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特集

小児の薬物療法と服薬指導を極める

2024年9月号
小児の薬物療法と服薬指導を極めるの画像

発達・発育の途上にある小児期の薬物療法に難しさを感じる薬剤師も多いのではないでしょうか。薬用量や、出現する副作用の把握、スムーズに薬を服用させる方法など、小児ではきめ細かい対応が必要となります。小児薬物療法認定薬剤師で日々小児の調剤業務に携わり、さらに小児の服薬指導に関するコラム執筆や著書を上梓されている松本康弘氏に小児の薬物療法と服薬指導のポイントについて解説いただきました。

小児の薬物療法の難しさ

小児の薬物療法における薬剤師の業務で多くの薬剤師が難しさを感じる理由としてよく挙げられるのが、小児用量の確認の煩雑さです。小児の処方箋を応需した場合、まずは薬剤師として処方箋に記載された用量が、その患児に適した用量であるかを確認する必要がありますが、小児の薬物療法に使われる薬剤の添付文書には小児用量の記載のないものも多いため、薬用量の確認には手間がかかります。
また、症状の聞き取りも本人から直接聴取できないことも難しさの一つでしょう。小児の場合、両親のいずれか、あるいはその代理で祖父母が患児をつれて来局されます。症状の聴取はその保護者を通じて間接的に行うことになりますので、成人とは異なる難しさがあります。
副作用についても、小児特有の副作用が出現する可能性がありますので、その知識を持って服薬指導と副作用モニタリングを行っていく必要があります。発疹や下痢など、保護者が観察しやすい症状であれば把握するのも比較的容易ですが、目に見えない副作用、例えば、成人であれば薬を服用したら何となく気持ちが悪い、だるくてきついなど本人の訴えにより把握できるような副作用も、小児では自ら言葉で訴えることができません。何となくぐずる、母乳やミルクを飲む量が減ったなど、薬剤服用後の変化を保護者から聞き取ることで評価していかなければなりません。

小児の薬物動態の特徴を理解する

新生児期や乳児期ではそれぞれの臓器の発達が未熟であるため、体重当たりの薬物代謝能や排泄能は成人とは大きく異なります。小児の薬物療法を理解するためには、小児の薬物動態(吸収、分布、代謝、排泄)の特徴を理解しておくことがとても大切です(表1)。

表1 小児の薬物動態
吸収
  • 新生児や乳児では胃内pHは高く中性に近い状態である。その後の成長とともに徐々に胃内pHは低下し2~3歳ごろには成人と同等のpHに達する。
  • 胃内pHが高いうちは酸性薬物はイオン型が多くなるため吸収が低下し、一方、塩基性薬物は分子型となるため吸収が上昇する傾向にある。
  • 乳幼児期は消化管移動速度が遅いことから、胃内滞留時間が長くなるため、薬物の最高血中濃度(Cmax)が低くなり、最高血中濃度到達時間(Tmax)が遅くなる。
分布
  • 新生児・乳児では体重当たりの体内水分含量が多く脂肪量の比率が低いため、水溶性薬剤は分布容積が大きくなり血中濃度が低下する可能性があり、逆に脂溶性薬剤は血中濃度が上昇する可能性がある。
  • 新生児・乳児ではアルブミンなどの血漿蛋白の血中濃度が低いことから、遊離型薬物が増加するため、組織移行性が高まり作用増強を伴う可能性がある。
代謝
  • 薬物代謝酵素の活性は、出生直後は非常に低く、生後2カ月ごろから急速に上昇し2~3歳ごろには成人とほぼ同等に達する。
  • 代謝酵素の種類によって発達速度が異なる。
  • 学童期以降では体重あたりの代謝能が成人を上回る。
排泄
  • 腎機能の発達が排泄能に影響する。
  • 腎機能は生後12カ月ごろにはeGFRは100mL/分1.73m2前後と成人と同程度となるため、排泄による影響はそれほど気にしなくてもよいと言えるが、新生児・乳児では腎排泄型薬剤の排泄遅延がみられるおそれがある。
  • 特に早産児では腎機能が月齢に比較して未熟なことがあるので注意が必要である(腎排泄型薬剤の投与は、受胎後の週数を考慮して行う)。

