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特集

透析を知る

2024年4月号
透析を知るの画像

慢性腎臓病は、糖尿病や高血圧など様々な原因疾患により腎臓の構造や機能が低下した状態です。原疾患に対する治療とともに、腎保護作用により腎機能低下を抑制するための治療と、腎機能低下に伴い出現する症状に対する治療が行われますが、腎障害が進行し末期腎不全に至ると腎臓の機能を代替するために透析療法などを行う必要があります。末期腎不全の透析療法について、旭川赤十字病院腎臓内科部長の小林広学氏に解説いただきました。

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末期腎不全の透析療法

慢性腎臓病による腎障害は不可逆性であり進行性の病態です。食事制限や薬物療法など様々な対処してもなお腎障害が進行し、末期腎不全の段階に至ると、腎臓の機能を代替する治療を導入する必要があります。
日本透析医学会のガイドラインでは、推算糸球体濾過量(eGFR)が15mL/分/1.73m2より低下し(表1のG5)、腎不全症候、日常生活の活動性、栄養状態を総合的に判断し、それらが透析療法以外には回避できない場合には、透析療法の導入を決定するとされています。ただし、透析開始について数値などで明確に示されているわけではないことから、そのタイミングについては主治医によって見解が異なるのが実情です。

表1 CKDのステージ分類
原疾患 蛋白尿区分 A1 A2 A3
糖尿病性腎臓病 尿アルブミン定量
(mg/日)
尿アルブミン/Cr比
(mg/gCr)
正常 微量アルブミン尿 顕性アルブミン尿
30未満 30~29 300以上
高血圧性腎硬化症
腎炎
多発性囊胞腎
移植腎
不明
その他
尿蛋白定量
(g/日)
尿蛋白/Cr比
(g/gCr)
正常 軽度蛋白尿 高度蛋白尿
 0.15未満  0.15~0.49 0.50以上
GFR区分
(mL/分/
1.73m2
G1 正常または
高値
≧90      
G2 正常または
軽度低下
60~89      
G3a 軽度~
中等度低下
45~59      
G3b 中等度~
高度低下
30~44      
G4 高度低下 15~29      
G5 高度低下~
末期腎不全
<15      

重症度は原疾患・GFR区分・蛋白尿区分を合わせたステージにより評価する。CKDの重症度は死亡、末期腎不全、心血管死亡発症のリスクを緑のステージを基準に、黄、オレンジ、赤の順にステージが上昇するほどリスクは上昇する。

GFR値
GFRの実測は非常に煩雑であることから、実臨床では血清クレアチニン値、性別、年齢から推算式を用いて算出した推算糸球体濾過量(eGFR)を用いて評価を行う。ただし、国際的な推算式をそのまま日本人に用いると腎機能を過大評価することになるため、日本人係数を用いた推算式を用いて計算する。

蛋白尿とアルブミン尿
糸球体障害のマーカーとしては、尿蛋白定量よりも尿アルブミン定量の方が鋭敏であると考えられているが、日本の保険診療では、糖尿病、または早期の糖尿病性腎症の場合(微量アルブミン尿が疑われる場合)にのみ尿アルブミン定量の測定が可能であり、それ以外は保険適用されていない。そのため、現状では臨床において尿蛋白定量が評価に用いられている。

KDIGO CKD guideline2012を改変し作成

末期腎不全に至った場合、早期に透析を導入して管理した方がいいという考えの医師もいれば、薬剤治療で症状を軽減しながら、できるだけ保存的な治療で管理を継続していくことをポリシーとしている医師もいます。私は後者の考え方で、腎臓内科医としてeGFR5mL/分/1.73 m2、血清クレアチニン8mg/dLくらいまでは、できる限り保存的な薬物療法で管理してあげたいという気持ちで診療にあたっています。
しかし、心不全や溢水などの全身状態を総合的に判断していく必要がありますので、必ずしも理想的にはいかないケースもあります。そのタイミングを見逃さないためには、定期的な診察時に尿毒症※症状が出ていないか、全身状態を詳細に確認することが重要となります。

  • 尿毒症:腎機能低下に伴い、尿の産生能力低下するため体内に老廃物が蓄積し、水分バランスや電解質の調節ができなくなることにより、むくみや食欲低下、悪心、頭痛、倦怠感、意識障害、呼吸困難感など様々な症状が出現する。

