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更年期障害

2017年12月号
更年期障害の画像
女性ホルモンの減少とゆらぎが原因で心身にさまざまな不調が出現する女性の更年期。「病気ではない」「年齢のせい」とされがちですが、治療が必要な場合もあります。また、いわゆる不定愁訴といわれがちな更年期症状には別の病気が隠れていることもあり、その鑑別のためには受診が必須。今回は更年期障害について、東京女子医科大学総合診療科/女性科(総合内科)准教授の片井みゆき氏に解説していただきました。

閉経を挟んだ前後5年間の不調

閉経を挟んだ前後5年間の約10年間を「更年期」といいます。日本人女性の閉経年齢の中央値は50歳前後といわれているので、個人差はありますが、45歳~55歳頃が更年期にあたります。この時期に起こるさまざまな心身の不調が「更年期症状」です。よく知られている症状の一つが、急に顔がほてったり、汗をかいたりするホットフラッシュです。このほか不眠やイライラ、不安感など数多くの心身症状があらわれます。
こうした不調を覚えながらも問題なく日常生活を過ごせるのであれば、必ずしも治療の必要はありません。しかし、更年期症状が生活に支障をきたすようになると「更年期障害」と呼ばれ、治療が必要になります。

原因は女性ホルモン減少とゆらぎ

更年期症状は、女性ホルモンの主に卵胞ホルモン(エストロゲン)分泌の低下とゆらぎによって引き起こされます。卵巣から分泌されるエストロゲンは、思春期に分泌量が増加し始め、20歳代〜30歳代には月経周期による変動はあるものの、一定のレベルで安定します。更年期に入ると次第に分泌量が減少し、閉経後は急激に低下します。閉経前は女性ホルモンの分泌が特に乱高下する「ゆらぎ」の時期で、さまざまな更年期症状が出現します。
最近は男性の更年期症状にも関心が高まっていますが、これには男性ホルモンのテストステロンが大きく影響しています。20歳前後には盛んに分泌されていたテストステロンが中高年になってくると徐々に減少してきます。心身を活動的にする働きのあるテストステロンの減少からくる自律神経の変調に過労やストレスなどが加わると、気力や生殖機能の低下といった症状があらわれます。ただし、男性ホルモン分泌は女性と比較すると個人差が大きく、更年期以降に分泌量が減少しても継続して分泌され、女性の閉経にあたる節目がないという違いがあります。

エストロゲンと女性の健康

以前は、女性ホルモンというのは、女性らしさや妊娠・出産といった生殖機能の面が主にクローズアップされていました。現在では、女性ホルモンのうち特にエストロゲンが血圧やコレステロール、骨、精神状態など、女性の全身の健康にかかわる大切な働きをしているとわかっています。
したがって閉経後にエストロゲン分泌低下が恒常的になると、次第に更年期のホットフラッシュといった自律神経失調症状は落ち着いてくる一方で、LDL-コレステロール値や血圧の上昇が起こりやすくなり、骨粗鬆症や動脈硬化のリスクが高まるなど健康上のさまざまな影響が出てきます。
2016年の日本人女性の平均寿命は、87.14歳と報告されています1)。つまり、閉経後30年近くを過ごす女性が多く、その間には、エストロゲン欠乏に伴うさまざまな疾患や病態があらわれます(図)。女性ホルモン分泌が低下するこの長い歳月のQOL(生活の質)をどのように健康的に支えていくのか、大きな課題といえます。

