの医師がDPP-4阻害薬を第一選択として使っていると思われます。

Q.04 高齢者に慎重に投与すべき薬剤としてSGLT2阻害薬があります。その使い方についても教えてください。

SGLT2阻害薬は、腎臓でのブドウ糖の再吸収を抑えて、尿から糖を出すことで血糖を下げる薬です。体重を減らす作用があり、肥満の人に向いている薬です。

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