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三叉神経痛

2017年6月号
三叉神経痛の画像
命に関わる病気ではないけれども、辛い症状が患者さんのQOLに大きな影響を及ぼす疾患があります。三叉神経痛もその一つ。血管が三叉神経を圧迫するのが原因で、食事や洗顔、化粧、ひげ剃りなどの日常生活の動作で顔に強い痛みが走ります。三叉神経痛の治療には薬物治療、神経ブロック、定位放射線(ガンマナイフ)、手術という選択肢があります。今回は三井記念病院脳神経外科科長、尼崎賢一氏に三叉神経痛について解説していただきました。

顔に現れる強い痛み

患者さんが訴える症状は、顔の痛みです。食事や歯磨き、洗顔、化粧、ひげ剃りなど、日常生活の何気ない動作時に、ピリッと鋭い痛みが顔面の片側に走ります。
痛みは発作的に起こり、持続時間は数秒から数分と短いのですが、きわめて強いのが特徴です。一方で慢性的な痛みやしびれを伴う痛みの場合には三叉神経痛と診断されないことが多々あります。
三叉神経痛には、発症してから期間をおいて、数カ月から数年にわたる緩解期を有するという特徴もあり、痛みの改善と悪化をくり返しながら経過します。
年間発生率は10万人当たり、女性5.9、男性3.4。生涯有病率は、0.3%と言われています。好発年齢は50~60歳代ですが、年齢とともに増加傾向にあるとする報告もあります1)2)
後述するように、痛みの原因は頭蓋内にありますが、歯科、耳鼻科、内科などで異常なしと診断され、最終的に脳神経外科を受診する患者さんが少なくありません。

痛みの原因は頭蓋内にある

三叉神経は、脳神経の中で一番太い神経で、顔の感覚を脳に伝えています。脳幹部から左右に1本ずつ出て、目、あご、頰へと3つの方向に枝分かれして伸びているため、三叉神経と呼ばれています(図1)。この三叉神経が過敏になり、顔に痛みを感じるのが三叉神経痛です。

図1 三叉神経の名称

図1 三叉神経の名称の画像

監修:尼崎賢一氏

三叉神経痛は周囲に存在する血管に圧迫されるため痛みが起こります。つまり、血管が三叉神経に当たると、その情報が脳に伝わり、顔に痛みが生じたように感じると考えられています。しかし、なぜ血管が三叉神経を圧迫するのかは、まだわかっていません。

問診、検査と診断

まずは患者さんから痛みの症状や、すでに薬物治療の経験があればその効果、病気の経過を詳しく聞き取ります。この問診は診断に不可欠であり、とても重要です。その情報を得た上でMRIによる画像検査を行います。MRIでは三叉神経への血管の圧迫の様子を確認することができます(図2)。三叉神経痛のうち数%は、脳腫瘍が原因で起こっていることがあり、その鑑別も重要です。

図2 右三叉神経痛患者のMRI画像

図2 右三叉神経痛患者のMRI画像の画像

提供:尼崎賢一氏

治療

三叉神経痛の治療には、①薬物治療、②神経ブロック、 ③定位放射線(ガンマナイフ)、④手術の4つの方法があります3)。薬を内服して痛みがコントロールされ、副作用がなければ全く問題ありません。ですから薬物治療のみの患者さんも多数いらっしゃいます。ただし、根本的な治療は手術治療のみです。

薬物治療

三叉神経痛に対する薬物治療の種類にはいくつかありますが、共通して言えることは抗てんかん薬またはそれに準じた薬を使用するということです。抗てんかん薬は、本来は神経細胞の電気信号伝達を抑えることにより脳神経の興奮を鎮め、てんかん発作を予防する薬ですが、これを用いることで過敏になっている三叉神経の伝導を抑えて痛みを起こりにくくします。第一選択薬はカルバマゼピンです。典型的な三叉神経痛の場合、高い確率で効果を発揮します。逆にこの薬の効果が確認できれば、三叉神経痛である可能性が高くなります。つまり診断的な意義のある薬物でもあると思います。他にはバクロフェン、プレガバリン、ガバペンチン、フェニトイン、ラモトリギン、漢方薬などが使用されていると思いますが、処方する医師によっても選択に幅があります。経験的にはカルバマゼピンの効果が圧倒的です。いずれにしろ薬物治療では重要な点がいくつかあります。どの薬剤でも眠気や注意力・集中力・反射運動能力の低下などの副作用が出ることがあるため、必ず少量から開始して漸増することが肝要です。また、それぞれの薬物の効果を確認し、効果が確認できなかった薬は中止して漫然と投与することを避けること、そして緩解期にはできるだけ内服を中止すること、などが挙げられます。痛みが来ることに恐怖感があり、緩解期でも内服を止められない患者さんには、最小限の薬物量で継続するべきです。
症状が悪化すると薬が効きにくくなることもあります。そのため、副作用とのバランスを考えながら薬の量を増やしたり、他剤を追加したりしますが、薬物でのコントロールが困難となった場合には、以下の3つの治療手段のいずれかを検討します。

