薬剤師トップ  〉 ファーマスタイル  〉 臨床・疾患  〉 ここに注目!知っているようで知らない疾患のガイセツ  〉 知っているようで知らない 疾患のガイセツ 多発性骨髄腫
check
薬剤師がおさえておきたい注目の記事
【調剤報酬改定2024よくある質問】最初に処方された1回に限り算定って?
ここに注目!知っているようで知らない疾患のガイセツ

知っているようで知らない 疾患のガイセツ 多発性骨髄腫

2018年5月号
多発性骨髄腫の画像
血液細胞の1つである形質細胞が「がん化」して増殖する多発性骨髄腫。近年新しい治療薬が続々と登場しています。生存期間の延長やQOL向上といった治療効果をもたらした新薬の登場は、延命から治癒へと治療法の転換を促し、発症予防の可能性も期待されるようになりました。その一方で、従来とは異なる副作用などの課題もあります。今回は日本赤十字社医療センター骨髄腫アミロイドーシスセンター長の鈴木憲史氏に、多発性骨髄腫について解説していただきました。

多発性骨髄腫とは

血液工場と呼ばれる骨髄では造血幹細胞がつくられ、それが分化・成熟して赤血球や血小板、白血球などの血液細胞になります。白血球の1種のB細胞は、さらに分化して形質細胞となります。この形質細胞が正常な場合には、抗体をつくり、私たちの体に細菌やウイルスなどの異物が侵入すると撃退します。ところがB細胞にあるはずのT細胞の指示に対するアンテナの役割を果たしている遺伝子PAX-5などが欠損し、異常な形質細胞つまり骨髄腫細胞になると、多発性骨髄腫を発症します。骨髄腫細胞は役に立たない抗体であるMたんぱく(異常免疫グロブリン)をつくり続け、体内に何も侵入してきていないのに攻撃しろというスイッチが入って、そのまま止まらない迷走状態に陥ってしまうのです。
厚生労働省大臣官房統計情報部の2014年患者調査(傷病分類編)によると、多発性骨髄腫の総患者数は18,000人と推計され、患者数は増加傾向にあります。患者さんの多くは60歳代以降の男性で、40歳代以下は稀です。発症には老化と免疫が関係しているのではないかと考えられます。

特徴的な腰痛とCRAB症状

症状としては、一般的には「腰が痛い」という訴えから始まることが多いです。腰が痛いという人は多いですが、「腰が痛くて貧血がある」あるいは「腰が痛くて腎機能が低下している」など、多発性骨髄腫に特徴的な「CRAB」症状を伴っている場合にはこの病気が疑われます。CRABとは、Cはカルシウム(Calcium)値の上昇、Rは腎臓(Renal)の障害、Aは貧血(Anemia)、Bは骨(Bone)の病変といった臓器障害を指します。
Mたんぱくによって腎障害が引き起こされ、造血機能が妨げられるので貧血が生じます。また、骨髄腫細胞には骨を溶解させる性質があるので、骨がもろくなって骨折したり、血液中のカルシウムが増加したりします。このようなことから腰痛に伴ってCRAB症状がみられるのです。

確定診断と治療方針決定のための検査

多発性骨髄腫の疑いにつながる何らかの異常が発見されるのは、例えば腰痛のために整形外科で受けた画像検査がきっかけになることが少なくありません。また、最近は健康診断がきっかけになることも増えています。血液検査の総たんぱくからアルブミンの数値を差し引いた結果、つまりグロブリンの量が4〜5g/dLと通常の数値(2.5〜3g/dL)より多い場合にはこの病気が疑われます。
疑いがある場合、専門の医療機関を受診すれば1~2日で確定診断がつきます。血液検査、尿検査、そして全身の骨の状態を調べるためにX線やCT、MRIなどの画像検査を行います。多発性骨髄腫の場合、糖尿病などに由来する腎障害と違ってベンスジョーンズたんぱく(BJP)という特徴的なたんぱく質が尿中に出てきます。
診断は画像検査と骨髄検査でほぼ確定できますが、予後を考える上で、より積極的に治療を行う必要があるハイリスクタイプかスタンダードリスクタイプかなどを見極め、治療方針を検討するために遺伝子検査も行います。

