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血友病

2017年11月号
血友病の画像
血友病は昔から知られている遺伝性疾患で、関節内への自然出血や外傷時の出血が止まりにくく、また頭蓋内出血などの深部出血が生じやすいことから、かつては予後不良の疾患でした。しかし、治療薬の進歩により近年は健常者と同じような生活を過ごせるようになっています。今回は、東京医科大学医学部医学科臨床検査医学分野主任教授の福武勝幸氏に、血友病について解説していただきました。

日本の血友病患者数は約6,000人

血友病は、血液凝固因子のうち第Ⅷ因子または第Ⅸ因子の欠損あるいは活性低下による遺伝性の血液凝固異常症です。第Ⅷ因子の異常によるものは血友病A、第Ⅸ因子の異常によるものは血友病Bといわれます。なお、血友病Aの中和抗体(インヒビター)保有患者に似た症状と検査異常が出現する後天性血友病Aという疾患がありますが、これは自己の第Ⅷ因子に対する抗体が形成されることによる自己免疫性疾患です。
第Ⅷ因子や第Ⅸ因子の遺伝子はX染色体に存在します。女性はX染色体が2本あるため、片方に変異があっても、もう片方の染色体によって機能がある程度補完されるため、血友病を発症することはほとんどありません(図1)。一方、男性はX染色体を1本しか持たないため、血友病の変異を持つと血友病になります。日本には血友病Aの患者さんが約5,000人、血友病Bの患者さんが約1,000人存在します(図2)。

図1 血友病の遺伝形式

図1 血友病の遺伝形式の画像

編集部作成

図2 国内の血友病患者の年齢分布(2016年5月31日時点)

図2 国内の血友病患者の年齢分布(2016年5月31日時点)の画像

公益財団法人エイズ予防財団「血液凝固異常症全国調査 平成28年度報告書」を参考に編集部作成

血友病Aも血友病Bも症状は同じで、血液凝固因子の欠乏のために出血が止まりにくくなります。その結果、関節内出血や筋肉内出血、頭蓋内出血などの深部出血が生じやすくなります。頭蓋内出血は生命の危険があり、関節内出血を繰り返すと関節の疼痛と変形により機能障害をきたします(血友病性関節症)。
血友病の治療では、欠乏している血液凝固因子を補います(凝固因子補充療法)。血友病に対する血液凝固因子の補充は、1950年代には新鮮血や血漿の輸血によって行われていましたが、1960年代に血漿由来製剤が開発されました。当初は製剤技術が未熟なため、製剤中にウイルスが混入することもあり、C型肝炎やHIVなどのウイルス感染症を引き起こすこともありました。その後、熱処理や化学処理をした血漿由来製剤、そして遺伝子組換え製剤の登場により、製剤中にウイルスが混入する危険性はほぼなくなりました。こうした治療薬の進歩によって、かつては「成人に達するまで生きられない」といわれていた血友病患者さんも、現在では健常者とほぼ変わらない寿命を全うすることも可能になっています。

