閉塞性動脈硬化症の典型的症状
閉塞性動脈硬化症は、主として腹部から足部までの主幹動脈が動脈硬化症に冒され、血管内腔が狭窄あるいは閉塞をきたした結果、下肢が血流不全に陥り、さまざまな障害が現れる疾患です。典型的な症状が間欠性跛行(かんけつせいはこう)で、動脈硬化によって動脈の内腔が50%以上狭くなると現れます。間欠性跛行は、歩いたり階段や坂道を登ったりすると下肢に痛みを感じて歩けなくなるのですが、しばらく休むとまた歩けるようになるという症状です。
安静時は、下肢の筋肉が必要とする血液量はそれほど多くないため、血管の内腔が多少狭くなって血液量が低下していても、痛みなどの症状は現れません。一方で、歩行や運動をする際は、下肢の筋肉が必要とする血液量が増えます。血管内にこのような閉塞性病変があると、下肢の筋肉が要求する血液量を十分に供給することができず、下肢に痛みや痺れ、冷え、だるくなるなどの症状が現れて歩行が困難になるのです。
4段階に分かれる重症度
閉塞性動脈硬化症の重症度は、症状の程度により4段階に分類されています(表)。
軽症 | Ⅰ度 |
ほぼ無症状 初期段階でそれほど血行不全がないため、ほぼ無症状。痺れや冷感を感じることがある。 |
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中等症 | Ⅱ度 |
間欠性跛行 一定の距離を歩くと足の裏やふくらはぎが痛くなり、歩けなくなる。しばらく休むと痛みが治まり、また歩けるようになる。 |
Ⅲ度 |
安静時疼痛 動かなくても痛みを感じる。痛みのため夜眠れないなど、QOLが低下する。 |
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重症 | Ⅳ度 |
潰瘍・壊疽 血行の悪い場所から皮膚の壊死や潰瘍が起こる。最悪の場合は足の切断を余儀なくされることもある。 |
日本循環器学会編「末梢閉塞性動脈疾患の治療ガイドライン(2015年改訂版)」および
重松氏の話をもとに編集部作成
初期(Ⅰ度)は自覚症状がない、あるいは症状があっても日常生活に支障がないので、多くの患者さんは間欠性跛行が現れるⅡ度の段階で受診します。Ⅲ度の段階になると、じっとしている安静時、つまり血液量がさほど必要がないときでも痛みを感じる安静時疼痛の症状が現れます。患者さんの中には、Ⅱ度の段階でも閉塞性動脈硬化症に気づかず、安静時疼痛が現れて初めて受診する人もいます。これは歩行時に痛みを感じる距離には個人差があるためで、たとえば700mの歩行で痛みを感じる人もいれば、もっと短い距離の歩行でも痛みを感じる人もいます。また、日常生活において痛みを感じる距離まで歩いていない人は、閉塞性動脈硬化症が進行していることに気づきません。こうしたことから、普段からあまり歩かないような運動量の少ない人は、知らないうちに病状が進行しているケースが少なくないのです。Ⅳ度の段階に至ると、下肢に栄養が行き届かないことで皮膚の傷が治らずに潰瘍となったり、最終的には壊死を起こしたりすることもあります。
発症要因と患者の特徴
加齢は動脈硬化の一因であり、年齢とともに閉塞性動脈硬化症の患者数は右肩上がりに増えます。また、喫煙、糖尿病、高血圧、脂質異常症などは動脈硬化の危険因子です。これらの嗜好や疾患のコントロールができていなければ、閉塞性動脈硬化症を発症しやすいので注意が必要です。
罹患者数の男女比をみると、9対1で男性が多いという特徴があります。この理由として、男性は30歳代から動脈硬化が進む一方で、女性は女性ホルモンが分泌されている間は動脈硬化が進行しにくいためと考えられています。女性の場合、動脈硬化のリスクは閉経後の50歳代前後から高まります。また、女性よりも男性の喫煙者が多いことも、男性の罹患者が多い理由でしょう。
これらの危険因子があり、歩くと下肢が痛むという自覚症状があれば、すぐに受診しましょう。
診察・検査
問診、視診に加え、足の付け根の大腿動脈、膝の裏の膝窩動脈、足の甲の足背動脈、そして足首の後脛骨動脈、この4箇所の拍動の有無や強弱を触診で確認します。血管内腔が狭くなって血液の流れが悪くなると拍動が弱まるため、拍動が弱い場合は閉塞性動脈硬化症が進行しています。また、この触診により狭窄や閉塞が起きている箇所の見当をつけることができます。
