薬剤師トップ  〉 ファーマスタイル  〉 臨床・疾患  〉 m3オリジナル  〉 向精神薬の用量調整のCase Study【睡眠薬編】
check
【必見】 長期収載品の選定療養費の計算方法を解説!
m3オリジナル

向精神薬の用量調整のCase Study【睡眠薬編】

2023年7月号
向精神薬の用量調整のCase Study 睡眠薬編の画像

向精神薬は多剤処方のケースが多く、有効性と副作用のバランスを鑑みて個々の患者さんで薬剤の用量調整を検討する必要があります。株式会社じほうの書籍『ゆるりとはじめる精神科の1冊目』より、ケーススタディとして睡眠薬の調整のポイントを見ていきましょう。

向精神薬の用量調整のCase Study

精神科主治医より「薬剤について相談がある」との連絡を受け、院内薬剤師が患者Bさんの外来診察室に同席することになりました。睡眠薬と抗うつ薬の種類と用量調整について紹介します。

Bさんの基本情報

  • 50歳代、女性。やや痩せ型
  • うつ病で入院歴あり(約2年前に3カ月程度)
  • 現在は外来通院(ご家族の協力や訪問看護、ホームヘルパーなど)
  • 夫(会社経営者)、次女と生活。家族は協力的

介入前の処方内容

介入による処方内容の変化の画像

精神科の外来診察室の内容

精神科医(辰巳先生)「君(薬剤師)に相談したいのは、睡眠薬のことだ。就寝前の薬を飲んでも2時間程度したら覚醒してしまう。その後1時間くらいしても入眠できず不眠時薬を服用するが、また2時間程度で覚醒するので、毎日ほとんど眠れていないということを訴えておられる。これ以上睡眠薬を増やすわけにもいかない。どうするのがいいか君の意見を聞かせてくれないか」
薬剤師(カルテを確認し気になる点を患者Bさんに質問)「退院した直後は、薬は少なかったんですね」
患者Bさん「最初は、薬はもっと少なかったのです。でもだんだん薬が増えてきました」
薬剤師「一日中体がだるく、昼間に何時間も眠ってしまうのですね。そうなると夜に眠れなくなりますし、少しお薬を減らすというのはどうでしょう」
患者Bさん「お薬を減らすのはちょっと……。実は以前に自分で睡眠薬を減らしてみたのですが、手が震えて、汗もすごくて、全く眠れなくなりました。あんなことはもう嫌です。私にはいまの薬が必要です。薬をもっと増やしてもらえないのですか」
薬剤師「今回は良好な睡眠の確保をしながら服用薬の整理を進めようと思いますが、いかがでしょうか。辰巳先生、うつ病の症状も気にされているようですので、抗うつ薬を調整しながら睡眠薬の調整を行うというのはどうでしょうか」

薬剤師は、患者さんと辰巳先生、それぞれに向けて提案を告げた。
患者Bさんは不安げな表情を浮かべていたが、辰巳先生はきっぱりと頷いてみせた。

精神科医「なるほど。薬剤師さんがそういうのなら、そのように処方変更をしてみよう。君、次回の診察からは、この方と一緒に入ってほしいんだが」
薬剤師「先生わかりました。ではBさん、次回からは、先生の診察の前に私と睡眠状況の把握のために、就寝前薬の服用時刻や入眠時刻、入眠までに必要な時間、中途覚醒時の行動、起床時刻、日中の過ごし方などについてお話ししましょう。それから、診察ということで。診察には私も一緒に入りますね」
患者Bさん「先生、薬剤師さん、わかりました。よろしくお願いします」

こうして、主治医と患者Bさんと薬剤師との三者面談による診察が始まりました。ストレスなどによる不眠や抑うつ症状の再燃を避けるために、公認心理師に認知行動療法を依頼したり、訪問看護師や作業療法士らとともに日中のQOLの改善や睡眠衛生の改善に取り組んだりしました。1年以上の治療で、徐々に中途覚醒は改善しました。

本事例の介入に関する概要

患者Bさんへの睡眠衛生指導
  • 睡眠時間の合計や中途覚醒の回数などを気にしすぎないように指導。
  • 日中の運動量やカフェインの摂取量、喫煙なども睡眠衛生に重要であることを説明し、現状の振り返りを実施
患者Bさん本人の反応
  • 睡眠薬を減量しても眠れていることを自覚し、より質の高い睡眠を得るために睡眠衛生の改善に前向きに取り組んだ。
睡眠薬の減量プロトコル
  • BZ系治療薬の減量については漸減法や隔日法が用いられることが多いが、漸減法についての明確なエビデンスは得られていない。
  • 多種類の睡眠薬を服用している場合は、離脱症状の問題を考慮し、より半減期の短い薬剤から減量することが望ましい。
本事例から学習できるポイント
  • BZ系睡眠薬の減量では、離脱症状の発現に注意し、ゆっくりと進める。
  • 患者の病態を考慮したうえで、その他の治療薬の効果をうまく利用する。
  • 睡眠衛生について、多職種で情報を共有しながら改善していく。

