約600人に1人が発症、7割近くが幻覚や金縛りなどを体験
睡眠障害は主に、①夜寝付きが悪い、眠りを維持できない、朝早く目が覚める、眠りが浅く十分に眠った感じがしないなどの症状が続き、よく眠れないために昼間の眠気、注意力の散漫、疲労といった体調不良が生じる「不眠症」、②夜間眠っているにもかかわらず、昼間に強い眠気が生じる「過眠症」、③昼夜のサイクルと体内時計のリズムが合わないため、1日のなかで社会的に要求される、あるいは自分が望む時間帯に睡眠をとることができず、活動に困難をきたす「概日リズム睡眠障害」、④睡眠中に異常な呼吸を示す「睡眠呼吸障害」、⑤その他(寝ぼけ行動が睡眠中に起こる「睡眠時随伴症」や、脚の不快感や運動が睡眠中に起こる「睡眠関連運動障害」など)に分類されます。この分類以外にも、身体疾患や精神疾患に伴って不眠症状が出現することもあります。
ナルコレプシーは過眠症の一つで、昼間に耐えがたい眠気が出現し、授業中や勤務中、時には試験中や歩行中など通常では考えられない場面で居眠りしてしまう「睡眠発作」が特徴です。なお、過眠症を眠り過ぎと誤解している人も少なくありませんが、長時間の睡眠を伴う過眠症はごくまれで、ナルコレプシーの患者さんの多くは睡眠時間が平均的(約6~8時間)か平均より短いといわれています。また、ナルコレプシーの場合、居眠りは長くても30分程度です。居眠りから目覚めた後は一時的にすっきりしますが、時間がたつと再び強い眠気が出てきます。
ナルコレプシーのもう一つの特徴的な症状として「情動脱力発作」が挙げられます。笑う、驚く、怒るなど感情の動きがあったときに体の力が抜けてしまい、膝がガクンとする、腰が抜けてしまう、といった脱力症状があらわれます。ただし顔の筋肉だけが脱力することもあり、その症状のあらわれ方はさまざまです。
また、自覚的には半分目が覚めている就眠後すぐ、生々しい夢をみることや浮遊感などが生じる「入眠時幻覚」や怪しい人物や動物が襲ってきて、助けを求めて起き上がろうとしても起き上がれず、声も出せない金縛り状態になる「睡眠麻痺」が出現することもあります。これらの症状は入眠期のレム睡眠期に起こります。入眠時幻覚や睡眠麻痺はナルコレプシーの患者さんの7割程度にみられ、昼間の居眠り時に幻覚妄想状態を呈することもあります。
このほかにも夜間熟睡困難や、行動の記憶が短時間喪失する自動症といった症状をきたす患者さんや、肥満や頭痛、糖尿病などを合併する患者さんもいます。
ナルコレプシーの初発年齢は10歳代が多く、特に14歳~16歳がピークで、40歳以後に発症することはまれです。わが国におけるナルコレプシーの有病率は0.16%(約600人に1人)と推定され、男女差はありません1)。なお、ナルコレプシーの初発症状の多くは睡眠発作です。ナルコレプシーは自然治癒することはありませんが、加齢に伴って睡眠発作の程度が軽くなることはあります。
ナルコレプシーは、問診のほか、終夜睡眠ポリグラフ検査で睡眠障害がないかを確認した後、反復睡眠潜時検査で日中4~5回短時間眠ってもらい眠気がどのくらい強いかを検査して診断します。なお、ナルコレプシーには神経ペプチドの一つであるオレキシン産生ニューロンの脱落が関与しており、髄液中のオレキシン濃度低下を確認することは本症の診断に有用ですが、当検査は保険適用外で、また侵襲性があるため安易には実施しません。
ナルコレプシーの治療と服薬上の注意
昼間の強い眠気に対しては中枢神経刺激薬が投与されます(表1)。かつてはメチルフェニデート(製品名:リタリンR)が繁用されましたが、副作用や耐性・依存性などの問題から、現在はモダフィニルが第一選択となっています。モダフィニルは半減期が長く(約12時間)、朝1回投与が基本ですが、昼間の眠気が強い場合、朝と昼前の2回服用することもあります。モダフィニルは、症状に応じて保険適用量の上限(300mg/日)まで増量が可能ですが、適切な用量を設定すれば、その後、用量を変更することはほとんどありません。なお、中枢神経刺激薬は服用後、一時的に眠気が亢進することがあるので注意が必要です。メチルフェニデートは乱用・不正使用を排除するため、「リタリン流通管理委員会」に登録された医師のみが処方可能です。またメチルフェニデートを購入・調剤する薬局および調剤責任者も同じく同委員会に登録する必要があります2)。