さらに、診断に際しては、ABI(足関節上腕血圧比:Ankle Brachial Pressure Index)という足関節の収縮期血圧を上腕の収縮期血圧で割った値が重要になります。ABIの正常値は1.00~1.40で、0.90以下になると閉塞性動脈硬化症と診断されます。0.91~0.99は境界値といわれ、下肢の症状はまだ現れていないことが多いです。ABIが境界値以下になり、その値が低くなるほど心筋梗塞や脳梗塞などによる死亡率は正常値の人に比べて高くなり、生命予後が悪くなっていきます。
診断確定後は、CTやMRIなどの画像検査で血管が狭窄や閉塞している箇所を特定して治療を開始します。
生活習慣改善を第一に薬物と運動療法を実施
動脈硬化に起因する疾患なので、その危険因子を改善することが治療の基本となります。喫煙習慣があれば、禁煙指導をします。糖尿病、高血圧、脂質異常症がある場合は、血圧・血糖値・コレステロール値の管理をしっかりと行います。こうした生活習慣の改善に加え、薬物療法と運動療法が不可欠です。
薬物療法では、主に抗血小板薬と血管拡張薬を使用します。抗血小板薬としてよく使用されるのは、クロピドグレル硫酸塩とアスピリンです。その他に、抗血小板作用に血管拡張作用もあるシロスタゾールを使用します。ただし、シロスタゾールは副作用として頻脈を起こしやすいので、心疾患のある患者さんにはベラプロストナトリウム、リマプロスト アルファデクス、サルポグレラート塩酸塩などを用います。
運動療法は、1日30分以上の歩行訓練を週3回、3カ月以上続けます。歩行訓練を続けることで細い血管が発達し、下肢への血流改善を期待できます。実践と継続には、医師や理学療法士の監視下で行うのが望ましいのですが、施設設備や体制が整っていないことも多く難しいため、私は患者さんのご家族に「一緒に散歩をしてください」とお願いしています。なお、歩く際には、靴ずれに注意が必要です。下肢が虚血状態のため、靴ずれが治らず潰瘍になることがあるからです。自分の足に合った靴を選び、靴下をはくなどして足を保護して傷つけないよう気をつけます。
血管内治療とバイパス手術
薬物療法や運動療法でも症状が改善しない場合やすでに壊死がある場合には、血流を再開させる血行再建術を行います。また、重症度Ⅱ度でも下肢の痛みで仕事や日常生活に大きな支障が出ている場合には、患者さんの希望を勘案して、血行再建術を行うこともあります。血行再建術には、血管内治療とバイパス手術があります。
血管内治療は下肢の血管にカテーテルを挿入し、バルーンやステントで血管を内側から広げて血液の流れを改善します。通常、血管内治療は短期間の入院で行うことができ、体への負担が少ないのが利点です。
バイパス手術は人工血管や患者自身の静脈を使い、詰まった血管を迂回して血液が流れるよう新しい血管(バイパス)を作るものです。10〜14日程度の入院が必要となり、侵襲が比較的大きいので血管内治療に比べると体への負担が大きくなります。一方で、カテーテルが挿入不能であった場合にも、末梢側の血管が開存している場合には、バイパスを作成することもできます。また血管内治療よりも永続性があるという利点があります。
これらの血行再建術後にも、生活習慣の改善や薬物療法は必須です。
服薬コンプライアンスの徹底
閉塞性動脈硬化症になるということは、症状が現れている下肢だけではなく全身で動脈硬化が進行しているといえます。そのため患者さんは、最終的に虚血性心疾患や脳血管障害で亡くなることが少なくありません。動脈硬化は不可逆的であり、決して元のしなやかな血管には戻りません。だからこそ、これ以上進行しないように努めることが大事なのです。そのためには禁煙に加え、血圧や血糖値、コレステロール値のコントロールが重要であり、これらの服薬を医師の指示通りに行うことが求められます。症状が改善しない患者さんは、薬の飲み忘れなど服薬コンプライアンスが悪いケースが目立ちます。薬剤師さんには、薬を渡す際に残薬の確認を含め、きちんと服薬していない患者さんにはしっかりと服薬指導をしていただきたいと思います。