薬剤師トップ  〉 ファーマスタイル  〉 臨床・疾患  〉 特集  〉 糖尿病のいろいろな疑問に答える
特集

糖尿病のいろいろな疑問に答える

2017年4月号
糖尿病のいろいろな疑問に答えるの今の画像

作用機序の異なる糖尿病薬が次々に登場しています。そんな中、薬剤師さんからよく寄せられるのが「糖尿病薬の使い分け」についての質問や疑問です。最近は病態だけでなく、年齢によっても糖尿病薬を使い分けることが推奨されており、高齢者への服薬指導が特に重要になってきました。今特集では、薬剤師さんを悩ます糖尿病薬の選択や使い分けなどについての疑問・質問に対して、東京都健康長寿医療センター内科総括部長(糖尿病・代謝・内分泌内科)の荒木厚氏に解説していただきます。

Q.01 患者さんに最初に処方される経口糖尿病薬はどのように選択されているのでしょうか?

現在、我が国で市販されている経口糖尿病薬は、スルホニル尿素(SU)薬、速効型インスリン分泌促進薬(グリニド薬)、α-グルコシダーゼ阻害薬、ビグアナイド薬、チアゾリジン系薬、DPP-4阻害薬、SGLT2阻害薬です(表1)。これらの中から患者さんに最初に処方する薬を選ぶときは、有害事象をできるだけ少なくするような薬物選択が重要になってきますから、まずは薬物の禁忌に当たるものに当てはまっていないかどうかを考えます。たとえば高齢者では低血糖のリスクが少ない薬剤を中心に組み立てていきます。高齢者にとって低血糖は種々の悪影響を及ぼします(表2)。

表1 糖尿病内服薬一覧
  一般名 商品名 1日の用量(mg) 作用時間(時間)
スルホニル
尿素(SU)薬
アセトヘキサミド
クロルプロパミド
グリクロピラミド
グリクラジド
グリベンクラミド
グリメピリド
ジメリン
アベマイド
デアメリンS
グリミクロン、グリミクロンHA
オイグルコン、ダオニール
アマリール、アマリールOD
250~1000
100~500
125~500
40~160
1.25~10
0.5~6
10~16
24~60
6
12~24
12~24
12~24
速効型インスリン
分泌促進薬
ミチグリニドカルシウム水和物
ナテグリニド
レパグリニド
グルファスト
ファスティック、スターシス
シュアポスト
30
270~360
0.75~3
3
3
4
α-グルコシダーゼ
阻害薬
アカルボース
ボグリボース
ミグリトール
グルコバイ、グルコバイOD
ベイスン、ベイスンOD
セイブル
150~300
0.6~0.9
150~225
2~3
2~3
1~3
ビグアナイド薬 メトホルミン塩酸塩

ブホルミン塩酸塩
グリコラン、メデット
メトグルコ
ジベトス、ジベトンS
500~750
500~2250
100~150
6~14
6~14
6~14
チアゾリジン系薬 ピオグリタゾン塩酸塩 アクトス、アクトスOD 15~45 20
DPP-4阻害薬 シタグリプチンリン酸塩水和物
ビルダグリプチン
アログリプチン安息香酸塩
リナグリプチン
テネリグリプチン臭化水素酸塩水和物
アナグリプチン
サキサグリプチン水和物
トレラグリプチンコハク酸
オマリグリプチン
グラクティブ、ジャヌビア
エクア
ネシーナ
トラゼンタ
テネリア
スイニー
オングリザ
ザファテック
マリゼブ
25~100
50~100
6.25~25
5
20~40
100~400
2.5~5
50~100(週1回)
12.5~25(週1回)
24
12~24
24
24
24
12~24
24
半減期54時間
半減期39時間
SGLT2阻害薬 イプラグリフロジンL-プロリン
ダパグリフロジンプロピレングリコール水和物
ルセオグリフロジン水和物
トホグリフロジン水和物
カナグリフロジン水和物
エンパグリフロジン
スーグラ
フォシーガ
ルセフィ
アプルウェイ、デベルザ
カナグル
ジャディアンス
50~100
5~10
2.5~5
20
100
10~25
24
24
24
24
24
24

