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特集

新型コロナウイルス感染症の現在地 Part 2 新型コロナウイルス感染症の薬物療法とこれからの予防行動

2023年3月号
新型コロナウイルス感染症の現在地の画像

新型コロナウイルス感染症が世界的に流行して3年が経過しました。初期のウイルスから変異を繰り返し、これまでに感染拡大を何度も経験した現在、コロナ後遺症について報道などで耳にするだけでなく、中には実際に後遺症に悩む患者さんに接する機会のある薬剤師の方もいるのではないでしょうか。感染制御がご専門で当初から新型コロナウイルス感染症の治療に携わってきた東京医科大学病院の中村造氏に、後遺症の実態と、これからの新型コロナウイルス感染症治療と予防の考え方についてお話を伺いました。

本記事は2023年1月時点の取材をもとに作成しておりますため、最新の情報と異なっている場合があります。最新情報は厚生労働省HPなどをご確認ください。

Part 2 新型コロナウイルス感染症の薬物療法これからの予防行動

感染症法の分類が「5類」になる 5類は季節性インフルエンザと同じ

現在コロナウイルス感染症は感染症法で「新型インフルエンザ等感染症」に分類されており、2類と同程度の措置がなされていますが、先般2023年5月8日から「5類」へと移行することが正式に決定されました。
感染症法における2類感染症は、特殊なウイルス感染症に対しウイルスを制圧するためのデザインが組まれているのに対し、5類はウイルスとある程度共存していくというデザインです。5類に移行するというのはインフルエンザと同等の扱いになりますので、社会全体としての制限は緩くなります(表2)。

表2 感染症法における分類
分類 感染症の疾病名 実施できる措置等
1類感染症 エボラ出血熱、ペストなど 対人:入院(都道府県知事が必要と認めるとき)等
対物:消毒等の措置
交通制限等の措置が可能
2類感染症 SARS、結核、
SARS、結核、鳥インフルエンザ(H5N1、H7N9)など
対人:入院(都道府県知事が必要と認めるとき)等
対物:消毒等の措置
3類感染症 コレラ、細菌性赤痢、腸チフスなど 対人:就業制限(都道府県知事が必要と認めるとき)等
対物:消毒等の措置
4類感染症 E型肝炎、A型肝炎、狂犬病、
マラリアなど
動物への措置を含む消毒等の措置
5類感染症 インフルエンザ、
E型A型以外のウイルス性肝炎、
梅毒、麻しんなど
発生動向調査
新型コロナウイルス感染症
2023年5月8日から5類へ移行
新型インフルエンザ等
感染症
新型インフルエンザ、
再興型インフルエンザ
新型コロナウイルス感染症
(2類相当の措置)
対人:入院(都道府県知事が必要と認めるとき)等
対物:消毒等の措置
政令により1類感染症相当の措置も可能
感染したおそれのある者に対する健康状態報告要請、外出自粛要請 等
指定感染症 該当なし 1類から3類感染症に準じた対人、対物措置(延長含め最大2年間に限定)
新感染症 該当なし 症例積み重ね前:厚生労働大臣が都道府県知事に対し、対応について個別に指導・助言
症例積み重ね後:1類感染症に準じた対応(政令で規定)

平成26年3月厚生労働省健康局結核感染症課「感染症の範囲及び類型について」(https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10601000-Daijinkanboukouseikagakuka-Kouseikagakuka/0000040509.pdf)、厚生労働省「感染症法における感染症の分類」(https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000739517.pdf)より作成

そのため、また感染爆発が起こり感染者数や死亡者数が増えるのではないかという懸念の声も聞かれますが、おそらく5類に移行されても感染動向は大きくは変わらないと思います。大事なのは世の中の人の捉え方、マインドセットを変えることであり、そのタイミングがきたということです。インフルエンザと同じようにワクチンで予防する、流行期には基本的な感染予防を行う、症状がある人はマスクをして感染を広げない予防行動をとる、それでも数年に1回くらい感染することもあるのは仕方ないこという捉え方に変えていくことが大事なのではないかと思います。

懸念される感染者の受け入れ先 特別視せずに冷静に対応を

現在、新型コロナウイルス感染症は、入院できるのが感染症指定医療機関や、都道府県が認めた医療機関に限られているほか、感染対策がとられた発熱外来を中心に診察が行われていますが、5類に移行後は、一般の医療機関でも診察や入院の受け入れができるようになります。
そこで懸念点としてあげられているのが、一般の医療機関で感染対策が不十分などの理由から施設が任意で新型コロナウイルス感染症の診療を行わないとする可能性があるのではないかということや、新型コロナウイルス感染症の診療を2023年5月から開始した一般の医療機関で院内感染やクラスターが発生してしまうと各所で医療機能が停止してしまうのではないかということです。
2020年の新型コロナウイルス感染症流行当初は、感染者数がまだ限定的だったため院内感染やクラスター対策が非常に重要でしたが、2023年現在時点ではいつどこで感染したかなどもはやわからず、日本全体がクラスターともいえる状況です。2023年1月現在は2類相当の措置がとられているため、医療機関で陽性者が出ると周囲の症状のない人まで検査していますが、今後はわざわざ無症状の人まで検査して陽性者を探すということではなく、症状がある人を検査して診断するというスタイルに変えていくべきであり、それぞれの施設では、基本的な感染対策を行った上で、コロナだからと特別に考えるのではなく冷静に対応していくことが求められます。