図 エストロゲン欠乏に伴い出現する各種疾患・病態

図 エストロゲン欠乏に伴い出現する各種疾患・病態の画像

日本産婦人科学会雑誌52, 2000より引用改変

更年期障害の主な治療法

更年期障害の治療法は、漢方薬と女性ホルモン補充療法(HRT)、大豆イソフラボン(エクオール)補給などが中心となります。
漢方薬は、症状緩和が目的です。症状と証(体格)によって使い分けますが、大きく分けると、比較的体格を問わず、ホットフラッシュに加えてイライラや不安などの精神症状も伴う場合には加味逍遙散(かみしょうようさん)、比較的しっかりした体格で、のぼせやほてりなどの症状を伴う場合には桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)、比較的華奢な虚弱体質の方で、浮腫や冷えなどを伴う場合は当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)から用いるといった具合です。副作用がないと思われがちの漢方薬ですが、時には低カリウム血症や肝機能障害などの副作用があらわれることもあり、医師のもとで定期的に検査をしながら処方を受ける方が安心です。
HRTは、不足したエストロゲンを補充する直接的かつ即効性のある治療法です。治療薬にはエストロゲン製剤と黄体ホルモン製剤、そしてこれらの配合剤があります。子宮摘除した方以外は子宮内膜肥厚を防ぐために黄体ホルモン製剤を併用し、閉経後の年数や患者さんの状況に合わせて投与方法は変わります。
乳がんや子宮体がんはエストロゲンにより増殖するため、これらの患者さんには、HRTを実施しません。そのため、HRTの治療に際しては、乳がんや子宮体がん検診を行い、リスクの有無を確認してから投与します。また、高度の肥満を伴う患者さんやこれまでに脳梗塞や心筋梗塞を起こしたことのある患者さんも、HRTにより血栓症を起こすリスクがあるため、HRTは推奨できません。喫煙も血栓症のリスクとなるため要注意です。
HRTの開始時期ですが、エストロゲン欠乏による動脈硬化を抑えるためには閉経後5年程度のうちに始めるのが望ましいとされています。閉経後10年以上経ってから急にHRTを開始すると、かえって心筋梗塞の発生率を高める可能性が指摘されています。HRTはその適応可否や開始と終了の時期も含めて、まずは産婦人科を受診し、医師に相談してみましょう。
大豆イソフラボンのうちエクオールという成分は、女性ホルモン類似の作用を持ち、更年期症状に効果があるとわかってきました。また、豆腐や納豆などの大豆製品を食べて自身の体内でエクオールヘ変換できる方とできない方がいるということも明らかになってきました。後者の方は、エクオールの成分がサプリメントとして薬局などで販売されていますので、それを補給することで更年期症状が緩和される可能性があります。

的確な診断と治療を受けるために

月経周期の乱れや経血量の変化、自律神経失調症状など、更年期に差し掛かるとなんらかのサインがあらわれます。更年期世代の女性は、こうした体のサインを見逃さないようにしましょう。子宮筋腫などの治療のために子宮全摘手術をされた方は、月経がなくなるためこうした体のサインが見られませんが、卵巣が残存していれば女性ホルモン分泌は閉経まで持続します。血液検査を行えば、卵巣からの女性ホルモン分泌の状況がわかります。原因不明の不調に悩んでいる40歳代〜50歳代の女性は更年期障害とそれに似た症状を示す病気の可能性を念頭に置いて受診しましょう。
更年期障害の症状は多岐にわたるため、適切な診断がなかなかつかずに、さまざまな診療科や病院を渡り歩く患者さんも中にはいます。その一方で、年齢と症状から「更年期障害」と診断された中に、違う病気が隠れているケースも少なくありません。かつて月経不順やめまい、発汗、倦怠感などを訴えて受診した患者さんを調査したところ、卵巣機能不全や更年期障害などとされていた女性の約25%にバセドウ病や橋本病といった病気が隠れていたことがわかりました。女性に多い甲状腺機能異常と更年期障害の症状はよく似ています。更年期障害の治療を行っても症状が改善しない場合は、ほかの病気の可能性もあるので鑑別診断が大切です。血液検査で甲状腺機能を調べれば確認できます。
患者さんが医師の前では打ち明けられなかった思いを薬剤師さんには話されたり、複数の病院を受診して同様の薬が出されている状況などを最初に気づくのも薬剤師さんではないかと思います。私の経験でも、多くの医療機関を巡ってドクターショッピングを繰り返していた患者さんに「一度、女性専門外来へ行って総合的に診てもらってはどうですか?」と薬剤師さんが助言を与え、適切な診断に結びついた例も少なくありません。女性専門外来のような新しい取り組みについても、薬剤師さんがよく勉強してくださっていることに敬服しつつ、診療の心強いパートナーとして日々感謝しています。また、このような相談を薬剤師さんが患者さんから受けた際には、いつからどのような症状に悩まれているかを時系列にまとめたメモやこれまでの受診歴と検査結果、そしてお薬手帳を受診時に持参するようにお伝えください。
更年期障害を始めさまざまな分野において、こうした連携が進むことが望まれます。

参考文献

  1. 厚生労働省:平成28年簡易生命表の概況
    http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life16/dl/life16-02.pdf

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