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加齢黄斑変性の基礎知識

2024年6月号
加齢黄斑変性の基礎知識の画像

加齢黄斑変性の治療はこの10数年で劇的に変化したといえます。その中でVEGF阻害薬を用いた治療の果たした役割は非常に大きく、昔は中途失明していたような患者さんの視機能も多く救うことができるようになってきました。しかし、それでもなお、中途失明の主要疾患であることには変わりなく、さらに有病率は年々増加しています。長年、黄斑疾患全般の診療、研究に携わられてきた日本大学病院眼科の外来医長・診療教授の森隆三郎氏に加齢黄斑変性の基礎について解説いただきました。

加齢黄斑変性とは

加齢黄斑変性(かれいおうはんへんせい)とは、加齢に伴い、網膜の中心部である「黄斑」が障害され、視力低下を引き起こす疾患で、日本における視覚障害の原因疾患の第4位の疾患です。

表1 視覚障害の原因疾患
(視覚障害者手帳交付の原因疾患)
第1位 緑内障
第2位 糖尿病性網膜症
第3位 網膜色素変性
第4位 黄斑変性症
第5位 高度近視

Morizane Y et al.: Jpn J Ophthalmol 63: 26-33, 2019.をもとに作成

Basic knowledge

眼の構造と物を見る仕組み

  • 眼球の断面図
眼球の断面図の画像
  • 眼底写真
眼底写真の画像

眼球の構造と物を見る仕組みは、しばしば昔のフィルムカメラに例えられる。カメラのレンズにあたる水晶体でピントを調節し、フィルムにあたる網膜上に結像させ、網膜の視細胞がその情報を受け取り、視神経を通じて脳に伝えることで、我々は物を見ることができている。
その際に重要となるのが、視細胞が密集する網膜の中心部の「黄斑」であり、特にその真ん中は「中心窩」と呼ばれ、視野の中心で一番見たいものの情報を受け取る部位である。通常の視力検査で計測されるのは、この中心窩で得られる中心視力である。

左:森氏の話をもとに作成 右:森氏ご提供

年々増加 日本ではほとんど滲出型

加齢黄斑変性は、滲出型と萎縮型の2つに分類されます。滲出型は、脈絡膜という部位に新生血管が発生し、新生血管からの漏出や出血が黄斑の視機能に影響を及ぼすものです。萎縮型は、網膜色素上皮細胞が萎縮することで黄斑の機能が低下します。日本人の加齢黄斑変性は90%以上が滲出型です。
福岡県久山町の40歳以上の住人を対象とした疫学調査である久山町スタディの結果では、滲出型加齢黄斑変滲出型加齢黄斑変性の有病率は、1998年は0.6%、2007年は1.2%、2012年は1.5%と、年々増加していることが示されています(萎縮型はいずれの年でも0.1%で有病率は不変)1)。その理由としては、人口の高齢化に伴い老年人口が増加していることが挙げられます。また、加齢黄斑変性の有病率は男女差が大きく、女性に比べて男性が4倍以上高い(2012年)ということが示されています。