介入による処方内容の変化

介入前の画像
下の画像
介入後の画像

睡眠薬の減量速度については個人差が大きいため、それぞれに合った漸減速度を考慮する必要があると考えられています。睡眠薬の一般的な減量法やジアゼパム換算値を用いた睡眠薬の減量法などのさらなる詳細は書籍で学習いただけます。

ファーマスタイル × m3.com × じほう企画

25万人以上の薬剤師が登録する医療従事者専用サイト「m3.com」で、2023年4月に実施したアンケートで「向精神薬の用量調整」についてたくさんのリクエストをいただきましたので、業務に役立つ1冊をご紹介します。

ゆるりとはじめる精神科の1冊目

近年、病院でも薬局でも、精神科の患者と接する機会が増しています。向精神薬の処方意図がわからない、患者対応に関する悩み、副作用の評価が難しいなど、困った経験をしたことありませんか?本書は、知っているようで意外に知らない精神疾患とその症状、向精神薬の使いどころ、副作用・相互作用など、押さえておきたい知識をわかりやすく解説しています。

ゆるりとはじめる精神科の1冊目の画像

別所 千枝 / 中村 友喜 / じほう

購入はこちら

今回は、皆さまからのリクエストにお応えして、こちらの書籍から事例を抜粋してご紹介したm3.com WEB限定記事を限定公開させて頂きます。

※2023年7月13日、20日、27日の全3回を予定しております。

第1回  第3回(7月27日公開)

  • 2023年7月中旬~下旬にm3.comでアンケートを再び実施予定です。リクエストが多いものは記事化しますので、皆様のご意見やご希望をぜひ教えてください。ご協力のほどお願い申し上げます。

この記事の冊子

特集

2023年最新版 心不全の診断と治療

心不全の患者数は増加の一途をたどり、毎年1万人ベースで患者数が増加していると推定されています。団塊の世代が後期高齢者に突入する2025年以降はさらに患者数が増加すると予測されることから「心不全パンデミック」の到来と危惧されており、その対策が喫緊の医療課題となっています。

2023年最新版 心不全の診断と治療の画像
Special Report

心不全患者の「つなぐ」薬歴管理 確認点と4つのステップ

患者さんの安全を守り、かつ薬剤師がそのために振り返るためのツールである薬歴。オンラインセミナー「心不全患者の薬歴マネジメント」が6月14日に開催され、つなぐ薬局 柏の薬剤師、鈴木邦彦氏が心不全の症例を題材に薬歴管理のポイントを解説しました。

心不全患者の「つなぐ」薬歴管理 確認点と4つのステップの画像
カフェ

脂肪肝による心不全リスクと改善法

7月28日は「日本肝炎デー」。厚生労働省は、7月28日を含む1週間を「肝臓週間」とし、肝炎の病態や予防、治療などの正しい理解が進むよう普及・啓発を行い、肝炎ウイルス検査の受検を呼びかけています。沈黙の臓器とも呼ばれ、自覚症状が乏しい肝臓は、定期的なセルフチェックが大切です。

「脂肪肝による心不全リスクと改善法」 ファーマスタイルカフェVol.14の画像
Special Report

向精神薬の多剤投与と等価換算

向精神薬は様々な場面で使用されています。薬剤師アンケートでは、向精神薬について知りたいこととして「用量調整の考え方」が多く選ばれました。 向精神薬の課題とされている多剤投与と、その解決の糸口となり得る薬剤の等価換算について紹介します。

向精神薬の多剤投与と等価換算の画像
m3オリジナル

向精神薬の用量調整のCase Study【抗精神病薬編】

向精神薬は多剤処方のケースが多く、有効性と副作用のバランスを鑑みて個々の患者さんで薬剤の用量調整を検討する必要があります。『ゆるりとはじめる精神科の1冊目』より、ケーススタディとして向精神薬の調整のポイントを見ていきましょう。

向精神薬の用量調整のCase Study【抗精神病薬編】の画像
m3オリジナル

向精神薬の用量調整のCase Study【睡眠薬編】

精神科主治医より「薬剤について相談がある」との連絡を受け、院内薬剤師が患者Bさんの外来診察室に同席することになりました。睡眠薬と抗うつ薬の種類と用量調整について紹介します。

向精神薬の用量調整のCase Study【睡眠薬編】の画像
m3オリジナル

書籍『ゆるりとはじめる精神科の1冊目』から学べること

向精神薬の用量調整のケーススタディを配信している本企画で参考にしているのが、2021年5月に株式会社じほうから発行された『ゆるりとはじめる精神科の1冊目』です。今回は本書籍で学べることをご紹介します。

書籍『ゆるりとはじめる精神科の1冊目』から学べることの画像

この記事の関連記事

人気記事ランキング