向精神薬は多剤処方のケースが多く、有効性と副作用のバランスを鑑みて個々の患者さんで薬剤の用量調整を検討する必要があります。株式会社じほうの書籍『ゆるりとはじめる精神科の1冊目』より、ケーススタディとして睡眠薬の調整のポイントを見ていきましょう。
向精神薬の用量調整のCase Study
精神科主治医より「薬剤について相談がある」との連絡を受け、院内薬剤師が患者Bさんの外来診察室に同席することになりました。睡眠薬と抗うつ薬の種類と用量調整について紹介します。
Bさんの基本情報
- 50歳代、女性。やや痩せ型
- うつ病で入院歴あり(約2年前に3カ月程度)
- 現在は外来通院(ご家族の協力や訪問看護、ホームヘルパーなど)
- 夫(会社経営者)、次女と生活。家族は協力的
介入前の処方内容
精神科の外来診察室の内容
精神科医(辰巳先生)「君(薬剤師)に相談したいのは、睡眠薬のことだ。就寝前の薬を飲んでも2時間程度したら覚醒してしまう。その後1時間くらいしても入眠できず不眠時薬を服用するが、また2時間程度で覚醒するので、毎日ほとんど眠れていないということを訴えておられる。これ以上睡眠薬を増やすわけにもいかない。どうするのがいいか君の意見を聞かせてくれないか」
薬剤師(カルテを確認し気になる点を患者Bさんに質問)「退院した直後は、薬は少なかったんですね」
患者Bさん「最初は、薬はもっと少なかったのです。でもだんだん薬が増えてきました」
薬剤師「一日中体がだるく、昼間に何時間も眠ってしまうのですね。そうなると夜に眠れなくなりますし、少しお薬を減らすというのはどうでしょう」
患者Bさん「お薬を減らすのはちょっと……。実は以前に自分で睡眠薬を減らしてみたのですが、手が震えて、汗もすごくて、全く眠れなくなりました。あんなことはもう嫌です。私にはいまの薬が必要です。薬をもっと増やしてもらえないのですか」
薬剤師「今回は良好な睡眠の確保をしながら服用薬の整理を進めようと思いますが、いかがでしょうか。辰巳先生、うつ病の症状も気にされているようですので、抗うつ薬を調整しながら睡眠薬の調整を行うというのはどうでしょうか」
薬剤師は、患者さんと辰巳先生、それぞれに向けて提案を告げた。
患者Bさんは不安げな表情を浮かべていたが、辰巳先生はきっぱりと頷いてみせた。
精神科医「なるほど。薬剤師さんがそういうのなら、そのように処方変更をしてみよう。君、次回の診察からは、この方と一緒に入ってほしいんだが」
薬剤師「先生わかりました。ではBさん、次回からは、先生の診察の前に私と睡眠状況の把握のために、就寝前薬の服用時刻や入眠時刻、入眠までに必要な時間、中途覚醒時の行動、起床時刻、日中の過ごし方などについてお話ししましょう。それから、診察ということで。診察には私も一緒に入りますね」
患者Bさん「先生、薬剤師さん、わかりました。よろしくお願いします」
こうして、主治医と患者Bさんと薬剤師との三者面談による診察が始まりました。ストレスなどによる不眠や抑うつ症状の再燃を避けるために、公認心理師に認知行動療法を依頼したり、訪問看護師や作業療法士らとともに日中のQOLの改善や睡眠衛生の改善に取り組んだりしました。1年以上の治療で、徐々に中途覚醒は改善しました。
本事例の介入に関する概要
患者Bさんへの睡眠衛生指導 |
|
---|---|
患者Bさん本人の反応 |
|
睡眠薬の減量プロトコル |
|
本事例から学習できるポイント |
|
介入による処方内容の変化
睡眠薬の減量速度については個人差が大きいため、それぞれに合った漸減速度を考慮する必要があると考えられています。睡眠薬の一般的な減量法やジアゼパム換算値を用いた睡眠薬の減量法などのさらなる詳細は書籍で学習いただけます。
25万人以上の薬剤師が登録する医療従事者専用サイト「m3.com」で、2023年4月に実施したアンケートで「向精神薬の用量調整」についてたくさんのリクエストをいただきましたので、業務に役立つ1冊をご紹介します。
ゆるりとはじめる精神科の1冊目
近年、病院でも薬局でも、精神科の患者と接する機会が増しています。向精神薬の処方意図がわからない、患者対応に関する悩み、副作用の評価が難しいなど、困った経験をしたことありませんか?本書は、知っているようで意外に知らない精神疾患とその症状、向精神薬の使いどころ、副作用・相互作用など、押さえておきたい知識をわかりやすく解説しています。
別所 千枝 / 中村 友喜 / じほう
購入はこちら今回は、皆さまからのリクエストにお応えして、こちらの書籍から事例を抜粋してご紹介したm3.com WEB限定記事を限定公開させて頂きます。
※2023年7月13日、20日、27日の全3回を予定しております。
- 2023年7月中旬~下旬にm3.comでアンケートを再び実施予定です。リクエストが多いものは記事化しますので、皆様のご意見やご希望をぜひ教えてください。ご協力のほどお願い申し上げます。