薬剤(製品名) | 特徴 | 主な副作用 |
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モダフィニル (モディオダール®) |
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投与初期に頭痛が生じることが比較的多く、次いで動悸、悪心、食欲低下が出現することがある。 |
メチルフェニデート (リタリン®) |
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投与開始初期に生じる頭痛、消化器症状、ほてり感、動悸などの発現にも注意が必要。 |
ペモリン (ベタナミン®) |
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日本睡眠学会「ナルコレプシーの診断・治療ガイドライン」を参考に編集部作
睡眠習慣の見直しも重要で、夜間十分な睡眠をとり、規則的な生活を心掛けるとともに、昼休みなどを利用して積極的に昼寝をするよう指導します。なお、中枢神経刺激薬の服用を怠って自動車の運転をすることは道路交通法違反であることを患者さんに伝え、運転する際には中枢神経刺激薬を必ず服用し、運転中に眠くなったら車を停めて仮眠するよう指導することも重要です。ただし、運転を職業としている方には運転せずにすむ業務への異動などを勧めます。なお、情動脱力発作に対しては、三環系抗うつ薬のクロミプラミンを処方します。
ナルコレプシーでは夜間睡眠障害を伴うこともあり、入眠障害よりも睡眠の安定が悪く中途覚醒が多いことから、非ベンゾジアゼピン系などの睡眠薬を処方することがあります。睡眠薬は短時間型のものを用いることが多く、睡眠維持障害の程度や翌朝への睡眠薬の持ち越し効果を勘案しながら、薬剤・用量を設定します。
中枢神経刺激薬は決められた用法・用量を厳守して服用するよう指導を
ナルコレプシーは慢性疾患で、眠気による社会生活への不利益を最小限にとどめることが治療の目標となるため、服薬継続が極めて重要です。また、薬物治療では最小限の薬剤で効果を得て、かつ副作用と依存形成を抑制することをめざします。そのため、処方された薬剤をきちんと服用するよう患者さんに服薬指導することが重要になります(表2)。
表2 ナルコレプシーの患者さんに対する服薬指導および生活指導のポイント
- 薬剤は決められた用法・用量を守って服用する。
- モダフィニルやペモリンはできるだけ昼前までに服用し、夕方以降は服用しない。
- 夜間、睡眠時間を十分確保するとともに、規則正しい生活を心掛ける。
- 積極的に昼寝をする。
- 車を運転する際には、中枢神経刺激薬を必ず服用し、運転中眠くなったら、車を停めて仮眠する。
- 過食は避け、運動を心掛けて、肥満を予防する。肥満者は減量する。
- 喫煙者は禁煙を励行する。
亀井雄一氏の話をもとに編集部作成
特に、モダフィニルを夕方服用すると、夜眠れなくなることがあるので、昼前までに服用するよう指導してください。また、途中で治療を中断すると、元の眠気水準に戻ってしまうので、服薬を継続させることもポイントとなります。さらに生活指導も重要です。夜間に睡眠時間を十分確保し、平日に睡眠時間を十分確保できない場合には、休日ゆっくり寝て平日の不足分を補うよう勧めてください。また、短時間の昼寝でも眠気の軽減には効果的ですので昼寝を積極的にとるよう指導してください。前述のように、ナルコレプシーは肥満や糖尿病を合併することが多く、中高年の患者さんでは睡眠時無呼吸症候群の合併率が高いことも知られています。睡眠時無呼吸症候群は高血圧や心不全、脳卒中、不整脈、虚血性心疾患、突然死のリスクとなります。肥満や喫煙などは睡眠時無呼吸症候群の発症要因であることから、食べ過ぎは避け、肥満者には減量を、また喫煙者には禁煙を指導してください。
参考文献
- 日本睡眠学会:ナルコレプシーの診断・治療ガイドライン
http://www.jssr.jp/data/pdf/narcolepsy.pdf - リタリン流通管理委員会:リタリン流通管理基準
http://www.ritalin-ryutsukanri.jp/shared/pdf/distribution_ver9.pdf