夏かぜを引き起こす原因ウイルスとは
プール熱、手足口病、ヘルパンギーナは、小児が夏期に罹りやすいかぜであるため「夏かぜ」と呼んでいますが、夏期の中でもいつ流行するかは年や地域によって違いがあります。プール熱を起こす原因ウイルスはアデノウイルス、手足口病とヘルパンギーナの原因となるのは、エンテロウイルスと呼ばれるウイルスのグループです。どちらにも数十種類の型があり、それぞれいくつかの型がプール熱、手足口病、ヘルパンギーナを起こします(表)。この3つの夏かぜの原因ウイルスは、毎年、流行の型が違い、さらに複数の種類の型が流行する傾向にあります。小児は原因となるウイルスの抗体を持たないので、数年は罹りやすい状態ですが、罹っていくうちに抗体ができていくため、徐々に罹りにくくなります。
病名 | 主な原因ウイルス (血清型など) |
潜伏期間 | 罹りやすい 年齢 |
主な症状 |
---|---|---|---|---|
咽頭結膜熱 (プール熱) |
アデノウイルス (3,4,7,2,11型など) |
5~7日間 | 5歳以下が約6割 | 発熱(39~40℃)、咽頭痛、 結膜炎(眼痛、目やに、 充血、羞明、流涙など) |
手足口病 | エンテロウイルス (コクサッキーA16,6、 エンテロウイルス71など) |
3~5日間 | 4歳位までが中心 うち2歳以下が 半数 |
口腔内の水疱・潰瘍、 手掌、足底、足背の水疱、 発熱を伴うこともある |
ヘルパンギーナ | エンテロウイルス (コクサッキーA群、 B群、エコーウイルス) |
2~4日間 | 5歳以下が9割 うち1歳代が多い |
発熱、咽頭痛、 咽頭粘膜に発赤、 口腔内の水疱・潰瘍 |
国立感染症研究所HPを参考に編集部作成
プールや夏以外でも感染するプール熱
プール熱の原因の多くはアデノウイルス3型ですが、4、7型や2、11型などの場合もみられます。主な症状は急な発熱や咽頭痛、結膜炎ですが、食欲不振や頭痛、全身倦怠感を伴うこともあります。罹患年齢は5歳以下が約6割を占めます1)。特に7型は重症化し、肺炎や細菌による二次感染を併発しやすいことがあります。アデノウイルスには50種類以上の型があり、様々な型が年間を通して発見され、最近では、秋や冬にもプール熱が流行することもあります。プール熱を引き起こす型の他に、嘔吐・下痢、肺炎、流行性角結膜炎(はやり目)、さらには出血性膀胱炎を起こすものもあります。冬には嘔吐・下痢を引き起こすノロウイルス、ロタウイルスがよく知られていますが、アデノウイルスが原因の場合もあります。はやり目、プール熱のどちらも結膜炎を起こしますが、プール熱による結膜炎は結膜(白目)の炎症で、流行性角結膜炎は角膜(黒目)にも炎症が及ぶという違いがあります。
プール熱は、プールだけでなく一般的なかぜと同様に、くしゃみや咳による飛沫で感染します。また、患者さんの目を拭いたタオルや目をこすった手から接触感染をします。
診断は、症状と検査キットによる迅速検査で行いますが、通常は血清型までは判定しません※。アデノウイルスが検出されてもプール熱の典型的な症状である目の症状がなく、発熱、咽頭痛があるという場合は、アデノウイルスによる咽頭炎という診断となる場合もあります。
- 重症化して入院治療となった場合などに、急性期と回復期、通常2週間程度の間隔で2つの検体の変化から血清型の判定を行う場合がありますが、時間がかかるため外来の治療では通常は行いません。
エンテロウイルスが原因で起こる 手足口病とヘルパンギーナ
手足口病とヘルパンギーナを起こすエンテロウイルスは、ポリオウイルス、コクサッキーウイルスA群、コクサッキーウイルスB群、エコーウイルス、その他のエンテロウイルスで構成されるウイルスグループに属するウイルスの総称です。現在、エンテロウイルスを迅速に検出する検査キットはないため、手足口病とヘルパンギーナの診断は、流行状況を参考に症状で診断します。稀に重症化して髄膜炎、脳炎や心筋炎を引き起こす場合があります。
手足口病
