子どもの感染症では、自宅療養での注意や医療機関を受診するかどうかの判断など、保護者の不安も尽きません。今回は、子どもがよく罹患するRSウイルス感染症と手足口病について、主な症状や対症療法を中心に東京都立小児総合医療センター感染症科部長の堀越裕歩氏に解説していただきました。また、薬剤耐性対策が進められるなか、ウイルス性疾患に対して抗菌薬の不適正使用を回避する重要性についてもお話を伺いました。
- 侵襲性や疾病負荷が高く二峰性の流行を示すRSウイルス
- 軽症例は数日で回復 重症例は細気管支炎や呼吸悪化も
- 子どもの呼吸悪化と脱水に注意する
- 脱水の回避には水分とともに塩分摂取を
- 熱を下げて消耗を防ぐ咳込みを考慮した投薬を
- 気管支喘息の小児では貼付剤の選択も
- 重症化リスクの高い子どもへのモノクローナル抗体薬
- 受動喫煙などの増悪因子を改善気管支喘息も良好にコントロールを
- 夏風邪ともいわれ 手、足、口に発疹が出る
- ほとんどが軽症で自然回復 発熱にはアセトアミノフェンを選択
- 中枢神経症状や脱水、免疫不全状態に注意する
- トイレ後や食事前、おむつ処理後は手洗いを
- ウイルス性疾患では抗菌薬をむやみに使用しない
- 抗菌薬の適正使用を推進しよりよい未来の構築へ
侵襲性や疾病負荷が高く二峰性の流行を示すRSウイルス
RS(Respiratory Syncytial)ウイルスは、気道系の感冒症状を引き起こすウイルスのひとつです。主に子どもが感染し、小児の呼吸器感染症による入院理由として最も多くを占めています。RSウイルスは大人でも感染することが知られており、高齢者では子どもと同様に重症化や死亡に至るケースもあります。侵襲性や疾病負荷が比較的高いウイルスですが、現時点では有効なワクチンや抗ウイルス薬がない最後の呼吸器ウイルスとも言われています。
RSウイルス感染症は20~30年前は冬に流行していましたが、最近の10~20年は、本州では7~9月頃の夏季に最初のピーク、12月頃の冬季に次のピークがみられるという二峰性の流行パターンを示しています。
新型コロナウイルス感染症が流行した初期の2020年は、人と人の接触機会が減ったことによりRSウイルス感染症の流行がみられなくなりましたが、その後、人との接触機会が増えたことや、RSウイルスにさらされる機会のあった子どもが少なかったことなどから、2021年の夏は大流行がありました。2023年はおそらく、これまでのような夏季と冬季の二峰性の流行パターンに戻っていくのではないかと予測しています。
軽症例は数日で回復 重症例は細気管支炎や呼吸悪化も
RSウイルスに感染したときの症状は、健康な大人であれば一般的な感冒とほとんど区別がつかず、少し喉が痛い、咳や鼻水が出るといった「風邪かな?」と思われる症状の範囲で、あまり重症化することはありません。特に苦しくなることや脱水になることがない軽症の場合には、自宅療養により3~4日で回復します。
典型的な症状として、コンコンと強い咳が出て気管支炎になることがあります。RSウイルスは気管で炎症を起こし、気管の細胞を破壊するなど気管に対する侵襲性が高いため、ウイルスが消失した後も気管へのダメージが残る場合には、数週間ほど咳が続くこともあります。
1歳未満では基礎疾患がなくても症状が悪化するケースや、2歳未満では気管支の先が狭窄する細気管支炎をきたし、喘息発作のような、ヒューヒュー、ゼーゼー、といった呼吸苦をきたすことがあります。治療を行っても呼吸症状が悪化した場合には、入院した上での酸素投与や人工呼吸器で呼吸管理をしながら、自然回復を待つことになります。
子どもの呼吸悪化と脱水に注意する
RSウイルス感染症に対しては、これをしておけばよいという具体的な予防策がないため、具合が悪くなったら医療機関を受診することが一番です。RSウイルス感染症を含め、子どもの呼吸器感染症において、医療機関を受診するかどうかの判断のポイントは主に2つで、呼吸の状態が悪くなったときと、水分がとれなくなって脱水になったときです。
子どもの呼吸が悪化している兆候としては、飲んだり食べたりすることができなくなった、遊んだりすることがあまりできない、呼吸がヒューヒュー、ゼーゼーしているなど、とてもしんどそうに見える、ミルクを飲ませてもすぐに咳込んで吐いてしまう、といったこともあります。また、呼吸器感染症では横になると呼吸が苦しくなりますので、小さな赤ちゃんが抱っこをしていないと全然寝てくれない、起きていないと呼吸が保てない、といったこともあります。このような症状がみられたときには、近隣の小児科を受診されるとよいでしょう。
脱水の回避には水分とともに塩分摂取を
自宅でできる重症化予防策はあまりありませんが、水分の摂取には気を付けていただくとよいでしょう。おしっこが出ていればあまり心配はいらないと考えてもよいのですが、水分が摂取できずに脱水が起きてしまうと、脱水によって具合が悪くなってしまいます。
水分摂取の際、水やお茶ばかり飲ませていると、塩分が不足してくることがあります。塩分は通常、食事からもかなり摂取していますが、体調が悪化して食事が全くとれていないときに水やお茶ばかり飲んでいると塩分の不足をきたし、意識が低下したり具合が悪くなることがありますので、適宜、塩分の含まれた飲み物を与えましょう(表1)。
呼吸の状態が悪くなったときの様子 |
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脱水への対応 |