*添付文書上の用量を記載

※配合薬は記載無し
「患者さんとその家族のための糖尿病治療の手引き」改訂第56版(日本糖尿病学会編・著)をもとに作成

表2 高齢者における低血糖の悪影響

  1. 低血糖が月1回以上であるとうつ症状が増える
  2. 低血糖の頻度が多いと糖尿病負担感が増える
  3. 低血糖の頻度が多いとWell-beingが低下
  4. 低血糖が年3回以上であると転倒しやすい
  5. 重症低血糖は認知症の危険因子
  6. 重症低血糖は死亡を増やす
    (不整脈、自律神経異常、易血栓性を介する)
桑島巖編 高齢者の薬よろずお助けQ&A100, 羊土社, 2012

また、その患者さんがほかにどのような病気を持っているかも考慮します。たとえば心不全や女性で骨粗鬆症の既往があるときは、心不全や骨折のリスクがあるチアゾリジン系薬のピオグリタゾンが使えなくなります。チアゾリジン系薬は動物実験で骨密度を低下させるとの結果が出ていますし、疫学調査で女性に骨折が増えるとの報告もあります。骨折のリスクは用量依存性ということがわかっており、使うとしてもできるだけ少量で使います。さらに重度の腎機能障害があるときは、ビグアナイド薬のメトホルミンとSU薬、SGLT2阻害薬が使えなくなります。また、腸の手術などをして腸閉塞になりやすい人は、下痢、便秘などの副作用があるα-グルコシダーゼ阻害薬の使用は避けます。まずはそうした禁忌に当てはまる薬物を除外していくこと、その次に病態を考えて、インスリン抵抗性が強いか、インスリン分泌が低下しているかなどで薬を選択していきます(図1)。

図1 病態に合わせた経口糖尿病薬の選択

図1 病態に合わせた経口糖尿病薬の選択の画像

桑島巖編 高齢者の薬よろずお助けQ&A100, 羊土社, 2012

Q.02 高齢者で低血糖のリスクが少ない薬物を選ぶ場合、第一選択となるのはどんな薬剤ですか?

考え方が大きく2つに分かれます。日本以外の国、海外ではビグアナイド薬のメトホルミンが第一選択薬となります。重度の腎機能障害がなければまず使う薬剤になります。日本ではメトホルミンの一世代前のビグアナイド薬であるフェンホルミンが高齢者や腎機能障害がある人で乳酸アシドーシス(膵臓での乳酸の利用が減ると同時に、血液の中に乳酸が異常に増えてしまい、血液が酸性になる状態のこと)を多発したために、高齢者で禁忌だった時代がありました。そのためどうしてもメトホルミンを使う機会が少なく、どちらかというと現在では最初はDPP-4阻害薬を中心に使っている人が多いのが現状です。
実際は、乳酸アシドーシスの頻度はそれほど高くなく、腎機能を定期的にしっかり評価して使えば問題ないというのが世界の趨勢(すうせい)になっていて、日本でも以前よりは高齢者に使う流れになっています。ただ、日本糖尿病学会では、病態に合わせて使用する薬剤を選択するということが勧められています。そこが海外のガイドラインと違うところです。そういう意味では、どの薬剤から使うかはあまり決めなくてもよく、高齢者でも病態に合わせてDPP-4阻害薬かメトホルミンの、どちらかをまず使っていくというのがいいのではないかと思います。その他に高齢者でおもに使われる薬剤は少量のSU薬、食後高血糖を改善するα-グルコシダーゼ阻害薬とグリニド薬がありますが、病態やコストを考えて、最初に使用しても構わないと思います。

Q.03 日本ではDPP-4阻害薬をまず使う医師が多いとのことですが、DPP-4阻害薬の中での使い分けはありますか?

