迅速に診断し、降圧治療を開始する
高血圧緊急症とは、血圧の異常高値のみならず、血圧の高度の上昇(多くは180/120mmHg以上)によって脳や心臓、腎臓、大血管などの標的臓器に急性の障害が生じ進行する病態で、迅速に診断し、降圧治療を開始しなければ致命的になることもあります。
高血圧治療ガイドライン2014によると、高血圧緊急症には高血圧性脳症、急性大動脈解離を合併した高血圧、肺水腫を伴う高血圧性左心不全、高度の高血圧を伴う急性冠症候群(急性心筋梗塞、不安定狭心症)、褐色細胞腫などが含まれます。高血圧緊急症であるかどうかは血圧レベルだけで判断すべきではなく、血圧が異常高値であっても、急性あるいは進行性の臓器障害がなければ高血圧切迫症(以下、切迫症)として扱います。この場合は緊急降圧の対象ではありませんが、数時間内に治療を開始しなければいけません。一方、急性糸球体腎炎による高血圧性脳症や子癇、大動脈解離などでは、血圧が異常高値でなくても緊急降圧の対象となります。
拡張期血圧が120~130mmHg以上で、腎機能障害が急速に進行し、放置すると全身状態が急速に悪化して、心不全や高血圧性脳症、脳出血などが発症する予後不良の病態を加速型-悪性高血圧といいます。高血圧発症時から血圧が高いこと、降圧治療の中断、長期にわたる精神的・身体的負荷がその発症に関与するといわれています。かつては悪性腫瘍と同様の予後であったことから、悪性高血圧と呼ばれた経緯がありますが、降圧治療の進歩によって死亡率は大幅に改善しました。加速型-悪性高血圧は切迫症として扱われますが、細動脈病変が進行するため、緊急症に準じて対応します。
高血圧緊急症の治療は、入院治療で経静脈的に降圧を図ることが原則です。ただし、必要以上に急速で過剰な降圧は、臓器灌流圧の低下によって脳梗塞や心筋梗塞、腎機能障害などの虚血性障害を引き起こす可能性が高いため、降圧の程度や速度を予測でき、かつ即時に調整が可能な薬物や降圧方法を用いることが望ましいとされています。一般的な降圧目標は、はじめの1時間以内では平均血圧で25%以上は降圧せず、次の2~6時間では160/100~110mmHgを目標としますが、大動脈解離や急性冠症候群、以前には血圧が高くなかった例での高血圧性脳症(急性糸球体腎炎や子癇など)では、治療開始の血圧レベルおよび降圧目標は低くなります。切迫症は、高血圧の病歴が長く、慢性の臓器障害もみられる場合が多く、臓器血流の自動調節能の下限が高いことが想定されます。そのため降圧治療は診断後、数時間以内に開始すべきですが、その後24~48時間かけて比較的緩徐に160/100mmHg程度まで降圧します。
高血圧緊急症および切迫症に用いられる降圧薬
高血圧緊急症ではカルシウム(Ca)拮抗薬(ニカルジピン、ジルチアゼムなど)の注射薬がよく使用され、また急性冠症候群による場合はニトログリセリン注射薬を用いることもあります。切迫症は内服薬でコントロール可能な場合が多いです。なお、ニフェジピンカプセル内容物の投与やニカルジピン注射薬のワンショット静脈注は、過度の降圧や反射性頻脈を来すことがあるため行いません。またCa拮抗薬は作用時間が比較的長いため用量の調整に注意が必要です。
初期降圧目標に達したら、内服薬を開始し、注射薬は用量を漸減しながら中止します。経口Ca拮抗薬では長時間作用型より、まずは中程度の作用時間型のものをうまく使っていくほうがよいでしょう。なお、加速型-悪性高血圧は、多くは圧利尿で脱水傾向になっています。その結果、レニン・アンジオテンシン(RA)系が活性化していることがあり、RA系阻害薬を投与すると、過度の降圧が生じる可能性があります。そのため、RA系阻害薬や利尿薬を用いる場合には、まず経口Ca拮抗薬などで血圧をある程度下げた後に、血圧、腎機能をみながらRA系阻害薬や利尿薬を少量から加えていきます。
治療を医者任せにしない意識づけと指導を
1980年から2010年までの50歳代、60歳代、70歳代の高血圧患者の治療率(降圧薬服用者の割合)の推移をみると、2010年の時点で、50歳代の男性は約43%、女性は約31%にとどまっています。