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尋常性ざ瘡を知る

2020年4月号
尋常性ざ瘡を知るの画像

「青春のシンボル」といわれる尋常性ざ瘡(ニキビ)。かつては、疾患としての認識が低く、患者は一般用医薬品などで対処するのが一般的でした。しかし、2008年に「尋常性痤瘡治療ガイドライン」が登場するとともに、さまざまな薬剤の開発によって治療レベルが向上しました。ガイドラインはその後も改訂を重ね、尋常性ざ瘡の治療は確立しつつあります。たかがニキビ、されどニキビ――尋常性ざ瘡の薬物治療についてまとめます。

尋常性ざ瘡の原因と進行段階

「尋常性痤瘡治療ガイドライン2017(以下、ガイドライン)」では、尋常性ざ瘡(ニキビ、アクネ)は『思春期以降に発症する顔面、胸背部の毛包脂腺系を場とする脂質代謝異常(内分泌的因子)、角化異常、細菌の増殖が複雑に関与する慢性炎症性疾患』と定義されています。尋常性ざ瘡の段階は、大きく分けると、非炎症性(微小面皰、面皰)と、炎症性(紅色丘疹、膿疱、囊腫、硬結)の2つになります(図1)。

図1 尋常性ざ瘡の段階

図1 尋常性ざ瘡の段階の画像

尋常性痤瘡治療ガイドライン2017をもとに編集部作成

[皮疹数で重症度分類]

⃝好発する年齢と部位
尋常性ざ瘡は思春期の男女に多く見られます。好発部位は顔面のほか、前胸部、上背部です。これらの部位に好発する背景として、「脂腺性毛包」と呼ばれる毛包があるためといわれています。脂腺性毛包は、毛が細く皮脂がつまりやすい毛包です。
⃝重症度判定基準
主に炎症性皮疹を対象にした、皮疹数による判定方法と写真によるグローバルな判定方法があります。ガイドラインでは、尋常性ざ瘡の重症度の判定基準として以下の4種を掲げています。
軽症:片方の顔面に炎症性皮疹が5個以下
中等症:片方の顔面に炎症性皮疹が6個以上20個以下
重症:片方の顔面に炎症性皮疹が21個以上50個以下
最重症:片方の顔面に炎症性皮疹が51個以上

尋常性ざ瘡の思春期後の経過 QOLを低下させる瘢痕となる可能性も

ざ瘡は、通常20代の前半から半ばまでに自然に消退しますが、40代までざ瘡が残るような患者さんも一定数いるといわれています。こうした患者さんでは、ざ瘡が残っていることを、難しい人間関係への対処を避ける言い訳にして引きこもる方もいるようです。ざ瘡の重症例などでは、患者さんおよびご家族に対する支持的なカウンセリングが適応となることもあります。
また、炎症所見後に現れる紅斑は一時的な症状で、後に消失するものもありますが、囊腫や硬結といった強い炎症を伴う尋常性ざ瘡の場合、囊腫や線維化病変として残る可能性があります。さらに、萎縮性瘢痕または陥凹性瘢痕と呼ばれる皮膚の陥凹や、隆起、色素沈着といった症状は、いわゆるニキビ痕(瘢痕)として残る可能性があります。尋常性ざ瘡の瘢痕は、身体的なものだけではなくQOLを低下させる原因となってしまいます。
しかし、尋常性ざ瘡の瘢痕に対する標準治療はまだ定まっていません。瘢痕に対する治療選択肢として、トラニラスト(ケロイド・肥厚性瘢痕治療剤)やステロイド局所注射、充填剤注射、ケミカルピーリング、外科的処置(外科的切除や冷凍凝固療法)が挙げられていますが、いずれも推奨度は高いとはいえません。

尋常性ざ瘡の治療 各治療薬の特徴を理解する

尋常性ざ瘡の治療は、原則3ヵ月までの急性炎症期の治療と、その後の維持期の治療という大きく2つに分けて考えられています。さらにその中で症状別に治療選択肢が色々と設けられています。「尋常性痤瘡治療ガイドライン2017」で推奨される、尋常性ざ瘡の症状別の主な治療法は表1の通りです。また、各治療薬について、表2にその特徴をまとめてご紹介します。