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呼吸の状態が悪くなったとき、脱水が起きているときは医療機関を受診する |
堀越氏の話を元に作成
熱を下げて消耗を防ぐ咳込みを考慮した投薬を
対症療法としての解熱剤にはアセトアミノフェンを使用します。熱を下げて消耗を抑えるという目的もありますし、発熱で呼吸がハーハーしているとそれだけでもかなりの水分を喪失しますので、脱水を回避するためにも有効です(表2)。
アセトアミノフェン | |
アセトアミノフェン | 原末、細粒、錠、 ドライシロップ、 シロップ小児用、 ドライシロップ小児用、 坐剤小児用 |
アンヒバ | 坐剤小児用 |
アルピニー | 坐剤 |
カロナール | 原末、細粒、錠、シロップ、 坐剤、坐剤小児用 |
アセリオ | 静注液 |
アセトアミノフェン配合剤 | |
PL配合顆粒 幼児用PL配合顆粒 |
配合顆粒 |
ぺレックス配合顆粒 小児用ぺレックス配合顆粒 |
配合顆粒 |
各製品添付文書より作成
RSウイルス感染症は、RSウイルスの単独感染で症状が軽症の場合には抗菌薬はほぼ不要です。ただし、RSウイルスによって発熱や咳などの症状が現れて回復した後に、肺炎球菌などによる二次性の細菌感染症などが生じて病状がもう一段階悪化することがあります。こうしたケースでは、二次性の細菌感染症に対して抗菌薬を処方することがあります。
RSウイルス感染症では、症状として咳込みや嘔吐などが生じます。1歳未満で咳がひどい場合などはどのようなお薬を飲ませても吐いてしまうことが多いですから、服薬に際しては、吐いてしまった場合の対応法なども薬剤師さんからご指導いただけるとよいと思います。
気管支喘息の小児では貼付剤の選択も
喘息のあるお子さんで、RSウイルス感染によってヒューヒュー、ゼーゼーといった喘息発作の症状が出ている場合には気管支拡張薬が効果的なケースもあります。ただし、RSウイルスによる細気管支炎に対しては、気管支拡張薬を投与しても改善はあまりみられません。
β2刺激薬を使う場合には、咳がひどいお子さんではおくすりを飲ませても咳込んで吐いてしまったり、くすり嫌いのお子さんでは嫌がってくすりを飲んでくれないこともありますので、ツロブテロール経皮吸収型テープ(ホクナリンテープ)などの貼付剤を選択することもあります(表3)。内服が可能な場合には、ドライシロップ製剤もあります。
治療、療養時の注意点 |
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喘息のある小児の場合(RSウイルス感染による喘息症状の増悪に対して) |
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堀越氏の話を元に作成
RSウイルス感染によって喘息発作が出ている場合には喘息に対するステロイド薬の効果はあると思います。一方で、RSウイルス自体に対しステロイド薬はあまり効果的ではありませんので、明らかに喘息だと判断できるとき以外はステロイド薬はあまり使用していません。
重症化リスクの高い子どもへのモノクローナル抗体薬
RSウイルス感染症の重症化リスクが高い早産児や慢性肺疾患を有する小児には、重症化の抑制を目的としたモノクローナル抗体薬パリビズマブ(シナジス)があります。対象となる小児にはRSウイルス感染流行初期に月1回筋肉注射することで、RSウイルス感染による重症化を防ぎます。日本小児科学会から「日本におけるパリビズマブの使用に関するコンセンサスガイドライン」が発行されており、適応は患者ごとに検討しますが、現在は、先天性心疾患、ダウン症候群、免疫不全のお子さんにも適応が拡大されています。なお、パリビズマブは月1回投与型の製剤ですが、現在、長時間作用型の抗体薬も開発が進められています。
受動喫煙などの増悪因子を改善気管支喘息も良好にコントロールを
呼吸器感染症に対しては、特にタバコの副流煙による受動喫煙が気管を刺激して状態を悪化させる因子となりますので、小さなお子さんがいるご家庭では保護者の健康のためにも禁煙していただくのが最善です。どうしても禁煙が難しい場合には、特にお子さんが風邪をひいて体調を崩しているときにはしっかりと分煙をしていただくとよいでしょう。
気管支喘息など気道系のアレルギー症状がすでにある場合には、RSウイルス感染が喘息発作の誘因になりますので、日常的にしっかりと喘息をコントロールしておくことが重要です。喘息に対して有効な薬剤は多くのものがありますので、適切な使い方の指導において、薬剤師さんにも活躍していただければ幸いです。
夏風邪ともいわれ 手、足、口に発疹が出る
手足口病では、その名称からも分かるように、手、足、口に発疹がみられます。発疹は手、足、口のすべての部位に発現することもあれば、一部の部位のみに発現することもあります。手足に発疹がみられ手足口病を疑って医療機関を受診することになる場合もあれば、夏の時期に発熱があって受診され、診察時に口の中に手足口病に典型的な発疹が観察されることもあります。口の中でも特に喉に発疹ができるものはヘルパンギーナと呼ばれています。
手足口病の原因は、腸管内で増殖するウイルスの一種であるエンテロウイルス属のウイルスで、エンテロウイルスやコクサッキーウイルスなどがあります。近年は新型コロナウイルスの流行によってさまざまな感染症の流行パターンに変化がみられましたが、例年は主に夏の時期に複数のウイルスが各地で