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熱中症の対策を講じる

2024年7月号
熱中症の対策を講じるの画像

近年の猛烈な暑さにより、死亡者数も増加している熱中症。労作性の熱中症だけでなく、人口の高齢化や孤立が進むなか、周囲に気づかれないうちに徐々に状態が悪化している高齢者の熱中症も問題となっています。熱中症の動向やリスク、適切な予防や対処の考え方やその実践について、帝京大学医学部 救急医学講座 教授の三宅康史氏に解説していただきました。

熱中症はもはや災害 高齢者、住居内での熱中症も多い

熱中症の動向を知る指標のひとつに、総務省消防庁が発表している毎年5~9月の救急搬送状況があります。近年では、暑さが厳しかった2018年と2023年に、救急搬送人数が特に多くなっています。熱中症による死亡者数が千数百人規模になっている年もあり、熱中症はもはや夏季に訪れる災害ともいえるでしょう(図)。

図 熱中症による救急搬送数と死亡数
熱中症による救急搬送数と死亡数の画像
(上)総務省消防庁災害情報熱中症情報 過去の全国における熱中症傷病者救急搬送に関わる報道発表一覧
令和5年10月27日「令和5年(5月から9月)の熱中症による救急搬送状況」
(下)厚生労働省 熱中症による死亡数 人口動態統計(確定数)より作成

重症度をみると、2023年の総搬送人員91,467人のうち、軽症が67.2%と最も多く、次いで中等症が30.1%、重症が2.1%、死亡0.1%、その他0.5%でした。年齢別では高齢者(満65歳以上)が54.9%と最も多くを占め、次いで成人(満18歳以上満65歳未満)が33.8%、少年(満7歳以上満18歳未満)が10.5%、乳幼児(生後28日以上満7歳未満)が0.9%でした。
熱中症の発生場所としては住居が約4割を占め、そのほか道路、屋外、仕事場(道路工事現場、工場、作業所)などが多くなっています(表1)。

表1 熱中症の発生場所(2023年)
住居:敷地内すべての場所を含む 39.9%
道路:一般道路、歩道、有料道路、高速道路など 16.6%
公衆(屋外):不特定者が出入りする場所の屋外部分競技場、各対象物の屋外駐車場、野外コンサート会場、駅(屋外ホーム)など 12.8%
仕事場①:道路工事現場、工場、作業所など 10.2%
公衆(屋内):不特定者が出入りする場所の屋内部分劇場、コンサート会場、飲食店、百貨店、病院、公衆浴場、駅(地下ホーム)など 8.2%
教育機関:幼稚園、保育園、小学校、中学校、高等学校、専門学校、大学など 4.7%
仕事場②:田畑、森林、海、川など(農、畜、水産作業を行っている場合) 2.2%
その他:上記に該当しない項目 5.3%

総務省消防庁災害情報熱中症情報 過去の全国における熱中症傷病者救急搬送に関わる報道発表一覧 https://www.fdma.go.jp/disaster/heatstroke/post1.html
令和5年度 令和5年(5月から9月)の熱中症による救急搬送状況より作成 https://www.fdma.go.jp/disaster/heatstroke/items/r5/heatstroke_nenpou_r5.pdf

血液循環の悪化やうつ熱で熱に弱い臓器が障害される

ここから、熱中症に至る体内動態を解説します。
筋肉運動などによって体内で熱が産生されると体温が上昇します。その状況で、通常は、発汗、および体表の血管を拡張させて血液循環を促進し放熱することで、生存に適した約37度の体温を保とうとする身体の働きがあります。
一方で、休憩せずに筋肉運動を続けた場合には、発汗により水分と塩分を失って血液循環が悪化し、虚血が生じてエネルギーや酸素が臓器に運搬されなくなります。さらに、血液循環が悪化すると、臓器にこもった熱を逃がすことができなくなり、熱に弱い臓器の機能が低下します。
最も影響を被るのは心臓です。心臓は、熱をもった血液を休まずに体表に循環させる負荷がかかる上に、体の深部にあるために冷却されづらいのです。特に心機能が低下している高齢者では心負荷に耐えられず、熱中症の初期に急性心不全で死亡することもあります。
また、血液と脳も熱に弱いといえます。血液は凝固線溶系を司っています。血管内で血液が凝固することにより、脳梗塞や心筋梗塞、最重症の場合には播種性血管内凝固症候群(DIC)を起こすこともあります。集中治療では経皮的心肺補助装置(PCPS)や体外式膜型人工肺(ECMO)などによる救命措置も行いますが、たとえ心機能が維持できても脳が障害され高次脳障害が残ることもあります(表2)。このほか、熱に弱い臓器は肝臓と腎臓と言われています。

