重症化する可能性がある疾患
麻しんは、麻しんウイルスにより起こる急性の発熱発疹性感染症、風しんは、風しんウイルスの感染によって起こる急性の発熱発疹性感染症です。いずれも、ワクチンが 開発される以前は予防方法がなかったせいで多くの人々が罹患しました。そのため「誰でもかかる」「かかっても大したことはない」と誤解されるケースが少なくありません。
麻しんは重症化して命を奪われることもある疾患で、約1,000人に1人の割合で死亡する可能性があります。実際、国内での2000年前後の流行では年間約20人が死亡しました。世界においても2015年の5歳以下の小児の死亡数推計では、麻しんによる死亡が全体の1.2%を占めています。妊娠中の女性が感染すると、流産や早産の恐れもあります。
また、風しんでは、血小板減少性紫斑病(3,000~5,000人に1人)や急性脳炎(4,000~6,000人に1人)などの重篤な合併症がみられ、成人では関節炎を伴うこともあります。特に妊娠初期の妊婦が感染すると、生まれてくる児が難聴・白内障・先天性心疾患などを呈する先天性風しん症候群になる可能性があります。
感染経路は、空気感染、飛沫感染、接触感染
麻しんの感染経路は空気感染、飛沫感染、接触感染で、風しんは飛沫感染、接触感染です。ここで感染経路の違いを理解しておきましょう。咳やくしゃみをすると、口から細かい水滴が飛び散りますが、これを飛沫と言います。感染原因となる麻しんや風しんのウイルスが含まれている飛沫を吸い込むことで感染するのが飛沫感染です。飛沫は水分の重さがあるので、あまり遠くには飛散しません。ところが、ウイルスを含む飛沫の水分が蒸発し、飛沫核という軽く小さな粒子になると、長時間にわたって空気中を浮遊しながら遠くまで飛びます。そのため、感染者と同じ空間、同じ空調を共有する場に居合わせるとウイルスから逃れられません。これが空気感染です。たとえば、電車内で1人の麻しん患者が咳やくしゃみをした場合、同じ車両内に乗り合わせたほぼ全員が麻しんウイルスを吸いこみ、免疫が不十分な場合、感染して発症する恐れがあるということです。なお、接触感染は、主に感染者(源)に直接接触して感染します。
ワクチン接種や流行に関する近年の状況
麻しんと風しんは、ワクチンによる予防が極めて重要です。現在では、①1回で免疫がつかなかった人に免疫をつける、②1回接種後免疫が減衰してきた人の免疫を強化する、③受け忘れた人に2回目の機会を与える、を目的として1歳代で1回目、小学校入学前に2回目、計2回のMR(麻しん風しん混合)ワクチンの定期接種が行われています。また、過去に受けそびれた場合やワクチン接種歴が不明な場合にも、任意接種として自費でワクチンを受けることができます。
【麻しん】
日本では2007年に10~20歳代を中心に麻しんの大規模な流行が起こり、麻しん排除を達成していた先進諸国から「麻しん輸出国」などと揶揄される事態となりました。そこで厚生労働省は「麻しんに関する特定感染症予防指針」を策定し、さまざまな対策を講じました。その結果、2015年3月27日、世界保健機関西太平洋地域事務局(WPRO)により、日本は麻しんの排除状態と認定されました。したがって、国内での麻しん発生は、海外からのウイルス輸入例と、輸入例からの感染事例のみを認める状況となっています。
麻しんウイルスは1種類です。ただし、詳しく解析すると24種類の遺伝子型に分類されます。遺伝子型が異なっても、麻しん風しん混合ワクチンの効果に違いはなく、すべての遺伝子型の麻しんウイルスにワクチンは予防効果があります。2018年12月末の三重県開催の研修会に参加した人の間で麻しんが集団発生しました。また、2月には大阪市内の商業施設で集団感染事例がありました。日本固有のウイルスが排除されても、海外から持ち込まれ、ワクチン未接種などで抗体を持たない人が集まっていれば、たやすく集団感染が発生することを、この事例が示しています。
【風しん】
風しんについても、厚生労働省は「風しんに関する特定感染症予防指針」を策定し、早期に先天性風しん症候群の発生をなくすとともに、2020年度までに風しんの排除達成を目指しています。しかし、2019年に入ってから第15週までの累積患者数は1,276人で、流行の拡大が懸念されています。また、5年ぶりに先天性風しん症候群の新生児1人も報告されました。
MRワクチン接種の徹底を
特異的治療法はなく、発症時の処…