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ここに注目!知っているようで知らない疾患のガイセツ

知っているようで知らない 疾患のガイセツ 視神経脊髄炎関連性疾患

2018年4月号
視神経脊髄炎関連性疾患の画像
指定難病の1つである視神経脊髄炎(NMO)は、再発を繰り返す中枢神経の炎症性自己免疫疾患です。当初は多発性硬化症(MS)の亜型として捉えられていましたが、近年の研究の進展により、MSとは異なる疾患と考えられるようになりました。さらに2015年には視神経脊髄炎関連性疾患(NMOSD)という広い概念で研究が進められるようになっています。今回は『多発性硬化症・視神経脊髄炎診療ガイドライン2017』作成委員会委員である東京女子医科大学神経内科准教授の清水優子氏に、NMOSDについて解説していただきました。

患者さんの9割が女性

視神経脊髄炎(NMO)は、重症の視神経炎と横断性脊髄炎を特徴とする中枢神経の炎症性自己免疫疾患です。多発性硬化症(MS)と同じく指定難病の1つで、患者数はMS全体で約1万9,000人1)、このうちNMO患者は約4,000人2)と公表されています。患者さんの9割が女性で、発症年齢の平均はMSより10歳程度高い39歳となっており、妊娠の可能性が高い患者さんも多く含まれます。
MSと異なり進行性ではありませんが、再発により視神経炎では失明に至り、また脊髄炎では完全対麻痺や高度の感覚障害、膀胱直腸障害をきたすことがあります。

多発性硬化症との鑑別が可能となり治療が進展

従来、NMOは視神経脊髄型MSに含まれていましたが、2004年にNMOに特異な自己抗体NMO-IgG(抗アクアポリン4〈AQP4〉抗体)が発見され、MSの病態とは相違があり、治療も異なることが分かってきました。
抗AQP4抗体は、アストロサイト(中枢神経系の神経細胞を支え、血管とつなげる細胞)の足突起周囲に存在するAQP4を攻撃することで、周囲に強い炎症を起こします(図1)。これにより、神経細胞とつながる軸索や髄鞘などが傷害され、NMOを発症すると考えられます。

図1 NMOSD発症イメージ

NMOSD発症イメージの画像
認定特定非営利活動法人MSキャビンHPを参考に作成

2015年には疾患をより広く捉えた「視神経脊髄炎関連性疾患(NMOSD)」という概念が提唱され、抗AQP4抗体を指標とする新しい国際診断基準が作成されました。

抗AQP4抗体の測定と症状把握が診断の決め手

『NMOSD国際診断基準2015』では、抗AQP4抗体の測定と症状の把握によって診断します(表1)。抗体が陰性あるいは測定していないなどで不明の場合には、表1の中核症状のうち2つを満たすか否かで診断します。この場合、最低でも視神経炎、脊髄炎、最後野の病変という中核症状の1つが認められることが原則です。
NMOSDとMSは病態や発症機序が異なり、使用する薬剤も違うため、両者を鑑別することが重要です(表2)。

表1 成人例におけるNMOSDの診断基準

表1 成人例におけるNMOSDの診断基準の画像
日本神経学会:多発性硬化症・視神経脊髄炎診療ガイドライン2017を参考に作成
表2 MSとNMOSDの臨床像の違い
  MS NMOSD
平均発症年齢 29歳 39歳
男女比 1.0:2.9 1.0:9.0
症状 比較的軽症の
視神経炎、脊髄炎
重症の
視神経炎、脊髄炎
髄液所見 細胞増多 まれ あり(急性期)
オリゴクローナル
バンド
85%陽性 15〜30%陽性
抗AQP4抗体 陰性 陽性

