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ジェネリック医薬品の供給不安の解消に向けて Part.1

2023年9月号
ジェネリック医薬品の供給不安の解消に向けてpart.1の画像

小林化工の水虫薬に睡眠薬の成分が混入した問題を発端に発生した医薬品供給不安。現在でも未だ供給不安の状況は続いており、特にジェネリックで薬剤の入手が難しい状況が続いています。ここまで長引く供給不安はなぜ起こったのか、その原因と供給不安解消のためにはどのようなことが必要なのか。「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」のメンバーでもあり医薬品政策に詳しい神奈川県立保健福祉大学教授の坂巻弘之氏にお話を伺いました。

医薬品の供給不安が発生した経緯

2020年12月、小林化工が製造販売を行う経口抗真菌剤イトラコナゾール錠 50mgに睡眠薬の成分が混入し、服用した人に健康被害が続出するという事案が発生し世間を騒がせました。さらに、その後すぐにジェネリックメーカー国内大手の日医工でもGMP違反が発覚し、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(以下、薬機法)に基づく業務停止の行政処分が下されました。
この2社の問題を発端に、業界団体では各社に自主点検を促すとともに、都道府県とPMDAは査察を強化した結果、多数の企業で様々なGMP違反が発覚し(表1)、現在までに15社に業務停止や業務改善命令などの行政処分が下されました(表2)。また、行政処分は出ていないものの、承認書通りに製造していなかった製品や、製造に問題があり規格不適合となった製品の自主回収や出荷停止が多数発生した結果、医薬品の供給不安が発生しました。
小林化工の経口抗真菌剤イトラコナゾール錠 50mg以外の製品での健康被害は発生していないものの、品質だけでなく安定供給の観点からもジェネリックに対する信頼を失墜させる事態となったのです。

  • Good Manufacturing Practice;GMP:医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準
表1 これまで報告された主なGMP違反事例
  • 承認書の製造工程と異なる手順で製造
  • 承認書と異なる量の原料を使用
  • 承認書とは異なる添加物を配合
  • 承認書とは異なる方法による品質試験
  • 必要な品質試験の未実施
  • 品質基準に適合しない製品の出荷(データ改ざん等含む)
など

各報告書などをもとに作成

表2 薬機法違反による行政処分(令和3年~令和5年5月)
企業名(処分庁) 処分日 処分内容
小林化工株式会社 (福井県) 2021年2月9日 (業務停止、業務改善)
日医工株式会社 (富山県) 2021年3月5日 (業務停止)
岡見化学工業株式会社 (京都府) 2021年3月27日 (業務停止、業務改善)
久光製薬株式会社 (佐賀県) 2021年8月12日 (業務停止)
北日本製薬株式会社 (富山県) 2021年9月14日 (業務停止、業務改善)
長生堂製薬株式会社 (徳島県) 2021年10月11日 (業務停止、業務改善)
松田薬品工業株式会社(愛媛県) 2021年11月12日 (業務停止、業務改善)
日新製薬株式会社 (滋賀県) 2021年12月24日 (業務停止、業務改善)
富士製薬工業株式会社 (富山県) 2022年1月19日 (業務改善)
共和薬品工業株式会社 (兵庫県、鳥取県、大阪府) 2022年3月28日 (業務停止、業務改善)
中新薬業株式会社 (富山県) 2022年3月30日 (業務停止、業務改善)
辰巳化学株式会社 (石川県) 2022年9月2日 (業務改善)
株式会社廣貫堂 (富山県) 2022年11月11日 (業務停止、業務改善)
ニプロファーマ株式会社 (秋田県) 2023年2月24日 (業務改善)
フェリング・ファーマ株式会社 (厚労省) 2023年4月28日 (業務改善)
  • 海外の原薬製造所のGMP違反

医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会 報告書 参考資料(https://www.mhlw.go.jp/content/10807000/001106013.pdf)より作成

現在の医薬品供給状況 自社の事情だけではない供給不安の状況

日本製薬団体連合会が行っている医薬品供給状況に関する調査によると、2023年7月末時点で薬価収載されている医薬品17,035品目のうち、3,811品目(全体の22.4%)で通常出荷以外の状態(限定出荷または供給停止)となっており、この75%にあたる2,855品目がジェネリックです。

  • 日本製薬団体連合会 安定確保委員会

限定出荷の内訳としては、「自社の事情」と「他社品の影響」、「その他の理由」によるものがあり、自社の事情による限定出荷が708品目であるのに対し、他社品の影響で限定出荷となっているのは1,527品目と2倍以上となっています(表3)。他社品の影響とは、他社で製造している品目の製造に何らかの問題が発生し出荷が限定的になったために、他の会社で製造販売する同一成分の品目の注文が急増し、それに対して製造が追いつかずに限定的な出荷となっている状態で、いわば他社の出荷状況に巻き込まれて発生しているものです。
また、「自社の事情」には、GMP違反により供給が限定的になっている品目の他にも、解熱鎮痛薬や去痰剤などの新型コロナ感染症の流行で需要増加に対応しきれなくなっている品目や、セファゾリンなど原薬に問題が生じたことで製造が停止された品目、製造後の物流センターの火災などの外的要因により通常の出荷量が確保できなくなっている品目なども含まれています。