入院調整や医療費などは段階的に対応を移行

治療薬へのアクセスについても変化する見込みです。2023年1月現在は2類相当の措置がとられていますので、新規の治療薬は厚生労働省が管理し、対象機関からの依頼に基づき譲渡する形をとっています。限られた医療機関でのみで治療薬が処方できる状況ですが、これも徐々に通常の薬剤の流通の形に切り替わっていくと思われます。
また、これまで入院調整は保健所などが行ってきましたが、今後は個々の医療機関の間で調整する体制になると思われます。ただし、混乱を避けるために、すぐに解放するのではなく一定期間は現状を継続し段階的に移行する方針となっています。
さらに、患者さん側の要因として、これまでは新型コロナウイルス感染症の治療はすべて公費負担であり個人の医療費負担はありませんでしたが、5類移行後は保険適用以外の費用は自己負担となります。それにより受診控えなどが起こり感染発覚や治療が遅れてしまうケースも出てくる可能性があることが懸念されており、当面は公費負担を継続し段階的に縮小していく方針が示されています。

現在の薬物療法 重症化リスクの有無で導入を検討

これまで直接的に新型コロナウイルス感染症の治療に関わっていなかった医療者も、5類への移行に伴い今後は治療に関わることもあると思われます。ここで改めて基本的な薬物療法の考え方について確認しておきたいと思います。
2023年1月現在、治療薬として抗炎症薬3種類、抗ウイルス薬4種類、中和抗体薬3種類の計10種類が臨床に導入されています。新型コロナウイルス感染症の病態は、発症後数日まではウイルス増殖、発症後7日前後からは宿主免疫による炎症反応が主であると考えられています。そのため、発症早期には抗ウイルス薬または中和抗体薬を、そして発症7日前後以降の中等症および重症例に対しては抗炎症薬の投与を考慮していきます(表3)。

表3 新型コロナウイルス感染症治療薬(2023年2月1日現在)
    一般名(製品名) 剤形 対象者 投与開始
時期
備考
抗炎症薬 ステロイド デキサメタゾン
(デカドロン など)
点滴静注・内服 中等症Ⅱ~重症
(酸素需要が急激に増加している入院患者)
発症から
7日以内
妊婦・授乳婦でコルチコステロイド投与が必要な場合、プレドニゾロン40mg/日を考慮する。
JAK阻害薬 バリシチニブ
(オルミエント)
内服 中等症Ⅱ~重症
(酸素需要が急激に増加している入院患者)
入院後
3日以内
レムデシビルとの併用が必要。
総投与期間は14日間まで。
IL-6阻害薬 トシリズマブ(遺伝子組換え)
(アクテムラ)
点滴静注 中等症Ⅱ~重症
(酸素需要が急激に増加している入院患者)
発症から
7日以内
ステロイドとの併用が必要。
抗ウイルス薬 RNA合成酵素
阻害薬
レムデシビル
(ベクルリー)
点滴静注 軽症~重症 発症から
7日以内
エボラ出血熱の治療薬として開発されていた薬剤。
3日間の点滴治療が必要。
モルヌピラビル
(ラゲブリオ)
内服 重症化リスクのある軽症~中等症Ⅰ 発症から
5日以内
妊婦等は禁忌。
外来での内服治療が可能。
プロテアーゼ
阻害薬
ニルマトレルビル/
リトナビル
(パキロビッドパック)
内服 重症化リスクのある軽症~中等症Ⅰ 発症から
5日以内
併用禁忌多数。
外来での内服治療が可能。
❖政府買い上げ、無償譲渡。
エンシトレルビル
フマル酸
(ゾコーバ)
内服 軽症~中等症Ⅰ
高熱または咳嗽・咽頭痛等の症状が強いもの
発症から
3日以内
妊婦等は禁忌。併用禁忌多数。
外来での内服治療が可能。
❖政府買い上げ、無償譲渡。
中和抗体薬 カシリビマブ(遺伝子組換え)/
イムデビマブ(遺伝子組換え)
(ロナプリーブ)
単回点滴静注・
単回皮下注射
(点滴静注による投与が実施できない場合にのみ皮下注射)
重症化リスクのある軽症~中等症Ⅰ
(酸素投与を要しない患者)

