高齢化社会を迎えるなか、80歳までに3人に1人は帯状疱疹になるともいわれています。帯状疱疹発症後、神経の損傷をきたしてしまうと神経障害性疼痛(帯状疱疹後神経痛、post-herpeticneuralgia:PHN)が残ることもあり、抗ウイルス薬による早期治療が重要です。今回は、山梨大学医学部皮膚科学講座 教授川村龍吉氏に、帯状疱疹の近年の動向、発症の原因や経過、抗ウイルス薬による治療や予防接種についてなど、多岐にわたる内容を解説していただきました。
帯状疱疹が増加した理由 高齢化社会、水痘ワクチン定期接種化
帯状疱疹の年齢別の発症率は従来、10歳台と50~60歳台での二峰性のピークが見られ、20~40歳代の子育て世代では発症率が低い傾向にありましたが、近年は子育て世代の発症率も増加しています。帯状疱疹の発症率の増加には、社会の高齢化と、2014年から開始された水痘ワクチンの定期接種化が影響しています。
水痘ワクチンの定期接種化以前は、水痘(水ぼうそう)にかかった子どもが水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV:varicella zostervirus)ウイルスを空気中に排出し、それをすでに水痘に罹患した周囲の保護者や祖父母などが吸い込むことによってVZV特異的細胞傷害性T細胞が増加し、免疫のナチュラルブースター効果が得られていました。しかし、2014年に水痘ワクチンが定期接種化されてからは水痘にかかる子どもが激減し、ナチュラルブースター効果が得られなくなった子育て世代での帯状疱疹が増加してきています。
近年増加した別の理由 新型コロナウイルスの影響
近年のコロナ禍では、マスクなどの感染症対策によって空気感染が抑制されたために水痘などの気道系のウイルス感染症が激減し、子どもと接する保護者や祖父母世代がナチュラルブースター効果を得られず帯状疱疹を発症しやすくなった可能性もあります。
また、新型コロナウイルス感染症の患者では帯状疱疹が発症しやすくなることも報告されています1)。特に初期からデルタ株までの流行では、帯状疱疹で受診された患者さんに新型コロナウイルスのPCR検査を実施すると、PCR陽性と判定されることがありました。新型コロナウイルス感染後、長期の潜伏期間のあいだにVZV特異的細胞傷害性T細胞が減少したことで、帯状疱疹を発症していたと推察されました。
さらに、新型コロナウイルス感染症に対するワクチン接種者では非接種者に比べて帯状疱疹の発症率が高いことも報告されていますが2)、その理由はまだ明らかになっていません(表1)。
- Bhavsar A, et al. Open Forum Infect Dis. 2022; 9(5): ofac118.
- Barda N, et al. N Engl J Med. 2021; 385(12): 1078-1090.
主な傾向 |
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帯状疱疹が増加している理由 |
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川村氏の話をもとに作成
発症の引き金は不明だが免疫不全が潜んでいることも
VZVは、初めての感染で水痘を発症させますが、回復後もVZVは知覚神経節に潜伏感染しています。VZVに対する特異的細胞性免疫が低下したときに、潜伏感染していたVZVが再活性化し、帯状疱疹が発症します(表2)。
水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)に感染
水痘(水ぼうそう)を発症
VZVが知覚神経節に潜伏
VZVに対する特異的細胞性免疫が低下するとVZVが再活性化
帯状疱疹の発症
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川村氏の話をもとに作成
帯状疱疹を誘発する要因は明らかではありませんが、日常の診療では、学生であれば運動会や文化祭などの行事の準備をしていた、徹夜をしていた、成人では仕事が多忙であった、高齢者では葬儀の手伝いをして気疲れしたなど、数日間の軽微な疲労やストレスがあったという患者が見受けられます。ですから、診療の際には日常生活においてなんらかのストレスがなかったかを聴取するようにしています。
