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小児だけではない食物アレルギーの最新情報

2022年8月号
小児だけではない食物アレルギーの最新情報の画像

食物アレルギーは近年、小児のみならず成人でも注目されており、誰にでも起こり得る可能性があります。今回は、これから明らかになるであろうことも多い成人における食物アレルギーの実態について、主な原因物質や臨床現場の実際、日常生活での注意点、また小児期、思春期から成人への移行期の課題も含めて、昭和大学医学部内科学講座 呼吸器・アレルギー内科学部門 准教授の鈴木慎太郎氏にお話しいただきました。

食物アレルギーとはIgEによる感作

食物アレルギーは、狭義では「食物によって引き起こされる抗原特異的な免疫学的機序を介して生体にとって不利益な症状が惹起される現象」と定義されています。
アレルゲン(抗原)となる食物中のタンパク質が体内に複数回取り込まれる過程で、形質細胞からアレルゲンに特異的なIgE抗体が産生されます。これを感作(かんさ)と呼びます。再度、アレルゲンが体内に侵入した際に、2個のIgE抗体とアレルゲンが結合し複合体としてマスト細胞に結合すると、ケミカルメディエーターやサイトカインなどが産生・分泌され、アレルギー症状が誘発されるようになります。狭義の食物アレルギーはこの機序によるものです。
一方、広義の食物アレルギーとしてIgEが介在しないものを含める場合もありますが、食物不耐症や中毒症など免疫学的な機序を介さないものや、食料品内の添加物による物理的、化学的な刺激による食物摂取による有害反応の全てを食物アレルギーと称することは誤りであり、日本アレルギー学会の専門医・指導医を受診し、正しい診断を受けることが重要です。

成人ではアナフィラキシーの後に専門医を受診し判明することが多い

食物アレルギー発見のきっかけとして、小児では食事後の皮膚・粘膜症状やその他の異変を保護者が心配して、小児科医を受診し、児の食物アレルギーが見つかるケースが多いです。アトピー性皮膚炎や湿疹の誘因として診断されることも少なくありません。
一方、成人の場合、口内のぴりぴり感やイガイガ感を起こす口腔アレルギー症候群(OAS:oral allergy syndrome)や軽微な皮膚症状があっても医療機関には受診せず、アナフィラキシーで救急搬送された後の検査で食物アレルギーが判明するケースが多いです。それ以外では、繰り返す蕁麻疹、湿疹などの皮膚トラブルの原因を精査するための受診、食後の腹痛、吐き気、下痢などの消化器症状による受診なども発見のきっかけとなります。それぞれの臓器の専門医が診療しても、当初はアレルギーが原因として想定されず、診断に時間がかかるケースもあります。最近は、食物アレルギーも誘因の一つである好酸球性食道炎や好酸球性胃腸炎などの好酸球性消化管疾患によって、原因となる食物抗原が判明することもあります。

食物アレルギーの画像1

小児は鶏卵、牛乳、小麦 成人は小麦、次いで果物、野菜、大豆

食物アレルギーの原因食物は年齢とともに傾向が変化していきます。小児の患者さんで多い原因食物は、鶏卵、牛乳、小麦の3種類です。一方、年代が上がるにつれ、木の実・ナッツ類や甲殻類、果物類によるものが増えていきます。
18歳以上の成人では即時型アレルギー症状を誘発する食物として甲殻類や小麦が多く、魚類、果物類、大豆が続きます。病型としては、成人では原因食物が小麦や甲殻類の場合には、食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FDEIA:food-dependent exercise-induced anaphylaxis)によるものが多く、近年増加しているのが花粉-食物アレルギー症候群(PFAS:pollen-food allergy syndrome)です。PFASは果物や野菜のほかに豆類(豆乳)や香辛料でも生じることがあります。こうした食物と花粉との間で共通して含有されているアレルゲンによる交差反応がその要因です。小児で多い通常型の食物アレルギーは、成人領域では相対的に少ないことを実感しています。

食中毒だけではないアニサキスのアレルギー

成人でFDEIAやPFASの次に多い食物に関連するアレルギーが、アニサキスによるアレルギーです。アニサキス自体はヒトにとって食物ではなく食物を汚染する寄生虫ですが、甲殻類や魚介類の摂取後に生じるアレルギーの中に、アニサキスを原因とするものが相当数含まれていることが推測されます。
生きたアニサキスによる健康被害は感染症法に定められた食中毒としてよく知られていますが、食物関連アレルギーとしてのアニサキスアレルギーは、一般的にあまり認知されていません。両者の違いを表1に示します。