神経ブロック

神経ブロックは、過敏になっている三叉神経の機能を低下させ、痛みを和らげる方法です。三叉神経の機能が低下すると、刺激が脳に伝わりにくくなるので、疼痛発作も起こりにくくなります。短期的な緩和には、痛みが出現する部位の末梢神経に局所麻酔を注射します。長期間持続して痛みを取りたい時は、アルコールなどの神経破壊薬の注入や、高周波熱凝固による神経破壊的神経ブロックなどの方法があります。いずれも治療後には一定の確率で顔面のしびれが生じます。
なお、神経ブロック治療は、主としてペインクリニックや麻酔科で受ける治療です。

定位放射線(ガンマナイフ)

ガンマナイフは、X線よりもさらに波長の短い電磁波であるガンマ線を、三叉神経のみに集中照射させる放射線治療です。ナイフという名前からは「切って治療する」という外科的なイメージがあるかもしれませんが、手術治療ではありません。全身麻酔が不要なのが利点であり、全身状態の悪い方や手術が難しい高齢者の方でも治療が可能ですが、神経ブロック同様に一定の割合で顔面のしびれが生じる治療です。
この治療は2015年から保険適用となりましたが、ガンマナイフの設備を有する医療機関のみで受けられる治療です。

手術

唯一の根本治療は、三叉神経と圧迫している血管を離す手術です。「頭蓋内微小血管減圧術」あるいは「神経血管減圧術」などと呼ばれています。三叉神経痛の大部分は、血管が三叉神経の根元を圧迫することが原因のため、この圧迫を除くために実施します。
手術は全身麻酔のもと、耳の後ろの頭蓋骨に五百円玉程度の穴を開けて行います。手術用顕微鏡を用い、小脳と頭蓋骨の間の奥にある三叉神経にアプローチし、神経を圧迫している血管を神経に当たらないように移動させて固定します。所要時間は3〜4時間ほどです。患者さんにはさほど侵襲性の高い手術ではありませんが、深部の手術となるので、比較的高い技術が必要とされます。
これまでの執刀件数は数百例余りですが、大きな合併症はなく、皆さん通常の生活に戻っています。痛みの症状改善率は約90%です。入院日数は10日程度で、手術翌日からは食事、歩行が可能です。
発症年齢が若い人ほどQOLの維持・向上のために手術による根本治療を望む例が多いと言えます。高齢者でも、病歴や現在の健康状態などを検討し、問題がなければ手術を受けることは可能です。

治療選択について

どの治療を選ぶのかは、患者さんと医師がよく話し合って決めるのが良いと思います。仮に薬が有効であったとしても、患者さんが「薬から解放されたい」という希望をお持ちであれば薬物治療以外の選択を考慮することに問題はありませんし、その選択の中で「根本的に治療したい」という希望があれば、手術治療を選択することにも問題はありません。逆に根本的に治療できる手術の優位性ばかりを強調するのも良いとは言えません。今回記載した治療方法はすべて確立された方法であり、それぞれがどのような治療方法なのか、メリットとデメリットも含めて医師の説明をよく聞き、理解した上で、納得できる方法を選ぶことが重要であると思います。

参考文献
  1. Cruccu G, et al: Eur J Neurol. 2008; 15(10): 1013-1028
  2. Zakrzewska JM, et al: BMJ Clin Evid. 2014; 10: 1207
  3. 「神経治療学」27巻1号:日本神経治療学会 標準的神経治療:三叉神経痛

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