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特集

慢性腎臓病(CKD)という疾患概念を理解する

2023年10月号
慢性腎臓病(CKD)という疾患概念を理解するの画像

自覚症状なく進行する慢性腎臓病(CKD)。成人の8人に1人がCKDといわれています。腎臓の機能低下は不可逆性で、進行すると透析や腎移植などの腎代替療法が必要となる末期腎不全へと進展することから、いかに早期にCKDを捉えて適切な介入を行うかがポイントと言われます。6月に改訂された「CKD診療ガイドライン2023」の内容を踏まえて、CKDの全体像について東北大学教授の田中哲洋氏に解説いただきました。

CKDの定義、診断

慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease;CKD)は単一の疾患を表す疾患名というより、「何らかの原因によって慢性的に腎臓の構造や機能が低下した状態」を指す概念です。CKDの腎障害は不可逆性で、増悪・進展すると透析や腎移植などの腎代替療法が必要となる末期腎不全へと至り生命予後とQOLに大きな影響を及ぼすことがわかりました。また、CKDは心血管疾患(Cardio Vascular Disease;CVD)発症やCVDによる死亡の重大なリスク因子であることが明らかになり、その発症抑制、重症化抑制の重要性が認識されました。こうしたことを背景に、CKDの疾患概念が提唱されました(表1)。

表1 CKDの定義と大きな特徴
CKDとは 何らかの原因により慢性的に腎臓の構造や機能が低下した状態
特徴❶
不可逆性
CKDによる腎障害は不可逆性。増悪・進展により徐々に末期腎不全へと進行。人工透析などの腎代替療法が必要となる。また、生命予後とQOLに大きな影響を及ぼす。
特徴❷
危険因子
CKDはCVD発症と死亡の独立した危険因子。早期介入によるCKDの進行抑制によりCVD発症を抑制することが重要。

田中氏の話をもとに作成

CKDは、尿検査あるいは画像検査で確認される腎障害の有無と糸球体濾過量(Glomerular Filtration Rate;GFR)による基準をもとに診断されます(表2)。

表2 CKDの診断基準
以下ののいずれか、または両方が3ヶ月を超えて持続する(特に蛋白尿の存在が重要)
  1. 尿異常、画像診断、血型検査、病理診断で腎障害の存在が明らか
  2. GFRが60mL/分/1.73m2未満

*腎障害の指標

  • 蛋白尿0.15g/24時間以上(アルブミン尿30mg/24時間以上)
  • 尿沈渣の異常
  • 尿細管障害による電解質異常やその他の異常
  • 病理組織検査による異常、画像検査による形態異常
  • 腎移植の既往

田中氏の話、CKD診療ガイドライン2023をもとに作成

CKDの原疾患

CKDの病態を来たす原因としては、おもに生活習慣病に起因する疾患(糖尿病性腎症や高血圧性腎硬化症など)や、IgA腎症などの原発性糸球体疾患といった腎臓固有の疾患、多発性嚢胞腎を初めとする遺伝性の疾患などがあげられます(表3)。原疾患により臨床経過や予後、治療が異なってきますので、CKDの診断時には原疾患の探索を行うことが重要となります。

表3 主なCKDの原疾患
糖尿病性腎症
  • 5~15年以上の糖尿病罹患歴を有し、網膜症を合併する場合が多い。進行性で予後不良であるものの、特に初期は臨床症状が乏しい
  • 進行するとネフローゼ症候群となり、浮腫が出現する
  • 末期腎不全になると、食欲不振、全身倦怠感などの尿毒症症状や全身浮腫、胸水貯留、呼吸困難などの心不全症状が見られる
高血圧性腎硬化症
  • 長期間持続した高血圧や動脈硬化が硬化性病変をきたす。そして、腎血流が低下することで腎間質の線維化や糸球体の硬化が進行、腎実質が硬化に至ることにより発症する
  • 主に血管病変を中心とするため、蛋白尿は軽度であり(1g/日以下)、血尿などの所見は認められない。腎硬化症に陥りネフロンの喪失を伴うと、糸球体濾過量、腎血流量・腎血漿流量ともに低下する
  • 高血圧は重要なCKD増悪因子であり、かつCKDは高血圧の原因となり既存の高血圧を重症化させる。つまり高血圧とCKDは悪循環の関係にある
IgA腎症
  • IgAがメサンギウムに沈着することを特徴とする原発性糸球体腎炎
  • 日本で最も多い原発性慢性糸球体腎炎で、未治療の場合は20年の経過で約40%が末期腎不全に至るとされる