表2 熱中症の症状と主な臓器への影響

主な症状
めまい、失神(立ちくらみ)、生あくび、発汗(大量)、口渇感、(強い)筋肉痛、筋肉の硬直(こむら返り)、頭痛、嘔吐、倦怠感、虚脱感、意識障害、痙攣、せん妄、小脳失調、高体温など

  • 典型症状がないため、暑い環境に長くいたか、暑い環境のなかで頑張ったかなどにも留意し、暑い環境での体調不良であれば熱中症を疑う
主な臓器への影響
心臓 心臓の画像 熱をもった血液を循環させることにより心臓負担がかかるが、体内の深部にあるため冷却しにくく、心臓が弱い場合はもちこたえられない。特に高齢者において、熱中症で搬送初期の急性心不全が死亡の原因となる。
脳の画像 心機能が維持できても、高次脳機能障害など不可逆的な障害を受けることがある。意識障害が遷延する、認知機能が低下することもある。小脳の障害では、姿勢が維持できない、ふらつきを生じる。手足の細かい動き(エレベーターのボタンを押す、ピアノ演奏、パソコンのキーボードを打つ)がうまくできない。パーキンソン様症状が出ることもある。
血液 血液の画像 血液凝固による脳梗塞や心筋梗塞、最重症の場合は播種性血管内凝固症候群(DIC)を起こすこともある。

日本救急医学会「熱中症診療ガイドライン2015」、三宅氏の話をもとに作成

高齢者の熱中症は屋内でも熱中症と貧困は深く関係

熱中症には、スポーツや肉体労働をしたことによって起こる「労作性熱中症」と、「非労作性熱中症(古典的熱中症)」があります。現在の日本では非労作性熱中症が大きな問題となっています。急激に発症する労作性熱中症とは異なり、数日前からすでに、元気がない、食欲がない、出歩かない、といった変化が起きていることがあります。
非労作性熱中症に気を付けるべきは高齢者で、中でも居住が独居や高齢者夫婦のみの場合です。室温が適切に管理されないまま放置され、熱中症の可能性に本人やその周囲が気づいたときには、すでに症状進行や重症化に至っているケースが多いのです。
また、「熱中症弱者」という言葉があります。熱中症にかかりやすい人を指す言葉で、脱水状態にある人、高齢者、乳幼児、からだに障害のある人、肥満の人、厚着をしている人、普段から運動をしていない人、暑さに慣れていない人、病気の人、体調の悪い人などを指します。
こうしたリスクに加え、社会的なつながりのない孤立状態や、経済的な困窮も、熱中症のハイリスクファクターです。経済的に苦しい方は、炎天下であっても徒歩や並ぶことを強いられます。以前はこうした方々がひと冬の寒さを乗り切れるか、という課題がありましたが、猛暑の環境においては、ひと夏が乗り切れるか、といった新たな課題に直面しています。熱中症は、現代の日本の貧困問題と深く関係しているといえます。

基礎疾患や服用薬のリスクも考慮する

年齢だけでなく、基礎疾患や服用中の薬剤も熱中症のリスクとなります。

糖尿病

糖尿病の患者さんで血糖値が適切に管理されていない場合、熱中症リスクが高まります。血糖コントロールが悪化することで血管や自律神経が障害され、放熱するための血管拡張作用や発汗機能が低下し、体内に熱がこもりやすくなるのです。
また、糖尿病では、夏場の環境が血糖コントロールの悪化を招くこともあります。高温環境ではインスリンの吸収が速くなるために低血糖に、また、エアコンの入った涼しい部屋にこもり運動をせずに糖分の多い飲み物を多量に摂取するような状況は高血糖になる可能性があり、こうした糖尿病の患者さんの血糖不良状況では脱水が懸念されます。

心不全などの循環器疾患

心不全では熱中症予防対策と同時に心負荷への影響を考慮する必要があります。水分と塩分の摂取は血液量を増加させ心負荷も引き起こすため、心不全の患者さんではしばしば飲水塩分の摂取制限が行われています。そうした場合、夏場の発汗や食欲低下で容易に脱水になり得ます。心不全では、心拍出量が低下していると皮膚への血液量が低下し、熱を逃しにくくなるというリスクもあります。
心筋梗塞、狭心症、心筋症などの既往がある患者さんも、暑熱環境での発汗や血液循環が心負荷につながるため、注意が必要です。脳卒中の後遺症例では、身体の動きが緩慢になることで熱中症のハイリスク環境にいる時間が長くなったり、外出頻度が減って暑さに慣れる機会が減ってしまいます。