表1 尋常性ざ瘡の症状別の主な治療選択肢
  症状 主な治療選択肢
急性炎症期
(原則3カ月)
軽症の炎症+面皰
  • CLDM/BPO
  • アダパレン/BPO
  • アダパレン+外用抗菌薬
  • BPO
  • アダパレン
  • 外用抗菌薬
中等症の炎症+面皰
  • CLDM/BPO
  • アダパレン/BPO
  • アダパレン+外用抗菌薬
  • アダパレン/BPO+内服抗菌薬
  • アダパレン+内服抗菌薬
  • BPO
  • アダパレン
  • 外用抗菌薬
  • 内服抗菌薬
重症・最重症の炎症+面皰
  • 内服抗菌薬+アダパレン/BPO
  • 内服抗菌薬+アダパレン
  • CLDM/BPO
  • アダパレン/BPO
  • 外用抗菌薬+アダパレン
  • 内服抗菌薬
  • BPO
  • アダパレン
  • 外用抗菌薬
炎症を伴う囊腫・硬結
  • ステロイド局注
維持期 面皰+軽微な炎症
  • アダパレン
  • BPO
  • アダパレン/BPO
(微小)面皰のみ
  • アダパレン
  • BPO
  • アダパレン/BPO

BPO:過酸化ベンゾイル、CLDM:クリンダマイシン
A/B:AとBの配合剤、A+B:AとBの併用

尋常性痤瘡治療ガイドライン2017をもとに編集部作成

表2 尋常性ざ瘡の治療薬の種類と主な特徴
一般名 製品名 特徴
アダパレン ディフェリン®ゲル
  • 面皰の改善に効果を発揮する薬剤。
  • 毛包上皮の角化を正常化させ、
    新たな面皰の形成を阻害することにより、
    面皰に引き続き生じる炎症性皮疹も予防する
    ことができるとされている。
  • 直接的な抗炎症作用を持つことも知られている。
過酸化ベンゾイル
(BPO)
ベピオ®ゲル
  • 強い酸化作用を持ち、アクネ菌に対する抗菌作用によって
    炎症性ざ瘡(軽症~中等症)を改善する。
  • 現在のところ、過酸化ベンゾイルの耐性菌は
    見つかっていないことから、維持療法にも使用可能な薬剤。
  • 角質剝離作用があることが知られており、炎症性皮疹だけでなく、
    面皰に対しても有効とされている。
クリンダマイシン・
過酸化ベンゾイル配合ゲル
(CLDM/BPO)
デュアック®配合ゲル
  • アクネ菌に対して抗菌作用を有する薬剤同士の配合剤。
  • クリンダマイシンには抗炎症作用もあり、
    炎症性皮疹(中等症~重症)に対して
    1日1回の外用が強く推奨されている。
  • クリンダマイシン外用の長期間の使用によって
    アクネ菌耐性獲得の可能性があるため、
    2020年3月現在、同配合剤は長期維持療法としては
    推奨されていない。
アダパレン・過酸化ベンゾイル配合ゲル
(アダパレン/BPO)
エピデュオ®ゲル
  • 抗炎症作用を有するアダパレンと、
    直接的な抗菌作用を有する
    過酸化ベンゾイルの配合剤で、
    相補的な効果が期待できる。
  • 面皰、炎症性皮疹のいずれにも
    投与が強く推奨されている。
    また、アクネ菌耐性の報告がまだないため、
    治療3カ月以降の寛解維持療法としても推奨される。
  • ただし、各単剤に比べて皮膚刺激症状の
    頻度が高いという報告があり、
    添付文書では本剤よりも先に
    各単剤による治療を考慮することとなっている。
外用抗菌薬
(クリンダマイシン、
ナジフロキサシン、
オゼノキサシンなど)
ダラシン®Tゲル・Tローション、
アクアチム®クリーム・ローション、
ゼビアック®スローションなど
  • 炎症性皮疹(軽症〜重症)に対しては、
    アダパレンと外用抗菌薬の併用が強く推奨されている。
  • 一方で、面皰に対しては、有効性を示すデータが少なく、
    耐性獲得の観点からも、投与は推奨されない。
内服抗菌薬
(ドキシサイクリン、
ミノサイクリンなど)
ビブラマイシン®錠、ミノマイシン®錠など
  • 炎症性皮疹(中等症〜重症)に対して、
    アダパレンと内服抗菌薬の併用が強く推奨されている。
  • 耐性菌の出現を防ぐため長期間の使用は
    控えた方がよいとされる。
    基本的に、投与期間は3カ月以内とし、
    投与から6~8週目に再評価して継続の可否を
    判断することが推奨されている。
  • ドキシサイクリン、ミノサイクリン、
    ロキシスロマイシンはガイドラインでの推奨度が高い。
    これらに比べて、テトラサイクリン、
    レボフロキサシン、トスフロキサシンなどは
    推奨度がやや落ちる。

各製品添付文書、尋常性治療ガイドライン2017をもとに編集部作成

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