膿疱性乾癬の疫学
乾癬は難治性の慢性炎症性皮膚疾患です。その症状は一様ではなく、発現する症状の特徴から「尋常性乾癬」「乾癬性関節炎(関節症性乾癬)」「滴状乾癬」「乾癬性紅皮症」「膿疱性乾癬」の5つに分類されます。日本の乾癬患者数は人口の約0.1%程度(約12万~13万人)と推定されています1)。乾癬患者の約9割弱を占めるのが尋常性乾癬で、一般的に乾癬というと尋常性乾癬を指しますが、皮膚症状に加え関節症状が現れる乾癬性関節炎も約1割を占めます。一方で、膿疱性乾癬の患者数は乾癬患者のうち約1%といわれ、非常に稀な疾患です。代表的な乾癬である尋常性乾癬と膿疱性乾癬の特徴を表にまとめました。
膿疱性乾癬のなかでもいくつか分類がありますが、「汎発型」は発熱や全身の皮膚の発赤に加えて無菌性の膿疱、すなわち膿をもった水疱が現れます。発症時期は小児期と30歳代にピークがあり、小児期は女児の罹患が多いですが、その後は、男女差はほとんどないか、やや女性が多い傾向がみられます。
発症因子とトリガー
原因や発症のメカニズムは、まだはっきりとは解明されていません。尋常性乾癬が先行して発症する場合もあれば、まったく尋常性乾癬とは関係ない症例もあります。しかし、近年の研究成果から、膿疱性乾癬を発症しやすい患者さんの一部には家族性があり、好中球の遊走に重要なサイトカインであるインターロイキン(IL)-36の受容体阻害因子が欠損しており、好中球が暴走した結果、発疹等の症状が現れることが明らかになりました。ただし、家族性に関係なく発症する患者さんも多く、遺伝的体質や何らかの発症因子を持った人に対して、薬剤や妊娠、ストレス、感染症などが引き金となって免疫機能に異常が生じ、発症すると推測されます。
急性期の症状と治療法
初発も再発も多くの場合、悪寒・戦慄を伴って急激に発熱し、皮膚の潮紅とともに無菌性の膿疱が全身に多発します。皮膚生検を行い、Kogoj海綿状膿疱を特徴とする角層下膿疱がみられた場合、確定診断となります。膿疱は1~5mm大でつぶれやすく、膿疱がつながって膿海と呼ばれる大きな広がりになることもあります。全身の浮腫、関節痛、粘膜症状を伴うことが多く、症状が重い場合には、心血管疾患、呼吸器疾患、眼のぶどう膜炎といった皮膚以外の炎症性の合併症を伴う場合があります。かつては呼吸不全や循環不全、腎不全などを併発し、死亡する例もありました。
急性期の治療は、入院での全身管理と薬物療法が必須です。ビタミンA誘導体のエトレチナートや免疫抑制剤のシクロスポリンなどの内服療法をはじめ、インフリキシマブやアダリムマブなどの生物学的製剤の点滴静注や皮下注射、また最近では顆粒球吸着除去療法という新しい治療法を実施しています。
免疫機能に関わるサイトカインが過剰に増えると炎症が起こります。乾癬ではTNF-α(腫瘍壊死因子α)やIL-12、IL-17、IL-23といったサイトカインの過剰で炎症が起こるとされており、生物学的製剤はこれらの活性化を弱める働きをします。現在(2018年8月時点)までに膿疱性乾癬に対しては、インフリキシマブを含めて6剤の生物学的製剤が保険適用となっています。
顆粒球吸着除去療法は、炎症の原因となっている活性化した好中球や単球を吸着・除去する白血球吸着用カラムという医療機器に静脈血を通し、再び静脈に還流させる体外循環治療です。この治療により激しい炎症を抑えることができ、薬物療法をあわせて実施すると、より高い治療効果が期待できます。
適切に治療すれば、皮膚の赤み、膿疱は徐々に消えて、治ってきます。
分類 | 皮膚症状 | 主な特徴 |
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尋常性 乾癬 |
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膿疱性 乾癬 (汎発型) |
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日本皮膚科学会HP、難病情報センターHPおよび小林氏の話をもとに編集部作成 (写真提供:小林氏)
