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ジェネリック医薬品の供給不安の解消に向けて Part.2

2023年9月号
ジェネリック医薬品の供給不安の解消に向けての画像

小林化工の水虫薬に睡眠薬の成分が混入した問題を発端に発生した医薬品供給不安。現在でも未だ供給不安の状況は続いており、特にジェネリックで薬剤の入手が難しい状況が続いています。ここまで長引く供給不安はなぜ起こったのか、その原因と供給不安解消のためにはどのようなことが必要なのか。「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」のメンバーでもあり医薬品政策に詳しい神奈川県立保健福祉大学教授の坂巻弘之氏にお話を伺いました。

コンプライアンス意識の低さとガバナンスの機能不全

どのような事情があるとしても、医薬品の品質管理と安定供給は、医薬品を製造販売する企業の最も重要な責務です。必要な品質管理試験を行っていなかった、あるいは試験結果のデータ改ざんなどは悪質であるとしかいいようがありませんが、いずれにしても法令遵守に対するコンプライアンス意識の低さとガバナンスが機能していなかったことが原因にあることは明確です。

依然として供給不安が解消されない理由

前述の通り、手順書の改訂・申請・承認には時間がかかることから、GMP違反があった製品の出荷が通常出荷の状態に戻るには一定の期間を要します。それであれば製造に問題のない同一成分の他社の製品を増産すればいいのではないかと思われるかもしれませんが、ジェネリックメーカーでは、製造キャパシティに合わせた製造計画に基づき製造されていて、ただちに増産する余裕がないという問題があります。

製造キャパシティの不足 年間の製造計画で製造ラインをフル稼働

ジェネリックメーカーでは、製造品目をあらかじめ計画した量をまとめて製造し在庫として保有し、注文に対応しています。一つの品目の製造が終了するとその製造ラインの洗浄作業を行った後、すぐに次の品目の製造を開始するといった製造スケジュールで年間の綿密な製造計画に沿って製造ラインをフル稼働させています。そのため、急遽需要が増加したとしても、その品目を急に増産するというのは現実的ではありません。
一方、先発メーカーの長期収載品は特許が切れた時点でほとんどの製造を外部委託しています。委託先の製造ラインの状況はジェネリック医薬品と同様で、こちらも生産の柔軟性は乏しい状態です(実際、大半はジェネリックメーカーが受託しています)。
こうした製造キャパシティの事情から、「他社品の影響」を受けている企業では、販売する製品の在庫切れを避けるために、新規の注文を受け付けない、あるいは注文量の全量を納品しないなど、出荷を限定的にして調整しているのです。また、現在の不安定な供給状況から、医療機関・薬局で必要以上の量を注文しているケースも指摘されており、それも混乱を長引かせる一因となっています。しかし、同一成分の品目全体としてみれば、必要量が充足しているものもあることから、国は全体として供給量が充足している品目については、各社に限定出荷の解除を要請しています。

供給不安の根本的なリスクの分析

供給不安がなぜ発生したかを考えるには、根本的に存在する供給不安のリスク要因を整理して考える必要があります。
まず、製造キャパシティの不足です。これは海外でも医薬品の供給不安の原因の一つとされますが、日本のジェネリックメーカーは海外に比べ小規模ですので他社品の影響などを受けやすく安定供給が阻害されやすいという状況があります。
また、ジェネリックの場合、同一成分の競合品間で価格での競争となり、安易な値引きが行われます。それにより次の薬価改定ではさらに薬価が引き下げられるという悪循環に陥り、不採算品目の供給量を減らし市場全体での供給量も減少することから、安定供給が損なわれる要因となっています。こうした低収益構造に関与するのが、医薬品特有の流通慣行と産業構造です(表4)。

表4 医薬品特有の流通慣行と産業構造
流通慣行
  • 医薬品の実際の納入価と薬価との差である薬価差益は、医療機関・薬局にとって経営原資ともなっていることから、医薬品購入にあたって卸との間で差益分を大きくする値引き交渉が行われる。
  • 先発医薬品については、薬価と納入価の差額が小さいものについては、薬価が維持される仕組みがあり、企業も卸に対して納入価を維持させようとするが、ジェネリックについてはそうした仕組みがなく、納入価が下がりやすい。
  • また、品目ごとに単価を決めた取引(単品単価取引)ではなく、一つのジェネリックメーカーの品目をまとめて「一山いくら」の総価で取引する「総価取引」が慣例的に行われる。総価取引も、ジェネリックの納入価が下がりやすい要因となっているが、特に安価なジェネリックではその影響が大きい。
産業構造
  • 海外に比べ日本のジェネリック企業は規模の小さい企業が多いため、製造キャパシティに余力を持つだけの企業体力がない会社が多い。その上、2005年の改正薬事法でジェネリック医薬品の共同開発が可能になったことから、製造を外部に委託する外資系企業や新薬系企業のジェネリック市場への参入が相次いだ。
  • これにより価格競争がより激化しただけでなく、薬価収載後数年が経過し収益性が低下すると、販売を中止したりジェネリック市場から撤退したりする企業が続出し、同一成分の品目を販売する企業は不採算品目を抱え続けるという状況になる。