日常生活でのストレスの訴えがない場合、特に若年患者ではAIDSなどの免疫不全症候群が潜んでいることがあり、HIVの検査をすると陽性になることもあります。AIDS患者では免疫不全によりニューモシスチス肺炎やカポジ肉腫などの症状が現れてきますが、それよりも前のCD4陽性T細胞がやや減少した初期段階で帯状疱疹が現れてきます。ただし、帯状疱疹の発症予防や治癒には、VZV特異的CD4陽性T細胞や抗体ではなく、VZV特異的CD8陽性T細胞のみが重要となります。AIDS以外でも、悪性腫瘍、重症感染症、免疫抑制薬や抗癌剤の服薬により細胞性免疫が低下している場合には、帯状疱疹を発症しやすく、また重症化もしやすくなります。
症状は片側 神経の走行に沿って現れる
帯状疱疹では、デルマトーム(皮膚分節知覚帯)と呼ばれる神経の走行に沿って痛みが発生します。神経の走行は身体の左右に分かれているため、多くの場合、片側性に症状が現れます。好発部位は肋間神経(鎖骨の下からおへそ)、三叉神経の第一枝(目の上の領域、おでこから髪の生えている頭頂から側頭部)、腰部・坐骨神経領域(お尻、太もも)などです(表3)。
主な背景 |
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主な症状 |
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合併症 |
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ヘルペスとの鑑別診断 |
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川村氏の話をもとに作成
典型的な症状の経過としては、チクチクとした痛みが発生し、やがて水ぼうそうのような水疱や紅斑がぽつぽつと神経に沿って片側性に現れます。
帯状疱疹に対する抗ウイルス薬がまだ存在しなかった時代には、非常に深い痂疲(かひ)(かさぶた)や瘢痕を形成しました。四谷怪談の「お岩さん」の目の上の腫れは実は帯状疱疹に罹患した跡だったのでは、という説もあります。
帯状疱疹の合併症として、眼の神経の障害や結膜炎、角膜炎から急性網膜炎を起こし失明するケース、めまいや聴覚障害、顔面神経麻痺をきたすラムゼイハント症候群、神経障害性疼痛などがあります(表3)。ごくまれですが、脳炎や髄膜炎による死亡例もあります。
見た目では鑑別不能 しかし、検査キットが有用
帯状疱疹は、帯状に水疱や赤斑を形成しながら病変が現れますが、皮疹を見るだけでは他疾患との鑑別が難しい部位もあります。口の周りや外陰部の水疱は帯状疱疹だけでなく単純ヘルペスウイルス(HSV:herpes simplex virus)による口唇ヘルペスや性器ヘルペスで認められることもあります(写真)。
帯状疱疹とヘルペスは、視診では鑑別が難しい場合がある。
川村氏ご提供
VZVによる帯状疱疹とHSVによるヘルペスでは服薬する薬の量も異なります。鑑別が重要ではありますが、水疱の数が少ない場合などでは皮膚科の専門医であっても視診だけでは鑑別不可能なことがあります。また、最近は高齢者でお尻の割れ目の脇あたりに臀部ヘルペスが生じるケースも増えていて、これも坐骨神経領域のお尻や太ももに生じる帯状疱疹との鑑別が困難です。
ただし、HSVの抗原検査キット(デルマクイック®HSV)に加え2023年にVZVの抗原検査キット(デルマクイック®VZV)が登場し、再発性ヘルペスと帯状疱疹の鑑別に使用できるようになりました(表3)。採取する検体の量には限りがありますし、検査を2つ実施するとコストもかかりますので、水疱を剥いで綿棒でこすったら、まずVZVまたはHSVのどちらか、可能性の高いと考えられる方のキットで検査します。結果が陰性となった場合には、もう一方のキットを使用して判定します。
抗ウイルス薬による一刻も早い治療が必須
帯状疱疹は、VZVの増殖や炎症による神経の損傷によって神経障害性疼痛をきたすため、神経障害性疼痛を回避するためにも、一刻も早い抗ウイルス薬の服用が必要です。
帯状疱疹に対する抗ウイルス薬は、内服薬が4つ、静注薬が2つあります(表4)。
作用機序からは、