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透析療法

2017年9月号
透析療法の画像
慢性腎臓病(CKD)が進行して末期腎不全になると、腎代替療法が必要となります。腎代替療法の1つである透析療法は、腎臓に代わって血液を浄化する治療法ですが、腎臓の機能すべてを代替するものではありません。そのため、腎不全に伴うさまざまな合併症に対処することも必要です。今回は、透析療法の現況や仕組み、合併症などについて、戸田中央総合病院腎臓内科部長の井野純氏に解説していただきました。

高齢化が進む透析患者

2015年末時点における日本の慢性透析患者数は約32万5,000人です1)。慢性透析患者数は2005年頃までは年間約1万人増加していましたが、近年は年間5,000人程度の増加で、患者数の伸びは鈍化しています。透析導入患者の原疾患の第1位は糖尿病性腎症ですが、腎臓の加齢性変化に高血圧を基盤とした動脈硬化が加わることで発症する腎硬化症も増加しており(図1)、近い将来、腎硬化症は慢性糸球体腎炎を抜いて第2位になるのではないかと予想されています。

図1 透析導入患者の主な原疾患の割合の推移

図1 透析導入患者の主な原疾患の割合の推移の画像

日本透析医学会 統計調査委員会 「図説 わが国の慢性透析療法の現況」を参考に編集部作成

2015年の透析導入患者の平均年齢は69.2歳、2015年末時点における全透析患者の平均年齢は67.9歳で、前年と比べてそれぞれ0.2歳、0.4歳上昇しており、透析患者の高齢化が進んでいます。それに伴って、認知機能の低下はもちろんですが、サルコペニアやフレイルからADLが低下する患者さんも増加しています。また、2015年の透析患者の死因は、心不全(26.0%)、感染症(22.0%)、悪性腫瘍(9.3%)の順で、こちらも患者さんの高齢化を背景に感染症や悪性腫瘍の増加が目立っています1)

透析療法の種類と原理

腎臓は、①体内の代謝老廃物を排泄する、②体液の量と組成を一定に保って体内環境の恒常性を維持する、③血液や骨にかかわるホルモンの産生や調整を行う、といった役割を担っています。これら腎臓の機能を代替する治療法を腎代替療法といい、その1つが透析療法です。
透析療法は、尿が出せないために体内に溜まってしまう老廃物や余分な水分を透析膜と透析液を用いて除去する治療法です。透析療法には大きく分けて、血液透析と腹膜透析があり、前者は小さな孔が多数開いた中空糸からなる透析膜(ダイアライザー)と透析液を用いて行う治療法(図2)、後者は患者さんの腹膜を透析膜として利用し、腹腔内に透析液を注入して行う治療法です。

図2 血液透析の仕組み

図2 血液透析の仕組みの画像

提供:井野 純氏

透析膜は、分子量の大きな体内成分(タンパク質や血球成分)は通しませんが、水分や分子量が比較的小さい溶質(電解質や尿毒症性物質)は自由に通す半透膜の性質を有しています。濃度が異なる2種類の溶液が半透膜を隔てて存在すると、溶質は濃度の濃い溶液から薄い溶液へ移動し、お互いに均一の濃度になろうとします。この現象を拡散といい、透析療法では尿素やカリウム、リンなど末期腎不全で血液中の濃度が高くなる物質は、透析液に含まないあるいは低濃度しか配合されないため、透析膜を抜けて透析液中へ移動して除去されます。逆に腎不全で体内に不足するアルカリ成分は透析液中に多く配合されるため、腎不全により起こる代謝性アシドーシスが是正されます。一方、片側の溶液に圧力を加えると、溶液は半透膜を抜けて反対側の液体へ移動します。この現象を濾過(ろか)といい、血液透析ではこの濾過の原理を利用して血管内に存在する体内の余剰な水分を血液側から透析液側へ除去しています。また腹膜透析では、腹膜透析液に水分を引っ張ることのできる浸透圧性物質を配合することにより、腹膜に分布した毛細血管から尿毒症性物質などの溶液が腹膜透析液側へ移動して体内から除去されます。
血液透析は、通常患者さんには週3回通院してもらう必要があります。一方、腹膜透析は、自宅でも行うことができますが、患者さん自身による薬液の準備や機械の操作が必要です。このように、血液透析、腹膜透析にはそれぞれ長所・短所があり、患者さん一人ひとりの状態のほか、ライフスタイルなども勘案して治療法を選択します。