田中氏の話をもとに作成

CKDの重症度ステージ分類

GFRと蛋白尿はそれぞれ末期腎不全、あるいは心血管疾患の独立したリスク因子であることから、CKDの重症度はそのリスクを層別化するために、原因(Cause:C)と、腎機能(GFR:G)の6区分(G1~G5)、蛋白尿(アルブミン尿:A)の3区分(A1~A3)により18段階に分けられたCGA分類で評価されます(表4)。

表4 CKDの重症度分類
原疾患 蛋白尿区分 A1 A2 A3

GFR値

GFRの実測は非常に煩雑であることから、実臨床では血清クレアチニン値、性別、年齢から推算式を用いて算出した推算糸球体濾過量(eGFR)を用いて評価を行う。ただし、国際的な推算式をそのまま日本人に用いると腎機能を過大評価することになるため、日本人係数を用いた推算式を用いて計算する。

糖尿病性腎臓病 尿アルブミン定量
(mg/日)
尿アルブミン/Cr比
(mg/gCr)
正常 微量アルブミン尿 顕性アルブミン尿
30未満 30~299 300以上
高血圧性腎硬化症
腎炎
多発性囊胞腎
移植腎
不明
その他
尿蛋白定量
(g/日)
尿蛋白/Cr比
(g/gCr)
正常 軽度蛋白尿 高度蛋白尿
0.15未満 0.15~0.49 0.50以上
GFR区分
(mL/分/
1.73m2)
G1 正常または
高値
≧90      

蛋白尿とアルブミン尿

糸球体障害のマーカーとしては、尿蛋白定量よりも尿アルブミン定量の方が鋭敏であると考えられているが、日本の保険診療では、糖尿病、または早期の糖尿病性腎症の場合(微量アルブミン尿が疑われる場合)にのみ尿アルブミン定量の測定が可能であり、それ以外は保険適用されていない。そのため、現状では臨床において尿蛋白定量が評価に用いられている。

G2 正常または
軽度低下
60~89      
G3a 軽度~
中等度低下
45~59      
G3b 中等度~
高度低下
30~44      
G4 高度低下 15~29      
G5 高度低下~
末期腎不全
<15      

重症度は原疾患・GFR区分・蛋白尿区分を合わせたステージにより評価する。CKDの重症度は死亡、末期腎不全、心血管死亡発症のリスクを緑のステージを基準に、黄、オレンジ、赤の順にステージが上昇するほどリスクは上昇する。

KDIGO CKD guideline2012を改変し作成

重症度としては、GFR区分G1/蛋白尿区分A1(表4の左上)が最も軽症、GFR区分G5/蛋白尿区分A3(表4の右下)が最重症ということになります。また、記録としては重症度を正確に把握するため、GFR区分と蛋白尿区分、原疾患がそれぞれ分かるように、例えば「CKD G3bA2(糖尿病性腎臓病)」というように記載されます。

CKDの予後と進行の特徴

腎機能は、健常者でも加齢に伴い経年的に低下していきます。また、CKDによる腎機能の障害は不可逆性のため、治療しても腎機能は回復することなく徐々に低下していきます。
CKDの進行スピードは個人差が大きく、比較的進行が緩徐で生涯ご自身の腎臓で過ごすことが可能な患者さんもいれば、進行が早いために末期腎不全に至り透析療法などの腎代替療法が必要になる患者さんもいます(図1上)。腎機能低下速度を予測する因子については多くの研究が行われています。2023年現在では、CKDの重症度分類で重視されている蛋白尿が腎機能低下の進行に最も強くに関わる因子と考えられており、蛋白尿の多い人では末期腎不全への進展リスクが高いということになります。
CKDの進行は、CGA分類で最も軽症のG1A1から最重症のG5A3に向かって徐々に移行していくというイメージですが、原疾患によってその進行のラインは異なります。原疾患別な傾向として、糖尿病性腎症では蛋白尿が増加し、その後にGFRが低下するというラインを辿りやすく、高血圧性腎硬化症ではGFRが低下した後に蛋白尿が増加するというラインを辿りやすいとされています。

CKD治療の考え方

CKDに対する治療の大きな目的は、腎機能の低下を抑制し、末期腎不全への進展を回避すること、そしてCVDのリスクを低減させCVD発症、死亡を抑制することになります。そのため、早期に治療介入を開始することで、現在の腎機能をできるだけ維持し、その後の腎機能低下のスロープを緩やかにすることが治療目標です(図1下)。

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