凝固因子補充療法とインヒビターが発生した場合の治療

凝固因子補充療法には、①出血時に出血を止めるための補充療法、②運動会や遠足など出血の可能性が高いイベント、外科治療や歯科治療など出血が予想される手術・処置の前に行う予備的補充療法、③血液凝固因子製剤を定期的に注射することで血液凝固因子のレベルを自然に出血しない程度に保つ定期補充療法があります。定期補充療法は出血回数を減らして関節症の予防にも役立つことから、現在、日本では7~8割の患者さんが定期補充療法を実施しています。
血液凝固因子製剤を繰り返し投与すると、それに対するインヒビターが形成されて、血液凝固因子製剤の効果が減弱することがあります。インヒビターは血液凝固因子製剤を10~50回程度投与する間に形成されやすく、インヒビター形成の頻度は血友病Aの重症例では20~30%、血友病Bでは数%といわれます。そのため、インヒビターが形成されやすい時期は、治療効果の観察とインヒビターが形成されていないか頻回に血液検査で確認することが大切です。血友病Aでインヒビターが形成された場合、血液凝固因子製剤を頻回に投与して免疫寛容を誘導する根治治療が行われますが、血友病Bでインヒビターを消去する有効な治療法は確立されていません。インヒビターが形成されている患者さんが出血した際には、活性型プロトロンビン複合体製剤や活性型第Ⅶ因子製剤あるいは活性型第Ⅶ因子と第X因子を組み合わせた製剤を投与しますが、その効果はインヒビターのない患者さんへの第Ⅷ因子製剤や第Ⅸ因子製剤投与時に比べると不安定です。近年、血友病Aの治療薬として、第Ⅷ因子の機能を代替してインヒビターに影響されずに出血抑制効果を示し、皮下注射で使えるバイスペシフィック抗体製剤が開発され、その国際臨床試験が現在行われています。

一人ひとりのライフスタイルを考慮した治療レジメンが大切

定期補充療法を行うことで、体育の授業や遠足に参加できるようになり、なかには運動部に所属して活躍する患者さんもいるなど、患者さんのQOLは大きく改善し、健常者と変わらない日常生活を送ることができるようになりました。
血液凝固因子製剤の効果持続時間は各薬剤の血中薬物動態の影響を受け、血中濃度が一定レベル以下になると、出血しやすくなります(図3)。従来の標準型第Ⅷ因子製剤の血中濃度半減期は約10時間であるため、少なくとも2日に1回は投与しなければいけませんでした。近年は血中濃度半減期が長い薬剤も登場し、血友病Aでは3日に1回、血友病Bでは1~2週間に1回の注射で済む薬剤も開発されています。こうした新薬の登場によって、激しい運動をしない穏やかな生活の患者さんは注射回数を減らすことができるようになりましたが、血中の血液凝固因子レベルが低下する時間帯はスポーツなどを避けなければいけません。定期補充療法に加えて、スポーツや出血リスクが高いイベントの前に、運動の時間や強度を考慮して血液凝固因子を補充する予備的補充療法を組み合わせたり、日常的に動きの激しい仕事やスポーツをするために、投与の量やタイミングを調整することで活動の幅をさらに広げる個別化補充療法が注目されています。

図3 薬剤の血中濃度と有効性

図3 薬剤の血中濃度と有効性の画像

編集部作成

各薬剤の血中濃度半減期は個々の患者さんによって異なります。また、ライフスタイルも一人ひとり異なります。そのため、仕事やスポーツなどを思う存分できるよう、個々の患者さんの日常生活や運動強度などに応じた治療レジメンを、患者さんと相談しながら提案することが大切です。

血友病患者さんへの指導のポイント

血液凝固因子製剤は在宅自己注射が可能です。家庭で注射する場合は注射薬の調製時の清潔操作が重要で、手指衛生や注射部局所の消毒を適切に行い、注射後は注射器などの廃棄物を適切に処理する必要があります。また、担当医師とよく相談して決められた量を注射することが大切です。これらのことは自己注射導入時に医療施設でも患者さんに指導しますが、保険薬局でもぜひ指導していただきたいと思います。
血友病患者さんの予後改善に伴う高齢化によって、高血圧など生活習慣病を合併することも多くなりました。そのため、中高年の患者さんが保険薬局を訪れた際には、日常的な血圧測定や健康診断の定期受診などを勧めて、生活習慣病予防の啓発をお願いします。また、血友病患者さんが頭痛を訴える場合には、軽い頭痛でも頭蓋内出血を疑い、まず血液凝固因子製剤を注射して担当医師に相談するよう勧めてください。なお、消炎・鎮痛薬に含まれるNSAIDsには出血を助長するといわれているものもありますが、実際にはアスピリンを除いて常用量では心配なく使えますので、担当医師から説明を受けるようアドバイスをしてください。

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