透析導入のための指導

スムーズに透析療法を開始するために重要なのは、患者さんが透析療法を納得して受け入れることです。そのために、開始までの期間に余裕を持ち、腎代替療法について少しずつ説明していく必要があります。私の場合はeGFRの数値だけでなく、それまでのeGFRの低下スロープから、個々の患者さんの腎機能の低下速度を評価し、1年くらいで透析が必要になる可能性があると考えられるタイミングで、末期腎不全の腎代替療法について説明をしていくようにしています。
ただし、患者さんによっては、透析についての説明を受けると精神的に落ち込んでしまう方もいますので、この説明を行うタイミングについては患者さんごとに慎重に考えていく必要があります。患者さんの透析に対するネガティブなイメージや、腎機能の低下に対する不安があることは否めません。人によっては「透析=悪化、終わり、絶望」と捉え透析療法に対して拒絶的な態度を示すこともあります。
保存期の診療の中で患者さんと医師が信頼関係を築き、慢性腎臓病の自然経過がどういうものか、また、健康な人でも腎臓の働きは加齢とともに低下することなども含めてお話しし、少しずつその先の治療について受け入れてもらう方向に持っていければ理想的だと考えています。透析療法をしっかり行えば元気に生活できることを理解してもらうことで、最初は拒否的な反応を示していた患者さんでも納得して透析を受け入れていくケースは多いです。

透析療法の種類を選択

透析療法には、透析施設で行う血液透析(Hemo Dialysis;HD)と、在宅で行う腹膜透析(Peritoneal Dialysis;PD)の二種類があります。また、条件が合えば腎移植という選択肢もあります(図1)。

図1 末期腎不全に対する腎代替療法
末期腎不全に対する腎代替療法の画像
小林氏の話をもとに作成

血液透析と腹膜透析の原理と仕組み

ここから、血液透析と腹膜透析の原理と仕組みを解説していきます。

血液透析

血液透析は、血液を透析回路に取り込み「ダイアライザ」と呼ばれるろ過フィルターに循環させることにより、体内に溜まった老廃物と余剰な水分を除去する治療法です(図2)。

図2 血液透析の仕組み
血液透析の仕組み

シャントからポンプを用いて血液を脱血し、透析器(ダイアライザ)に循環させ、水分と老廃物の除去、電解質の調節を行った後、浄化された血液を体内に戻す(回収)。

血液透析の仕組みの画像1
ダイアライザ

ダイアライザは、細い管状の透析膜(直径約0.2mmの半透膜)を約1万本束ねたもの。透析膜の管の中を血液が流れ、周囲に透析液が流れる。ダイアライザ内では、透析膜を介して血液と透析液が接することで、透析膜の穴を通じて血液側の老廃物と水分、塩分などが透析液へと移動することで血液が浄化される。これらの物質の移動は、主に「拡散」と「限外濾過」によって行われる。

シャント

シャントは一般に血液や体液を通すための管や経路を指す。血液透析では1分間に約200mLの血液を透析器に通す必要があるため、十分な血液量を確保するために、手首近くの動脈と静脈をつなぎ合わせてバスキュラーアクセス(内シャント)を作製する。

拡散と限外濾過
血液透析の仕組みの画像2

拡散は物質を濃度が薄い方へ移動させること。尿毒素物質などの血液から除去したい物質を、透析液中の濃度を血中濃度よりも低くすることで、透析膜の小さな穴から透析液側に移動させる。

血液透析の仕組みの画像3

片側に圧力をかけることで水分子と一緒に溶質を分離する。拡散だけでは除去されにくい分子量の大きな物質や、アルブミンなどのたんぱく質に結合している尿毒素などが主に濾過によって除去される(尿毒素物質が水分子とセットになって透析液側へ移動する)。

小林氏の話をもとに作成

腹膜透析

腹膜透析は、腹部にカテーテルを留置して、腹腔内に透析液を入れ一定時間貯留し、その間に血液と透析液で水や物質の交換を行い、血液中の尿毒素や余分な水分を取り除く治療法です(図3)。

図3 腹膜透析の仕組み
腹膜透析の仕組みの画像1

腹部に留置した腹腔カテーテルから腹腔内に透析液を注入し、一定時間貯留したところで腹腔内の透析液を体外に排液し、再度新しい透析液を注入するバック交換を行う。排液時には空の透析液バッグを腹腔より低い位置に、注入時には新しい透析液バッグを腹腔より高い位置に配置することにより行う。1回のバッグ交換にかかる時間は約30分。

腹膜における水・物質の移動
腹膜透析の仕組みの画像2

腹膜を透析膜として利用。透析液を一定時間腹腔内に貯留させている間に、腹膜を介して血液と透析液で水や物質の交換を行う。この交換は拡散と浸透の原理を利用している。

小林氏の話をもとに作成

血液透析と腹膜透析の実施スケジュールと合併症

基本的には、血液透析は透析施設、腹膜透析は在宅で実施しますので、スケジュールが異なります。また、原理や仕組みの違いから起こりうる合併症も異なります(表2)。

表2 血液透析と腹膜透析の実施スケジュールと合併症
血液透析 腹膜透析

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