この薬は、膵臓からのインスリン分泌を促進するインクレチンというホルモンを分解するDPP-4という酵素の働きを抑え、インクレチンを分解されにくくします。その結果、インクレチン作用が高まって、インスリン分泌量を増やし、血糖値を下げます。薬剤によって服薬が朝1回なのか、朝夕2回なのかの違いはありますが、有効性や安全性などはほとんど差がありません。シタグリプチンとアログリプチン、アナグリプチン、サキサグリプチン、トレラグリプチン、オマリグリプチンは腎機能に応じて用量の調節が必要ですが、それ以外はほとんど変わらないので、何も考えないで最初に処方する分にはとても使いやすい薬です。おそらく現在は全国の7割ぐらいの医師がDPP-4阻害薬を第一選択として使っていると思われます。

Q.04 高齢者に慎重に投与すべき薬剤としてSGLT2阻害薬があります。その使い方についても教えてください。

SGLT2阻害薬は、腎臓でのブドウ糖の再吸収を抑えて、尿から糖を出すことで血糖を下げる薬です。体重を減らす作用があり、肥満の人に向いている薬です。高齢者ではかなり注意して使う必要がある薬とされており、まだまだ使用している一般の医師は少ないといえます。ただ、いろいろな有害事象の報告を見ると、高齢者でも若い人でもそれほど頻度は変わらないことがわかってきています。今後、SGLT2阻害薬は高齢者でも、身体機能が保たれ、認知機能も保たれていて、脱水に対する対処ができて十分に水分がとれるような肥満の人なら使えるのではないかとの考え方になってきています。日本糖尿病学会でのRecommendationでは老年症候群(加齢に伴う心身の機能の衰えによって現れる身体的・精神的諸症状、疾患の総称)がない人への処方を推奨しています。
心血管の安全性を評価した大規模臨床試験「EMPA-REG OUTCOME」(EMPA-REG)では、SGLT2阻害薬のエンパグリフロジンを使っている人が心不全や死亡が少なく、なおかつ腎機能の悪化を抑制することができたと報告されました。その報告でも、高齢者にもある程度有効性があるとのことです。もちろん性器感染症、尿路感染症、脱水などの副作用には注意しないといけませんが、今後は高齢でも肥満の人ではSGLT2阻害薬がより多く使われていくのではないかと考えられます。

Q.05 SU薬の中で、高齢者でより低血糖のリスクが少ない薬剤はありますか?

表2のように、高齢者にとって低血糖はさまざまな悪影響を及ぼします。低血糖の頻度が高いと転倒を起こしやすいことや、重症低血糖は認知症の危険因子になっていることもわかってきました。さらに、重症低血糖は不整脈、自律神経異常、易血栓性を介して死亡につながりやすいと考えられています。
最近のメタ解析で、グリクラジドがもっとも重症低血糖が少ないと報告されました。従来のグリベンクラミドは、海外では高齢者には使ってはいけない薬となっており、高齢者に使う必要はなくなってきています。グリメピリドが一般ではよく使われていますが、これもけっこう作用時間が長く、重症低血糖を起こしやすいといえます。この薬も昔は3~6mg/日のように多めの量を使っていましたが、今はそれほど使う必要はなく、0.5~1mg/日程度を使っている医師が多いと思われます。私としては、グリメピリドを使うとしたら0.25mg/日といったさらに少ない量で使ったほうが安全だと考えています。

Q.06 SU薬で低血糖を起こさない使い方を教えてください。

高齢者は突然欠食することがあります。食べないでそのまま薬を飲んでしまったりすると重症低血糖が起こり得ます。私たちの施設には今でもグリメピリド、グリベンクラミドによる重症低血糖で年間5~10人ぐらい紹介されて入院してきます。腎機能をきちんと評価していないことが原因です。大丈夫だと思っていても、腎機能の指標であるeGFR(推算糸球体濾過量)を計算すると腎機能が悪い人がかなり混じっています。今でもSU薬による重症低血糖は、糖尿病患者さんが急性期病院に入院するトップの原因です。そういう意味でも、

この記事の冊子

特集

糖尿病のいろいろな疑問に答える

薬剤師さんを悩ます糖尿病薬の選択や使い分けなどについての疑問・質問に対して、東京都健康長寿医療センター内科総括部長(糖尿病・代謝・内分泌内科)の荒木厚氏に解説していただきます。