治療の柱となる造血幹細胞移植と新薬

Mたんぱくや骨髄腫細胞が増加しているが、CRAB症状があらわれていない状態を「くすぶり型多発性骨髄腫」といいます。この場合、症状が出るまでは経過観察になることが多いです。
すでに症状が出ている場合には、患者さんの年齢、体調や意欲、家族のサポート体制なども勘案して治療方針を決定します。
従来の基本的な治療法は、大量化学療法と自己末梢血幹細胞移植です。患者さん自身の末梢血幹細胞を採取しておき、化学療法で骨髄腫細胞を破壊した後、採取した末梢血幹細胞を体内に戻して造血機能を回復させるという方法です。ただし、移植ができる比較的若い年齢(70歳未満)で全身状態が良好であるという前提条件が付きます。多発性骨髄腫は高齢になってからの発症が多いことから、誰にでも実施できる治療法ではありません。こうした事情もあり、かつては治療、休薬、そして再発を繰り返し、次第に悪化して発症後3年くらいで亡くなるケースが多く、予後は厳しいものでした。
しかし、2006年に登場した分子標的薬のボルテゾミブを皮切りに次々と新薬が発売され、2017年にはイキサゾミブ、ダラツムマブが発売されました。これらの新薬による治療効果の向上で、移植をしなくても延命できるようになり、かつては発症後3年程度だった生存期間が現在は平均7年に延びています。また、服用形態の選択肢も広がり、入院をせず、仕事を続けながら外来で治療を受けられるなど患者さんのQOLも向上しました。

新薬の登場がもたらした変化

治療効果の高い薬が多数発売されたことで、治療に対する考え方にも変化が出てきました(図)。従来の治療戦略は、再発に備えて効果の高い薬を温存しながら延命を図るものでしたが、近年は最初から強力な薬を取り入れて治療するように変わりました。また、以前はダブレットといって2剤で治療することが多かったのですが、最初から3剤を用いたトリプレットで治療をしようという方向になっています。

図 多発性骨髄腫の治療戦略の変化

多発性骨髄腫の治療戦略の変化の画像
鈴木憲史氏提供の資料をもとに編集部作成

最近の標準的な治療例を挙げると、CRAB症状があらわれて治療を始めた新しい患者さんには、最初にボルテゾミブ、レナリドミド、デキサメタゾンの3剤併用で治療を3〜4コース行い、その後で自己末梢血幹細胞を採取して移植を行います。その後の地固めと維持療法は、診断時に採取した骨髄液からリスクタイプなどを確認し、年齢、通院の負担など患者さんの希望にもあわせて検討します。
その際に、骨髄腫細胞のMRD(微小残存病変)の数値を10万分の1以下にすることが治療目標になります。この状態がしばらく続けば、場合によっては治癒する患者さんもあらわれるかもしれないという期待が持たれているのです。
さらに、現在は症状がなくても今後1年以内に骨髄腫のCRAB症状があらわれると想定される場合、早期に治療を開始した方がより効果があると考えられるようになりました。発症を待って治療するのではなく、発症予防のために治療するという積極的な治療戦略に変わりつつあります。

副作用への対応など課題と薬剤師への期待

多数の新薬登場で、延命から治癒へと、明るい展望がひらけてきました。しかし、その一方で課題もあります。その1つが副作用対策です。
レナリドミドやサリドマイドには催奇形性の懸念があります。妊娠の可能性がある患者さんは服用できませんし、家族や介護スタッフがいる場合など患者さんの周囲にいる人が誤って服用しないように、しっかりと薬剤管理をしなければなりません。
また、抗がん剤の副作用といえば下痢や嘔吐、脱毛などがよくみられる症状でしたが、免疫に関与する一部の新薬は従来とは異なる副作用があらわれることがあります。例えば、ボルテゾミブは、末梢神経障害や肺障害などの副作用に注意する必要があります。カルフィルゾミブは高血圧の人が使うと心不全になりやすいので、高血圧を合併していたり心筋梗塞などの既往歴のある患者さんには使いにくいでしょう。それぞれの薬の得手不得手を考えながら使用します。
薬剤のピッキングは機械化できます。しかし、患者さんへの服薬指導など人に関わる仕事は機械にはできません。これからは「モノから人へ」と薬剤師の仕事の対象が変わっていきます。薬に関わる知識や情報を吸収するのはもちろんですが、服用方法や管理方法、そしてここで述べた新薬に伴う新たな副作用なども含めて、わかりやすく患者さんに伝え、より良い服薬効果を得られるように薬剤師の皆さんが治療を牽引していくことを期待しています。

この記事の冊子

特集

超高齢社会で訪れる認知症との共生

認知症になってもその人らしく生きるためにはどうしたらよいのでしょうか?さらに家族や社会は認知症の人とどう向き合い、どう接したらよいのでしょう?