濃厚接触者の発症抑制
発症から
7日以内
外来や宿泊療養施設・入院待機施設での投与が可能。
❖政府買い上げ、無償譲渡。
ソトロビマブ(遺伝子組換え)
(ゼビュディ)
単回点滴静注 重症化リスクのある軽症~中等症Ⅰ
(酸素投与を要しない患者)
発症から
7日以内
ウイルスの変異が置きにくい領域に作用。
❖政府買い上げ、無償譲渡。
チキサゲビマブ(遺伝子組換え)/
シルガビマブ(遺伝子組換え)
(エバシェルド)
筋肉注射 重症化リスクのある軽症~中等症Ⅰ
(酸素投与を要しない患者)
曝露前発症抑制
  • ワクチン接種が推奨されない、または免疫機能低下等によりワクチン接種で十分な免疫応答が得られない可能性がある者(ウイルス曝露前)
発症から
7日以内
体内での半減期が長く、曝露前の発症抑制に使用可能。
❖政府買い上げ、無償譲渡。
  • 中和抗体薬:単一の抗体産生細胞に由来するクローンから得られたSARS-CoV-2スパイク蛋白の受容体結合ドメインに対する抗体であり、SARS-CoV-2に対して抗ウイルス作用を発揮する。オミクロン株(B.1.1.529/BA.2系統、BA.4系統およびBA.5系統)に対して有効性が減弱する可能性があるため、他の治療薬が使用できない場合に投与を検討する。

日本感染症学会「COVID-19に対する薬物治療の考え方 第15版」、厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部「新型コロナウイルス感染症診療の手引き第8.1版」
厚生労働省資料「承認済の新型コロナウイルス治療薬」、各製品添付文書より作成

ここで忘れてはならないのが、重症化リスクのない軽症例では多くが自然軽快するということで、自然治癒を手助けする対症療法で経過を見ることができるということです。ワクチン予防接種歴、年齢、重症化リスク因子、基礎疾患等に伴う免疫原性などを総合的に勘案して治療薬の投与について検討する旨が日本感染症学会による「COVID-19に対する薬物治療の考え方第15版」に示されています(表4)。また、現在使用可能な中和抗体薬は、オミクロン株に対しては有効性が減弱している可能性がありますので、他の治療薬が使用できない場合に投与を検討するという位置づけになっています。

表4 軽症~中等症Ⅰで治療薬の使用を優先させるべきリスク集団
優先度 リスク集団
1 ワクチン接種歴に関わらず、基礎疾患等によりワクチン接種や感染に対する十分な免疫反応が期待できない免疫不全者
75歳以上のワクチン未接種者
65歳以上の重症化リスク因子を有するワクチン未接種者
2 65歳以上のワクチン未接種者
65歳未満の重症化リスク因子を有するワクチン未接種者
3 75歳以上のワクチン接種者
65歳以上の重症化リスク因子を有するワクチン接種者(特に3回目の追加接種を未実施の場合)
1 65歳以上のワクチン接種者
65歳未満の重症化リスク因子を有するワクチン接種者(特に3回目の追加接種を未実施の場合)

重症化リスク因子:65歳以上の高齢者、悪性腫瘍、COPDなどの慢性呼吸器疾患、慢性腎臓病、糖尿病、高血圧、脂質異常症、心血管疾患、脳血管疾患、肥満(BMI30kg/m2以上)、喫煙、固形臓器移植後の免疫不全、妊娠後期、免疫抑制・調整薬の使用、コントロール不良のHIV感染症、AIDS、慢性肝疾患、鎌状赤血球貧血、サラセミアなど

National Institute of Health: Therapeutic Management of Nonhospitalized Adults With COVID-19. In:Coronavirus Disease 2019 (COVID-19) Treatment Guidelines. 2022.2.1より作成

今後の感染予防の考え方 ワクチンの意義と今後の対応

現在はオミクロン株に対応したワクチンが使われていますが、オミクロン株でも亜型が次々と発生しているため、ワクチンの感染予防効果は落ちてきている状況です。しかし、今後も変異の状況に合わせたワクチンが開発されることが予想されます。ウイルスの変異により感染予防効果が低下したとしても、ワクチンにより重症化予防効果が得られることはたしかです。
この先も新型コロナウイルスが変異を続け、毒性の強い変異株が登場し感染が拡大することもあるかもしれません。インフルエンザと同じように、たとえワクチンを打っていても感染することもあると思いますが、それもある程度必要なことなのではないかと思います。なぜならばワクチンの抗体(抗スパイクタンパク抗体:S抗体)と自然感染の抗体(抗ヌクレオカプシド抗体:N抗体)は異なりますので、ワクチンで得られた抗体にプラスして自然感染による抗体を獲得することで、免疫がブーストされた状態となり、その後数年は感染を回避できると考えられるからです。ワクチンで重症化を防ぎつつ、一定の人が感染していくというのも社会的には必要なことで、それを緩徐に繰り返しながら集団免疫を獲得していくことが重要なのではないかと思います。
今後どのくらいの頻度でワクチンを接種していくかについてはまだ結論がでていませんが、いずれはインフルエンザと同じように1年に1回の接種ということになってくるのではないかと思っています。5類への移行により、将来的にはワクチン接種も一定額の自己負担が必要となりますので、インフルエンザワクチンと同じように、個人の判断でワクチンを打つ打たないを決めていくということになるのではないかと思っています。

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新型コロナウイルス感染症の罹患後症状(コロナ後遺症)

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