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ここに注目!知っているようで知らない疾患のガイセツ

知っているようで知らない 疾患のガイセツ 高血圧緊急症

2018年1月号
高血圧緊急症の画像
高血圧は、「サイレントキラー」といわれるように、多くの場合、自覚症状がないまま進行して動脈硬化性疾患を発症し、死に至ることもある疾患です。近年は高血圧管理によって良好な血圧コントロールが得られている患者さんが多くなりましたが、血圧が極度に上昇し、それに伴い臓器障害が進行して、直ちに降圧治療を開始しなければ致命的になるケースもあります。今回は、労働者健康安全機構横浜労災病院院長の梅村敏氏に、高血圧緊急症について解説していただきました。

迅速に診断し、降圧治療を開始する

高血圧緊急症とは、血圧の異常高値のみならず、血圧の高度の上昇(多くは180/120mmHg以上)によって脳や心臓、腎臓、大血管などの標的臓器に急性の障害が生じ進行する病態で、迅速に診断し、降圧治療を開始しなければ致命的になることもあります。
高血圧治療ガイドライン2014によると、高血圧緊急症には高血圧性脳症、急性大動脈解離を合併した高血圧、肺水腫を伴う高血圧性左心不全、高度の高血圧を伴う急性冠症候群(急性心筋梗塞、不安定狭心症)、褐色細胞腫などが含まれます。高血圧緊急症であるかどうかは血圧レベルだけで判断すべきではなく、血圧が異常高値であっても、急性あるいは進行性の臓器障害がなければ高血圧切迫症(以下、切迫症)として扱います。この場合は緊急降圧の対象ではありませんが、数時間内に治療を開始しなければいけません。一方、急性糸球体腎炎による高血圧性脳症や子癇、大動脈解離などでは、血圧が異常高値でなくても緊急降圧の対象となります。
拡張期血圧が120~130mmHg以上で、腎機能障害が急速に進行し、放置すると全身状態が急速に悪化して、心不全や高血圧性脳症、脳出血などが発症する予後不良の病態を加速型-悪性高血圧といいます。高血圧発症時から血圧が高いこと、降圧治療の中断、長期にわたる精神的・身体的負荷がその発症に関与するといわれています。かつては悪性腫瘍と同様の予後であったことから、悪性高血圧と呼ばれた経緯がありますが、降圧治療の進歩によって死亡率は大幅に改善しました。加速型-悪性高血圧は切迫症として扱われますが、細動脈病変が進行するため、緊急症に準じて対応します。
高血圧緊急症の治療は、入院治療で経静脈的に降圧を図ることが原則です。ただし、必要以上に急速で過剰な降圧は、臓器灌流圧の低下によって脳梗塞や心筋梗塞、腎機能障害などの虚血性障害を引き起こす可能性が高いため、降圧の程度や速度を予測でき、かつ即時に調整が可能な薬物や降圧方法を用いることが望ましいとされています。一般的な降圧目標は、はじめの1時間以内では平均血圧で25%以上は降圧せず、次の2~6時間では160/100~110mmHgを目標としますが、大動脈解離や急性冠症候群、以前には血圧が高くなかった例での高血圧性脳症(急性糸球体腎炎や子癇など)では、治療開始の血圧レベルおよび降圧目標は低くなります。切迫症は、高血圧の病歴が長く、慢性の臓器障害もみられる場合が多く、臓器血流の自動調節能の下限が高いことが想定されます。そのため降圧治療は診断後、数時間以内に開始すべきですが、その後24~48時間かけて比較的緩徐に160/100mmHg程度まで降圧します。

高血圧緊急症および切迫症に用いられる降圧薬

高血圧緊急症ではカルシウム(Ca)拮抗薬(ニカルジピン、ジルチアゼムなど)の注射薬がよく使用され、また急性冠症候群による場合はニトログリセリン注射薬を用いることもあります。切迫症は内服薬でコントロール可能な場合が多いです。なお、ニフェジピンカプセル内容物の投与やニカルジピン注射薬のワンショット静脈注は、過度の降圧や反射性頻脈を来すことがあるため行いません。またCa拮抗薬は作用時間が比較的長いため用量の調整に注意が必要です。
初期降圧目標に達したら、内服薬を開始し、注射薬は用量を漸減しながら中止します。経口Ca拮抗薬では長時間作用型より、まずは中程度の作用時間型のものをうまく使っていくほうがよいでしょう。なお、加速型-悪性高血圧は、多くは圧利尿で脱水傾向になっています。その結果、レニン・アンジオテンシン(RA)系が活性化していることがあり、RA系阻害薬を投与すると、過度の降圧が生じる可能性があります。そのため、RA系阻害薬や利尿薬を用いる場合には、まず経口Ca拮抗薬などで血圧をある程度下げた後に、血圧、腎機能をみながらRA系阻害薬や利尿薬を少量から加えていきます。

