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特集

2023年最新版 心不全の診断と治療

2023年7月号
2023年最新版 心不全の診断と治療の画像

心不全の患者数は増加の一途をたどり、毎年1万人ベースで患者数が増加していると推定されています。団塊の世代が後期高齢者に突入する2025年以降はさらに患者数が増加すると予測されることから「心不全パンデミック」の到来と危惧されており、その対策が喫緊の医療課題となっています。日本の心不全医療をリードする研究者の一人である九州大学の井手友美氏に最新の心不全診療についてお話を伺いました。

心不全の定義と病態

心不全とは、「何らかの心臓機能障害、すなわし、心臓に器質的および・あるいは機能的異常が生じて心ポンプ機能の代償機転が破綻した結果、呼吸困難・倦怠感や浮腫が出現し、それに伴い運動耐容能が低下する臨床症候群」と定義されています(急性・慢性心不全診療ガイドライン2021年フォーカスアップデート版)。
しかし、循環器専門でなければ医療者であっても心不全について十分に理解しているとはいえず、心臓の機能が低下した状態と漠然と捉えられていることも多いと思います。その理由としては、心臓機能障害を引き起こす原因疾患が多岐にわたること、そして、心不全は複数の症候があらわれる症候群であることによると思われます。
心不全を理解するには、まず「心不全の病態の本体は循環不全であり、心臓から全身に必要な血液を送り出せない低心拍出と、血液が送り出せないために血液が停滞することによるうっ血により心不全の症状が引き起こされる」ということを理解することが重要です(表1)。

表1 心不全を正しく捉えるために抑えておきたいこと
心不全
とは
何らかの心臓機能障害、すなわち、心臓に器質的および・あるいは機能的異常が生じて心ポンプ機能の代償機転が破綻した結果、呼吸困難・倦怠感や浮腫が出現し、それに伴い運動耐容能が低下する臨床症候群
心不全の
病態
循環不全
  • 心臓から全身に必要な血液を送り出せない低心拍出
  • 血液が送り出せないために血液が停滞することによるうっ血
心不全の
原因疾患
心筋組織の直接的な障害
  • 心筋梗塞、心筋症、心筋炎など
免疫・内分泌・代謝性疾患・炎症性疾患などの全身性疾患
  • 栄養障害や薬剤、化学物質など外的因子
心筋組織への長期的な負荷による機能障害
  • 弁膜症や高血圧など
血行動態の異常
  • 頻脈性、徐脈性不整脈など
心不全の
症状
低心拍出による症状
  • 低血圧、易疲労感、倦怠感、手足の冷えなど
うっ血による症状
  • 息切れ、夜間の咳、起座呼吸、労作時呼吸困難、体重増加、足の浮腫、食欲低下など

井手氏の話をもとに作成

動くと息が切れるのは心不全の特徴的な症状

心不全では、低心拍出とうっ血による症状が見られます(表1)。特に特徴的なのが「労作時呼吸困難」です。健康な人では運動時に筋肉が使われるとそれだけ酸素が必要になりますので、自律神経の働きで心拍数が上昇し、1回の心拍出量も増える仕組みが働き、需要と供給のバランスがとれるようになっています。
しかし、心不全の患者さんでは、心臓から十分な血液を送り出せなくなっていますので、酸素需要が増えても心拍出量を十分に増やすことができない状態です。そのため運動負荷がそれほど強くない平らなところでの歩行は問題がないとしても、坂道や階段など運動負荷が強くなると酸素の供給が追いつかない、また同時にうっ血による心臓や肺の圧の上昇から、苦しくなるという症状が出現します。さらに重症化すると日常生活動作でも息が切れるようになってきます。

心不全の進展ステージ 心不全ステージに入ると増悪と寛解を繰り返す

心不全の病期は、表2のステージ分類で表されます。このステージ分類と身体機能を合わせて心不全の経過を辿ってみると、身体の機能が急落し、急性心不全の発症または心不全症候の出現が起こります。これを起点にステージCの心不全ステージへと進展します。ステージCで、急性心不全を治療していったん寛解したとしても、ステージBには戻ることはありません。治療が不十分だったり、病態の進行に伴い、心不全が再発することがしばしばです。慢性心不全として経過しながら、そのような増悪と寛解を繰り返すうちに病態は徐々に重症化し、治療抵抗性のステージDへと進展していきます。

表2 ACCF(米国心臓病学会財団)とAHA(米国心臓協会)の心不全ステージ分類
ステージA
  • 器質的心疾患のないリスクステージ
  • リスク因子があるが器質的心疾患も心不全症候もない
ステージB
  • 器質的心疾患のあるリスクステージ
  • 器質的心疾患があるが、心不全症候はない
ステージC
  • 心不全ステージ
  • 器質的心疾患があり、心不全症候(既往も含め)を有する
ステージD
  • 治療抵抗性心不全ステージ
  • おおむね年間2回以上の心不全入院を繰り返し、治療してもNYHA心機能分類Ⅲ度より改善しない

井手氏の話をもとに作成

ニューヨーク心臓協会(New York Heart Association;NYHA)による心機能分類(表3)による心機能評価でこの経過をみると、急性心不全の発症時(または急性増悪時)にNYHA心機能分類Ⅲ度やⅣ度の状態に陥ったとしても、治療が奏効すればⅠ度やⅡ度にまで改善できることも少なくありません。しかし、それは増悪期の谷を越えたということに過ぎず、その後は進行性の経過を辿ります。つまり、ひとたび急性心不全を発症し心不全ステージに進行すると、その後急性増悪の再発を起す可能性が極めて高く、生命予後が悪いということなのです。

