薬剤師トップ  〉 ファーマスタイル  〉 臨床・疾患  〉 特集  〉 脱水症を理解する
check
【必見】 長期収載品の選定療養費の計算方法を解説!
特集

脱水症を理解する

2019年7月号
脱水症を理解するの画像
近年の夏の猛暑により、熱中症に関する情報は一般に認知されるようになりました。しかし、脱水症は、夏の熱中症の機序としてだけでなく、種々の臓器に影響を与え得る病態です。今回は、長年、脱水症に対する経口補水療法の有用性について研究されてきた、済生会横浜市東部病院患者支援センター長・栄養部部長の谷口英喜氏に、体液の基礎から経口補水療法の実際まで、脱水症について詳しく解説していただきました。

脱水症を考える前提 体液の量と役割

脱水症は体液の量が正常範囲を超えて減少した状態です。脱水症をより深く理解するために、まずは体液についての基礎知識から解説します。

【体液の量】

小児で体重の約 70%、標準的な体型の成人男性で約60%、成人女性で約50%、高齢者で約50%と言われています(図1)。体液は主に筋肉に存在し脂肪にはほとんど存在しません。そのため、脂肪の多い肥満の方は、標準的な体型の方よりも体重に対する体液量の割合は低くなります。また、高齢者では加齢による筋肉量の減少に伴い体液量が低下します。
人体の半分以上を占める体液は、細胞膜を隔てて細胞内液と細胞外液に大別され、体液全体における割合は、細胞内液が2/3、細胞外液が1/3です。また、細胞外液はさらに血漿と組織間液に分けられ、1/4が血漿、3/4が組織間液となります。つまり、体液量が60%の成人男性の場合、細胞内液は体重の40%、細胞外液は20%(血漿5%、間質液15%)ということになります(図2)。採血で得られる検査値は、血漿を評価しているものですから、全身の5%の部分を評価しているにすぎないということを理解しておくことが重要です。

図1 体重に占める体液の割合
図1 体重に占める体液の割合の画像

谷口氏の話をもとに編集部作成

図2 細胞外液と細胞内液の内訳(体液量が60%の成人男性の場合)
図2 細胞外液と細胞内液の内訳(体液量が60%の成人男性の場合)の画像

谷口氏の話をもとに編集部作成

【体液の役割】

体液は、栄養素や酸素の体内への運搬や、老廃物の体外への排出、細胞内でのエネルギー産生とたんぱく合成のほか、汗や尿として排出されることによる体温調節などの役割を担っています。人体は体液の働きにより生体の恒常性が維持されています。こうした体液の働きには、ナトリウムイオン(Na)やカリウムイオン(K)、リン酸イオン(HPO42)クロールイオン(Cl)などの電解質が重要です。細胞外液にはNa、細胞内液にはKが最も多く存在し、主にNaの影響を受けた血漿浸透圧(張度)により、細胞内外の水の移動が規定されます。

血漿浸透圧の増加やADHの分泌に対する体液量維持のための調節機能

適切な体液量の維持には、いくつかの調節機能が関連しています。
まず、細胞内外での体液移動です。日常生活では主に細胞外液が先に喪失されますので、血漿浸透圧が増加し、細胞内から細胞外へ体液が移動します。体液が最も多く含まれる筋肉は、細胞外液が減少した際の「水分のリザーバー」として機能します。血漿浸透圧が増加すると中枢刺激による口渇感が出現します。この段階で飲水をすれば、細胞外液の水が補充され血漿浸透圧は低下します。細胞外から細胞内に水が移動し、細胞内外は等張の状態に戻ります。
また、抗利尿ホルモン(ADH)の分泌も体液量の維持に関連しています。血漿浸透圧が増加すると、視床下部、脳下垂体からADHが分泌され、腎臓の尿細管での水分の再吸収を促し、尿を濃縮して尿量を少なくするという調節が行われます。逆に水分の過剰摂取などにより、細胞外液の浸透圧が低下するとADH分泌が抑制され、腎臓からの水分の再吸収量は少なくなり尿量が増加します。このように、健康な状態では細胞内外での調節、神経系、内分泌系の調節により、体液の浸透圧や水分量の調節が行われ、身体の体液量は一定に維持されています。

水分供給と喪失 水分の出納バランスが崩れると脱水症に

健康な状態では、尿や便、汗だけでなく、呼気や粘膜、皮膚から意識しないうちに失われる不感蒸泄をあわせて、成人では1日に約2,500mLもの水分が失われます。その一方で、食物から1,000mL、飲料から1,200mLの水分を摂取し、さらに栄養素の代謝の際に生じる代謝水として300mL程度が産生されることで水分の出納バランスを保っています(表1)。しかし、激しい運動や暑熱環境下、発熱などによる発汗量の急激な増加や、下痢や嘔吐による体液喪失量の増加、飲食による水分摂取の著しい低下、薬剤摂取(SGLT2阻害薬、利尿薬、便秘薬、経腸栄養剤など)に よる影響などにより、前述の調節力をもってしても是正できない範囲となると、水分のINとOUTのバランスが崩れ脱水症となります。

表1 成人の体内の水分出納バランス(1日あたり)

(単位:mL)

体内に入る水分 体外へ出る水分
食物の水分 1,000 尿・便 1,500
飲料水 1,200 100
代謝水 300 不感蒸泄 900
合計 2,500 合計 2,500

谷口氏の話をもとに編集部作成

脱水症の評価と分類 高齢者に多い慢性型と、熱中症などの急性型

日常臨床では、体重の変化量により脱水症の評価を行います。体重が60kg前後の成人では、1日のうちの体重の変化は1.4kg以内が正常範囲とされていますので、この範囲を超えて大幅に変動する場合には、何らかの体液の量的な異常が存在すると考えられます。日常の体重から正常の変動範囲を超えて体重が減少していれば、体液が喪失した状態、すなわち脱水症と考えられます。「正常の変動範囲を超えて」について、正常時の体重からの体重減少率が

この記事の関連キーワード

この記事の関連記事

人気記事ランキング