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女性の更年期障害を知る

2023年4月号
女性の更年期障害を知る 人生のセカンドステージを充実させるための更年期医療の画像

更年期には多様な症状が出現し、症状によっては日常生活に支障を来たすことも少なくありません。更年期障害で医療機関を受診する患者さんや症状の改善を求めてOTC薬を買いに来局する患者さんに接する機会や、ご自身の症状で気になっている方もいるのではないでしょうか。更年期診療に長年携わる東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 茨城県地域産科婦人科学講座 教授の寺内公一氏に、女性の更年期障害を解説いただきました。

女性の更年期障害とは

更年期に現われる多種多様な症状の中で、器質的変化に起因しないものが更年期症状であり、その症状が日常生活に支障を来たす病態が更年期障害と定義されます。
日本では、「閉経の前の5年間と閉経後の5年間をあわせた10年間」が女性の更年期と定義されていますが、国際的にはstages of reproductive aging workshop(STRAW+10)の分類に基づき、完全に月経が停止する前の閉経移行期後期(late menopausal transition)と、閉経した後の閉経期前期(early postmenopause)のあわせて4~5年程度が更年期にあたる期間と考えられています。

なぜ起こる? 更年期症状発生のメカニズム

更年期症状の主な原因には、卵巣機能の低下によるエストロゲンの変動と減少、加齢に伴う身体的変化以外に、精神・心理的な要因、社会文化的な環境因子などが複合的に影響することで症状が発現する心身医学的な疾患と考えられています(表1)。

表1 更年期症候群の成因
身体的因子 エストロゲンの変動と減少、脳下垂体の失調
心理的因子 成育歴、性格的素因
社会的因子 職場の人間関係、夫・子との関係、実父母・義父母の介護

寺内氏の話をもとに作成

更年期には、卵巣機能の低下で卵巣から放出される女性ホルモンであるエストロゲンが急激に低下します。これと同時に、女性ホルモンの分泌を促す卵胞刺激ホルモン(FSH)が急激に上昇します。これらの急激な変化は閉経の前2年と後2年、合わせて4年間程度で起こり、この期間が更年期症状の出現するコアタイムと考えられています。
ここで問題なのが、更年期のエストロゲンの低下が直線的なものではなく、短期的に上昇したり急降下するといった大きな「ゆらぎ」を伴って低下するという点です。よくガス欠の自動車にたとえるのですが、ガソリンが無くなりかけた時にアクセルを踏むと急発進しそれがガソリンを減らすことでさらにスピードが低下することがあります。こうした自動車の速度のゆらぎのように、更年期にエストロゲンの分泌量は大きくゆらぎながら低下することが、身体的、精神的な更年期症状を引き起こす原因になっていると考えられています。

エストロゲンがゆらぎながら低下することで様々な症状が現れる

エストロゲンの受容体は全身に分布していますので、エストロゲンの分泌が低下することで全身に様々な症状が起こります。しかし、これら全てを一緒に考えるのではなく、エストロゲンの分泌がゆらぎながら低下していく段階で生じる更年期症状と、エストロゲンが完全に欠乏した後に引き起こされる疾患に切り分けて考える必要があります。
閉経前後のエストロゲンが大きくゆらぎながら低下する更年期に起こる症状として主なものとしては、倦怠感や肩こりなどの非特異的な身体症状、ほてり、のぼせ、異常発汗などの自律神経失調症状(血管運動神経系症状)、不眠、不安、抑うつ、イライラするなどの精神神経症状があります(表2)。一方で、閉経後のエストロゲンの欠乏による影響を受けて起こる疾患には、泌尿生殖器の萎縮症状、高コレステロール血症と心血管系疾患、骨粗鬆症、認知症などがあります。

表2 主な更年期症状
非特異的な身体症状 倦怠感、肩こり、腰痛、頭痛など
自律神経失調症状
(血管運動神経系症状)
ほてり、のぼせ、異常発汗など
精神神経症状 不眠、不安、抑うつ、イライラするなど

寺内氏の話をもとに作成

更年期障害のある状態は更年期女性の4人に1人

厚生労働省の患者調査によれば、更年期障害の患者数は10万5千人と報告されていますが、病院に受診する人は氷山の一角であり、実際には、45~54歳の女性(935万人)の80%(748万人)が何らかの更年期症状を有しており、25%(234万人)、つまり更年期女性の4人に1人はその症状が生活に支障をきたしている更年期障害の状態にあると推測されています。

更年期症状の中で特に多いのは肩こりと疲れやすさ

実際にどのような更年期症状で悩んでいる方が多いのでしょうか。我々の調査では、外来を受診する患者さんの5割くらいは、ほてり、のぼせ、発汗などの血管運動神経症状を感じていました。また、気分が落ち込む、不安感、不眠の症状を持っている方は血管運動神経症状と同程度の割合、肩こり、疲れやすいという症状がある方はそれ以上に多いということがわかっています1)
前述の通り、更年期障害はエストロゲンの分泌低下と加齢という身体的因子だけではなく、心理的因子と社会的因子が関与する心身医学的な疾患であると考えられています。これを表す一つの重要なデータとして、ライフイベントにおけるストレスと、エストロゲンの変動およびうつ症状の関連を見た研究で、エストロゲンのゆらぎがあるだけでなく、そこにストレス因子が加わったときに更年期症状としてうつ症状がでるということが報告されています2)
更年期症状の出方には個人差が大きいのが特徴です。その全てがストレスだけで説明できるわけではありませんが、ストレスという心理社会的因子は更年期症状に関して大きなファクターであるといえます。

他疾患との鑑別 特に甲状腺疾患の鑑別が必要

更年期障害のような症状を主訴とされる患者さんに対しては、まず症状についての質問票を確認します。血液検査でホルモン量を調べることもありますが、エストラジオールやFSHの分泌量はゆらぎが大きく頻回に変動するため、閉経前後の時期にはこれらの測定はあくまで参考程度です。
更年期症状がみられた場合にそれが本当に更年期症状か否かは簡単に判別できません。例えば、胸が締まるような心地がする訴えがある場合に

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