表3 NYHAの心機能分類
Ⅰ度 日常的な身体活動で心不全症状*はない
Ⅱ度 安静時には無症状であるが、日常的な身体活動で心不全症状*が生じる
Ⅲ度 安静時には無症状であるが、日常的な身体活動以下の労作で心不全症状*が生じる
Ⅳ度 安静時にも心不全症状*があり、わずかな労作でこれらの症状が増悪する

*心不全症状:疲労、動悸、呼吸困難あるいは狭心痛

井手氏の話をもとに作成

病態、症状、経過が表現された一般向けの説明

急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)では、心不全について一般向けの説明を示していますが、これは心不全の病態とそれに伴う症状、経過について非常に良く言い表している文言です。
「息切れ」は、低心拍出により全身に送り出される血液が十分でないために酸素不足あるいはうっ血が生じることで起きる症状であり、「むくみ」は、血液がスムーズに流れず渋滞が起こることで圧が上がりうっ血の状態になることで生じる症状です。さらに「だんだんと悪くなり、生命を縮める」というのは、心不全を発症するとその後の経過で増悪を繰り返しやすくなり生命予後が非常に悪い疾患であるということになります(表4)。

表4 一般にむけた心不全の説明
一般にむけた
心不全の説明
心不全とは、心臓が悪いために息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気です
分解してみると
「心臓が悪いために」
右の画像心不全のリスクとなる疾患がベースにある
「息切れ」
右の画像低心拍出と肺うっ血により生じる症状
「むくみ」
右の画像様々な全身のうっ血により生じる症状
「だんだんと悪くなり、生命を縮める」
右の画像生命予後が非常に悪い

日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン『急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)』、井手氏の話をもとに作成

左室駆出率による心不全の分類

心不全の多くは左室機能障害が関与しているため、左室駆出率(LVEF)に基づいてLVEFの低下した心不全(HFrEF)、LVEFの保たれた心不全(HFpEF)、LVEFが軽度低下した心不全(HFmrEF)の3つに分類されています。高齢者はLVEFの保たれた心不全(HFpEF)が多いとされています(表5)。

表5 左室駆出率(LVEF)による分類とその特徴
HFrEF
(LVEFの低下した
心不全)
  • LVEF40%未満
  • 左室収縮機能障害が主体
  • 左室拡大を認めることが多い
HFpEF
(LVEFの保たれた
心不全)
  • LVEF50%以上
  • 左室拡張機能障害が主体
  • 高齢者が多い
HFmrEF
(LVEFが軽度低下
心不全)
  • LVEF40%以上50%未満
  • HFrEFとHFpEFの境界型

井手氏の話をもとに作成

患者数は毎年1万人ずつ増加 2025年以降はさらに増加する可能性が

平均寿命の延伸に伴う高齢人口の増加、高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病に伴う冠動脈疾患の増加とそれに対する急性期治療の成績向上などを背景に、心不全患者は増加し続けている状況です。特に団塊の世代が後期高齢者に突入する2025年以降は、ますます心不全患者が増加すると予測されています。日本全体における心不全患者の総数に関する正確な統計はないのですが、推計では2030年には心不全患者が130万人を超えるとされています1)

  1. Okura Y et al. Circ J 2008; 72: 489-491

日本の心不全診療の実態を調査 JROADHF研究

日本の心不全診療の実態を調査するとともに、適正化を進めるためのエビデンスを創出する目的で行われたのがJROADHF(Japanese Registry Of Acute Decompensated Heart Failure)研究です。日本循環器学会が実施している「循環器疾患診療実態(JROAD)調査」の登録施設(循環器教育病院)から、ランダムに抽出した128施設における心不全入院患者13,238例のDPCデータを解析した結果、心不全入院患者の実態として以下のことが示されました。

  • 心不全入院患者の年齢の中央値81.0歳(女性84歳、男性77歳)

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2023年最新版 心不全の診断と治療

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Special Report

心不全患者の「つなぐ」薬歴管理 確認点と4つのステップ

患者さんの安全を守り、かつ薬剤師がそのために振り返るためのツールである薬歴。オンラインセミナー「心不全患者の薬歴マネジメント」が6月14日に開催され、つなぐ薬局 柏の薬剤師、鈴木邦彦氏が心不全の症例を題材に薬歴管理のポイントを解説しました。

心不全患者の「つなぐ」薬歴管理 確認点と4つのステップの画像
カフェ

脂肪肝による心不全リスクと改善法

7月28日は「日本肝炎デー」。厚生労働省は、7月28日を含む1週間を「肝臓週間」とし、肝炎の病態や予防、治療などの正しい理解が進むよう普及・啓発を行い、肝炎ウイルス検査の受検を呼びかけています。沈黙の臓器とも呼ばれ、自覚症状が乏しい肝臓は、定期的なセルフチェックが大切です。

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向精神薬の用量調整のケーススタディを配信している本企画で参考にしているのが、2021年5月に株式会社じほうから発行された『ゆるりとはじめる精神科の1冊目』です。今回は本書籍で学べることをご紹介します。

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