認知症との共生を目指しての画像
専門医+エキスパートに聞くよりよい服薬指導のための基礎知識

“75歳以上の高齢者”に潜む薬物療法のリスク

75歳以上の高齢患者では多剤併用による服薬量の増加や身体機能の衰えなどによって有害 事象が増加する。薬剤師には処方薬剤だけでなく、全身のデータを管理した上での服薬管理が求められています。患者のQOL向上の鍵とは?

“75歳以上の高齢者”に潜む薬物療法のリスクの画像
専門医+エキスパートに聞くよりよい服薬指導のための基礎知識

“医学的に若返りを示す高齢者”への服薬指導

「薬が何のために処方されているのか」「どのような効果があるのか」「どのような有害事象があるのか」を理解している患者さんは少ない。高齢患者の薬物療法の見直しに必要とされる薬剤師の主体性とは?

“医学的に若返りを示す高齢者”への服薬指導の画像
ここに注目!知っているようで知らない疾患のガイセツ

知っているようで知らない 疾患のガイセツ 多発性骨髄腫

血液細胞の1つである形質細胞が「がん化」して増殖する多発性骨髄腫。近年新しい治療薬が続々と登場し、治療効果をもたらした新薬は、延命から治癒へと治療法の転換を促し、発症予防の可能性も期待されるようになりました。

知っているようで知らない 疾患のガイセツ 多発性骨髄腫の画像
special Interview

薬価制度の抜本改革がめざす方向性とは

「国民皆保険の持続性」と「イノベーションの推進」の両立という、困難な命題のもとで進められた薬価制度の抜本改革が取りまとめられました。厚生労働省で改革を進めた一人である目黒朗氏に改革の狙いを聞きました。

薬価制度の抜本改革がめざす方向性とはの画像
special Interview

2018年度調剤報酬改定まとめ

「地域包括ケアシステムの構築と医療機能の分化・強化、連携の推進」など4つの柱を掲げ、調剤報酬では地域医療に貢献する薬局や対人業務の評価を充実した一方、いわゆる門前薬局等の評価を引き下げる内容となりました。

2018年度調剤報酬改定まとめの画像
特集

2018年度調剤報酬・調剤報酬改定のポイント 病院薬剤師編

2018年度診療報酬・調剤報酬改定が4月1日よりスタートしました。病院薬剤師にとってどのような影響があるのか、今回の改定結果を活かすために知っておくべきポイントを、現場をよく知る専門家に解説していただきました。

2018年度調剤報酬・調剤報酬改定のポイント 病院薬剤師編の画像
特集

2018年度調剤報酬・調剤報酬改定のポイント 薬局薬剤師編

2018年度診療報酬・調剤報酬改定のポイント 薬局薬剤師編 2018年度診療報酬・調剤報酬改定が4月1日よりスタートしました。薬局薬剤師にとってどのような影響があるのか、今回の改定結果を活かすために知っておくべきポイントを、現場をよく知る専門家に解説していただきました。

2018年度調剤報酬・調剤報酬改定のポイント 薬局薬剤師編の画像
Medical Diagram

私たちは「ドーパミンの奴隷」なのか?

ある団体に所属するときに、希望すれば誰でも入会できる場合と、試練(儀式や試験など)を経ないと入会できない場合とでは、どちらのほうがその団体への帰属意識や愛着が強くなるでしょうか。

私たちは「ドーパミンの奴隷」なのか?の画像
はじめる在宅 現場で役立つ基礎知識

はじめる在宅現場で役立つ基礎知識4 栄養指導

老老介護や認認介護の世帯は食事・栄養に関するさまざまな問題を抱えています。薬局に勤務する管理栄養士による訪問栄養指導とは?

はじめる在宅現場で役立つ基礎知識4  栄養指導の画像
Early Bird

前立腺がんの診断と治療に新技術導入

東海大学医学部付属八王子病院泌尿器科では、前立腺がんの診断効率を高める検査法を導 入し、さらに侵襲が小さく、がん殺傷効果が高い治療を行っている。3次元画像による標的生検で検出率の精度向上について解説します。

前立腺がんの診断と治療に新技術導入の画像

この記事の関連記事

人気記事ランキング