患者さんが抱えるさまざまな合併症リスク

透析療法は腎臓の機能を100%代替するものではありません。週3回4時間程度の血液透析では正常な腎機能の1割程度しか賄えないといわれ、一見元気にみえる患者さんでも、基本的には老廃物が体に溜まったままの体内環境にあるわけです。そのため、栄養状態が低下してくる、免疫不全で感染症を起こしやすい、発がんのリスクが高くなるなど、透析患者には腎機能が正常な人とは異なるさまざまな特殊性があります。
透析療法を行っていても、多くの患者さんで腎不全に伴うさまざまな合併症に対し加療が必要となります。その1つが腎性貧血で、貧血はQOLのみならず、生命予後にも影響します。そのため、エリスロポエチン製剤などで貧血を目標値にコントロールします。また、骨・ミネラル代謝異常(CKD-MBD)を発症することもあります。CKD-MBDは骨の脆弱化のみならず、血管の石灰化による心血管イベントのリスクを高めます。そのため、リン吸着薬や活性型ビタミンD3製剤などでCKD-MBDをコントロールする必要があります。さらに、透析患者では重症下肢虚血も多く、下肢切断から死亡するリスクが高まるため、その予防のためにフットケアで下肢の虚血の前兆をチェックしています。
加えて、透析療法にはいくつかの合併症もあります。例えば、透析導入期では頭痛や悪心・嘔吐などの症状が出ることがあります(不均衡症候群)。また、透析による電解質の変化や血液pHの急激な変化、透析中の過剰な血圧低下などから心機能の低下や不整脈をきたすこともあります。透析歴が10年以上の患者さんでは、アミロイド蛋白という物質がさまざまな臓器に沈着して引き起こされる透析アミロイドーシスといわれる病態が出現することもあります。

薬剤師の積極的な介入で、予後改善へつなげる

透析患者は水分や塩分、カリウム、リンなどの摂取が制限され、食事療法に対する指導が大切になります。また、透析患者の筋肉量が減少すると、ADLの低下から生命予後が悪くなることが知られています。そこで、近年は透析中の患者さんにベッド上で運動をしてもらう施設も増えてきています。
透析患者は原疾患の治療やこれまでお話しした合併症の予防・治療のためにさまざまな内服薬を服用している方が多いのですが、服用する薬剤数が多くなると、服薬アドヒアランスの維持が問題になる場合もあります。そのため、服薬指導が極めて大切となってきます。降圧薬やリン吸着薬、活性型ビタミンD3製剤などの服薬状況は、定期的に行っている血液検査などの結果から推測できることもあります。そこで、検査結果から服薬アドヒアランスに問題があると判断した場合、透析施設の医師や看護師が患者さんに対する服薬指導を強化しますが、それだけでは十分ではない場合もあります。
透析医療は医師、看護師、臨床工学技士に加え、薬剤師、栄養士、理学療法士など多職種連携によるチームによって行われます。多くのスタッフが患者さんに多面的に介入することで、見逃されていた症状や聞き漏らしていた訴えを拾い上げられる場合もあります。例えば、服薬指導を通じて得た情報を医師に伝えていただくことは、服薬アドヒアランスの向上だけでなく、透析療法の適正化や合併症の早期発見にもつながり、患者さんの予後改善に役立ちます。そのため、保険薬局の薬剤師の先生方も含めて、薬剤師の先生方が果たす役割も大きく、その活動が期待されています。今後は、検査結果など患者さんの情報を透析施設と保険薬局が共有できる体制を構築していく試みも必要ではないかと思っています。

参考文献
  1. 日本透析医学会 統計調査委員会:図説 わが国の慢性透析療法の現況
    http://docs.jsdt.or.jp/overview/index.html

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