松本氏の話をもとに作成

小児薬用量の確認

小児の薬を調剤するときに最も神経を使うのが小児薬用量の確認です。はじめから小児向けに開発された薬剤は少なく、多くは成人を対象として開発された薬剤を小児の薬用量に調節して用いることになります。しかし、小児の薬物療法で用いる薬剤全ての添付文書に小児の投与量の記載があるわけではなく、記載があるのは2割程度という調査もあります。添付文書に小児薬用量の記載がある場合とない場合で、調剤時に注意すべきポイントを見ていきましょう。

添付文書に小児薬用量の記載がある薬剤

添付文書の小児薬用量の記載方法には、①体重当たりの用量が書かれている、②体重当たりの用量と年齢区分や体重区分での標準的な投与量が併記されている、③年齢区分のみで用量の目安が記載されているなどがあります。つまり、小児の処方箋を応需したら、年齢はもちろん毎回体重を確認する必要があります。しかし、体重は保護者が忘れたり、間違って覚えたりすることもあるので、当薬局では不明な時や用量がおかしい時は体重が測れるように体重計を用意しています。
体重で換算する薬剤の場合に注意が必要なのが、患児の体重増加の状況次第で、添付文書通りに計算すると薬用量が成人量を超えてしまうケースがあるということです。過量投与を防ぐために成人量を必ず確認する必要があります。
年齢区分で投与量が設定されている薬剤は抗アレルギー薬でよくみられます。それぞれの薬剤で年齢の設定が異なるので、体重ばかり意識すると過量投与になることがあります。よく使用する薬剤の小児用量は一覧表にして監査台に置くことをお勧めします。

添付文書に小児薬用量の記載がない薬剤

添付文書に小児薬用量が記載されていない薬剤では、各種換算式を用いて小児薬用量を算出する必要があります。小児の代謝・排泄機能は成人との体重比と相関しないこと、体表面積は体重や年齢よりも体液量、腎機能、肝重量などとの相関が高いことから、換算式の中でも小児と成人の体表面積比に基づくAugsberger-II式とvon Harnack換算表が比較的よく利用されます(表2)。
現在では、換算式を用いて小児薬用量を簡便に計算できるスマートフォンアプリもありますので、効率的に小児薬用量の確認を行っていくと良いと思います。

表2 小児用量の換算式
換算の基準となる
パラメータ
換算式
体重 体表
面積
年齢 名称 換算式
Clark式*,** 体重(kg)/68 ×成人量
Augsberger-Ⅰ式 (体重(kg)×1.5+10)/100 ×成人量
    Crawford式*** 体表面積(m2)/1.73 ×成人量
  Augsberger-Ⅱ式**** (年齢×4+20)/100 ×成人量
  von Harnack換算表 下表
    Young式 年齢/(年齢+12) ×成人量
  Dilling式 年齢/20 ×成人量
Lenart式 (年齢×2+体重(kg)+12)/100 ×成人量

von Harnack換算表
年齢 未熟児 新生児 6カ月 1歳 3歳 7.5歳 12歳 成人
換算 1/10 1/8 1/5 1/4 1/3 1/2 2/3 1

* 2歳以上に適用   ** 原案の150ポンドを68kgに換算
*** 体表面積(m2)=身長(cm)0.725×体重(kg)0.425×0.007184[Du Bois式]
**** 1歳以上に適用

松本氏ご提供

小児の服薬指導「だいたい飲めれば大丈夫」

小児の薬物療法で最も苦労するのがお子さんに薬を飲ませることでしょう。当薬局で受けた電話による問い合わせ(2年間、315件)を解析した結果、問い合わせ内容で一番多いのが「薬が飲めない、吐き出した」であり、特に苦い薬をお子さんに服用させるのに保護者が苦労していることがうかがえました。
薬剤を飲めない子は治りが悪いのでしょうか?急性上気道炎および喘息様気管支炎で受診した患児の再診時に服用状況を確認し、症状の変化を比較した研究では、「あまり服薬できなかった」子は「服用できた」子に比べて症状悪化/不変の割合が有意に多いことが判明しました1)。このことは小児の服薬指導では「飲ませる」ということが最も重要であることを示唆しています。
服薬指導では、まずはこれまでに服薬経験があるか、服薬経験があればその時に問題なく飲ませることができたかを確認した上で、飲ませやすい方法について説明します。その時、われわれ薬剤師は、「ゼリーに混ぜて」「ジュースに混ぜて」「少量に分けて」など伝えるわけですが、ある時ふと、こちらは一生懸命指導しているとしても、それが時に保護者を「なんとしても飲ませないと」と追い詰めてしまっているのではないかと危惧するようになりました。
まじめな保護者は、ジュースに溶かした時の薬の残渣も気にします。そんな保護者に対して正論をかざして追い詰めるのではなく、「だいたい飲めればいいですよ」とお話しています。先述の研究では、「だいたい服用できた子」と「服用できた子」で比較すると症状悪化/不変の割合はそれほど変わらないのです。もちろん全て服用することが良いのは事実ですが、だいたい服用できれば大丈夫なのです。
「だいたい」というのは難しいので、私は「8割飲めれば良いですよ」とアドバイスします。むしろ失敗したら、再度飲ませ直し、半分飲めたらもう半分飲ませるようにと伝えます。大事なことは失敗してもあきらめないということです。
小児の薬物療法は保護者を介していますので、保護者を上手くサポートしていくことも、薬物療法を安全に進めるためには必要不可欠です。保護者に寄り添うことを忘れてはなりません。