治療を医者任せにしない意識づけと指導を

1980年から2010年までの50歳代、60歳代、70歳代の高血圧患者の治療率(降圧薬服用者の割合)の推移をみると、2010年の時点で、50歳代の男性は約43%、女性は約31%にとどまっています。また降圧薬を服用している患者さんのうち血圧が140/90mmHg未満に管理されている割合は、50歳代~70歳代すべての年代で、男性は約30%、女性は約40%に過ぎません1)。そのため、高血圧緊急症で退院後の患者さんや切迫症の患者さんに限らず、高血圧の患者さん全体に対する服薬指導は極めて重要で、薬剤師の先生方の活躍を大いに期待しています。
血圧を良好にコントロールするには、処方された薬剤を確実に服用するとともに、自分の病気を医者任せにしないという意識を持つことが重要です。そのためには、毎日血圧を測定し、記録することが大切で、それを習慣づけることで良好な血圧コントロールが得られる患者さんもいるほどです。そこで、薬剤師の先生方が服薬指導をされる際には、服薬状況を確認するとともに、血圧を毎日朝晩測定するよう患者さんに指導してください。
特に高齢者では他の疾患を有していることが多く、血圧に影響する可能性がある薬剤を処方されていることもあります(表1)。お薬手帳などを活用して、患者さんに処方されている薬剤をチェックし、血圧に影響する可能性がある薬剤が処方されている場合には、医師に連絡してください。

表1 薬剤誘発性高血圧の主な原因薬剤
原因薬剤 高血圧の原因 高血圧への対策
非ステロイド性抗炎症薬
(NSAIDs)
腎プロスタグランジン産生抑制による水、Na貯留と血管拡張の抑制 NSAIDsの中止、減量
Ca拮抗薬
カンゾウ(甘草)
グリチルリチン
11β水酸化ステロイド脱水素酵素阻害によるコルチゾール半減期延長に伴う内因性ステロイド作用の増強 原因薬剤の中止、減量
アルドステロン拮抗薬
グルココルチコイド NO産生低下、レニン基質の産生増加、エリスロポエチン産生増加など ステロイドの中止、減量
ARB、ACE阻害薬、利尿薬など
シクロスポリン
タクロリムス
カルシニューリン基質の脱リン酸化の阻害、AT1受容体の増加、交感神経系の賦活、内皮機能障害など ARB、ACE阻害薬、Ca拮抗薬など
エリスロポエチン製剤 血液粘稠度の増加、内皮機能障害など エリスロポエチン製剤の中止、減量
いずれかの降圧薬
エストロゲン 肝でのアンジオテンシノーゲンの産生の亢進 エストロゲン製剤の中止
挙児希望などを考慮した降圧薬
モノアミン酸化酵素(MAO)阻害薬
抗うつ薬
内因性カテコラミンの作用増強 原因薬剤の中止
α遮断薬
抗VEGF産生抗体医薬品 細小血管床の減少、NO産生の低下など 原因薬剤の中止、減量
いずれかの降圧薬

奥山由紀, 梅村 敏:心臓. 2014; 46(3): 312-17を参考に作成

高血圧に限ったことではありませんが、患者さんからの問い合わせで多いのは、飲み忘れた場合の対応でしょう。薬を飲み忘れた場合、まずはかかりつけの医師に相談することが原則ですが、薬剤師の先生からも表2に示すようなアドバイスを患者さんに行ってください。

表2 飲み忘れ時の対応のめやす
※薬を飲み忘れたら、かかりつけ医に相談するのが原則です。
薬のタイプ いつ飲み忘れ? 対応のめやす
1日1回服用 朝食後飲み忘れ 寝るまでに気づいたら服薬
1日2回服用 朝食後飲み忘れ 昼から夕方までに服薬。夕食後の分は就寝前に
夕食後飲み忘れ 寝るまでに気づいたら服薬
1日3回服用 朝食後飲み忘れ 昼までに気づいたら服薬。昼分は夕食後、夕分は就寝前に
昼食後飲み忘れ 夕食までに気づいたら服薬。夕食後の分を就寝前に
夕食後飲み忘れ 寝るまでに気づいたら服薬

日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会編「高血圧の話」を参考に作成

2015年から高血圧・循環器病予防療養指導士の認定制度が発足し、すでに多くの薬剤師、看護師などコメディカルの方々が本資格を取得しています(詳細は日本高血圧学会HP参照2))。薬剤師の先生方が、このような資格を患者さんやご家族などへの指導とアドバイスの際に生かし、ますます活躍されることを期待しています。

参考文献

  1. 日本高血圧学会:高血圧治療ガイドライン2014[JSH2014]
  2. 日本高血圧学会HP(医療関係者向けの情報) http://jpnsh.jp/medical_ind.html

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