坂巻氏の話をもとに作成

サプライチェーンの脆弱性も

少しでも収益性を高めるためには原薬の価格を抑える必要があります。そのため、多くのジェネリックメーカーでは原薬・原材料の調達を海外に依存している状況です。しかし、セファゾリンの原薬の問題のように、コントロールの利きにくいサプライチェーン※※には問題が発生しやすく、安定供給を阻害するリスクとなります。
また、一つの国や地域への依存が高くなると、新型コロナ感染症の世界的な流行やウクライナ問題などの非常事態の際にサプライチェーン断絶のリスクも高くなります。さらに、為替の変動や世界的な物価上昇による原材料価格の高騰の影響などは、収益性低下のリスク要因にもなります。このように、行政処分に至った不祥事以外にも、供給不安のリスク要因が複合的に絡み合っています(図)。

  • 2018年末、セファゾリンセファゾリン原薬を輸入している海外企業における異物混入、原薬出発物質の製造停止等が重なり、セファゾリンの生産に支障が発生した。
  • サプライチェーン:原材料・部品の調達から生産、販売、消費までの一連の流れ

図 医薬品の供給不安に関わる問題(私見)

坂巻氏ご提供

ではどうすれば良いのか?今後の供給不足を防ぐための対策

現在の供給不安の問題だけでなく、将来的に供給不安を発生させないようにするためには、今回の供給不安で明らかになった問題点だけでなく、リスク要因も含めて供給不足を未然に防ぐ、あるいは供給不安が生じたときに医療への影響を最小化するための対策が必要です(表5)。

表5 供給不安を未然に防ぐための対策
コンプライアンス意識の向上と企業ガバナンスの強化
現在の供給不安の最大の原因は、医薬品メーカーにおけるコンプライアンス意識の低さと企業ガバナンスの機能不全によるものであることは明確である。各社での対策に加えて、国および業界団体による対策も迅速かつ継続的に行っていく必要がある。
薬事監視体制の強化
GMP違反が存在したにもかかわらず発覚してこなかった理由として、データ改ざんや隠蔽など悪質な事例も見受けられた。これまで国および都道府県は事前に通告した上で査察を実施していたが、事前通告なしの査察(無通告査察)を実施していくことで監視体制の強化を行う。
製造キャパシティ向上のための取り組み
現在、サワイグループホールディングス、東和薬品などジェネリック大手の企業で、製造ラインの増設など、増産のための設備投資を行っているが、製造キャパシティを向上させるためには、設備だけではなく、配置する人員の教育なども必要であるため、適正に稼働させるためには時間を要する。大手企業だけではなく、業界全体の製造キャパシティを向上させ、増産体制の整備投資を支援する取り組みが求められる。
収益性の確保
国の対策として薬価差益の適正化に対する取り組みと同時に、最低薬価や不採算品目に対する薬価の下支えの仕組みの見直しが必要である。
サプライチェーンの強靱化
各企業での取り組みを支援すると同時に、原薬の共同調達などの取り組みを推進するなどの取り組みも必要である。
産業構造の改革
今後はこれまでのような市場拡大は見込まれない。そのためジェネリック市場への企業の新規参入はこれまでのようには多くはないと思われるが、製造キャパシティや安定供給など、新規参入のための要件を整理していくと同時に、現在のジェネリックメーカーを適正に導いて産業として育てていくための取り組みが必要である。
情報共有の仕組み作り
医療機関や薬局は薬剤確保のための情報を入手することに疲弊している状況である。現在、日薬連で供給情報の取りまとめと情報提供が行われているが、現在のように供給が不安定な状態に陥った時には、よりタイムリーな情報収集と情報共有の仕組みが必要である。

坂巻氏の話をもとに作成

現在の供給不安の解消までにはどれくらいかかるか

全ての企業で実際の製造管理・品質管理に承認書との齟齬がないか、齟齬があるのであればそれを早急に解消すべきであるのはいうまでもありません。そこを全て解決して大手を中心に通常出荷の状態に戻れば、供給不安は解消されていくと思われます。業界団体は、齟齬の解消についてを2023年中に終了することを目標にしているとされます。
しかし、齟齬の解消だけでは全ての供給不安は解消されません。日医工の経営再建手続きで過去に例を見ない578品目の販売が停止されたことや、小林化工の医薬品製造販売が停止された影響など、他社品の影響は今後も続くことが予想されます。全体的な供給不安の解消には、日本全体で製造キャパシティを増やす必要があり、大手ジェネリック企業の増産体制が実際に稼働し、供給不安が全て解消されるまでには、向こう3年程度はかかるのではないかと思われます。
現在、国の動きとして、「情報共有の仕組みについてのワーキンググループ」、「産業改革のための検討会」が立ち上がり改善に向けての対策の検討が開始されたところです。1日も早く現在の供給不安が解消されると同時に、将来的な医薬品供給不安を回避するための対策がとられていくことが望まれます。

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