︎精神疾患

精神疾患では、エアコンを入れる、外出を控えるといった熱中症を予防する行動に対し注意力が低いために高リスクです。また、アルコール依存症や摂食障害は脱水に近い状態(加えて低栄養による低アルブミン血症)であることも多く、熱中症の原因となる可能性のある既往症となり得ます。

皮膚疾患

皮膚疾患では、発汗や血管拡張による熱放散といった皮膚の体温調節がうまく機能しないため熱を逃しにくい状況となっている場合があります。

肥満

脂肪は筋肉に比べ水分含有量が低く、また脂肪が断熱材となって放熱しにくくなるため、これも高リスクです。

治療薬

熱中症のリスクを高める筆頭は利尿薬です。利尿薬は心臓のポンプ機能の負荷を下げる一方で、ナトリウムと水分を排出します。心不全や高血圧の利尿薬の服用の患者さんは熱中症に注意が必要です。循環器疾患の治療薬としては、血管収縮作用のある薬剤やβ遮断薬も、血流低下による発汗抑制という観点からリスクがあります。そのほか、神経系の薬剤にも注意が必要です(表3)。

表3 熱中症において注意が必要な疾患と薬剤
糖尿病
  • 血糖コントロールが悪化することで血管や自律神経が障害され、放熱するための血管拡張作用や発汗機能が低下するため、体内に熱がこもりやすくなる
  • 高温環境ではインスリンの吸収が速くなるために低血糖になりやすい
  • 涼しい部屋にこもり運動をせずに糖分の多い飲み物を多量に摂取するような状況は高血糖になる可能性があり、浸透圧利尿により脱水に陥りやすい
心不全などの
循環器疾患
  • 飲水、塩分の摂取制限が行われている心不全では、夏場の発汗や食欲低下で容易に脱水になり得る
  • 心拍出量が低下していると皮膚への血液量が低下し、熱を逃しにくくなるというリスクもある
  • 心筋梗塞、狭心症、心筋症などの既往歴は、暑熱環境での発汗や血液循環が心負荷につながる。
  • 脳卒中の後遺症例では、身体の動きが緩慢になることで熱中症のハイリスク環境にいる時間が長くなる、外出頻度が減って暑さに慣れる機会が減る、などのリスクがある
精神疾患
  • エアコンを入れる、外出を控えるといった熱中症を予防する行動に対し注意力が低い
  • アルコール依存症や摂食障害は脱水、低栄養に近い状態であることも多い
皮膚疾患
  • 発汗や血管拡張による熱放散といった皮膚の体温調節がうまく機能しないため熱を逃しにくい状況
肥満
  • 脂肪は筋肉に比べ水分含有量が低い
  • 脂肪が断熱材となってからだの熱を放熱しにくい
利尿薬
  • 脱水を起こしやすくなる
血管収縮作用のある薬剤
  • 血管拡張を妨げるため、皮膚の血流が低下し放熱が低下する
β遮断薬
  • 心機能を抑制するため、皮膚への血流が低下し発汗が抑制され放熱が低下する
抗てんかん薬
パーキンソン病治療薬
  • 発汗障害をきたすことがある。炭酸脱水素酵素阻害による利尿作用から脱水もきたしやすい
抗コリン作用のある薬剤
  • 発汗を抑制する
抗うつ薬
抗精神病薬
  • 発汗障害をきたす可能性がある。体温調節中枢を抑制する可能性がある
興奮剤、覚醒剤
  • 代謝の亢進により熱産生が増加する

三宅康史編著.「医療者のための熱中症対策Q&A」日本医事新報社.2019、三宅氏の話をもとに作成

熱中症に典型症状はない 厳しい暑さの中にいたかどうか

熱中症になると、全身のけだるさ(倦怠感)、頭痛、吐き気、手足のしびれなどが現れることがありますが、これらの症状は片頭痛、インフルエンザ、新型コロナウイルス感染症などでみられることもあり、熱中症の典型的な症状というわけではありません。
熱中症の特徴として重要なのは症状自体というより、むしろ「その日(またはそれまで)、厳しい暑さの環境に長くいたかどうか」という点です。この条件で体調不良が起きた場合には熱中症を疑います。熱中症は、本人の自覚症状ではなく周囲からの心配する声で発覚することも多いのです。

熱中症の対応はF・I・R・Eを念頭に

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