加齢黄斑変性の自覚症状

加齢黄斑変性の症状としては、物の中心が歪んで見える変視と、視野の一部が欠ける暗点、中央が暗く見える中心暗点が出現し、進行に伴い視力が低下していきます(図1)。

図1 加齢黄斑変性の症状(アムスラーチャート)
アムスラーチャートの画像
アムスラーチャート

加齢黄斑変性の症状を簡易的に調べるためのチャート。約30cm離れて、メガネやコンタクトをつけたまま、片目を閉じて中央の黒い点を見つめる。

実生活での中心暗点のイメージ 実生活での中心暗点のイメージの画像

加齢黄斑変性の場合、中央部の格子が歪んでみえる(変視)、格子が見えていない部分がある(暗点)、真ん中が暗く格子が見えない(中心暗点)などの見え方となる。

  • 変視
変視の画像

中央部の格子が歪んでみえる

  • 暗点
暗点の画像

格子が見えていない部分がある

  • 中心暗点
中心暗点の画像

真ん中が暗く格子が見えない

森氏の話をもとに作成

加齢黄斑変性による視覚障害の特徴

加齢黄斑変性による視覚障害は、視野の中心、つまり一番見たいところが歪んでいたり暗く見えたりするために中心視力(上のBasic knowledgeを参照)は低下しますが、周辺は見えているというのが特徴です。ですから、普通に歩くことはできるのですが、視野の中心部が見えないため、例えば道で知り合いに会ったとしても顔がわからない、新聞を読もうとしても読みたい部分の文字を読むことが難しいのです。しかし、周辺は見えていますので、例えば室内で落ちているゴミに気づくことはできるという感じです。ただし、無治療で進行すると周辺部まで見えなくなります。
それに対して、視覚障害の原因疾患第1位の緑内障の場合は、周辺から視野が欠けていき、中心部の視野と中心視力は末期まで維持されるというように、両者は視覚障害の出現の仕方が大きく異なります。

加齢黄斑変性のメカニズム

正常な網膜組織では、網膜の下に存在する網膜色素上皮細胞が、視細胞から出る老廃物を貪食する作用を有しています。その機能が加齢とともに障害されることで、貪食されなかった老廃物が、網膜色素上皮下が肥厚していきます。
ここから網膜色素上皮が傷害されると、血管が豊富に存在する脈絡膜から網膜に向けて脈絡膜新生血管が増殖してきます。新生血管は非常に脆弱で異常な血管であるため、容易に破綻してしまいます。出血や漿液の漏出により黄斑浮腫や漿液性網膜剥離、網膜色素上皮剥離などが起こり、網膜色素上皮や視細胞が破壊され、視力低下が引き起こされるという仕組みです。

図2 滲出型加齢黄斑変性の病態
  • 正常な網膜組織
正常な網膜組織の画像
  • 加齢黄斑変性(滲出型)
加齢黄斑変性(滲出型)の画像
  • 脈絡膜に新生血管が形成され網膜へと侵入していく
  • 脆弱な新生血管は容易に破綻するため、出血や漿液の漏出が起こり、網膜のむくみや網膜下に滲出液が溜まる

森氏の話をもとに作成
(素材:©TAK/iStock)

加齢黄斑変性になる原因は?

加齢黄斑変性の発症原因については世界各国で研究が進んでいますが、未だ解明されていません。現時点で分かっているのは、加齢黄斑変性は慢性炎症に関連した疾患であり、酸化ストレスと関わりがあるということ、酸化ストレスによる網膜色素上皮細胞、網膜の光受容体、脈絡膜毛細血管板の傷害が生じることによるといわれていますが、発症のトリガーとなる因子についての統一した見解は得られていないのが現状です。
唯一多くの研究で共通して発症のリスク因子として挙げられているのが喫煙で、喫煙者は加齢黄斑変性の発症リスクが非喫煙者の4倍とされています。日本人の有病率が、女性に比べて男性が高いというのも、昔は日本人男性は喫煙者が圧倒的に多く、女性の喫煙者は少なかったことが影響しているのではないかといわれています。ただし、それだけでなく人種や性別、遺伝的要因、高血圧・心血管系疾患などが危険因子として挙げられていますし、活性酸素が体内の酸化ストレスを増加させることから、喫煙の他にも紫外線や青色光(ブルーライト)への曝露、ストレスなどが危険因子として挙げられています。

治療の基本的な考え方

治療については、病巣に活動性がある状態、つまり新生血管が確認されれば治療を行いますが、前駆病変など病巣に活動性がない状態では治療は行わず、滲出型への移行がみられないか注意深く経過を観察していきます。
一方で、萎縮型については現時点で治療法がありませんし、滲出型でも進行した瘢痕病巣に対しては有効な治療法はなく、改善の見込みがありませんので経過観察ということになります。
滲出型加齢黄斑変性は、無治療で経過した場合、個人差はあるものの基本的に経時的に悪化していきますので、新生血管が出現した時点で治療を行います。ただし、現在行われている治療の目標は視機能の維持です。治療が奏効すれば多少の改善は可能ですが正常に戻るわけではありません。つまり、視機能が著しく低下してから治療を開始したとしても、その時点の視機能を維持することしかできませんので、いかに早期に発見して早期に治療を行い、視機能が悪化する前の時点での視機能を維持していくかが非常に重要なのです。

治療法の種類

滲出型加齢黄斑変性の治療法としては、以下の3つの方法があります。

抗VEGF療法

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