年齢ごとに適した飲ませ方

小児の薬の飲ませ方は年齢によって異なります。1~2歳であれば散剤を水で溶かしてスポイトで飲ませる方法か、少量の水で練って団子状にしたお薬団子を頬の内側や上顎に塗る方法が良いと思います。スポイトで飲ませる場合には、お子さんを横抱きにした方がうまく飲ませることができます。この場合、お子さんを抱いて、スポイトに薬液を吸い取って、少しずつ口に入れるという作業を全て一人でやるのはとても大変ですので、お母さんだけで飲ませるのではなく、できるだけお父さんや祖父母にサポートしてもらいながら飲ませてくださいとお話しています。年齢ごとに適した服用方法についてまとめましたのでご参考ください(表3)。

表3 小児期の区分と年齢ごとに適した服用方法
区分 年齢 特徴 服薬の仕方
新生児期 生後1カ月まで
【生後半年以内】
離乳食開始前は本能的に何でも飲み込もうとするので薬を飲ませるのはそれほど難しくない
【6カ月】
  • 離乳食開始
  • 味覚の発達や自我の芽生えにより徐々に服薬を嫌がる頻度が上がる
【~1歳半】
  • 横抱きにして水に溶かした散剤をスポイトで少量ずつ口腔内に入れて服用させる
  • お薬団子を口腔内(頬の内側や上顎)に塗布して
    服用させる
【6カ月~】
  • 水に溶かして服用させる
  • 食品と混合して服用させる
【3歳半~4歳】
  • 「大人飲み」にトライ
  • 味のある飲料で服用させる
  • オブラートに包んで服用させる
【4~5歳】
  • プレパレーションを開始する
【5歳~】
  • 錠剤・カプセル剤にトライ
乳児期 生後1カ月~1歳まで
幼児期 小学校入学まで(1~6歳)
【2~3歳】
第1次反抗期(イヤイヤ期)
自尊心が芽生える
【4歳前後~】
大人の話が理解できるようになる
学童期 小学生(6~12歳) 徐々に本人に服薬指導を行う
青年期 中学生以上(12~20歳) -
*小児が受ける医療行為を様々な手段によって理解し、納得させるための説明

松本氏ご提供

また、服薬が初めてという場合、保護者が不安そうにされることも多くあります。当薬局では薬剤師が服薬を実践して見せることもあります。実際のやり方を見て覚えてもらえば、その後上手く飲ませることができます。もちろん薬剤師が飲ませても失敗して吐き出されてしまうこともありますが、保護者は薬剤師でもできないこともあるのだから、自分ができなくても仕方ないと気が楽になるようです。多少泣いてもいい、時間かかってもいい、少しくらいこぼしてもいい、大体できればいいというところをわかってもらうことが大切だと思います。
また、お薬の服用は食後と思っている方が未だに多いのですが、食後に服用しなければならない小児の内服薬はほとんどありません。薬というのは味わうと苦くなりますので、食前のお腹が空いているときの方が苦味がわからず飲み込むことができます。

薬剤と混合する食品の相性

離乳食が始まる頃からは、食品と混合して飲ませる方法も使っていきます。その際、混ぜる食品によっては逆に苦味が増してしまうことがあるため、薬剤と食品の相性を考える必要があります。どの薬でも比較的相性がいいのが、アイスクリーム、練乳、単シロップです。単シロップ

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