表1 アニサキスによる食中毒と食物アレルギーの違い
アニサキスによる食中毒
(アニサキス症/消化管アニサキス症)
  • 食品中に生存するアニサキス摂取時に消化管(胃、十二指腸、小腸など)の粘膜にアニサキスが噛みつく、または頭部から潜り込むことにより生じる。
  • 激しい腹痛や嘔気、嘔吐の症状を引き起こすことがある(胃アニサキス症)。
  • アニサキスは1〜2日、長くても4日ほどで死滅し、糞便から排出される。
アニサキスアレルギー

アレルギーの原因

  • アニサキスが寄生した魚肉を摂取することで、アニサキスのアレルゲンに既に感作している者では、死んだアニサキスの虫体や分泌物、虫卵などでアレルギー症状が誘発される。
  • 消化管に潜り込んだアニサキスの頭部など虫体の一部、またはアニサキスが消化管に噛みついた際に吐き出した分泌液の中に含まれるアレルゲンで消化管粘膜にもアレルギー反応が生じている可能性が示唆されている。

アニサキスアレルギーの特徴

  • アニサキスに汚染された食物を摂取してから数時間~半日程度経過してから発症することが多い。
  • アナフィラキシーを発症するケースに加え、慢性的な蕁麻疹や消化器症状を訴え来院することも少なくない。

原因食物の回避

  • アニサキスの寄生頻度が高い魚介類の喫食を回避する:サバ(全個体の90%以上にアニサキスが存在)、アジ、サンマ、ニシン、カツオ、イワシ、ブリ、ホッケ、イカなど。
  • アナフィラキシーを発症した症例では、寄生頻度の低い魚介類でもアニサキスが寄生している可能性がある海洋生物の喫食を避ける(サーモン、マグロ、カンパチ、ヒラマサ、アカムツ、ウナギなど)。
  • 症状の頻度が多い方や激烈な症状が出た症例では貝類、小エビ、しらすなど、海水にまみれたものも全て回避する(アニサキスの成分が含まれている海水や海由来の餌を摂取しているため)。
  • アニサキスの成分(アレルゲン)が含まれている可能性のあるだしや缶詰も除去する。

昭和大学病院での指導内容をもとに作成

納豆×クラゲ、ダニ×獣肉 特殊な食物アレルギー

食物アレルギーは、定義の部分でお示ししたように、IgEが関与して原因食物からの感作が成立した後に、その食物の摂取によってアレルギー反応が起こるものが典型例ですが、感作の原因と症状を誘発する食物が異なる「特殊型」ともいえるアレルギーもあります。
前述した通り、PFASは、花粉に感作した後、花粉と交差反応性を示す食物を摂取することでアレルギー症状が発現します。
納豆アレルギーは、サーフィンなどのマリンスポーツをする方がクラゲなどの海洋生物に刺され、クラゲ由来のポリガンマグルタミン酸(PGA)と納豆の粘調成分のPGAが交差反応を示したことによるものが多いことが知られています。
 獣肉アレルギーには、獣肉の摂取により感作して発症する従来型のほか、マダニに咬まれてマダニ由来のα-Galに感作され、獣肉中のα-Galとの交差反応によりアレルギーを発症するケースがあります。また、日本での報告は少ないものの、抗癌剤のセツキシマブもα-Galと交差反応性を示すことがあり、セツキシマブ投与患者での獣肉アレルギーの発症や、マダニに咬まれた患者でのセツキシマブ投与によるアレルギー反応も見受けられます。
また、最近注目されている獣肉アレルギーとして、飼育しているネコの毛、尿、唾液中のアレルゲン感作による「ポーク-キャット症候群」や、オウムやインコなどの鳥の毛による感作から鶏卵や鶏肉によるアレルギー症状を呈する「バード-エッグ症候群」などもあります(表2)。

表2 食物以外の抗原感作による食物アレルギー
病態 感作 誘発 臨床型
花粉-食物
アレルギー症候群
(PFAS)
花粉 果物、野菜、大豆(豆乳)、スパイス(香辛料)など 口腔アレルギー症候群、食物依存性運動誘発アナフィラキシー
動物刺咬傷との関連
納豆アレルギー
[PGAアレルギー]
クラゲ刺傷 納豆 遅発型IgE依存性
食物アレルギー
獣肉アレルギー
[α-Galアレルギー]
マダニ咬傷 牛肉、豚肉 遅発型IgE依存性
食物アレルギー
動物飼育との関連
ポーク-キャット
症候群
ネコ由来抗原
(毛、尿、唾液)
豚肉、牛肉、羊肉 即時型症状
バード-エッグ
症候群
鳥類
(羽毛・糞)
鶏肉、鶏卵 即時型症状