読んで字の如く手や足、口の中に発疹、水疱ができる疾患です。罹患年齢は2歳以下が大半で4歳位までの幼児を中心に感染し、夏以外に秋から冬にかけて流行する年もあります1)。主な原因ウイルスは、コクサッキーウイルスA16、A6、エンテロウイルス71などです。発疹は、肘、膝、臀部に出ることもありますが、痒みや痛みはほとんどありません。一方、口腔内や舌の水疱は小潰瘍ができることもあり、痛みます。発熱する場合もありますが、これらの症状が全部出現するわけではなく、同じウイルス型に感染した患者さん同士でも症状には個人差があります。例えば、手足だけ、あるいは口腔内だけに発疹が出るなど、兄弟でも症状が違うこともあります。多くの場合、症状は1週間程度で消失します。
ヘルパンギーナ
症状は、咽頭の口蓋弓に赤い発疹ができ水疱となります。水疱はすぐに破れて潰瘍になり、咽頭痛を伴います。咽頭の水疱、咽頭痛の他、発熱する場合もあります。感染者は1歳位が一番多く5歳以下がほとんどで、夏以外ではあまり流行がみられない病気です1)。原因ウイルスは、コクサッキーウイルスA群が主で、その他にB群やエコーウイルスとされ、エンテロウイルスの広いグループで起きます。
手足口病とは、口腔内の発疹部の場所で鑑別します(図)。口腔内の前の方、唇や舌のあたりに発疹ができていれば手足口病、喉の奥の方にできていればヘルパンギーナと診断します。ただ時々、喉にも、手の平にも発疹があるという両方の所見を持つ患者さんがいますが、これはどちらもエンテロウイルスが原因のためと考えられます。
図 口腔部における手足口病とヘルパンギーナの主な水疱発現部
編集部作成
それぞれの症状に応じた治療のポイント
治療は対症療法が中心になります。一般的に解熱剤は、熱が38.5℃以上あり、ぐったりしている場合、また母乳や水分が取れない場合に脱水症状を進行させないために使います。抗菌薬は高熱が続き、細菌による二次感染が疑われる場合のみ投与します。
手足口病の皮膚の発疹には、基本的に外用薬は使いません。水疱瘡の場合は、水疱ができるとカチリ(フェノール・亜鉛華リニメント)を塗ることがあります。これは水疱瘡の発疹は皮膚の少し深いところにできるため、早く乾かしてかさぶたにするために塗布します。手足口病の発疹は、痒みや痛みもなく比較的皮膚の浅いところにできるため、外用薬は必要としません。もともとアトピー性皮膚炎や、湿疹の痒みがある場合には抗ヒスタミン剤を使うことがあります。水疱瘡と手足口病の流行時期が重なって区別が難しい時には、数日様子をみて発疹の数や分布、その後の変化をみて鑑別します。
手足口病とヘルパンギーナにみられる口腔内の発疹にも基本的には外用薬は使いません。痛みが強い場合のみトリアムシノロンアセトニドやデキサメタゾンを使います。ただし、ステロイドを使いすぎるとかえって治りにくくなることがあるので注意が必要です。
プール熱による結膜炎も抗菌薬の点眼薬は効果がありません。炎症がひどい場合には、眼科を受診してもらうようにしています。
日常生活の注意と登校・登園への制限
プール熱と診断された場合は、主な症状がなくなった後2日を経過するまで、登校・登園の停止が学校保健安全法で規定されています。ただし、検査キットでアデノウイルスを確認しても目の症状がなければ、病名はアデノウイルスによる咽頭炎となります。同じウイルスですからプール熱と同じく欠席するのが良いはずですが、咽頭炎の場合は規定がないのが現状です。一方で、手足口病とヘルパンギーナは、登校・登園の制限がありません。この2つの病気は、不顕性感染者も多く、登校・登園制限が効果的とは言えないため、本人の症状に応じて登校・登園することも可能です。
プール熱、手足口病、ヘルパンギーナは、毎年、流行が始まる時期が違うため、今年の流行についても、まだ予想できません(2017年5月上旬時点)。都道府県や国立感染症研究所では、流行状況を調査していますが、地域ごとに状況は違うため、私はクリニックがある調布市内の流行状況についての情報交換を大事にしています。これらの夏かぜは対症療法が中心で、さらに症状には個人差がありますので、薬剤師の方々には患者さん個々の症状に応じた服薬指導をお願いしたいです。症状が改善したからといってすぐに服用を止めるのではなく、決められた期間は服用を続けるよう指導をお願いします。
- 国立感染症研究所HP http://www.niid.go.jp/niid/ja/from-idsc.html