再発防止のための治療
膿疱性乾癬は患者さんによって重症度がさまざまで、尋常性乾癬の治療で使用される外用薬(活性型ビタミンD3など)やエトレチナートやシクロスポリンなどの内服療法で十分に症状を制御できる患者さんがいる一方で、生物学的製剤でなければ制御できない患者さんもいます。また、発症の原因となるものも患者さん個々で違うため、それぞれの膿疱性乾癬の特徴をよく理解し、患者さんに適した治療を継続して行うことが急性期症状の再発防止に重要です。
膿疱性乾癬は一生の病気のため、どの時期に、どういった薬剤を使用するかを考えていかなくてはいけません。エトレチナートは肝臓、シクロスポリンは腎臓の機能に特に注意が必要です。シクロスポリンは、長期間使用すると腎障害を進行させる可能性があるため、2~3年を目安に別の薬剤に切り替える必要があります。生理機能が低下している65歳以上の高齢者にはシクロスポリンが使用しにくいこともあり、臓器への負担が少ない生物学的製剤を優先して使用することも少なくありません。ただし、生物学的製剤を使用するにあたってはB型・C型肝炎ウイルスや結核菌を保有していないかなどを事前検査で確認しなければいけません。さらに患者さんと薬剤の相性によっては使用できない薬剤もあります。また、生物学的製剤に対する自己抗体を作り、効果が現れなくなる「二次無効」を起こしやすいという特徴があります。その際には、他の生物学的製剤への切り替えが必要です。
若くして発症した患者さんが妊娠・出産を希望した場合は、薬剤によって投与方法を工夫すれば子どもを持つことも可能です。薬剤師の方も患者さんから相談を受けた際には、まずは専門医に相談するようにと勧めてほしいと思います。
日常生活の注意点
こうした治療に加えて、患者さん自身のセルフケアも大切です。生活指導においてポイントとなるのは肥満の解消、禁煙、アルコール摂取の制限の3点です。
肥満は脂肪細胞が分泌するTNF-αに代表される炎症性アディポカインの産生が過剰になり、症状を悪化させる可能性があります。また、喫煙は生物学的製剤の効果発現に影響を与えることから、禁煙は重要です。アルコールは血管を拡張させるため、炎症性疾患を悪化させてしまいます。そのため薬剤の余計な増量を避けるには、過剰なアルコールの摂取を控えることが大切だと患者さんに指導しています。
しかし、すべて禁止にすると患者さんのストレスが増大し、そのストレスが症状悪化の原因になりかねません。徐々に減らすよう指導することから始めましょう。
薬剤師の服薬指導への期待
患者さんは症状が出ないように、薬剤でコントロールしながら生活しなければなりません。そこで重要になるのが服薬管理です。「症状が出ないから薬を減らそう」と患者さんが誤った自己判断をしないように、「薬でコントロールしているからこそ症状が出ない」ことを薬剤師の方からも伝えてほしいと思います。また、多くの生物学的製剤は自己注射を行います。治療の効果を得るには、投与のスケジュールと量を適切に守ることと、正しい注射方法をしっかり患者さんに指導する必要があります。
適切に薬剤を持ち帰る方法も確認してもらいたい点です。生物学的製剤はたんぱく質のため、夏に高温の車内に置いておくなどすると、薬液の温度が上がり、たんぱく質が変性して失活する危険性があります。持ち帰る際には患者さんに保冷剤を準備してもらいます。一方、冬に保冷剤を使用する際は、薬剤が凍らないよう直接触れないようにするか、凍らない冷却剤の使用をお勧めします。使用後の注射針の適切な廃棄方法の指導なども含め、こうした薬剤の取扱いに関する情報をわかりやすく患者さんに伝えてください。
また、膿疱性乾癬は、薬剤が発症の引き金になることがあります。皮膚科以外の診療科で薬剤が出された場合、患者さんに「このお薬で症状が出たことはありませんか?」と確認し、そのような情報があれば皮膚科担当医にも情報共有をして連携を図っていければと思います。
参考文献
- 日本皮膚科学会HPを参考に算出
https://www.dermatol.or.jp/qa/qa14/q02.html