糖尿病のいろいろな疑問に答えるの画像
特集

パーキンソン治療の今

パーキンソン病は手足が震えたり、動作が緩慢になったりするなど、特徴的な運動機能障害が見られる神経変性疾患です。この20年でさまざまな治療薬が開発され、予後は劇的に改善しました。今回は、村田美穂氏にパーキンソン病の早期診断・治療の解説と服薬指導などについて助言していただきました

パーキンソン治療の今の画像
専門医+エキスパートに聞くよりよい服薬指導のための基礎知識

【肺がん】細胞障害性抗がん剤から分子標的治療薬へ

肺がんは小細胞肺がんと非小細胞肺がんに大別されます。従来のがん治療では手術療法、放射線治療、化学療法が3本柱でしたが、肺がん治療ではこれに免疫療法が加わり、新たなステージに入りました。今回は、肺がんの85%を占める非小細胞肺がんの化学療法に関するアップデートな話題を提供いたします。

【肺がん】細胞障害性抗がん剤から分子標的治療薬への画像
専門医+エキスパートに聞くよりよい服薬指導のための基礎知識

【肺がん】服薬指導、患者教育で工夫していること

今回は、国立がん研究センター東病院薬剤部の川澄賢司氏には、化学療法の主流ともいえる分子標的治療薬を使用する際に薬剤師が留意すべき点などについて語っていただきました。

【肺がん】服薬指導、患者教育で工夫していることの画像
ここに注目!知っているようで知らない疾患のガイセツ

ループス腎炎

ループス腎炎は、自己免疫疾患であり国の指定難病であるSLEによって生じる腎疾患です。かつては多くのSLE患者さんがループス腎炎により腎不全となり、長期入院治療で生活や就業を制限されたりしていましたが、近年はステロイドの使用法の進歩や免疫系に働く新薬の登場もあり、薬物療法によるコントロールで安定した寛解維持が望めるようになっています。

ループス腎炎の画像
Medical Diagram

手指衛生の法則

感染症を防ぐため、医療従事者にとって手指の消毒は欠かせません。従来、感染症対策としては、石鹸と流水による手洗いが推奨されていましたが、CDCが「手の細菌数減少には、アルコールベースの手指消毒剤が最も効果的である。」と明記したことにより、アルコール手指消毒が高く評価されるようになりました。

手指衛生の法則の画像
薬剤師の栄養サポート

食物アレルギーの栄養指導

通常、食べ物は異物として認識しない仕組み(経口免疫寛容)が働きますが、その仕組みに問題があったり、消化・吸収機能が未熟だったりすると食べ物を異物として認識してしまい、アレルギー症状が出ます。このアレルギー症状が2臓器以上に出現した状態をアナフィラキシーと呼び、アナフィラキシーショックの前段階であるため適切な対応が必要とされます。

食物アレルギーの栄養指導の画像
special column

「守れ腎臓」ふじえだCKDネット 藤枝市立総合病院

藤枝市において、2016年3月、市民のCKDの重症化予防を目的とした地域医療連携の取り組み「守れ腎臓!ふじえだCKDネット」がスタートしました。地域の基幹病院である藤枝市立総合病院、志太医師会、藤枝薬剤師会、そして行政がネットワークを構築し、連携してCKDの予防策を進めています。

 「守れ腎臓」ふじえだCKDネット 藤枝市立総合病院の画像
Special Report

災害時の病院機能と薬剤師の役割とは熊本地震における対応と課題

2016年 4月14日に発生した熊本地震は、震度7の揺れを記録し、死者161名、重傷者1,087名の被害を出しました。災害時に病院機能を発揮するためには日頃の訓練が重要です。

災害時の病院機能と薬剤師の役割とは熊本地震における対応と課題の画像
英語で服薬指導

英語で服薬指導 「目が疲れます」

外国の患者さんが来局した際に知っておきたい基本的な会話を紹介する本シリーズ。今回はOTC薬(目薬)について。「目が疲れます。」これを英語で言うと!?

英語で服薬指導 「目が疲れます」の画像

この記事の関連記事

薬歴の達人

人気記事ランキング