※MSの髄液中で増加する主にIgGというタイプの免疫グロブリンで、電気泳動という解析手法を用いると複数のバンドとして検出される。

提供:清水優子氏

ステロイド剤、免疫抑制剤による再発予防

NMOSDの急性期にはステロイドパルス療法を行いますが、無効例や重症例では血液浄化療法も検討されます。再発予防には、副腎皮質ステロイド剤のプレドニゾロン、免疫抑制剤のアザチオプリン、タクロリムスなどが用いられています。プレドニゾロンの経口投与では、10mg/日以上の内服が10mg/日未満より有意に再発が少ないとされています。一方、副作用として発現する可能性のある骨粗鬆症、糖尿病、消化管障害、易感染性などへの対応が必要です。
アザチオプリンは、2mg/kg/日以下で投与しますが、免疫抑制作用が発現するまでに数ヵ月を要するため、投与当初は副腎皮質ステロイド剤と併用することが一般的です。肝機能障害、骨髄抑制、発がんなどの副作用に注意し、定期的な血液検査を行う必要があります。
タクロリムスは、腎障害を起こしやすいため、投与時は腎機能のチェックが必要です。3mg/日の投与で血中濃度が高くなることはあまりありませんが、定期的にトラフ値を測定することが推奨されます。
易感染性を持つ免疫抑制剤の服薬指導では、インフルエンザなどの感染症への注意喚起が重要です。外傷の際には化膿する可能性が高いので、特に指導していただきたいポイントです。また、副腎皮質ステロイド剤と免疫抑制剤とを併用することにより過度の免疫抑制が起こり、易感染性が高まる場合もあります。
これらの免疫抑制剤は適応外使用となるため、保険適用の対象外の扱いであることに留意します。
既存の薬剤に加え、新薬の治験も進んでいます。リツキシマブ(抗CD20抗体)については、半年に1回投与する点滴注射剤の医師主導型治験が進行中です。
なお、MSの再発予防で有効とされるインターフェロンβ(IFNβ)、フィンゴリモド、ナタリズマブなどは、NMOSDでは無効ないしは症状をさらに悪化させる可能性があり、投与すべきでないとされています。

NMOSDやMSとは異なる特徴を持つ抗MOG抗体陽性関連疾患

最近、抗AQP4抗体陰性のNMOSDのなかに、抗ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク(MOG)抗体陽性例が存在することが分かってきました。
抗AQP4抗体陽性例とは少し異なり、発症年齢は平均30歳代で男性に多く、視神経炎と横断性脊髄炎を併発して1ヵ月以内の続発例が多いものです。
抗AQP4抗体はアストロサイト、抗MOG抗体はオリゴデンドロサイトを攻撃するため、作用が少し異なりますが、視神経に障害をきたすという臨床像や、長い脊髄病巣を持つ点は抗AQP4抗体陽性例と同様です。
治療反応性がよく、副腎皮質ステロイド剤の点滴や長期の内服が有効であり、血漿交換療法も有用です。再発も多くみられますが重症化は少なく、薬剤が奏効して予後は良好です。抗AQP4抗体陽性例と同様に、MSの治療薬は無効なので、鑑別診断が重要なポイントとなります。

妊娠・出産とNMOSDの再発防止

国内のNMOSDの妊婦の年間再発率調査では、妊娠前1年間、もしくは妊娠中にNMOSDを発症(または再発)した患者さんは妊娠中には比較的安定していますが、出産後3ヵ月の平均再発率3)は1.5~2.0回/年となっています。MSの患者さんの同時期の再発率が1.2回/年4)ということを踏まえると、高い再発率といえます。
妊娠中の再発では、母体と胎児をつなぐ絨毛部分(合胞体栄養膜)に抗AQP4抗体が発現します。炎症を起こして細胞死に至ると、胎児に栄養が供給されず、胎児死亡につながることが問題になります。一方で、抗体発現を抑制し、適切な治療により炎症を抑えれば胎児の成長に問題はないという研究報告5)もあります。
実際の薬剤投与については、妊娠4週目までは薬剤投与の影響は除外しておいてもよいですが、4~13週は形態異常の可能性があり注意が必要です。
各免疫抑制剤の添付文書には、「妊婦または妊娠している可能性のある婦人には投与しないこと」と記載されていますが、『産婦人科診療ガイドライン-産科編2014』では、「投与の有益性が危険性を上回る」、「特定の状況下では妊娠中であっても投与が必須、もしくは投与が推奨されている医薬品」に分類されています。リツキシマブの添付文書記載もほぼ同様で、「やむを得ず投与する場合には治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与する」と記載されています。
妊娠中に免疫抑制剤を継続投与する場合には、胎児への影響に加え、母体への有益性・必要性についても十分に説明し、患者さんの理解を得る必要があります。
なお、授乳期間中に免疫抑制剤を投与する場合には、人工乳で対応するよう指導しています。

参考文献

  1. 難病情報センターHP(特定疾患医療受給者証所持者数)
    http://www.nanbyou.or.jp/entry/1356
  2. 日本神経学会:多発性硬化症・視神経脊髄炎診療ガイドライン2017
  3. Shimizu Y, et al: Mult Scler. 2016; 22(11): 1413-1420
  4. Confavreux C, et al: N EngI J Med. 1998; 339(5): 285-291
  5. Saadoun S, et al: J Immunol. 2013; 191(6): 2999-3005

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