表3 製造販売業者の対応状況(2023年7月調査)
製造販売業者の
対応状況
合計  
先発品 長期収載品 後発品 その他の医薬品
品目数 構成比 品目数 構成比 品目数 構成比 品目数 構成比 品目数 構成比
❶通常出荷 13,224 77.6% 2,344 93.6% 1,255 87.9% 5,952 67.6% 3,673 85.5%
通常出荷以外 3,811 22.4% 161 6.4% 173 12.1% 2,855 32.4% 622 14.5%
  限定出荷 2,395 14.1% 92 3.7% 138 9.7% 1,831 20.8% 334 7.8%
❷自社の事情 708 4.2% 49 2.0% 24 1.7% 510 5.8% 125 2.9%
❸他社品の影響 1,527 9.0% 37 1.5% 104 7.3% 1,238 14.1% 148 3.4%
❹その他 160 0.9% 6 0.2% 10 0.7% 83 0.9% 61 1.4%
❺供給停止 1,416 8.3% 69 2.8% 35 2.5% 1,024 11.6% 288 6.7%
未回答 0 0.0% 0 0.0% 0 0.0% 0 0.0% 0 0.0%
総計 17,035 100% 2,505 100% 1,428 100% 8,807 100% 4,295 100%

日本製薬団体連合会 安定確保委員会「医薬品供給状況にかかる調査(2023年7月)」 についてより一部抜粋して作成

不正な製造が横行したのはなぜ?

医薬品は承認書に記載された製造方法および品質基準で製造販売の承認を受けます。その手順書通り製造すべきものであるにも関わらず、複数の企業でそれが守られなかった、その背景としてあげられるのが急速なジェネリックの市場拡大です。
近年、国は医療費抑制政策の一つとしてジェネリックの使用を推し進めてきました。2007年にはジェネリックのシェア30%が目標として掲げられ、2013年にはシェア60%、2021年には、2023年度末までに全都道府県でシェア80%以上という目標が掲げられました。実際、2022年度第3四半期(10~12月)にはシェア81.2%に達しています。

column

現在の供給不安のきっかけとなった小林化工と日医工の問題

小林化工の水虫薬への睡眠薬混入

2020年12月、複数の医療機関から寄せられた副作用発生報告により、経口抗真菌剤イトラコナゾール錠50mgに臨床用量を超える量の睡眠薬リルマザホン塩酸塩水和物が混入していたことが発覚した。このリルマザホン塩酸塩水和物の混入は、同年6月に製造されたロットで原料の取り違えにより発生したもので、承認書とは異なる方法で製造していたとして、2021年2月9日に116日間の業務停止命令の行政処分が下された。
この時に製造された製剤を服用した患者344人のうち、245人にふらつき、めまい、意識消失、強い眠気等のほか、同薬の服用後の自動車事故や転倒(交通事故38人、救急搬送・入院41人)などの健康被害が発生した。また、因果関係は不明であるが、2人の死亡事例も報告された。
その後に行われた行政の立ち入り調査で、同社では複数品目で承認書と異なる手順で製造を行っていたこと、必要な品質試験を実施せずに製造を行っていたこと、その状態が長年にわたり常態化しており、それに伴う虚偽報告やデータの改ざんなどの隠蔽工作が行われてきたことが明らかになった。
小林化工は業務停止期間終了後も製造再開の見通しが立たず、2021年12月、サワイグループホールディングスに生産拠点と関連部門の人員を譲渡。同社製品のうち医療上不可欠な一部の品目は他社に承継し、それ以外の製品は自主回収を行った上で、同社が製造販売承認を有する医薬品の薬価削除、および承認整理を行い、2023年4月1日を以て医薬品製造販売業許可を廃止。睡眠薬の成分混入に伴う健康被害者への補償は継続するものの事実上の廃業となった。

日医工の問題

2020年2月、富山県及びPMDAの合同で、日医工富山第一工場への無通告査察を実施したところ、GMP違反の疑いが判明し、2020年4月以降、同社製品の自主回収が相次いだ。その後の調査で、出荷試験で不適合となった製品があると別のロットで再試験を行ったり、不適合となった製品を再粉砕・再加工した後で試験を行ったりしていたことが判明し、2021年3月3日、約1カ月間の業務停止命令の行政処分が下された。日医工が製造した製品による健康被害は発生していないものの、ジェネリックメーカー大手の日医工で、このような不正な製造が10年近くも続けられてきていたことは業界関係者に大きな衝撃を与えた。
日医工はその後、企業再生ファンドのジェイ・ウィル・パートナーズと医薬品卸のメディパルホールディングスの支援を受け経営再建を進めており、現在までに不採算品目や安定供給が難しい品目からの撤退や、グループ内で成分が重複していた品目の統一化を進め、計574品目の販売を中止した。

急速な市場拡大を背景に出荷量の確保が最優先に

ジェネリックは、先発品の特許が切れると、複数の企業から同一成分の薬が発売されるため、市場には成分が同一の競合品が乱立することになります。当然1つの製品のシェアは小さくなりますので、承認時は少量での製造を想定して製造を計画して承認を受けています。それに対し、ジェネリック市場は急速に拡大したため、急増した需要に対して承認書の製造手順では注文をまかないきれなくなり、より効率的に大量に製造できる手順で製造して出荷対応を行ってきたと考えられます。
法令遵守の観点からすると、承認された事項を変更する場合には、軽微な変更の場合を除き、一部変更申請を行い、承認を受ける必要があるのですが、そのためには一度製造を止め、承認書の改訂および承認申請が必要となり、それには時間を要することになります。企業側の建前でいうと、すでにその薬剤を使っている患者さんがいるのに製造を止めるわけにはいかないということになるのですが、現実としては利益追求のために出荷量の確保が最優先となっていたことは否めない事実です。

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