PFAS:pollen-food allergy syndrome

食物アレルギー診療ガイドライン2021より作成

食物アレルギーの画像2

食物アレルギー治療の基本は除去 そして「増悪因子」の把握も重要

成人では食物アレルギーの治療法が発展途上であり、現時点での治療法は原因食物の除去のみです。ですから、患者さんを守るためには、検査、診断によってアレルゲンを確実に突き止めることが最も重要です。詳しい問診から疑われたアレルギー物質について、抗原特異的IgE抗体検査、皮膚プリックテストを行ってさらに原因物質を絞り込み、最終的には食物経口負荷試験(OFC:oral food challenge)を行うことが必須です。しかしながら、成人に対するOFCが実施可能な施設は限られており、また、小児と異なり成人では保険収載されておらず(2022年8月現在)、現段階では実施が困難な場合が多いです。
さらに成人では、OFCの際に食物の摂取だけではアレルギーが再現されないことも多々あります。成人の食物アレルギーにおいては一定の割合で、augmenting factor(増悪因子、増強因子、Co Factorとも)が関与していると考えられ、アレルゲンのみでは症状が出にくく、アレルゲンにaugmenting factorが加わることでアレルギーが発症するのではないかといわれています。運動、飲酒、薬剤(NSAIDs、ACE阻害薬、β遮断薬など)、精神的ストレス、疲労、旅行や出張などの非日常的行動、女性の場合は月経などがaugmenting factorに成り得ます。
Augmenting factorが関与する代表的な食物アレルギーは、小麦と運動によって起こる「小麦依存性運動誘発アナフィラキシー」です。生活指導では、再発に備え「小麦を食べた後2~3時間は体を動かさないでください」、「食で有名な土地への出張や旅行の晩に、たとえばビールを飲みながらお好み焼きや焼きそばを食べたくなるかもしれませんが、それは控えてください」などと患者に伝えます。また、運動以外でも、入浴、サウナ、掃除、感情の起伏など、血流や消化管の蠕動が促進される活動によってアレルギー症状が起こることもあります。

買わない、食べない、飲まない、出されない

食物アレルギーの原因物質が判明した場合、アレルゲンが含まれる製品を「買わない、食べない、飲まない、出されない」ようにする配慮が必要です。そのためには、患者さん自身で何のアレルギーなのかを正確に把握し食品や医薬品の成分表示を確認する、または店員さんや薬剤師さんに伝えることが必要となります。
また、食品成分の表示義務は包装された加工食品にしかありません。そのため、外食、デパ地下の惣菜、アルコール飲料などには注意が必要です。
医薬品としては、「リゾチーム塩酸塩」(鶏卵)、「タンニン酸アルブミン」「耐性乳酸菌」「カゼイン」(牛乳)に要注意です。また、牛や豚の成分である「ゼラチン」が含まれるカプセルや、サプリメントや健康食品では甲殻類(エビ・カニ)の成分である「キトサン」が含まれないものを選択することも大切です。いずれも成分表示を購入時にしっかり確認することで誤食を防げることが殆どです。また、経管栄養剤には牛乳を含むものもあり、高齢者が多い医療機関では、患者さんへの聞き取りが重要です。

アトピーや喘息には成人でも注意

皮膚のかゆみや蕁麻疹など、中等症未満の皮膚・粘膜症状に対しては、抗ヒスタミン薬、経口ステロイド、ベタメタゾン・d-クロルフェニラミンマレイン酸塩配合剤、また場合によりH2拮抗薬(ブロッカー)を処方します。慢性的な症状が続く場合には、抗ヒスタミン薬を常用してもらうこともあります。
このほか、食物アレルギーを悪化させるリスクのある喘息やアトピー性皮膚炎、重度のアレルギー性鼻炎など、他のアレルギー性疾患について良好な状態にコントロールすることが必要です。喘息の患者さんでは他のアレルギー性疾患が併存している方も多いので、食物アレルギーの患者さんで喘息の疑いがあれば、必ず喘息の診断と治療を行うように若手医師には推奨しています。アトピー性皮膚炎に対して内科から保湿剤や外用ステロイドを処方することもありますが、重度の患者さんには皮膚科の受診を必ずご案内しています。

アナフィラキシーを増悪させる 併用薬剤に注意する

アナフィラキシーショックに対しては救急の現場で速やかにアドレナリンを筋肉注射し、

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